著者
村上 陽三 平松 高明 前田 正孝
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.29-41, 1994-02-25
被引用文献数
2 12

導入天敵の効果に及ぼす土着天敵の影響を予測する目的で,チュウゴクオナガコバチ未分布地の宮城・岡山両県で,1991年春から2年間にわたってクリタマバチの寄生者複合体について調査を行い,熊本県のチュウゴクオナガコバチ放飼園での結果と比較した。<br>1) 寄生者複合体の構造は地域によって異なり,土着の一次寄生蜂は宮城で3種,岡山で8種,熊本で12種観察され,南に向かうほど種数が増加する傾向が見られた。宮城と岡山での優占種はクリマモリオナガコバチであったが,その優占の程度は異なり,宮城では著しく高く岡山では比較的低かった。熊本ではキイロカタビロコバチとオオモンオナガコバチが優占種であった。また同じ地域でも環境条件の違いによって寄生者複合体の構造が異なった。<br>2) 寄生率は宮城と岡山の間で差は認められず,また寄生者種数との間の相関は見られなかったが,周辺の植生,寄主密度,随意的高次寄生者の影響がうかがわれた。<br>3) 宮城と岡山で優占種であったクリマモリオナガコバチは,終齢幼虫期に高い死亡を受け,終齢幼虫初期密度と死亡率の間には宮城では有意な相関が見られなかったが,岡山では有意な負の相関が認められた。MORRISの方法で分析した結果,岡山では本種は密度逆依存の死亡を受けることが示唆された。<br>4) クリマモリオナガコバチの幼虫と蛹を攻撃する随意的高次寄生者は4種認められたが,そのうちの2種<i>Eupelmus</i> sp.とトゲアシカタビロコバチが岡山と熊本で高い寄生率を示した。これらの随意的高次寄生者の二次寄生が,クリマモリオナガコバチの終齢幼虫期の密度逆依存的な死亡要因となっているものと推察された。<br>5) 以上の結果から,将来クリマモリオナガコバチの近縁種であるチュウゴクオナガコバチが,宮城・岡山両県に導入された場合には,岡山では随意的高次寄生者の二次寄生による密度逆依存的な死亡のために,チュウゴクオナガコバチの増殖に長年月を要するが,宮城ではその作用が弱いので,短期間のうちにヂュウゴクオナガコバチの密度が増加するであろうと予測された。
著者
大津 正英
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.31-35, 1971-03-25
被引用文献数
1 1

トウホクノウサギは,一般野生哺乳類のごとく,比較的明瞭な繁殖周期を持っており,卵巣重量は,11月から1月にかけて最小となり,2月下旬から3月には大きくなり始める。繁殖期は春から夏にわたるが,この頃の卵巣は大きく,肉眼的にも組織的にも活動的である。そして9月から10月には急速に退行する。<br>本種の繁殖期に対する長日照効果を明らかにするため,1968年12月11日から成獣,雌25頭雄10頭に対して長日照処理を行なった。これらの動物には,日の出から午前9時までは自然光線により,その後日の入までは自然光と螢光燈により,また日の入から午後9時までは螢光燈によって照射を行なった。<br>長日照処理動物の卵巣重量は,処理開始後50日経過した1月30日には急速に増大していた。自然状態における動物の卵巣が,これと同じように発育するのは,2月下旬から3月にかけてである。長日照処理は3月6日に終了したが,4月12日において,処理動物の卵巣重量に退化はみられなかった。<br>対照動物では2月26日に最初の妊娠個体が認められ,また最初の出産は4月5日で産児数は3頭であった。処理動物の最初の妊娠個体は1月30日に認められ,最初の出産は2月22日で産児数は1頭であった。処理動物の繁殖は2月22日から4月10日まで続き,その後4月11日から6月29日まで中断したが,6月30日に再開し,8月22日まで繁殖を続けた。<br>長日照処理動物と対照動物の卵巣組織には,周年成熟しているか,それに近い濾胞が存在しているのがみられた。
著者
井上 広光 篠原 和孝 奥村 正美 池田 綱介 芦原 亘 大平 喜男
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.66-68, 2006-02-25
被引用文献数
2

