著者
三木 仁司 開野 友佳理 沖津 奈都 森本 忠興 内田 尚之 木村 早那 岡本 浩 泉 啓介
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.264-268, 2016 (Released:2017-01-26)
参考文献数
20

28歳,女性。平成27年4月右乳房の硬結と痛みを自覚し当科を受診。初診時,右乳房AC領域に5cm大の硬い腫瘤を触知し発赤も認めた。肉芽腫性乳腺炎を疑いテトラサイクリン系抗生剤投与を開始した。乳房硬結部の針生検を施行し病理学的に炎症所見を認め,同材料の培養検査でCorynebacterium kroppenstedtiiを検出した。初診から約4週間後,両下腿に散在性の紅斑が出現し皮膚生検にて結節性紅斑と診断した。そこでプレドニゾロンを投与開始し2週間後に結節性紅斑は軽快した。しかし肉芽腫性乳腺炎はドレナージが必要で治癒するのに約4カ月を要した。肉芽腫性乳腺炎は,最近Corynebacterium kroppenstedtiiの感染が原因ではないかといわれており,本症例も針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた。よって,肉芽腫性乳腺炎の早期診断に針生検は有用な診断手段と考えられた。また,稀に結節性紅斑を合併することがあり,乳房に感染したCorynebacterium kroppenstedtiiに対する免疫反応の結果,結節性紅斑が惹起されたのではないかと考えられた。
著者
河野 文彰 和田 俊介 仙波 速見 水野 隆之 川越 勝也 清水 哲哉 中村 都英 鬼塚 敏男
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.71-75, 2012 (Released:2013-01-31)
参考文献数
19

症例は67歳,女性。頸部腫瘤と胸部異常陰影の精査のために当科に紹介となった。頸部超音波検査および頸部CT検査で,30mm大の頸部腫瘤を右内頸静脈の背面に認め,穿刺細胞診にて悪性(乳頭癌)と診断された。しかし甲状腺には明らかな異常病変を認めなかった。また患者は来院時より右の眼瞼下垂と瞼裂狭小を認めていた。甲状腺オカルト癌および頸部リンパ節転移と診断し甲状腺全摘出術と頸部リンパ節郭清術を施行した。頸部腫瘤は内頸静脈と右椎骨前筋群に浸潤を認め,さらに右迷走神経と右交感神経幹への浸潤も認めた。迷走神経は温存できたが,内頸静脈および交感神経幹は合併切除を余儀なくされた。術前に交感神経鎖浸潤を来たしHorner症候群を呈した興味あるまれな症例を経験したので報告した。
著者
福島 光浩
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.64-67, 2019 (Released:2019-10-03)
参考文献数
4

甲状腺・副甲状腺疾患の手術後に起きる術後出血は,約1~2%に起きると報告されており,初期対応を誤ると深刻な事態を招く術後合併症である。頸部は比較的狭いコンパートメントのため切開創が縫合された後に起きる出血はコンパートメント内の圧力を急激に上昇させ気道閉塞を引き起こす原因となる。医療安全調査機構の警鐘事例に甲状腺の手術後に起きた術後出血により不幸な転帰をたどった事例が報告されている。その報告をもとに甲状腺・副甲状腺疾患の手術後に起きる術後出血の注意点を改めて検証する。事例の概要は以下の通りである。40歳代 男性 バセドウ病と診断され甲状腺亜全摘術を施行。手術約12時間後に術後出血から心肺停止となり,いったん蘇生するが約1カ月後,腎不全,肺炎,心外膜炎を併発し死亡した。(医療安全調査機構の評価結果報告書概要 平成24年度 事例132より抜粋)
著者
杉谷 巌
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.165-170, 2019 (Released:2019-11-25)
参考文献数
11

甲状腺未分化癌(ATC)は稀ながら極めて予後不良なorphan diseaseで,その1年生存率は5~20%程度である。患者の多くは高齢者であり,外科的根治切除,放射線外照射,多剤併用化学療法などによる集学的治療を積極的に行うべきか,quality of survival(QOS)を重視してbest supportive careに徹するべきか迷う場合も少なくなかった。ATCの予後因子研究によって,prognostic index(PI)が開発され,その有用性が国内多施設共同研究レジストリである甲状腺未分化癌研究コンソーシアムにおいて検証された。その結果,腫瘍の進展度(stage)や患者状態と合わせてPIなどの生物学的予後因子を考慮することで,積極的治療が生存期間の延長をもたらしうる群とQOS維持を重視すべき群とを区別したうえでのATCの個別化治療がある程度可能となった。
著者
樋之津 史郎
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.198-201, 2019 (Released:2020-02-21)
参考文献数
18

