著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.85-93, 2014-10-25

Valins (1966)は当人の心拍が大きく変化しているかのような虚偽心拍音を聞かせながら異性の性的画像を呈示すると,画像に対する魅力度が変容する事を示し,感情喚起に生理的変化は必要ないと述べた.一方で, Stern et al. (1972)は同様の実験を行い,魅力度変容時の生理的変化を確認するとともに,感情喚起に生理的変化は必要であると述べ,その後の研究においては, Valins (1966)の結果を支持するものが多く報告されてきた(稲森. 1974など).しかし,先行研究の虚偽心拍音は,画像呈示時に15bpm上昇,呈示終了後15bpm下降させるものにも関わらず,分析は画像呈示時のみであった.虚偽心拍音の影響を検討するのならば,画像呈示後も分析対象となってしかるべきである.そこで,本研究では,画像視聴時に心拍の虚偽フィードバックを行うことによって魅力度評定,および自律神経系指標(心拍数・指尖血流量・皮膚コンダクタンス)にどのような影響を及ぼすか,先行研究では検討されなかった画像呈示後の生理指標の分析を行うことにより検討した.参加者は男性8名であり,異性画像10枚を見せ,画像呈示中に虚偽心拍音を上昇させる強化フィードバックと,虚偽心拍音を一定に保つ非強化フィードバックそれぞれを行った.安静4分間の後, 1枚の画像に対し,呈示前に注視点を1分間,画像を15秒間という手順を1セットとし,これを画像10枚分行った.最後の画像呈示終了後, 1分間の安静期間を設け,計測を終え,各画像の魅力度を評価してもらい実験終了とした.生理指標に関して強化フィードバックと非強化フィードバックの差は心拍数と指尖血流量において画像呈示後に生じている事が示された.魅力度に関して,両フィードバックの差は認められなかった.このことから,心拍の虚偽フィードバックの影響は心拍数・指尖血流量において画像呈示後に生じる事が示された.しかし,心理指標で魅力度変容は確認出来ず,内省報告から認知的操作の失敗が影響している可能性が考えられた.
著者
飯田 俊穂 熊谷 一宏
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.44-52, 2000-03-31
被引用文献数
2

高血圧の治療目的は, 高血圧による臓器障害の予防と患者のQua1ityofLife(QOL)の向上にあると言われている.また, 医療環境における随時血圧は高血圧の範疇に入るにもかかわらず, 家庭など非医療環境下で正常血圧である一群は白衣高血圧として広くその概念が知られている.第6次米国高血圧合同委員会報告(1997)では, 非薬物療法の一つとして精神緊張緩和療法[リラクセーションまたはバイオフィードバック療法(BF療法)]を取り上げている.そこで今回, 心因の関与の立場から臓器障害を認めない白衣高血圧にBF療法を導入し, 7年以上長期観察することで臓器障害の予防・QOLの向上にBF療法が効果があるかどうかを検討した.BF療法を20回以上施行した72例のうち7年以上長期観察し得た37例を対象に臓器障害の出現の有無で2群に分け比較した.4年時までは両群とも外来時血圧, 血中カテコラミン値(CA)の有意の低下, 愁訴の改善を認めBF療法は有効であった.しかし, 7年時において臓器障害の出現した群は, 外来時血圧, 不安尺度, CA値の上昇を認めた.白衣高血圧の長期予後からみたBF療法導入の適応は, 愁訴を多く認め, 不安尺度が高値で, α波の基本出現率が50%以上の高値例には積極的に考慮でき, 効果判定には, 外来時血圧の低下だけでなくα波出現率(随意制御)やα波出現の予想的中率(弁別)も加える必要が示された.経過観察には, 外来時血圧, CA値, 不安尺度, α波出現率・予想的中率の推移をみることが示された.
著者
中野 敦行 山口 昌樹
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.3-9, 2011-04-25
被引用文献数
1

