- 著者
-
福成 信博
- 出版者
- 日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
- 雑誌
- 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.1, pp.1-1, 2017 (Released:2017-04-28)
甲状腺結節に対する超音波診断が,結節の検出および良性・悪性の鑑別においてFirst-Lineの検査法であることは異論のないところである。しかしながら,2000年頃よりフルデジタル化された表在臓器様高周波超音波機器の国際的な普及に伴い,超音波スクリーニングにより無症候性の低危険度微小乳頭癌が数多く検出される事態となった。甲状腺癌自体の死亡率は変わらないため,米国,韓国から過剰診断,過剰診療であると報告され,ATAガイドラインにおける大幅な改訂がなされた。このような状況のなかで,甲状腺超音波検査そのものを無用の長物とする過激な意見も聞くことがある。はたして,約20年前の触診ベースで行っていた甲状腺診療に戻るべきなのであろうか?わが国では,1970年代より積極的に超音波診断を臨床応用し,海外に先駆けて超音波ガイド下FNAやカラードプラ,エラストグラフィという技術を開発し,臨床に用いてきた。RI治療の制限もあり,不必要な甲状腺全摘を避け,甲状腺癌の生物学的特徴を考慮した加療方針が選択されてきた。更に多数例の臨床研究から微小乳頭癌に対する非手術・経過観察を世界に先駆けて発信してきたのもわが国であり,その基盤には詳細な甲状腺超音波診断と高い診断能を有するFNAの技術があったからに他ならない。本企画では,このようなわが国における甲状腺超音波検査の歴史を貴田岡正史先生に紐解いて頂き,FNAの適応とコツに関して,北川亘先生に解説をお願いした。また,諸外国では得ることの出来ない多数例の微小癌経過観察における超音波所見の特徴に関しても福島光浩先生から貴重な報告を頂けることとなった。乳頭癌と異なりFNAにて診断困難となることの多い濾胞性腫瘍に関する超音波上の知見,腫瘍内血流や組織弾性を加味した超音波診断の可能性について,多くの臨床例を経験されている村上司先生に解説をお願いした。福島原発事故後の小児甲状腺に対する超音波を用いた県民健康調査の結果およびその推移は,甲状腺疾患を専門とするものにとって未だ最大の懸案事項である。不幸な結果に終わらぬよう祈念するとともに,これまで得られなかった小児甲状腺超音波の特徴が解明されきており,鈴木眞一先生にそのご報告頂く。甲状腺結節の診断,そして治療方針決定の基盤となる超音波検査とFNAをもう一度振り返り,また将来への新たな展望が開けることを期待している。