著者
小林 盾 大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.304-317, 2016

この論文は, 分析社会学を実証研究へと応用する. そのために, 美術展や小説などの文化活動を事例とし, 人びとはオムニボア(雑食)的で多趣味なのか, ユニボア(偏食)的で偏っているのかを検討することで, 文化の階層構造(文化格差)を解明する. 分析社会学のDBO理論によれば, 人びとは「~したい」という欲求(Desire)と「自分や世界は~だろう」という信念(Belief)を持ち, 客観的条件である機会(Opportunity)に制約される. そこで, 「自分は自由に文化活動できる」という信念を持ち, さらに等価所得が高く実行機会に恵まれた人ほど, 文化的オムニボアとなると仮説を立てた. データとして2015年階層と社会意識全国調査(第1回SSP調査)を用い, 文化的オムニボアを高級文化(クラシック音楽と美術展)と中間文化(小説)の頻度の幾何平均で測定した(分析対象2,769人). その結果, (1)分布から, オムニボアが52.5%いた. (2)回帰分析における教育, 等価所得の主効果から, 高い階層的地位が文化的オムニボアを促進した. (3)信念(主観的自由)と機会(等価所得)の交互作用効果から, 信念と機会の両立が文化的オムニボアを促進した. 以上より, 日本社会における文化活動は, ブルデューの主張するような排他的なものではなかった. 分析社会学を用いたことで, 人びとの合理性を仮定する必要がなく, どうじに信念という主観的心理的要因の役割が明確になった.
著者
中澤 渉 三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.19-22, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
1
被引用文献数
1
著者
鈴木 努
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-12, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
14
被引用文献数
1

受賞論文では信頼の解き放ち理論とそれに対する批判を総合した形式的モデルを示した.本稿ではネットワークの多層性と多重性,およびカスプ・カタストロフ・モデルについて受賞論文の含意を説明するとともに,今後の数理社会学におけるマルチレベルの社会ネットワークモデルの可能性を論じる.
著者
金井 雅之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.153-167, 2003-09-30 (Released:2009-01-20)
参考文献数
42
被引用文献数
2

社会的ジレンマをはじめとする協力の成立可能性問題を進化ゲーム理論的に分析する際、ランダム・マッチングを仮定するとうまくいかない。ランダム・マッチングでない相互作用、すなわち選択的相互作用を扱う代表的モデルとして、格子モデルと多水準淘汰モデルが挙げられる。本稿ではこのうち多水準淘汰モデルについて、理論上の基礎づけを確認し、代表的な2つの数理モデルについてその意義と課題を検討する。理論上の基礎づけに関しては、淘汰の単位をめぐる論争が焦点となる。ここではヴィークルという概念を導入することにより、自己複製子淘汰と矛盾することなく多水準淘汰が考えうることを示す。そして多水準淘汰の先行モデルは、絶滅型モデルと離合集散型モデルに大別できるが、それらは分析する対象によって使い分けることが適切であることを示す。
著者
小林 盾 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.142-155, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
3
著者
三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_23-2_40, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
40

本稿では、キャリアの軌跡をとらえる成長曲線アプローチによって、世代間移動の趨勢に関する再分析を行う。男性の40歳までの早期キャリアがどのような軌跡をたどるのか記述することと、個人のキャリアと出身階層との連関で表現される移動機会格差が出生コーホート間でどのように変わってきたのか精査することが目的である。 社会階層と社会移動全国調査(SSM)データのうち、1975年から2005年までの4回分のデータをマージして使用した。個人内のキャリア軌跡をとらえるためのパーソンイヤーデータと、個人レベルのデータは、階層的な入れ子構造をなしている。そうした階層的構造データを、マルチレベルロジスティック回帰分析によって統計解析した。 その結果、ホワイトカラー上層の再生産傾向は安定的であったことや、自営業層において一貫して閉鎖化が進んできたことが明らかとなった。社会移動全体の趨勢だけでなく、局所における移動機会の趨勢についても十分に注意を払わなければならない。
著者
落合 仁司
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.151-159, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
6