唾液アミラーゼ活性(SAA)は,血漿ノルエピネフリン濃度と相関が高いことが良く知られており,ストレス評価における交感神経の指標として利用されている.ストレス研究への利用を目的として,本研究者らは携帯型の唾液アミラーゼモニターを実用化した.このバイオセンサは,使い捨て式のテストストリップと,唾液転写機構を備えた本体(130×87×40mm^3;190g)で構成されている.分析時間は1分ほどで,迅速なSAAの分析が可能である.本論文は,ストレッサーと唾液アミラーゼの変化量の関連性を定量的に示すことで,エビデンスの構築に資することを目的としている.今まで報告されてきた事例研究のデータを用い,ストレッサーを精神的なストレッサー,精神的・肉体的双方のストレッサー(心身ストレッサー),肉体的なストレッサーに分類した.ストレッサーに起因する唾液アミラーゼ活性の変化量を算出し,ストレッサーの種類で比較した.唾液アミラーゼは,その感度が鋭敏なことから,快・不快の判別が可能であることが示された.特に,急性のストレス評価に有効であると考えられた.このバイオセンサは,測定自体がストレスとなることなく,非侵襲,即時,随時,簡便なストレス計測手法として有効である.
著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25
被引用文献数
3

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.
著者
中尾 睦宏
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.87-92, 2018 (Released:2018-12-22)
参考文献数
13

バイオフィードバック・ツールを 「社会」 で活用してもらうためには, ①どこで, どのように使われるのが望ましいのか仮説設定をし, ②導入・継続運営するのに要するリソースを計算し, ③社会実装する段取りを決める, という3つのプロセスが必要となる. その上で, 仮説設定と強化のために関係する見込みのある企業等と意見交換し, ステークホルダー (利害関係者) を同定できたら, 行政にも働きかけることが肝要となる.  本シンポジウムでは, バイオフィードバック・ツールの社会実装の例として, ゲーミフィケーションを紹介した. まず演者らは, 「認知行動療法的アプローチによるココロの元気が出るアプリ」 を, 大手ゲーム会社の協力を得て開発をした (中尾ら.第42回日本バイオフィードバック学会学術総会発表). 完成したアプリは, 1年間の限定配信で, 1万ダウンロードを超える反響を得た. 同時並行して, 次世代アプリに実装するための認知行動療法プログラムの開発を行い, その臨床効果を示した (Shirotsuki K, et al. BioPsychoSoc Med 2017 Sep 19 ; 11 : 2). これらの活動は, 神奈川県の 「未病プロジェクト」 研究の1つとして採択され, 2015年度から3年間の助成を受けた.  その経験から, ICT・AI社会でバイオフィードバックを今後さらに発展させるため, 4つの方向性を提言した. ウェアラブル端末への実装 (健康状態の把握), 生活補助ツールとしての活用 (生活機能の介助), 生活空間への活用 (個人-環境インターフェイス), バイオフィード従事者の新たな役割 (健康マネジメントのリーダーシップをとる人材育成) の4つである.
著者
加納 慎一郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.127-133, 2009-10-25 (Released:2017-05-23)

脊椎損傷などによる重篤な四肢麻痺患者,あるいは筋萎縮性側索硬化症候群(ALS)患者などのように残存機能が著しく限られた患者に代替コミュニケーション手段を提供するための方法として,BCI(brain-computer interface)が昨今注目を集めている.これは,計測される脳活動から患者の意図を検出することで外部機器を制御する,いわば「思っただけで機器操作」を可能とするシステムである.我々は,運動のイメージによって感覚運動野から生じる脳波の帯域強度変化を検出するBCIである"Brain Switch"を提案した.本システムでは1チャネルの脳波を用い,β帯域の強度変化から運動イメージの有無を検出する.また,本システムのような運動イメージを用いたBCIでは,ターゲットとなる脳活動信号のS/N比や再現性の低さ,個体差を大きさなどが実用化に向けて問題になる.この問題を解決することでより情報検出精度を向上させ,また多くのユーザへのBCIシステムの適用を可能とするために,脳波や近赤外分光法(NIRS)から得られる情報のオンラインフィードバック訓練実験を行った.その結果,フィードバック訓練によって脳活動信号のS/N比が向上し,運動イメージによって得られる脳活動の体部位局在性が顕著になるという効果があることが示された.BCIシステムにおけるバイオフィードバックフィードバックは,BCIの精度向上に貢献するだけではなく,脳活動からの情報の読み出しという狭義のBCIから,脳と外部の双方向インターフェースを構築するための重要な鍵となると思われる.
著者
熊野 宏昭
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.53-58, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
4

