著者
谷川 剛 山口 誓司
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.29-33, 2014 (Released:2015-05-01)
参考文献数
19

褐色細胞腫クリーゼはカテコラミン過剰放出により多彩な臨床像を呈し,発症急性期での診断が困難で,急激に全身状態が悪化しうるため適切な治療がなされなければ致死的となることもある内分泌緊急疾患である。急性期治療はまず薬物療法を行い,状態を安定させた後に手術による摘除を行う。薬物治療に抵抗性の場合は腫瘍切除が考慮されるが急性期の緊急手術はリスクが高く,治療成績向上のためには術前コントロールの成否が重要となる。当院では多臓器不全を合併した褐色細胞腫クリーゼを薬物療法に加え,持続血液透析濾過法(continuous hemodiafiltration;CHDF)によりカテコラミンを除去することで全身状態を改善させた後に待機的手術を施行し,救命しえた2例を経験した。いずれも手術による合併症を認めず,良好な経過をたどった。CHDFによる過剰なカテコラミン除去は内科的治療に抵抗する褐色細胞腫クリーゼの術前コントロールのための一つの有効な手段となりうる。
著者
石戸谷 滋人 青木 大志 櫻田 祐 菅野 裕樹 坂本 忍 千坂 和枝 小池 喜代子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.207-211, 2013 (Released:2013-10-31)
参考文献数
5
被引用文献数
1

泌尿器科医は内分泌外科領域の手術において,腹膜外アプローチを頻用してきた。副腎領域では,後腹膜をバルーンで拡張して操作腔を作成,後腹膜鏡下副腎摘出術を盛んに施行している。種々のエネルギー源(電気メス,超音波凝固切開装置,シーリングデバイス)を用いての低侵襲かつ安全な手技である。また,一部の施設ではさらに整容性に優れた“単孔式副腎手術”も行われている。前立腺手術では,レチウス腔を展開しての前立腺全摘術を施行している。出血し易いサントリニ静脈叢の処理にはバンチング操作で対応,勃起神経の温存操作では,ファインな手術器械を吟味して慎重な操作で臨んでいる。最近では手術支援ロボット「ダヴィンチ」(daVinci)を用いた“ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術”が急速に広まっている。
著者
廣川 満良 鈴木 彩菜 川木 裕子 工藤 工 木原 実 宮 章博 宮内 昭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.32-38, 2020 (Released:2020-06-16)
参考文献数
27

甲状腺穿刺材料を用いた補助診断法について概説する。穿刺針洗浄液を用いた生化学検査,たとえばサイログロブリン,カルシトニン,PTHなどは細胞診よりも診断精度が高く,比較的安価であることから,適応や評価を十分に理解したうえで積極的に用いるべきである。リンパ腫,特にMALTリンパ腫を疑った場合は,フローサイトメトリーによる軽鎖制限の確認は非常に有用である。遺伝子検査は本邦では未だ日常的には行われていないが,今後細胞診で濾胞性腫瘍や意義不明と報告された結節に対して行われていくことになるであろう。
著者
中野 賢英 福成 信博 坂上 聡志 西川 徹 相田 貞継
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.148-153, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
15

医療の技術革新が進む中で,甲状腺濾胞性腫瘍はいまだその診断が非常に難しい疾患の一つである。病理学的診断方法の特殊性もあり,確立した術前診断方法は得られていない。一方で,新しい技術の開発や様々な評価法の検討が,正診率の向上に寄与していることも事実である。画像診断はその中でも重きを置かれる分野であり,超音波検査を筆頭に多くの知見が得られているが,現状では,画像所見だけではなく,臨床経過,細胞診結果,サイログロブリン値などの臨床検査結果を踏まえて総合的に検討し,治療方針を判断する必要がある。今後より正確な診断が可能となるよう,さらなる知見の積み重ねが期待される。
著者
伊藤 康弘 宮内 昭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.160-165, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
8
被引用文献数
1

甲状腺濾胞癌は,乳頭癌の次に頻度の高い甲状腺濾胞細胞由来の癌である。乳頭癌と異なり,リンパ節転移や周辺臓器への浸潤は少ないが,反面遠隔転移や遠隔再発が多い。濾胞癌の予後不良因子としては手術時の遠隔転移(M1),低分化成分の存在(50%以上),浸潤度(広汎浸潤型),年齢(再発予後不良因子は20歳未満と45歳以上,生命予後不良因子は45歳以上)が挙げられる。濾胞癌は術前の細胞診では診断がつきにくく,濾胞性腫瘍という診断の元に初回手術は通常,片葉切除が行われる。しかしM1症例や組織学的に予後不良因子をもつ症例に対しては,病理診断がついたあとで,補完全摘や症例によっては放射性ヨウ素を用いたアブレーションが推奨される。
著者
光武 範吏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.166-169, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
15