落合仁司「社会と行為―コールマン・ボートとマクロ・ミクロ・リンク」『理論と方法』30(1)は,社会構造を多様体M,社会構造のシフトを双対境界作用素δ,相互行為を微分形式ω,相互行為のドリフトを微分作用素dで表現することにより,コールマン・ボートの微分幾何モデルを構成し,社会構造の圏,マクロ圏と相互行為の圏,ミクロ圏,すなわちマクロ・ミクロ・リンクが圏論的に同値であることを論証した.本論は,以上の結果を踏まえ,社会構造のシフトすなわちマクロ・シフトδと相互行為のドリフトすなわちミクロ・ドリフトdの関係が圏論的に充満忠実,言い換えれば全単射であることを論証する.このことは社会構造の圏と相互行為の圏が随伴であることを帰結する.

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出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.202-211, 2017 (Released:2017-07-19)
著者
尾張 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.59-74, 1998

従来、公立学校の教育成果の低下の原因に関する研究が数多くなされてきた。その多くは原因を画一化教育や過度な受験教育などの教育内容の欠陥に求めている。一方で、その原因を学校組織に内在する欠陥に求める議論はほとんどなされてこなかった。<BR> そこで、本稿ではTirole(1986)の提起した3階層組織モデルを学校組織に適用し、多段階ゲームを用いてその原因の追求と教育成果の向上のための改善案について考察した。<BR> 主な結論は以下のとおりである。&alpha;プリンシパルがエージェントにその努力、あるいは教育成果に関係なく一定の報酬を提示すれば、エージェントは低い努力を実行する。&beta;エージェントの努力水準が観察できる場合、プリンシパルはエージェントの努力水準に応じた報酬を提示すればよい。&gamma;生徒の能力が観察できない場合、プリンシパルはエージェントに教育成果に応じた報酬を提示すればよい。&delta;スーパーバイザーがエージェントと共謀してプリンシパルに嘘の報告をする場合には、プリンシパルは共謀を防止するための報酬を支払わなければならない。
著者
稲葉 昭英
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.51-64, 1999

人が生涯にわたって経験するストレスには大きな性差が見られる。本研究は平成7年度国民生活基礎調査の集計結果を用いて女性に一貫してストレス経験率が高いことを示し、このパターンを説明するいくつかの仮説を検討する。最終的には、自分、家族、家族以外の他者、いずれに成立する出来事に対しても、女性の方がほぼ一貫してストレス経験が高いことが示される。これは女性が他者に対するケアのみではなく、自分に対するケアもより多く行うというケアの性別非対称的構造を想定することで説明が可能となる。最後に、女性によるケアの提供という視点から性別役割分業を捉える可能性が議論される。
著者
岡太 彬訓 古谷野 亘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-182, 1993-10-10 (Released:2009-03-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

パーソナルコンピューターと統計パッケージの普及に伴って、多変量解析法は、それ以前に比べると非常に利用し易くなった。その結果、社会・行動科学においても、これらの方法が手軽に利用できるようになり、多変量解析法を利用する機会は飛躍的に増加し、さまざまな研究の進歩をもたらした。しかし、これは、別の問題すなわち多変量解析法の不適切な利用をも同時にもたらした。多変量解析法の不適切な利用は、分析過程での誤りと分析以前の誤りに大別できる。分析過程での誤りが、パーソナルコンピューターと統計パッケージの普及によって、表面化したことは、否めないであろう。しかし、これらの不適切な利用には、パーソナルコンピューターと統計パッケージそのものとは無関係に、利用者に問題がある場合も少なくない。本稿では、パーソナルコンピューターと統計パッケージそのものとは無関係に生じる、分析過程での問題に焦点を合わせる。そして、多変量解析法(重回帰分析法、因子分析法、多次元尺度構成法、および、クラスター分析法)について、それらの不適切な利用の典型的な例を挙げる。最後に、統計的手法を含む計量的手法の不適切な利用の原因を論じ、これらの原因の根本にある問題点を考察し、その解決のための方策を提案する。
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.313-332, 2006-09-30 (Released:2007-08-02)
参考文献数
29
被引用文献数
1