FDAでは臨床研究のアウトカム評価(Clinical Outcome Assessment)を以下の様に定義している。「A COA is any assessment that may be influenced by human choices, judgment, or motivation and may support either direct or indirect evidence of treatment benefit.」である。また,COAは4つの要素から構成されており,それらの要素は,Patient-reported outcome (PRO),Clinician-reported outcome (CliRO),Observer-reported outcome (ObsRO)とPerformance outcome (PrefO)である。PROの一つとしてHealth-related quality of life (HROLあるいはHRQOL)がある。近年,医療経済的視点での癌診療評価にQuality-adjusted Life Year (QALY)という概念が導入され,QALYの計算にはEQ-5DなどのQOL調査票を用いて得られたQOLの評価が必須である。しかしながら,QOL評価に対して,生存/死亡のようなハードエンドポイントではないことから,「不確実な測定値」というイメージを持っている臨床医も少なからず存在する。そこで,臨床医のPROやQOLに対する理解を助けることを目的としてQOL調査票作成プロセスについて概説した。今後PROを取り入れた臨床研究計画の際に役立つことを期待している。
著者
伊藤 康弘 宮内 昭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.18-22, 2021 (Released:2021-05-27)
参考文献数
11

2017年にAmerican Joint Committee on Cancerの甲状腺乳頭癌および濾胞癌に対するTNM分類およびstaging systemが,大きく改訂された。2019年に上梓された日本内分泌外科学会/日本甲状腺病理学会による「甲状腺癌取扱い規約」も,それをそのまま採択している。今回の改訂の主たるものとして1)年齢のカットオフが45歳から55歳へ変更された,2)腫瘍径に基づくupstagingが変更された,3)腺外浸潤が術中の肉眼所見に基づくものとされ,その内容およびupstagingが変更された,4)リンパ節転移のupstagingが変更されたことが挙げられる。第8版のTNM staging systemは第7版に比べて,より鋭敏に患者の予後を反映しているが,まだ色々と改善の余地があるように思われる。本稿ではこれらについて網羅的に解説する。
著者
千葉 知宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.11-16, 2021 (Released:2021-05-27)
参考文献数
13

甲状腺結節の診断・鑑別に関しては,穿刺吸引細胞診と手術検体の組織診断という形態診断に基づくが,大規模な遺伝子解析の結果から甲状腺腫瘍における遺伝学的背景が明らかになり,乳頭癌においてはBRAFV600EとTERT promoter変異と予後の関連も明らかになった。我が国において遺伝子パネル検査が保険適用になり,甲状腺癌症例の解析が少しずつ実施されている。穿刺吸引細胞診に関しては,液状化検体細胞診(liquid-based cytology, LBC)の利用により,従来の形態診断のみならず,様々な遺伝子解析が可能となった。すでに欧米では甲状腺腫瘍を対象とした術前の遺伝子パネル検査が実用化されており,一定の実績を残している。今後エビデンスの蓄積により,術前から分子診断を実施し,術式や術後補助療法の選択へ応用することが期待されている。
著者
成瀬 光栄 黒田 昌志 伊藤 剛 奥野 博 島津 章 田辺 晶代 難波 多挙 立木 美香 中尾 佳奈子 玉那覇 民子 革嶋 幸子 臼井 健 田上 哲也 広川 侑奨
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.94-100, 2012

