著者
安里 のり子
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.184-199, 2013-09-01

本稿は,反ユダヤ主義に基づいた「ホロコースト否定文献」の図書館での扱いについて考察する。まずカリフォルニア州図書館協会が1983年に経験した事件で,ホロコースト否定論者デイヴィッド・マッカルデンの表現の自由を認め,年次大会に参加を認めたことから,図書館の「ホロコースト否定論」の対応が論争となった事件を考察する。ここでは協会の内部対応に焦点をあて,聞き取り調査と第1次資料によって検証した。さらにアメリカ図書館協会の人種偏見・人種差別の方針の変遷を分析した上で,この事件が図書館の対応や方針策定に示唆するものを考察する。
著者
大庭 一郎
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.184-197, 2002-11-01

日本図書館協会の「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ」と図書館問題研究会の「職員問題委員会」は,1998年以降,相次いで職務区分表の作成に取り組み,2000年に3点の職務区分表が発表された。本稿の目的は,公共図書館用の職務区分表(2点)を対象として,職務区分表の作成過程と概要,職務区分表における貸出業務の位置づけ,職務区分表の役割を明らかにすることである。その結果,両団体の職務区分表作成への取り組みは評価できるが,専門的職務と非専門的職務の区分について,図書館界としての理論的・実践的な共通理解が十分得られていないこと,が明らかになった。
著者
嶋田 学
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.22-26, 2006-05-01

今日,公立図書館を取り巻く状況は厳しさを増しています。しかし,その一方で現在ほど,公立図書館の存在が強く求められている時代状況はないのではないかと思います。本稿では,過去3回の誌上討論「現代社会において公立図書館の果たすべき役割は何か」の議論を踏まえつつ,分権社会における市民自治は,公立図書館こそが拓いていくべきであることを,具体的な提案をもって示します。
著者
岸本 岳文
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.334-342, 2000-01-01

1998年に出された生涯学習審議会専門委員会の報告は,図書館法第17条の解釈をめぐって論議をよぶものとなった。これまでの公立図書館の無料原則の適用範囲と有料制の枠組みに関する論議を振り返ることで,無料原則が図書館の本質的機能との関わりにおいてどのように捉えられてきたのかを確認する。そして,今回の報告で具体的に提示された経費負担についての問題点を図書館資料についてと地方分権という側面から検討することで,公立図書館の現場に投げかけられた課題がどこにあるのかを考える。
著者
福井 佑介
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.392-409, 2013-03-01

図書館を取り巻く社会環境や,図書館情報学を取り巻く学問の状況を鑑みれば,図書館の価値と外部の価値との関係性を論じる枠組みの必要性が想起される。本稿では,そのような枠組みの提示を視野に図書館の倫理的価値を検討した。まず,歴史的展開をもとに,図書館の倫理的価値として一貫して表明されてきたのは利用者の知る自由の保障であることを明らかにした。次に,価値の対立にあって当該価値に設定される限界を,原則に依拠した例外という視点から検討した。そして,図書館の価値と外部の価値との関係性から倫理的な枠組みを提示した。
著者
呑海 沙織
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.176-185, 2006-09-01

JISC(Joint Information Systems Committee)は,高等教育における学術情報基盤として1993年に設立された機関である。しかし,英国の教育・職業訓練政策のもと,1999年にJISCの対象は,継続教育まで拡大されることとなる。本稿では,これをJISCの「学術情報基盤」から「知識情報基盤」への転換と捉え,その過程の分析を行う。また,2000年の『JISC再考(A Review of the Joint Information Systems Committee ; JISC)』及び,2005の『高等教育及び継続教育におけるJISCの有用性(The Value of the Joint Information Systems Committee to higher education and further education : Back-ground Paper)』を中心に,知識情報基盤としてのJISCの社会的意義について考察する。
著者
藤野 寛之
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.230-241, 2007-11-01

イギリスの国立図書館ブリティッシュ・ライブラリー(British Library)は,1972年の成立から現在にいたるまでに,6回にわたる将来計画としての「戦略計画(Strategic Plan)」を発表し,その存在をアピールしてきた。本稿は,この「戦略計画」がそれぞれどのような内容を持ち,計画がどのように変遷していったか,その背景に何があったかを見きわめる試みである。ブリティッシュ・ライブラリーの「戦略計画」は自己の改革を目指したものであったが,図書館の将来の方向への改善と軌道修正を含んでいるため,今後に続く取り組みもまた,世界の図書館界から注目されることになろう。
著者
山本 昭和
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.260-267, 2000-01-01

テクノロジーの発達によって図書館に生じる可能性と課題について,知る自由を保障するという観点から整理した。印刷資料は依然として主要な資料であることと,電子媒体の提供を保障する制度の必要性を指摘した。情報格差の解消にテクノロジーが及ぼす影響についても整理した。テクノロジーを使った24時間開館についても,コストに対する効果の問題を指摘した。図書館の高機能性とプライバシー保護の関係についても問題点を指摘した。
著者
山本 昭和
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.2-9, 2002-05-01

公立図書館における複本購入の問題について,今どのようなことが論点となっているのかを整理した。「蔵書の多様性が損なわれる」「ブームが去った後に残骸をさらす」「待たせればよい・買わせればよい」「質が低い・長期的価値がない」「少数派に不公平だ」「貸出至上主義」「市場至上主義」「出版界を圧迫している」といった批判的な意見があった。知る自由の保障という公立図書館の役割を尊重する立場から,これらの意見に対して反論を試みた。