本論文では,どのようにしてマインドフルネスを実現し心を整えていくかを,心を閉じない,呑み込まれない,プロセスとしての自己と「今の瞬間」への気づき,文脈としての自己と「体験の場」への気づきという観点から説明しながら,集中瞑想から観察瞑想に至る方法論上の要点と並行して解説していく.そして,マインドフルネスの実践によって脳がどう変化するかについて,マインドワンダリングの脳波モデルを用いた研究を紹介しながら,臨床的な効果と関連づけて説明してみたい.
著者
竹中 晃二
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.45-52, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
18

メンタルヘルス・プロモーションは,人々の臨床的症状を治療するというよりもポジティブ・メンタルヘルスの強化に用いられるウェルビーイング活動の一つである.メンタルヘルス・プロモーションはまた,災害を遭遇した後に心理的回復を促進することにも役立つ.私たちは,我が国の地震のように,災害後のレジリエンスを強化する方法として,「こころのABC活動」と名づけたメンタルヘルス・プロモーション・キャンペーンを開発した.本稿では,一般成人を対象に,またCOVID-19を患う患者に関わる医療従事者を対象に,ポピュレーション・ワイド・アプローチによって実施したメンタルヘルス・プロモーション・キャンペーンの内容を紹介する.感染拡大が続く中,人々のメンタルヘルス問題の数が増加している.現在の流行状況では,人々の接触や交流が制限されているため,従来型のメンタルヘルス・サービスに限界がある.そのため,新しいタイプの介入の開発が望まれている.私たちは,「こころのABC活動」,感情調整技法としてのStop-Relax-Think,およびIf-Then Plansとして知られている実行意図手法をもとにしたメッセージ・ポスターを開発し,それらを情報メディアに流すようにした.1,020名の一般成人と607名の医療従事者を対象に,それぞれのメッセージ・ポスターをオンライン調査によって評価した.2種類の評価をリッカート尺度を用いて行った.そのうち,ポスターへの反応評価では,閲覧の程度,知識,社会規範,態度,動機づけ,自己効力,および意図について調べ,一方,ポスターの刺激評価では,受け入れ,有用性および記憶の程度が評価された.その結果,一般成人においては,社会的接触の程度によって有意に見積もり度が異なり,一方,医療従事者では,勤務するCOVID-19への関わりによって評価が異なることがわかった.要約すると,COVID-19の感染は現在も進行中ではあるものの,ポピュレーション・ワイド・メンタルヘルス・プロモーション・キャンペーンは,全体住民のウェルビーイングに肯定的な影響を与えることができる.
著者
志和 資朗 松田 俊 佐々木 高伸
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.38-42, 1999-03-31 (Released:2017-05-23)

本研究では, 広場恐怖を伴う慢性のパニック障害患者に対して, その症状の軽減を目的として, マルチフィードバック療法の適用を試みた.患者自身の日常生活における不安階層表に基づき, 患者は段階的に恐怖場面に曝露された(現実的脱感作).同時に, マルチフィードバック訓練により, 複数の生理反応の自己コントロールが試みられた.その結果, この患者は自分自身の生理反応のコントロールが可能となり, さらにそのような進歩を患者自身が確認できたことにより, 抵抗なくより高次の不安場面への曝露が可能となった.3ケ月にわたる組合せ療法により, 広場恐怖が解消し, 復職が可能となった.この症例にみられる結果は, 従来の方法ではその解消が困難な場合が多々ある広場恐怖の治療において, 現実的脱感作とマルチフィードバック療法の組合せが有効であることを示唆するものである.今後さらに症例を重ねて検討していきたい.
著者
岩橋 俊哉
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.33-38, 1991

The author reports on the new types of programming languages that can be used by biofeedback systems. The new languages --Turbo pascal, Quick BASIC, and Quick c --are characterized by their high quality performance and notably inexpensive prices. The merits of these languages for researchers who develop biofeedback systems are several. First, that they can easily use external routines (for example, those written in Machine language and those written by other programmers) together with reserved words. Secondly, the languages provide a good programming environment which that faciliates the speed of programming. It has also been found that the similarity in grammar may be beneficial to BASIC programmers in using Quick BASIC.
著者
秋葉 光俊 宮本 芳文
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究
巻号頁・発行日
vol.14, pp.5-10, 1987