この論文では,複数の職業的地位尺度をとりあげ,それぞれの尺度の性格と移動構造を記述する際に現れる固有の特徴について比較検討した。移動研究に用いられる職業的地位尺度は,大きくはデータ分析に先立ってスコアを与えるものと,データそのものからもっとも適合的なスコアを引き出してくるものとが区別されるが,本論文ではとくに後者のタイプの職業的地位尺度を取り上げ,その社会学的および統計学的な意味を考察している。実際に,職業中分類から作成された81×81の移動表に対応分析を適用し,そうした方法が今日の社会移動の状況を記述するのに有効であることを論じた。分析の結果,オーディネーション系の技法がもっともらしい職業的地位スコアを与えてくれること,パス解析にそのスコアを利用すると地位達成過程について従来とはまったく異なる理解がもたらされることが確認された。
著者
樋口 耕一
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.161-176, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

社会調査において内容分析(content analysis)という方法が用いられるようになった当初から、新聞記事は重要な分析対象として取り上げられ、様々な分析が行われてきた。コンピュータの発達やデータベースの整備が進む現在、この新聞記事の分析にあたってコンピュータを用いることが容易になりつつある。それに加えて、新聞記事のようなテキスト型データを、コンピュータを用いて計量的に分析する方法も提案されている。そこで本稿では、1991年以降の『毎日新聞』から「サラリーマン」に言及した記事を取り出し、コンピュータを利用した分析を試験的に行うことで、以下の2点についての確認・検討を行った。第一に、コンピュータを用いても、伝統的な手作業による分析と同じ結果が得られるかどうかを確認することを試みた。第二に、テキスト型データ一般を分析するための半ば汎用的な方法として提案されている方法を、各種のテキスト型データの中でもとりわけ新聞記事の分析に用いた場合、いかなる長所短所が生じるのかを検討した。
著者
高坂 健次
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.141-152, 1987-10-01 (Released:2009-03-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2
著者
村上 あかね
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.39-55, 2008-06-30 (Released:2008-08-11)
参考文献数
38
被引用文献数
5

本稿の目的は、社会階層と家族が住宅取得に及ぼす影響を検証することである。住宅は、人びとの生活にとって重要な基盤であり、もっとも重要な資産である。経済的地位と密接な関連を持つにもかかわらず、住宅と社会階層との関連に注目した研究は多くはなかった。1993年から実施されている全国規模のパネルデータに対して離散時間ロジットモデルを用いて分析した結果、(1)世帯の預貯金残高が多いことは持家への移行確率を高めること、(2)夫が専門・技術職の場合には持家となる確率が高いが、全般に夫の職業の影響は弱いこと、(3)親との同居や相続・贈与は家を持つようになる確率を高めること、が明らかになった。これらの結果は、日本は福祉の担い手として家族の役割を重視するという、エスピン-アンデルセンの福祉レジーム論とも、整合的である。
著者
白倉 幸男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.57-70, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
36

数理社会学の古典としてのSimon-Homansモデルは、本質的部分は図形による質的推論を用いる。Simonの方法では、より一般的な定式化を進めると2つの難点に直面する。「(1)システムは、2つの内生変数のみ限られる.(2)測定単位の影響を被る。」この難点は、Simon=Homansモデルに一貫した解析性がないことに起因する。 Simonの方法では、調整速度の概念により、多変数システムを2変数システムへ帰着させ、位相図を用いる。かつては、これ以外に、質的な推論を行う方法がなかった。この桎梏からSimon=Homansモデルを解放し、新たな解析的展開の方法を提示する。このために、Jeffries(1974)の二色点法と質的比較静学が用いられる。二色点法は、サイクルテスト、彩色テスト、マッチングテストからなり、質的安定性を識別する。Simonの定式化は、Homansのいう内部体系を充分に把握しない。それゆえSimon=Homansモデルは、質的安定でない。Homansの下位モデルである南洋諸島の呪術と不安の相互連関は、飽和性の想定により集団の安定を保証する。Homansの小集団論の一般化の可能性をあわせて指摘する。
著者
Daishiro NOMIYA
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.2_85-2_104, 1992-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
31