原発性アルドステロン症(PA)は治療抵抗性高血圧や標的臓器障害の合併頻度が高い一方,適切な治療により治癒可能であることから,高血圧の日常診療で常に考慮すべき内分泌疾患である。2009年の米国内分泌学会に続き,わが国でも日本高血圧学会,日本内分泌学会から診療ガイドラインが発表された。スクリーニング(case detection),機能確認検査(confirmatory testing),病型・局在診断(subtype testing),治療選択が診療の基本ステップで,PA診断の啓発と医療の標準化の点で大きく貢献したといえる。しかしながら,同時に,診断に用いる指標,検査方法,判定基準などの詳細は十分には標準化されておらず,専門医,施設,国ごとで異なっているのが実情で,治療法選択の観点から,PAの診断,特に非典型例での診断の精度は今後,十分に検証される必要がある。また,実施が必要な機能確認検査の数や局在に必須とされる副腎静脈サンプリングは,common diseaseの診療水準向上における障壁となっており,今後,簡素化と非侵襲化が必須である。PA診療においては,ガイドラインの特色と課題を十分に認識し,個々の患者で適切な診断,治療を選択する必要がある。
著者
宮内 昭 工藤 工 都島 由希子 宮 章博 小林 薫 伊藤 康弘 高村 勇貴 木原 実 東山 卓也 福島 光浩 藪田 智範 舛岡 裕雄 進藤 久和 山田 理 中山 彩子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.13-17, 2013 (Released:2013-05-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

現在,甲状腺乳頭癌に対しては,腫瘍径,Ex,N,Mの評価に基づいて手術術式が選択され,術後は病理学的所見や術後の血清サイログロブリン(Tg)値に基づき,術後療法が選択されている。本論文では,Tg抗体(TgAb)陰性の乳頭癌においては甲状腺全摘後のTSH抑制下のTg値の変動から求めたTgダブリングタイム(TgDT)が多変量解析において最強の予後因子であることを紹介する。Tg値の変動が重要である。しかし,TgAb陽性患者においてはTg値の信頼性は低い。そこで,TgAb陽性の乳頭癌225症例の甲状腺全摘後のTgAb値の変動と予後との関係を調べると,術後2年以内に50%以上低下した症例は非低下症例より有意に良好であり,多変量解析において優れた予後因子であることが判明した。今後は,旧来のTNM,病理学的分化度による予後予測の時代から,血清Tg,TgAb値の経時的変動分析に基づく動的予後予測の時代へとパラダイムシフトが起こるものと予想される。
著者
小野田 尚佳
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.160, 2016

<p>2010年のガイドライン発刊以降にいくつかの注目すべき論文が発表されている。とくに,National Cancer Database[1]による信頼性の高い調査は,甲状腺未分化癌の臨床像を具体的な数値で示すことができている。一方で,生命予後は過去20年全く改善が認められていないと報告されている[2]。今までの治療法は意義がなかったのだろうか?これまで行われてきた集学的治療をレビューし,今後の課題を示していただいた。</p><p>探索的に行われていた化学療法の成果は,不明のままであった。甲状腺未分化癌患者を対象として国内で実施されたweekly paclitaxelによる化学療法の臨床試験[3]は,現時点での標準治療の成績を客観的に提示したものと考えられ,新規治療開発の基準となるデータとしてご紹介いただいた。</p><p>話題の中心ともいえる甲状腺未分化癌に対する最新の分子標的治療については,本号の別特集を参照されたい。</p><p>治療成績の改善を目指す上において,発症や進展に関わる基礎的研究成果の理解は重要であるが,技術の進歩によって臨床所見の裏付けとなる遺伝子異常が確認できるようになってきている。新たな治療法の創生に向けての多数のヒントが隠されている大変興味深い基礎的分野の知見をご紹介いただいた。</p><p>いずれの文章でも,難治性の希少疾患である甲状腺未分化癌の診断,治療,研究には,多施設での連携や登録制度の確立,臨床試験の充実が必要であることが述べられており,甲状腺癌診療における現在の重要課題のひとつとしてこれらの課題を読者と共有できることを希望する。</p>
著者
萱野 大樹 稲木 杏吏 若林 大志 赤谷 憲一 山瀬 喬史 國田 優志 絹谷 清剛
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.39-43, 2014 (Released:2015-05-01)
参考文献数
11