聴覚によるα波バイオフィードバックで,被験者は静寂なほの暗い室内の椅子に安静な姿勢で坐るのが通例である。しかし,もし何らかの外乱の存在する環境においても,バイオフィードバックがその効果を評価され得れば,バイオフィードバックの日常生活への拡大と考えられる。本研究では種々の聴覚外乱をもつ環境での聴覚バイオフィードバックの効果について検討した。聴覚によα波バイオフィードバックの予備訓練後,被験者8名をグループF-CとグループC-Fとに群別したグループF-Cでは実験1に聴覚フィードバックを行ない,実験2では非フィードバックによる自己制御を行なった。グループC-Fはこれと逆順とした。実験1,2とも3過程(1過程10試行)の構成とした。外乱としては,音楽,興味をひく言語および興味をひかない言語の3種を選定し,カセットテープから放音した。聴覚情報は最終的には皮質共通統合中枢に伝達され,貯蔵されている記憶と照合されて綜合思考が決定され、視床-皮質系へ情報がフィードバックされると言われている。Αリズムはtとして視床の活性に因る。従って,外乱による的皮変化は個々の経験によって異なると考えられるが、本実験により定性的に次のことが判明した。音楽は学習によりα波増強をむしろ肋成し,言語性外乱はα波を抑制する時間が長い。もっとも音楽もその性格によってα波出現への影響は異なるし,言語性外乱も被験者がその言語に対して関心をもつ程度に応じてα波抑制の程度が異なる。試行を重ねることによるフィードバック訓練の効果については、音楽の場合は漸減傾向を示し,言語性外乱の場合は当初は効果が認められないが,約5試行くらいまで漸増し以後漸減する。実験結果を要約すると,聴覚バイオフィードバックはたとえ聴覚外乱を含む環境においてもその訓練効果を示す。その効果は加えられる外乱の特性および被験者のパーソナリティによって相異する。
著者
神原 憲治
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.19-26, 2015-04-25 (Released:2017-05-23)

バイオフィードバックの効果は,本来の心身の調整のほかにさまざまな観点から捉えられる.心身医学の観点からは,生理的状態を意識化しながら調整するプロセスの中で,自身の心身の「気づき」による全人的な効果が想定され,それが身体の調整という本来の効果をも促進する.人間が健康を保つ上では,自律神経系など意識下の調整機能と,意識上の調整につながる気づきの両者が重要で,互いに関係し合いながら恒常性の維持に関わっている.バイオフィードバックは意識上・意識下の調整機能をつなぎながらその働きを高める.したがって,心身の気づきと調整機能の関係性は,心身医学的なバイオフィードバックの付加価値を考える上で重要である.心身の気づきの基盤となるのは「内受容感覚」であり,これには島皮質など,大脳辺縁系と新皮質系の連携に関与する部位が重要な役割を果たしている.内受容感覚の生理基盤から,自律的な調整機能と心身の気づきは密接に関係し合いながら恒常性の維持に関わっていることがわかる.また,Laneらの情動調整モデルによると,情動の気づきは副交感神経機能を介して負のフィードバックシステムを形成し,情動調整に関与している.心身の気づきの低下がみられる心身症や機能性疾患群における,精神生理学的ストレス反応についての我々の研究では,生理指標のベースラインでの緊張亢進とストレス反応の低下を特徴とする群が存在し,心身の気づきの低下に関与している可能性が示唆された.情動の気づきの低下であるアレキシサイミアが,心身症の主な病態の一つとして心身医学での主要テーマの一つとされてきたが,バイオフィードバックに関係が深い身体感覚や気づきの低下(アレキシソミア)が,その基盤として関わっていることが示唆されている.その生理基盤としての内受容感覚,さらにそのベースとなる自律神経などの調整機能という多層構造で,恒常性の維持や心身の調整が行われていると考えられる.バイオフィードバックは,身体内部の生理的状態を計測,視覚化してフィードバックし,本来は意識的にコントロールできない身体調整を試みるものである.従って,純粋に自律神経などの調整機能を高めるのと同時に,内受容感覚を高め,心身の気づきも促すという,複数のレベルをつなぎながら同時にアプローチできるツールとして,他にはない可能性を持った方法であると言えよう.
著者
遠山 裕美 大須賀 美恵子
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.8-11, 1983

