著者
久保田 喜久 島田 長人 下山 修 本田 善子 瀬尾 章 金子 奉暁 若林 峰生 三木 敏嗣 杉本 元信 籾山 浩一
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.30-34, 2005-02-28
被引用文献数
3

症例は74歳女性。内服薬を服用した直後から咽頭痛が出現し当院を受診した。上部消化管内視鏡検査を施行したところ胸部食道にPTPを認めたため透明プラスチックキャップを内視鏡の先端に装着し摘出したが, その際シートの辺縁で頸部食道粘膜を損傷した。損傷は軽度であったため帰宅させたが, 翌日になり咽頭痛の増悪と発熱を認め第5病日に再度受診した。内視鏡検査を施行したところPTP摘出時の粘膜損傷部に一致して径約4mmの穿孔部を認め, 損傷部の遅発性食道穿孔と診断し入院となった。全身状態は良好で炎症反応も軽度であり, CT検査では頸部と縦隔内に気腫像を認めたが高度な縦隔炎や膿瘍形成は認めなかったため保存的治療を行い軽快した。PTPは鋭利な辺縁を有するために容易に食道粘膜の損傷を来たし易く, 摘出時の工夫はもちろんのこと摘出後も厳重な経過観察が必要と考えられた。
著者
江本 宏史 金廣 裕道 中島 祥介 堀川 雅人 中野 博重 堤 雅弘 小西 陽一
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.820-824, 1997-10-25 (Released:2009-08-13)
参考文献数
11

症例は42歳, 女性で右季肋部痛を主訴に受診した。超音波検査にて肝腫瘍と診断, 諸検査の結果, 肝血管肉腫と診断され平成3年5月に肝右葉切除術を施行。病理学検査にて肝血管肉腫と確診された1症例を報告する。本症例は, 肝血管肉腫の原因としてあげられている, トロトラスト, 塩化ビニール等とは因果関係は認められなかった。肝血管肉腫は, 原発性肝腫瘍のなかでは比較的稀であるが, その予後は一般に不良とされている。本例も外科的切除し得たにもかかわらず, 術後20カ月目にして, 再発による腫瘍死を遂げた。本症例の経験からも, 肝血管肉腫は早期診断と広汎囲な外科的切除が, 予後の向上につながると考えられた。
著者
清川 貴志 山口 浩和 照屋 正則 清水 誠一郎 上西 紀夫
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1191-1196, 2012 (Released:2013-12-25)
参考文献数
19

症例は43歳女性.検診で高血圧,貧血を指摘され近医受診しCTでトライツ靭帯の背側に約6cm大の腫瘤を認めた.小腸Gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断され,手術目的に当院紹介となった.しかし問診で労作性の動悸が判明し,高血圧も認めたため内分泌的精査を行ったところノルアドレナリン高値を認めた.またMetaiodobenzylguanidine(MIBG)シンチグラフィーで腫瘍に高濃度集積を認めたため,後腹膜原発paragangliomaと診断し手術を施行した.当症例は画像上ではGISTとの鑑別が困難であったが,術前の問診と内分泌精査により的確に診断することができた.致死的な合併症の可能性を考えると大動脈周囲後腹膜の腫瘍は常にparagangliomaの可能性を考慮すべきと考えられた.
著者
松永 和秀 朝村 真一 森 一功 和田 充弘 磯貝 典孝
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.758-763, 2011 (Released:2012-10-25)
参考文献数
10

【目的】舌可動部亜全摘後,大胸筋皮弁にて即時再建を施行した舌癌患者9例の術後2カ月目における嚥下機能を評価した.【方法】評価は,ビデオ嚥下造影検査にて行った.【結果】嚥下時,皮弁と口蓋の接触が良好であった症例は6例で,不良は3例であった.喉頭蓋反転による気道閉鎖は7例が良好で,食道入口部の開大は9例とも良好であった.皮弁と口蓋の接触が良好であった6例は,咽頭残留が少なく,気管内侵入や喉頭侵入も認めなかった.皮弁と口蓋の接触が不良であった3例は,嚥下終了後咽頭残留を著明に認め,それに伴って気管内侵入もしくは喉頭侵入を認めた.【考察】気管内侵入や喉頭侵入の原因に,皮弁のボリューム不足による嚥下圧の低下が考えられた.早期嚥下機能の観点からも,舌可動部亜全摘では皮弁と口蓋が接触するように再建することが必要と考えられる.
著者
榎本 浩也 諏訪 勝仁 保谷 芳行 岡本 友好 矢永 勝彦
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.24-28, 2012 (Released:2013-02-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

