- 著者
-
森川 美絵
中村 裕美
森山 葉子
白岩 健
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.3, pp.313-321, 2018-08-31 (Released:2018-10-26)
- 参考文献数
- 21
目的:日本では,利用者視点やケアの社会的側面を考慮したアウトカムの把握・測定尺度の開発と,それをケアシステムやケア事業の運営につなげていくことが大きな課題である.本稿では,著者らが本邦初の試みとして取り組んでいる社会的ケア関連QOL尺度the Adult Social Care Outcomes Toolkitの利用者向け自記式 4 件法(ASCOT SCT4)の日本語版開発に関して,特に,設問項目の日本語翻訳の言語的妥当性の検討に焦点をあて,その概要を報告する.方法:翻訳プロセスは「健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針」(COSMIN)に依拠し,順翻訳・逆翻訳・精査と暫定日本語版の作成,事前テスト,事前テスト結果および臨床的観点をふまえた修正と最終承認,の3段階で実施した.実施期間は2016年 7 月〜2017年12月である.事前テストでは,第一段階で生成された暫定日本語翻訳版について,2地域の潜在的利用者を対象とした認知的デブリーフィングを実施した.認知的デブリーフィングは,設問項目の意味の理解や文化的な許容を確認するための構造化されたインタビュープロセスである.結果:事前テストの結果,尺度を構成する 8 領域のうち「日常生活のコントロール」領域および「尊厳」領域の 3 つの設問項目で,暫定翻訳語への違和感や設問文の言い換え困難が報告された.事前テスト結果をふまえた原版開発者・日本の研究チーム・翻訳会社の 3 者による修正案の検討,さらに臨床的観点からのより簡潔で日常用語に近い表現にむけた微修正を経て,最終的な日本語翻訳版が承認された.結論:社会的ケア関連QOL尺度であるASCOT SCT4について,翻訳手続きの国際的指針に適合し,原版開発者から承認を受けた日本語翻訳版を世界で初めて作成した.翻訳の言語的妥当性を確保する上で,潜在的利用者から直接的なフィードバックを得ることの重要性が確認された.「日常生活のコントロール」「尊厳」領域の設問項目の翻訳には,翻訳先言語での日常会話における通常用語に照らした,注意深い検討が必要となることが示唆された.今後は,尺度の妥当性の統計的検討や,ケアのシステムや実践のアウトカム評価におけるASCOT日本語翻訳版の応用手法の検討を進める必要がある.