The purpose of this study was to enhance the tolerance against a stressful situation by biofeedback training, using a recently developed BF system, MIBS-I (Mitsubishi Interactive Biofeedback System-I, Ohsuga et al 1981). Out of two male participants of the Skill Olympic, one was trained to decrease and stabilize the heart rate (HR), and the other was trained to increase the amount of Fmθ activities. After the training sessions, a strong uncomfortable tone was presented to examine the control-ability under the stressor. 1. HR The HR subject could decrease the means of HR by using the respiratory activity. The SDs became smaller as the trainig progressed. Under the stres sor, he also showed the learned effect. 2. Fmθ Tne Fmθ is a 6-7 Hz theta rhythm detected from the frontal midline during the performance of some mental tasks, e.g., Uchida-Kraepelin Test. Tne Fmθ subject could increase tne Fmθ-perce ntage of total training time using binary audio-feedback, while doing Uchida-Kraepelin Test. Father investigations on the method of introducing the stressor into the training situations and the method of evaluating the feedback effect are needed.
著者
高山 範理
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.3-10, 2015-04-25 (Released:2017-05-23)
被引用文献数
1

森林浴とは1982年に林野庁によって提唱された用語である.森林の自然や生態系を五感で感じることによって,心身の健康回復等を図ることとされる.日常のストレスを離れリラックスできる場所として,森林浴に対する社会的な期待は大きく,今日ではストレスに対するコーピングの手段のひとつとして考えられている.森林浴のストレス低減効果については,ここ10数年でかなり研究が進み,短時間(20分)の森林浴であっても,身体面では,血圧(拡張期・収縮期),脈拍,および唾液中コルチゾール等のストレスホルモンを低下させる,副交感神経活動を昂進させる,交感神経活動を低下させること等が明らかにされている.また,心理面では,気分状態が改善する,ポジティブな感情や回復感が高くなること等が明らかになっている.さらに,長期(二泊三日)の森林浴を行うことによって,体内の免疫細胞であるナチュラル・キラー細胞の活性が昂進する等,体内の免疫能が高まることも明らかになっている.現在,本格的な森林浴を愉しめる場所として,研究者らによる科学的な実験によって効果が証明された森林セラピー基地^[○!R]・森林セラピーロード^[○!R]が全国に設置されている(57ヶ所:平成26年度末).これらの施設では,それぞれの地域特性を生かした散策コースやメニューが提供されている.森林浴が効果的になされるよう案内・助言してくれる森林セラピーガイド,森林セラピスト等の資格を持つガイドが配置されており,ガイドらと一緒に森林浴を行うことで,森林浴の体験の質が高まるだけでなく,高いストレス低減効果が期待できる.また,当地では,森林浴の開始前・開始後に心身の状態を測定することが可能であり,これなどは健康維持・増進を目的として,バイオフィードバックの理念が現場で活用された好例のひとつとして捉えることができるだろう.
著者
岩橋 俊哉
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.33-38, 1991-06-01 (Released:2017-05-23)

The author reports on the new types of programming languages that can be used by biofeedback systems. The new languages --Turbo pascal, Quick BASIC, and Quick c --are characterized by their high quality performance and notably inexpensive prices. The merits of these languages for researchers who develop biofeedback systems are several. First, that they can easily use external routines (for example, those written in Machine language and those written by other programmers) together with reserved words. Secondly, the languages provide a good programming environment which that faciliates the speed of programming. It has also been found that the similarity in grammar may be beneficial to BASIC programmers in using Quick BASIC.
著者
遠藤 守
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.93-97, 2015

「修業」とは,一定の業を習い修めることで,自分の利益のために業を習い修める事であるのに対して,「修行」とは何物も求めず利害得失を離れて,悟りを開いた人々の道を行ずる事です.武道修行の究極は人間形成です.著者は,武道の修行において,健康で徳を身につけ,品位と品格を備えることを常に最終目標としております.