The objective of this study is to explore the applicability of the structural theories developed in the area of social movements and collective action to a Japanese historical case. Three theories originated in Europe and America - breakdown theory, class conflict theory, and resource mobilization theory - offer competing explanations for the rise of peasant rebellion, as well as different pictures of peasants and agrarian societies. The purpose of this study is modest: to contribute to the establishment of an empirical foundation for the following inquiry. How well do these three theories apply to the rise of peasant rebellion in premodern Japan?     A cross-regional study is performed using 2,045 cases of peasant uprising occurring during the period 1848-1877 across 631 counties in Japan. It employs multivariate regression analysis combined with the techniques of structural equations to examine the impact of structural factors on the occurrence of uprisings. The study shows that none of the three theories applies well to the experience of nineteenth-century Japan, suggesting differing compositions of social structural forces and their working in their formation of premodern popular protest between Japan and some European countries. A few possible routes are discussed for further investigation of the extent of the applicability and generalizability of the structural theories to the Japanese experience, and beyond.
著者
藤山 英樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.109-119, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
13

本稿では、温泉地域の中心的な組織である旅館に注目し、「地域の異質性および規模」と「地域公共活動」との関係について実証分析をした。「地域公共活動」については、より具体的には、「自治活動」、「旅館組合活動」および「祭り関連の活動」を取り上げた。 調査地域は、長野・山形・群馬・新潟の4県であり、対象は10軒以上の宿泊施設で構成されている旅館組合に加盟している全ての宿泊施設である。有効回答率は51.4%であった。 推定結果から、第1に地域の異質性は自治活動に負の相関があり、第2に地域の規模は組合活動に負の相関があることが示された。解釈は以下の通りである:自治活動といった目的がより漠然とした活動においては、地域の異質性に起因するコミュニケーションコストの高さが大きな影響を与える。他方、組合活動のような目的が決まっている活動では、コミュニケーションコストの効果は小さくなり、公共財としての性質が強くなり、より規模の大きい組織でより多くのフリーライドが生まれる。
著者
杉山 あかし
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.77-92, 1989

ダーウィニズムの視点から見た場合、これまで論じられてきた社会進化論のいくつかの主張にはかなりの問題がある。本稿はまず、ラマルキズムからダーウィニズムヘの変革において存在した、論理の組み立て方の転換を明らかにする。そして、この転換によって本来可能になるはずであった議論展開の可能性を考えながら、社会進化論の通念を吟味していく。「選択によってより優れたものが残る」という命題が、社会的事象に適用される場合の問題点が示され、しかもここでの「優れたもの」の含意が日常語的な意味とは懸け離れたものであることへの注意が喚起される。また、ダーウィニズムと、「分化」「複雑化」「発展段階」といった理論装置は、結び付くことが困難であることが示される。本稿は、このような考察の後に、ダーウィニズムの今後の展開方向を示唆する。まず、個人意識の社会による規定や、利他行動についてのダーウィニズム的解釈についての言及がなされ、そして、ある種のミクロ・マクロ・リンクの理論として、ダーウィニズムが、社会というマクロな過程によって疎外されていく人間のあり方を考える一つの方法となりえることが示される。ここに、再生産論としてのダーウィニズムの、再展開の可能性が示唆される。
著者
数土 直紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.41-56, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
11
被引用文献数
1

階層帰属意識は、日本の社会階層研究において、とりわけ理論的に探求されることの多かった主題である。その代表的な事例として、ファラロ=高坂モデルを指摘することができるだろう。しかし、ファラロ=高坂モデルはある一時点での階層帰属意識分布を問題にしており、構造変動にともなって、それがどのように変化するのかといったことは議論していない。そこで本稿では、この欠を補うべく、階層帰属意識分布の変化の背後にあるメカニズムを理論的に明らかにすることを試みた。その結果、“親の職業的地位を継承している個人は、自身の職業的地位が指示する階層的地位により強くコミットしている”ことを仮定することで、いっけんすると対応関係を欠いていたかのように観察された“職業構造の変動と階層帰属意識の変化”の関係を合理的に説明できることが明らかにされた。そして同時に、そのようなメカニズムの存在を、SSM調査データによって実証的に確認できることも明らかにした。