甲状腺濾胞性腫瘍とは,濾胞腺腫と濾胞癌を併せたものをいう。両者の鑑別は明らかでないことがあり,少なくとも一部は連続した病態であると考えられる。また,濾胞性腫瘍と乳頭癌の濾胞型亜型の鑑別も難しいことがある。濾胞性腫瘍では,細胞内シグナル伝達経路のうちPI3K-AKT経路の活性化が重要であると考えられている。このシグナル経路を活性化する遺伝子異常として,RAS変異(特にNRASコドン61),PTEN変異・欠失,PIK3CAの増幅などがみられる。また,染色体再配列PAX8/PPARγが検出されることもあり,これもおそらくPI3K-AKT経路の活性化に関与しているとされる。一般的にはこれらの遺伝子異常には重複がみられない。これらの変異は,頻度が低いものの濾胞腺腫でも検出されるが,その臨床的意義は不明である。さらに追加で生じるTERTプロモーター変異は,高悪性度・予後不良と関連する。
著者
田辺 晶代 内原 正樹 成瀬 光栄
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.105-109, 2022 (Released:2022-08-29)
参考文献数
14

PPGLに対する治療の第一選択は腫瘍摘出であり,薬物治療は術前治療あるいは切除不能性に対する慢性治療として施行される。PPGLの診断が確定したら速やかにα受容体遮断薬を開始し,頻脈に対してβ受容体遮断薬を併用する。交感神経受容体遮断薬で十分な治療効果が得られない症例にはメチロシンを併用する。PPGLの根治治療は未だ存在せず,治療目標はカテコールアミン過剰症状のコントロール,無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の延長である。手術困難例では抗腫瘍治療として化学療法,対症療法としてαβ受容体遮断薬やメチロシンの内服が行われる。海外ではチロシンキナーゼ阻害薬,Mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬,免疫チェックポイント阻害薬が試みられている。
著者
中駄 邦博 高田 尚幸 高橋 弘昌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.176-182, 2012 (Released:2013-03-31)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿では核医学検査とCTを中心に,副甲状腺機能亢進症の画像診断の最近の動向について述べる。MIBI SPECTとCTの融合画像は各々のmodalityの限界を相補って,腫大副甲状腺の局在を正確に示すことができるので,手術成績の向上に貢献することが期待される。
著者
田原 信
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.110-114, 2020 (Released:2020-09-02)
参考文献数
21

現在,検出された腫瘍の遺伝子変異に応じて分子標的薬を処方するがんゲノム医療が様々な癌腫にて進展している。甲状腺がんにはBRAF,RET,NTRKなどのactionableな遺伝子異常の頻度が他の癌腫と比較して高い。しかし,承認されている薬剤は,NTRK阻害剤のみであり,現時点では効果の期待できる治療薬にたどり着くには数多くのハードルが待っている。RET癒合遺伝子を有する甲状腺がん,RET遺伝子変異陽性の甲状腺髄様がんに対しては,RET阻害薬の治験が進行中である。BRAF V600E変異又はALK癒合遺伝子を有する場合には,患者申出療養下の医師主導治験に参加可能であれば,薬剤の提供を受けることができる。個別化医療を推進するためには,初回治療時の遺伝子異常検査,トランスレーショナルリサーチ,臨床研究のための施設整備,多施設共同研究などを進めていく必要がある。
著者
田村 温美 筒井 英光 伊藤 純子 小原 亮爾 星 雅恵 久保田 光博 矢野 由希子 池田 徳彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.269-273, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
15

甲状腺・副甲状腺手術の後出血は1~2%の頻度とされている。頸部は狭い空間であることから,少量の出血でも血腫による静脈潅流障害により喉頭浮腫から気道閉塞に至る可能性がある。このため,甲状腺・副甲状腺手術において後出血は最も緊急性の高い合併症である。当科では,後出血予防の様々な取り組みにより,後出血に対する再開創率は0.5%と好成績であった。しかしながら,手術を行う限り後出血はどうしても一定の頻度で発生してしまうため,発生防止と同時に,早期発見と迅速な対応を行う取り組みが必要である。当科ではその取り組みのひとつとして,頸部マーキングを行っている。ひも1本でできる危機管理をコンセプトにこの頸部マーキングを「東京医大ひも法」と名付けて行っている。「簡便」かつ「安価」で導入可能であること,安全が「見える化」「数値化」することでチーム内での情報共有や早期発見に有用な方法である。ひも法における「マーキングが2cmずれたら主治医コール」は妥当な基準と考えている。
著者
山瀬 喬史 稲木 杏吏 萱野 大樹 絹谷 清剛
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.180-184, 2021 (Released:2021-11-27)
参考文献数
32

