- 著者
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五島 史行
野村 恭子
中尾 睦宏
瀬戸 泰
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.148-156, 2016 (Released:2016-02-29)
- 参考文献数
- 21
- 被引用文献数
-
1
はじめに : めまいの多くは末梢前庭障害によるものであり, 一時的な症状で改善することが多い. しかし, 一部では症状が遷延化する. 本研究では, 3カ月以上にわたりめまい症状が遷延している難治性めまい患者における重症度に影響している要因について検討した. 対象と方法 : 都内単一医療施設耳鼻咽喉科外来にて3カ月以上一般的治療を行ったにもかかわらず, めまい症状が遷延した患者のうち, 2012年4~11月の間に入院による積極的な治療を希望した難治性末梢性めまい210例 (女性75%, 平均年齢65歳) を対象とした. 検討した項目は性別, 年齢, 就労の有無 (無職/就労), 最終学歴 (短期大学以下/大学以上), 心理尺度である. 心理尺度には, (a) 身体感覚に対する破局的思考尺度 (Somatosensory Catastrophizing Scale : SSCS), (b) 身体感覚増幅尺度 (Somatosensory Amplification Scale), (c) 身体症状評価 (Medical Symptom Checklist), (d) 自己評定式抑うつ尺度 (Self-rating Depression Scale : SDS) のそれぞれについて自記式質問紙を用いて尋ねた. めまいの頻度が週に1回以上をめまい重度群, それ未満をめまい軽度群と定義し, それぞれの因子との関連を統計学的に検討した. 結果 : めまい軽度群に比べて, めまい重度群は有意に若く (p=0.001), 就労しており (p=0.001), 最終学歴は大学以上であった (p=0.013). また, 心理尺度のSSCS (p<0.0001) ならびにSDS (p=0.049) の平均点はめまい重度群が軽度群よりも有意に高かった. めまいの重症度に影響する因子を検討するロジスティック回帰分析では説明変数としてSSCSの合計値を投入したモデル1とSSCSの各因子の値を投入したモデル2を行い, 就労していない場合に比べ就労しているとめまいは約3倍重症化しやすく (モデル1 OR 3.47, 95%CI : 1.51~8.00;モデル2 OR 3.18, 95%CI : 1.36~7.45), モデル1にてSSCSの合計点が1点上昇するごとにめまいは3% (95%CI : 1.01~1.05) 重症に傾きやすい傾向を, モデル2にてSSCSの第二因子 (生活上の支障) が1点上昇するごとにめまいは11%重症化に転じる傾向 (OR 1.11, 95%CI : 1.03~1.19) を認めた. 考察 : 難治性めまいにおいて身体感覚に対する破局的思考は重症度に影響を与えていることが明らかとなり, 認知の歪みの影響を受ける病態であることが示唆された. その他の背景因子の中では, めまい重度群では就労しているものが多く, 今後の検討事項に外的な要因として職場での人間関係やサポートなどの社会的環境因子が考えられた.