80歳以上の高齢者における消化器外科緊急手術例の成績から,その問題点と対策について検討した.2004~2009年に緊急手術を施行した38例を対象とした.術後合併症を発生したA群と非発生のB群に分け,年齢,性別,疾患,術式,入院日数,ICU管理日数,E-PASSスコア,POSSUMスコアを比較検討した.疾患は消化管穿孔16例,腸閉塞15例,その他7例,術式は腸切除18例,穿孔部閉鎖6例,人工肛門造設4例,その他10例であった.術後合併症は感染症が最も多く,死亡例は5例であった.A群ではB群に比較して疾患では消化管穿孔が,術式では腸切除が有意に多く,また入院日数,ICU管理日数が有意に長かった.E-PASSスコアとPOSSUMスコアでは,Portsmouth-POSSUMスコア以外で有意差はなかった.以上,高齢者の消化器外科緊急手術は消化管に関連するものが多く,高い合併症発生率と死亡率を認めた.消化管穿孔,腸切除を要するものはとくに合併症発生率が高く,術前術後を通しての感染症,とくに呼吸器感染症への対策が肝要と考えられた.また術後の予後予測因子として,Portsmouth-POSSUMスコアの有用性が示唆された.
著者
遠藤 貢 成高 義彦 五十畑 則之 浅香 晋一 山口 健太郎 村山 実 勝部 隆男 小川 健治 布田 伸一 大塚 邦明
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.1066-1070, 2009 (Released:2010-12-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

今回われわれは,心臓移植14年後に発症した悪性リンパ腫による腸閉塞の1例を経験したので報告する. 症例は37歳の男性.23歳時に拡張型心筋症で心臓移植の既往がある.2008年2月より,下血で発症した悪性リンパ腫に対し化学療法を2クール施行したが,腸閉塞を発症した.イレウス管造影で空腸に高度な狭窄像を認め,外科的治療を施行した.病理組織所見では悪性リンパ腫による腸管狭窄であった.周術期は免疫抑制剤の投与量を調節しながら,厳重な術後管理により良好に経過した. 心臓移植後に消化管手術を施行した報告は少なく,周術期における免疫抑制剤の投与法や術後管理に関する知見も極めて少ない.本症例は貴重な経験と考え報告した.
著者
西尾 乾司 小林 慎二郎 櫻井 丈 牧角 良二 月川 賢 大坪 毅人
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.593-597, 2010 (Released:2011-08-25)
参考文献数
11

症例は77歳,男性.既往歴に鼠径ヘルニアで手術歴があった.腹痛を主訴に当院の消化器内科を受診し,イレウスの診断で入院となった.入院後イレウス管を挿入され腸管の減圧状態は良好であったが,イレウス管挿入から5日目に突然の腹痛が出現した.CT検査を施行したところイレウス管の先進部を中心とした小腸に同心円状の多層構造が認められ,小腸内に腸間膜脂肪および腸管が巻き込まれていた.腸重積と診断し,陥入腸管の循環障害が疑われたため手術を施行した.口側腸管が肛門側腸管に順行性に約100cmの長さにわたって陥入していた.また重積部位から1m以上肛門側小腸に策状物による内ヘルニアが生じており,これがイレウスの原因と考えられた.イレウス管が原因となった腸重積症のこれまでの本邦報告例を集計し,文献的考察を加えて報告する.
著者
児玉 章朗 磯谷 正敏
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.738-743, 2007-10-30 (Released:2008-10-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

過去10年間に経験した急性上腸間膜動脈閉塞症 (以下SMA閉塞症) 11例について検討した。症例は男性5例, 女性6例で年齢は61~92歳 (平均76歳) であった。全例心血管疾患を併存しており, 心房細動を7例に認めた。来院時すでに全身状態が極めて不良な症例が多く, 5例がショック状態であった。術前の理学所見および諸検査から全例に緊急開腹手術を行った。広範な腸管虚血から試験開腹を行った1例を除き全例壊死腸管を切除し, 最近の3例には血栓除去術を追加した。手術直接死亡3例を含め7例が入院死亡した。しかし生存退院4例も術後平均14カ月で死亡していた。生存退院群と入院死亡群での予後因子の検討では, 術前ショックの有無のみで有意差が認められた。SMA閉塞症は現在でも予後不良な疾患であると考えられた。
著者
中尾 照逸 塚本 義貴
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.100-104, 2006-02-28

症例は69歳, 男性。平成8年2月から胸のつかえ感と背部痛をおぼえだした。平成9年1月に胸部食道癌の診断で手術を勧めたが, 手術を忌避した。平成10年6月22日朝, 吐血のため緊急入院。同日午後に死亡したため, 遺族らの希望に従いカルテの複写を手渡した。遺族の感想としてカルテの開示を求めた理由は, 急な経過で亡くなった理由を詳しく知りたかったことと家族に見せなかった本人の姿をカルテに求めたかったことである。カルテの記載方法に関しては, 走り書きや英語で書かれた部分が理解しにくかったことと, POMRのS (主観的情報) とO (客観的情報) が参考になった。カルテを読むことで, 本人の病院での様子が良く分かり, 気持ちの整理に役立ち満足した。以上より, 日本語を用いPOMRによる情報の整理されたカルテならば, 患者本人の気持ちや容態などを経時的に追体験しやすく, 遺族の心のケアに役立つものと思われた。