小児の甲状腺癌はリンパ節転移や遠隔転移を認める可能性が高いが,基本的には生命予後は良好であり,放射性ヨウ素内用療法にもよく反応する。また,治療の効果が長く持続することから,二次発癌など長期的な副作用に鑑みると,成人で推奨されている総投与量や治療回数,治療間隔は,小児にとって必ずしも適切ではない。治療を計画する際は,患者・家族に中長期的な影響も含めたリスクについて十分に説明し,適切な経過観察を行う必要がある。本項では,American Thyroid Associationの制定したガイドラインを中心に,小児の甲状腺癌患者における,放射性ヨウ素内用療法の基本的な適応や手順,注意点について記載する。
著者
黒住 献 松本 広志 大矢 敏裕 多胡 賢一 室谷 研 内田 紗弥香 尾林 海 家里 裕 横森 忠紘 堀口 淳 竹吉 泉 長谷川 剛
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.76-79, 2012 (Released:2013-01-31)
参考文献数
11

症例は67歳,女性。甲状腺機能の異常を認めたため,当科を紹介された。局所所見では甲状腺のびまん性腫大を認め,その中に大きさ3.5×2.3cmの境界明瞭,平滑,弾性硬,可動性良好な腫瘤を触知した。血液検査では,free T3,T4の上昇,抗TSHレセプター抗体陽性を認めた。超音波検査では甲状腺左葉に3.5cm大,右葉中部に1.0cm大の腫瘤像がみられた。99mTc-O4シンチグラムでは左葉上中部の腫瘤に一致する強い集積と右葉中部に淡い集積を認め,その周辺の甲状腺組織にも淡い集積が認められた。以上の所見からMarine-Lenhart症候群(Plummer病を合併するBasedow病)と診断し,メルカゾール30mg/dayを約1ヵ月間投与した。しかし,甲状腺機能の正常化が認められないため,機能性甲状腺結節の切除を含む甲状腺亜全摘術を施行した。病理学的所見では,2つの結節はadenomatous goiterの像を示していたが,濾胞を形成する細胞の高さは通常よりも高く,肥大していた。一方,結節外の背景の甲状腺濾胞上皮細胞には肥大所見は認められず,正常の濾胞上皮細胞と同等の像を示していた。術後,甲状腺機能亢進は比較的速やかに正常化した。以上の経過より,本疾患での甲状腺機能正常化には,機能性結節の切除を含む手術療法が有効であると思われた。
著者
坂東 裕子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.107-111, 2019 (Released:2019-10-03)
参考文献数
15

日本では2018年4月に“白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法”として,初のPARP阻害薬としてOlaparib(リムパーザ®)が登場した。その後Olaparibは2018年7月に“がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌”が適応となった。乳癌診療では遺伝性乳癌・卵巣癌症候群という遺伝性腫瘍を対象とした治療薬としては本邦初の適応であり,コンパニオン診断プログラムである“BRACAnalysis診断システム”により生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異の判定結果に基づきOlaparibの適応は決定される。本稿ではBRCA,PARP,PARP阻害剤と遺伝学的検査についてのべる。
著者
青木 琢 國土 典宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.262-265, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
15

膵原発神経内分泌腫瘍(P-NET)は,他臓器原発NETと比較し悪性例,転移陽性例の頻度が高いため,原則として全例治療適応となる。治療の第一選択は外科切除であり,原発巣の切除術式は腫瘍のサイズ,主膵管との位置関係,悪性の可能性に基づき決定されるが,リンパ節郭清の基準,縮小手術の適応基準はいまだ明確にはされていない。遠隔転移,特に肝転移の制御は予後の観点から臨床的には最重要課題の一つと考えられる。遠隔転移例に対しても切除可能であれば切除が推奨されるが,治癒切除率は高くなく,また切除後高率にみられる再発に対する有効な治療法が開発されていない点が問題となっている。切除単独療法による根治が困難である現在,抗腫瘍治療(ホルモン治療,抗癌剤,分子標的薬)と外科治療のさまざまな組み合わせが期待されており,長期生存から治癒を目指したストラテジーへの転換が求められている。
著者
鈴木 眞一 塩 功貴 松本 佳子 鈴木 聡 中野 恵一 岩舘 学 水沼 廣
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.87-91, 2021 (Released:2021-09-25)
参考文献数
12