MIBG治療は手術不可能または悪性の褐色細胞腫に対して行われる放射線内照射療法であり,国内では数施設で治療が可能である。保険適応外治療であるため治療に要する費用は患者自己負担となる。放射性薬剤を用いた治療であるため,治療は放射線治療病室で行われ,治療後数日間は放射線治療病室で過ごさなければならない。放射線管理上の問題から,患者はADLがある程度自立していることが必須となる。重度の副作用は少なく比較的安全な治療であり,完治に至ることは稀ではあるが病状の軽減および増悪を抑える効果が充分に期待できる治療といえる。手術不可能または悪性の褐色細胞腫に遭遇した際には,早い段階でMIBG治療も治療選択肢の1つとして考慮していただければ幸いである。
著者
植木 雄志 高橋 剛史 太田 久幸 正道 隆介 山崎 恵介 梅津 哉 堀井 新
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.55-59, 2020 (Released:2020-06-16)
参考文献数
14

【症例】71歳女性。骨粗鬆症で加療を受けていたが高カルシウム血症を指摘され,当院に紹介となった。FDG-PETで副甲状腺腫瘍と骨への多数の集積を認め,99mTc-MIBIシンチグラフィでは左下副甲状腺への強い集積と,骨病変への弱い集積を認めた。シナカルセトを投与するも高カルシウム血症が改善しないため腫瘍摘出術を施行したところ,病理診断は副甲状腺癌であった。術後血清カルシウム,PTH-intactは正常化した。術後1年経過した時点でFDG-PET再検したところ,骨病変の集積は消退し,硬化性変化が進行していたため,Brown tumorの合併であったと判断した。【まとめ】副甲状腺癌とBrown tumorの合併はきわめて稀であるが,副甲状腺腫瘍に骨病変を伴う場合はBrown tumorを念頭に置き原発巣切除後の画像検査で骨病変の評価を行うことで,侵襲的な検査・治療を回避できる可能性が考えられた。
著者
松津 賢一 杉野 公則 伊藤 公一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.162-166, 2018 (Released:2018-11-19)
参考文献数
18

バセドウ病の外科治療は,まだ他の治療法も補充療法もない時代に始まった。必然的に治療の目標は術後甲状腺機能正常となる寛解に置かれ,亜全摘が標準術式となった。その後,補充療法が確立されると全摘術が治療の選択肢に加わった。そして放射性ヨウ素治療,次いで薬物療法が導入されると外科治療の適応は明確に減少した。今日の外科治療の適応は薬物療法に対する副作用や抵抗性,難治性,早期に機能改善を得たい場合,圧迫症状を伴う大きな甲状腺腫,免疫学的改善を得たい場合など,ほぼ再発が許容できない症例に限定されてきた。これに伴って治療の目標は寛解から再発のない治癒に変わり,結果的に長らく行われてきた亜全摘術に代わって全摘術が標準術式になった。残された課題は外科治療特有の合併症をいかに減らすかに絞られてきており,近年では超音波凝固装置などのデバイスや神経刺激装置(NIM),あるいは内視鏡手術なども保険適応となっている。
著者
日比 八束
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.14-18, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
9

永続的副甲状腺機能低下症は,甲状腺全摘術で懸念すべき合併症の一つである。今回甲状腺全摘を要する疾患ごとに,副甲状腺の機能温存状況を検討した。その結果,術後1年の時点でintact PTH値が正常値下限であった症例の頻度は甲状腺癌症例で0.78%,バセドウ病で2.0%,非中毒性甲状腺腫では0%であった。また副甲状腺が将来過形成をきたす可能性のある重症慢性腎臓病やMEN2A型への甲状腺全摘を施行した症例では副甲状腺を全摘し,一部前腕筋肉内へ自家移植したがこれらの症例で永続的副甲状腺機能低下症をきたしたものはなかった。副甲状腺の温存状況は個々の症例や対象疾患により様々ではあるが,まずは発見しやすい上腺を確実に術中に同定することが重要と思われる。
著者
真栄田 裕行 金城 秀俊 安慶名 信也 崎浜 教之 鈴木 幹男
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.176-181, 2019