The occurrence of Psylla evodiae Miyatake, which has been known to occur on Euodia meliifolia (Rutaceae) in the Yaeyama Islands of Japan and in Taiwan, has been newly recorded in Kyushu (Fukuoka, Nagasaki, and Kagoshima prefectures) and on Yakushima Island and Okinawa Island in southwestern Japan. In addition, it has been confirmed that P. evodiae feeds on Murraya paniculata (Rutaceae), which is a newly recorded host plant in southern Kyushu (Kagoshima Prefecture) and Yakushima Island. It has also been confirmed that P. evodiae feeds on Zanthoxylum beecheyanum var. alatum (Rutaceae) in Okinawa Island.
著者
安田 慶次 河村 太 大石 毅
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.146-149, 2005-08-25
被引用文献数
1 37

The location and preference of adult Asian citrus psyllid, Diaphorina citri Kuwayama, a vector of the citrus huanglongbing (greening disease) Liberobacter asiaticum, on two host plants, Murraya exotica L. and Citrus depressa Hayata, were investigated in Okinawa Prefecture, Japan. While the adults of D. citri were found on all parts of the C. depressa tree and on the M. exotica tree, all of the D. citri eggs and most of the nymphs and adults were found on young shoots and young leaves. We suggest that it is possible to save labor in the investigation and control of the psyllid by attentively checking the young shoots of M. exotica. Investigation on the distribution of D. citri adults on M. exotica plantlets hung upside down in a container showed that although no difference was found between frequencies of males on young leaves and mature leaves, significantly more females were found on the apical buds, suggesting that females have a preference for this part of the tree.
著者
米田 昌浩 土田 浩治 五箇 公一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.47-62, 2008-05-25
被引用文献数
1 7

2006年9月1日、セイヨウオオマルハナバチ(以下、セイヨウ)は、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下、外来生物法)」により、特定外来生物に指定された。この法律に基づき、施設栽培農家はセイヨウを使用するためには、環境大臣の許可を受ける必要があり、使用に際して、ハチが施設から逃亡しないようにネットを展帳することと、使用後に巣箱を処分することが義務付けられることとなった。一方で、この指定に伴い、在来種を商品化したクロマルハナバチ(以下、クロマル)への代替が進んでいる。本論では、まずセイヨウが導入された当時の状況および生態系に悪影響を及ぼすと判定された背景について詳しく解説したい。その後、代替種として利用されている商品クロマルが自然個体群と異質な集団であるという前提条件の下で、セイヨウの生態影響評価と同様の観点から、増殖された商品が日本国内において分布の攪乱や遺伝的多様性に与える影響の評価を試みたい。リスク。
著者
諸富 勝成 村上 香 長島 孝行
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.49-53, 2004-02-25
被引用文献数
1 1

日本の水田に生息するアメリカカブトエビの耐久卵は乾燥状態で数十年単位の長期休眠が可能である。耐久卵をエポン樹脂で包埋した切片を光学顕微鏡で観察した結果、多数の卵黄の他に、表層付近に大部分の核が観察できた。耐久卵、休眠打破卵、産卵直後の卵を破砕、遠心分離したサンプルを二次元電気泳動法でタンパク質を分離精製し、ゲルを銀染色した。泳動パターンから本種の卵に1400個以上のタンパク質スポットを観察した。これらの中で26KDa、等電点約4.7の領域では、耐久卵にのみ確認できるタンパク質スポットが2つ観察された。これらのタンパク質は卵の長期休眠機構に関連している可能性が考えられる。この2つのタンパク質はアルテミアで知られているp26と異なるタンパク質と考えられた。
著者
高橋 史樹 郷田 雅男 赤山 敦夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.229-233, 1980
被引用文献数
2 3