甲状腺癌手術における手技のなかで,反回神経,Berry靭帯周囲の操作および副甲状腺の温存について解説した。基本的には被膜剝離法(CD)で行う。True capsuleとfalse capsuleの構造を理解し,この方法で副甲状腺や反回神経がfalse capsule内に温存される。また下甲状腺動脈と反回神経が交差することとそのバリエーションを理解し,その損傷原因も理解しながら手術を行うことが反回神経損傷を防ぐ重要な点である。またBerry靭帯やZuckerkandlの結節も反回神経温存には欠かせない解剖知識である。さらに術中神経モニタリングが多く使用される昨今,モニタリングの使用に有無での利点欠点についても述べた。小切開や内視鏡手術でも基本的に同様の概念で行うが,操作野が小さく甲状腺外背側の牽引,脱転が不十分になりかねず,CDが不十分になりやすいためIONMなどでの確認が必要である。
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.187-191, 2020 (Released:2020-11-28)
参考文献数
16

術中神経モニタリング(IONM)により,甲状腺・副甲状腺手術中の反回神経の同定と機能監視,手術終了時における機能確認が可能となった。しかし,反回神経温存のコツはその解剖の理解と愛護的な操作であることは変わらない。反回神経はしばしば喉頭外で分枝するが声帯運動枝は最も前方を通ること,Berry靭帯付近での牽引は麻痺の原因となることを知ったうえで,適切にIONMを使用することが重要である。IONMはまた,非反回神経の迷走神経からの分岐点の同定,右縦隔甲状腺腫の場合の神経の走行確認などにも役立つ。進行甲状腺癌や再手術例では必須のデバイスであり,両側反回神経の剝離操作を要した場合の気管切開の必要性判断にも活用できる。国際神経モニタリング研究グループ(INMSG)は2018年にガイドラインを発表し,IONMを用いた浸潤性甲状腺癌における反回神経の取扱いや二期的手術の適応について具体的な手順を示した。
著者
加々良 尚文 野口 眞三郎
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.96-100, 2019 (Released:2019-10-03)
参考文献数
31

乳癌の約70%はエストロゲン受容体(ER)陽性であり,内分泌療法の適応となる。ER陽性の転移再発乳癌の治療には,一般に副作用の少ない内分泌療法が優先的に使用されるが,多くは治療中に耐性を生じる。近年,耐性機序の一つとして,エストロゲン受容体(ER)をコードするESR1遺伝子の変異が報告され,長期のアロマターゼ阻害剤(AI)治療後に高頻度で生じることがわかった。これらの変異はエストロゲン非依存的なER活性をもたらすことにより,種々の内分泌療法にも抵抗性を示し,全生存期間にも影響を与える。変異の検索には,血中循環腫瘍DNAが利用可能であり,ESR1を対象としたリキッドバイオプシーが治療効果予測や予後予測に有用と考えられる。以下,乳癌におけるESR1変異の臨床的意義や特徴について概説する。
著者
西原 永潤
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.152-155, 2018 (Released:2018-11-19)
参考文献数
14

バセドウ病の薬物療法で最も用いられている抗甲状腺薬は,甲状腺ホルモン産生を十分抑制するが,投与患者の10%以上で副作用が出現する。そのため,投与開始時には副作用の可能性を必ず説明し,特に最初の2カ月は重症副作用を見逃さないように注意する。ここでは,本薬剤の選択と一般的な投与法,妊娠中(予定)の患者への配慮,治療法を変えるタイミング,抗甲状腺薬以外の治療に,焦点を当てていく。
著者
有村 俊寛
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.285-289, 2015

学童期に受けたバセドウ病手術後,50年間経過観察されず,特徴的な身体所見を有した,経緯詳細不明な症例を経験した。症例は59歳,女性。甲状腺機能低下症および副甲状腺機能低下症にて当院へ紹介。発見契機:頭部CTでの両側大脳基底核小脳石灰化。既往歴:学童期のバセドウ病手術(詳細不明)。特定の疾患での受診歴,通院歴なし。初潮11歳,閉経46歳。妊娠出産歴なし。家族歴:両親は他界。同胞に同様の身体所見や内分泌疾患などの既往なし。現症:低身長,肥満,円形顔貌。軽度精神発達遅滞疑い。頸部にU字状創瘢痕。甲状腺を両葉に結節状に触知。頸部US:両葉に結節性甲状腺腫の所見。経過:術後結節性甲状腺腫,甲状腺機能低下症および副甲状腺機能低下症による低Ca血症と診断。甲状腺ホルモン補充,活性型VitD3およびCa剤投与で,経過良好である。本症例の甲状腺手術の身体発育への影響は,推察困難であった。副甲状腺機能低下症の鑑別は,確定に至っていない。