<p>縦隔内腺腫様甲状腺腫(Adenomatous Goiter:AG)のうち,頸部甲状腺との連続が見られないものは迷入型AGとして扱われている。</p><p>今回われわれは58歳女性で,甲状腺両葉の比較的巨大なAGと縦隔内迷入型AGの同時性発生例を経験した。腫瘤最大径が約8cmの,頸部AGと連続性のない迷入型AGであることに加え,高度の肥満,短頸・猪首例で,頸部を過伸展させても腫瘤が頸部方向に挙上されない例であったため,迷入腫瘤の頸部からの摘出は困難と判断した。ただし悪性腫瘍の可能性は否定されており,手術侵襲を最小限に留めるため頸部外切開とvideo-assisted thoracic surgery(VATS)を組み合わせた摘出術を選択した。</p><p>一般に胸骨下型AGおよび迷入型AGの経頸部アプローチによる摘出限界は,それぞれ大動脈弓上縁,および腕頭動脈上縁であるとの報告が多く見られるが,本症例においても過去の報告に準じて胸骨下AG腫瘤については経頸部法で摘出した。一方迷入腫瘤に対しては安全性を考慮しVATS法を用いて摘出した。VATS法は鎖骨や胸骨の展開を伴うアプローチより低侵襲であり,悪性腫瘍が否定される場合には積極的に併施するべき術式と考えられた。</p>
著者
紅林 淳一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.293-297, 2012 (Released:2013-05-01)
参考文献数
38

トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は,生物学的悪性度が高く,早期に再発し,治療に難渋することが多い。現在,TNBC患者の予後改善を目指し,数多くの基礎的・臨床的研究が行われている。TNBCは,luminalやHER2サブタイプ乳癌と異なり,明確な「治療の標的」が存在しないことが最大の問題である。一方,最近の基礎研究により,遺伝子発現プロファイルを用いればTNBCは,複数のサブタイプに分類することが可能であり,サブタイプ毎に治療効果の期待できる薬剤を選別できることが示唆されている。今後は,TNBCのサブタイプ分類の検査法を確立し,そのサブタイプ分類で選別されたTNBC患者を対象に,最も有効性が期待される薬剤を用いた臨床試験が行われるべきである。そのようなアプローチにより,治療に難渋するTNBCの「個別化治療」が実現するかも知れない。さらに,各々のサブタイプ毎に癌の進展を牽引する“driver”遺伝子が判明すれば,それらを標的とした新たな治療薬の開発につながる。
著者
宇留野 隆 正木 千恵 渋谷 洋 北川 亘 長濱 充二 杉野 公則 伊藤 公一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.9-13, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
5

最初に,永続性副甲状腺機能低下症を回避するために必要な,術翌日の血中i-PTH(Day1-PTH:非移植副甲状腺機能)と移植腺数を検討した。Day1-PTH≧10pg/mlでは,永続性機能低下は0.6%(3/493)と低かった。Day1-PTH<10pg/mlでも,2腺以上移植した症例は,9.2%(22/239)に抑えられた。次に,術中i-PTH値(全摘後5分値:PTT-PTH)と,Day1-PTHの相関を調べた。PTT-PTH≧15pg/mlは,Day1-PTH≧10pg/mlに対して,感度80.15%,特異度82.91%,PPV 76.22%,NPV 85.94%であった。計算上,PTT-PTH<15pg/mlの時,移植腺なしでは,36.1%の確率で永続性機能低下となりえる。2腺以上の移植を行うと8.3%となり,絶対危険減少27.8%,相対危険減少77.0%が期待される。
著者
山﨑 有人 中村 保宏 佐藤 文俊 笹野 公伸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.232-239, 2018 (Released:2019-02-15)
参考文献数
20

副腎皮質癌,褐色細胞腫は副腎に発生する悪性腫瘍であり,専門性の高い診療,病理診断が求められる領域である。WHO分類2017の刊行により,副腎皮質癌では好酸性細胞型亜型,肉腫様亜型,粘液型亜型の3つが新たな組織亜型分類として認識されるようになり,褐色細胞腫では全ての症例において悪性のポテンシャルを有する腫瘍と定義付けられた。それに加え,副腎皮質癌ではENSATの診療ガイドライン(2018)が改訂され,診療方針の変遷が注目されている。近年,副腎腫瘍の領域においても病態発生に関与する遺伝子変異が数多く報告されてきているが,副腎皮質癌では治療標的因子や予後因子となるような遺伝子異常は未解明なままである。一方,褐色細胞腫ではここ数年で,病態に関与する遺伝子異常が数多く発見され,genotypingの重要性が注目されてきている。本稿では,副腎皮質癌と褐色細胞腫・傍神経節腫に焦点を当てて,両疾患における病理・病因の最新の知見を概説する。