著者
多屋 淑子 成田 千恵
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、重症心身障害児(者)の日常生活のアメニテイ向上を衣服により支援し、障害者と介護者のQOL向上を最終目的としている。複数名の重症児(者)と健常者を対象に、非侵襲にて長時間の生体情報モニタリングを行った結果、本研究で対象とした最重度の複合障害を有する重症児においても、サーカディアンリズムや体温調節機能が観察され、刺激による精神性発汗活動を有すること、また低体温の場合にも日常的に発汗活動の可能性が示唆された。本研究による生体モニタリングは、衣服の温熱的快適性の評価、衣服の肌触りや衣服の身体への圧迫感などから生じる不快感を客観的に評価することを目的として行ったが、着心地の評価に加え、日常生活上の種々のストレスの有無を客観的に判定する手段としても有効であることがわかった。また、本研究における長時間の生体情報モニタリングから、重症児(者)では手足末梢部の皮膚温低下が顕著である場合が観察され、温熱的に快適な状況を提供するための手段として、靴下の効果的な着装方法を提案した。重症児(者)の衣服の留め具である面ファスナの接着強さを実現するための方法について検討した。さらに、介護現場の看護師との意見交換を行いながら、寝たきりの重症児(者)に望ましい衣服の試作を行った。以上から、重症児(者)に望ましいデザイン、素材、個人の嗜好等を考慮した衣服を、製作し、重症児(者)をモデルとしてファッションショー形式で提案した。
著者
小川 博久 神田 伸生 岩田 遵子 杉山 哲司 樋口 利康 岡 健 小川 哲男
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、現代の学校において、子ども達が学校生活を快適に過ごしているか、学校は子ども達にストレスの無い生活の場を提供しているか、といった問題意識を追究するために、幼稚園や小学校においてフィールドワークを行い、自由な活動の場である遊びに焦点をあて、子ども達の姿を追い、その実態を分析することによって、現代の学校(幼稚園を含む)の課題の解決の方向を探ったものである。当初、小学校における学校の余暇時間における子どもの遊びに着目していたが、学校の居場所性を追求するためには、結局、子ども達の学校生活全体を把握せざるを得ず、われわれの課題は、小学校においては、学級における個と集団の問題を焦点にフィールドワークを続けることになった。その結果、この研究を通して明らかになったことは、幼稚園の室内遊びにおいては、室内に遊びのコーナーの設定がなされ、そこで日常的に繰り返し遊びを続けることで、幼児たちの間に同型的同調や応答的同調の「ノリ」が生成し、遊びが盛り上がり、幼児たちに成立する遊びの内部的秩序感覚(「ノリ」)を通して、個と集団のよき関係が成立すること、同じことが園庭では、エンドレスリレーやサッカーにおける循環や応答の動きのパターンを通して言えることが明らかとなった。また、小学校におけるフィールドワークからは、以下の点が明らかになった。現代の学校の本質として、教授活動を中心に、学業成績の階層的序列化によって、子ども達の能力も差異化され、特に「問題児」は、学級から排除される可能性をはらんでいるが、学級の個と集団の関係が子どもたちにとって豊かな居場所性を獲得するためには、物的・空間的環境の豊かさによって、子ども達の身体的同調を図るよりもこ教師と子どもとの間の相互的な言語コミュニケーションによって「ノリ」を確立することが重要であることが明らかとなった。
著者
成田 千恵
出版者
日本女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、個々の重症心身障害児(者)の体温調節障害の特性や身体の変形の程度、精神活動レベルを生体情報等の詳細な実測より客観的に評価し、それを基に個人の障害や生活環境の状況に適切に対応した衣服要素を検討することで、重症心身障害児(者)の衣生活における温熱性快適性の向上を目的としている。今年度は、これまでに計測を実施した重症心身障害児(者)、および健常者の衣服内環境と生体情報等の計測データの比較検討を行った。寝たきりの重症心身障害児(者)の衣服内環境の計測結果において、個人により衣服内湿度の変動レベルに差違が観察された。これまでの計測結果から衣服内湿度の変動は精神的ストレスの影響が反映されていると予想されることから、変動レベルの差違が障害の程度に影響を受けているとも考えられる。計測対象とした重症心身障害児(者)では部位による皮膚温変動に個人による特徴が観察されているが、健常者の長時間にわたる皮膚温計測においても、皮膚温変動には大きな個人差がみられ、重症心身障害児(者)にみられるような特徴的な皮膚温変動のケースが観察された。また、身体の変形が観察される重症心身障害児(者)においては、着用している健常者用衣服のサイズが身体に適合していないことにより衣服による保温性が十分得られないことが考えられる。衣服による保温性を高め、かつ介護者が無理なく着脱させることが可能である適切なゆとり量を検討するため、健常者を用いて異なる身体的障害を有する重症心身障害児(者)を模擬した被験者実験を行い、着脱による衣服開口部の伸張を計測し、障害により着脱に必要とされるゆとり量の差異について検討した。
著者
是澤 紀子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、神社本殿の細部装飾が発展してゆく時期にあたる中世後期から近世に焦点をあてて、これまでに刊行された文化財修理工事報告書や修理現場で公開された情報から新たに得られた建築の変遷の情報を包括的に分析し、(1)造営に関与した各地の工匠別にみる神社本殿の特性と本殿背後の境内整備および敷地内移築との関係、(2)春日大社旧社殿にみる神社本殿の特性と河川等に基づく立地および境内環境との関係、を考察することで、工匠の移動と神社本殿の移動(移築)の実態を捉え、その流通に支えられた神社の再生の手法を明らかにするものである。