日本に産する3種のカブトエビの生命表を実験条件下(水温21∼22°C)で求めて比較し,水田雑草の生物的防除のための材料としての有効性からも検討した。<br>幼生は脱皮を繰り返しながら成長し,アジアカブトエビは8日目,アメリカカブトエビは10日目,ヨーロッパカブトエビは16日目から産卵がみられた。<br>生残曲線は産卵数がピークに達した後は急速に低下するが,産卵が終った後も多くの個体が生残した。<br>背甲長ははじめ急速に増大するが,産卵がピークに達した後の増加はゆるやかになった。しかし,産卵が終った後も増加を続けた。<br>両性生殖をするアジアカブトエビでは毎日の産卵個体率は最高で90%程度であるが,雌雄同体の他の2種では100%の期間が10日以上続いた。産卵数はアメリカカブトエビが最大で,アジアカブトエビが最小となった。<br>水田雑草の生物的防除に利用するという点では,成長が早く,産卵までの日数の短いアジアカブトエビが最適と考えられた。
著者
Watanabe Masahiko Hirai Yoshio
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
Applied entomology and zoology (ISSN:00036862)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.249-254, 2004-05-25
参考文献数
14
被引用文献数
1 22

Host-use pattern for overwintering and reproduction of the ragweed beetle, Ophraella communa LeSage, was examined in Tsukuba, Japan. Many adults of both sexes were found overwintering inside the rolled parts of dead leaves of Xanthium canadense in November. These adults had already accumulated triacylglycerol as energy reserves, and were able to survive the winter and to reproduce in the spring. No eggs and larvae were found on X. canadense throughout the observation period, although overwintered adults were temporarily found in May. In contrast, reproduction occurs on Ambrosia artemisiifolia and A. trifida in late April. These results suggest that O. communa adults mainly use dead leaves of X. canadense as an overwintering shelter in Tsukuba, while they reproduce only on A. artemisiifolia and A. trifida in the spring. Such a seasonal migration between host plants may be important for the survival strategy.
著者
田村 泰盛 服部 誠 今野 浩太郎 本田 洋 河野 義明
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.191-199, 2004-08-25
被引用文献数
8

ブタクサハムシの寄主植物を含むキク科6連11属17種の植物のメタノール抽出物に対する、ブタクサハムシの摂食反応を調べた。メタノール抽出物を添加したろ紙上に残されたブタクサハムシの摂食痕数により摂食刺激活性を評価した。ブタクサの抽出物の摂食刺激活性が最も高く、野外で食害が報告されているオオブタクサ、オオオナモミ、イガオナモミはブタクサの約55-80%の高い活性を示した他、ヒマワリもブタクサの約20%の活性を示した。また、野外で摂食が確認されていない種でもイヌキクイモとゴボウの抽出物が高い摂食刺激活性を示し、レタスのカイザー品種でもブタクサの約10%の活性が認められた。その他の9種のキク科植物のメタノール抽出物は活性を示さなかった。ブタクサハムシの摂食刺激物質である2種のトリテルペノイド(α-amyrin aceaeとβ-amyrin aceae)と2種のカフェー酸誘導体(chlorogenic acidと3、5-dicaffeoylquinic acid)を上記植物について分析したところ、これらの物質は濃度や組成比が異なるものの、多くのキク科植物にも含まれていた。ブタクサのメタノール抽出物に、各種キク科植物のメタノール抽出物を添加したところ、幾つかの種でブタクサハムシの摂食が抑制された。ブタクサハムシの食草の選択は、摂食刺激物質の存在だけでなく、摂食行動を抑制する因子の影響も受けると考えられる。
著者
三国 辰男 河上 清
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.203-207, 1975-09-25
被引用文献数
3

緑きょう病菌がその病蚕体液または培養液中に,結果的にはカイコの早熟化を促進し,2眠蚕または3眠蚕を発現させる作用,さらに蛹化または羽化を阻害する作用をもつ物質を生産することを明らかにした。<br>1. 緑きょう病蚕のろ過体液を4齢起蚕へ注射することにより,3眠蚕が高率に発現した。<br>2. 緑きょう病菌培養ろ液を3齢および4齢幼虫に注射することにより,3齢蚕からは2眠蚕,4齢蚕からは3眠蚕を生じ,その発現率は起蚕時注射区において最も高率であった。なお,他の硬化病菌培養ろ液による3眠蚕の発現はまったく認められなかった。<br>3. 緑きょう病菌培養ろ液を注射された5齢幼虫および蛹は,蛹化または羽化をそれぞれ阻害された。<br>4. 培養ろ液に含まれる作用物質は,エーテルおよびクロロホルム処理の水層部に,アセトン処理の沈殿部に分別され,温度による影響はうけ易いが,pHによる影響はうけにくいことが知られた。