著者
小澤 朗人 西東 力 太田 光昭
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.161-168, 1999-11-25
被引用文献数
5 16

施設トマトのマメハモグリバエに対するイサエアヒメコバチ<i>Diglyphus isaea</i>の単独放飼による密度抑制効果を小規模な温室を用いて検討した.試験は,2月から5月の春期(試験1)と5月から7月の初夏期(試験2),6月から8月の夏期(試験3)の3回行い,試験3では細かな目合いの防虫網を張って隔離条件とした.<br>1. 試験1では,寄生蜂の雌成虫0.13頭/株を1週間間隔で5回放飼した.同様に試験2では0.19頭/株を8回,試験3では0.15頭/株を3回放飼した.<br>2. その結果,寄生蜂放飼区におけるマメハモグリバエ幼虫密度は,無放飼区と比較して,試験1では約1/4,試験2では1/36,試験3では約1/10に抑制された.<br>3. 放飼区におけるマメハモグリバエ幼虫の死亡率は,試験1では90.9%,試験2では98.4%に,試験3では100%に達した.<br>4. 放飼区における空の潜孔密度は,試験1では無放飼区の約1/6以下の1.3個/葉,試験2では約1/16の2.2個/葉,試験3では約1/6の3.4個/葉であった.<br>5. 放飼区における蛹トレイへの落下蛹の総数は,試験1では無放飼区の約1/10,試験2では約1/200であった.また,試験3における黄色粘着トラップへのマメハモグリバエ成虫の誘殺数は,放飼区は無放飼区の約1/20であった.<br>6. 寄生蜂の種類とその寄生率は,試験1ではイサエアヒメコバチのみが確認され,その寄生率は放飼区では86.5∼92.3%,無放飼区では0∼2.1%であった.試験2では,イサエアヒメコバチ以外の土着種が優占種となり,イサエアヒメコバチを含めたこれらの寄生率は38.9∼86.7%であった.一方,無放飼区は0%であった.試験3では,イサエアヒメコバチのみが確認され,7月下旬の放飼区の寄生率は95.1%,無放飼区は88.2%であった.<br>7. 以上から,春から夏にかけての高温期における施設トマトのマメハモグリバエに対するイサエアヒメコバチの実用性は高いことが示唆された.
著者
Asada Shin′ichi Ono Masato
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
Applied entomology and zoology (ISSN:00036862)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.581-586, 1996-11-25
被引用文献数
5

Buzz-pollination of tomato (Lycopersicon esculentum MILL) by four native species of Japanese bumblebees (Bombus hypocrita hypocrita PEREZ, B. ignitus SMITH, B. ardens ardens SMITH, and B. diversus diversus SMITH) was examined. A high (84-100%) fruiting rate and almost no puffy fruit )0-7%) resulted from pollination by the Japanese bumblebees. There was no difference in the pollination efficiency between the imported non-native bumblebee (B. terrestris) and Japanese bumblebees. Pollination of tomato crops using native bumblebees is recommended because there are no ecological risks.
著者
石井 象二郎 井口 民夫 金沢 純 富沢 長次郎
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.269-273, 1984-11-25
被引用文献数
7

イラガ<i>Monema (Cnidocampa) flavescens</i> WALKERの幼虫は非常に硬い繭をつくる。その硬さは物理的な構造と化学的な組成に由来する。<br>繭層は異質の4あるいは5層からなる回転楕円体で,繭層率は20%を越えるものが多い。繭層には蛋白質が約34%含まれ,その蛋白質は絹糸蛋白と,吐出液に含まれる蛋白質である。後者は絹糸の網目に塗り込まれる。営繭の当初淡褐色であった繭は時間の経過に伴って濃褐色となり,硬化する。硬化した繭層の蛋白質にはβ-アラニンの含量が高い。繭の硬さは化学的には硬化された蛋白質がおもな要因で,それが絹糸の網目にきっちりと詰まっているのである。<br>繭層にはカルシウムが多く含まれるが,それはシュウ酸カルシウムとしてマルピーギ管で生成されたものであり,主として繭の白斑部に局在している。カルシウム含量が高いことは,繭の硬さに直接の関係はないであろう。
著者
昆野 安彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.167-170, 1998-08-25
被引用文献数
2 3

The insecticide susceptibility of the Fall Webworm, Hyphantria cunea and its parasitoid fly, Exorista japonica, was studied. Larvae of H. cunea were hardly susceptible to organophosphorus insecticides, such as fenitrothion (LD_<50>=>100μg/larva) and isoxathion (LD_<50>=54μg/larva). However, adults of H. cunea were quite susceptible to fenitrothion (LD_50<50>=1.4μg/male and 2.2μg/female). Adults of E.japonica emerging from pupa of H.cunea were very susceptible to fenitrothion (LD_<50>=0.082μg/adult). The results suggest that a judicious choice of insecticide is necessary to control H.cunea, if E.japonica is used as a biological control agent, too.
著者
杖田 浩二 田口 義広 勝山 直樹
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.197-204, 2007-08-25
被引用文献数
2 7

タバココナジラミバイオタイプBの成虫および未熟ステージを用いて, 25, 40, 45および50℃で一定時間処理することによって本種の高温耐性について調査した.その結果,温度が高くなれば,短い時間でも死亡率が上昇し,50℃で成虫は0.5時間,蛹は7時間,幼虫は5時間ですべての個体が死亡した.施設内部のトマトをすべて抜根し,施設をビニールで密閉して太陽熱処理を行ったところ,ほぼすべての個体を閉じこめ,死亡させることができた.しかし,施設内部で誘殺が確認されなくなるには3日かかり,室内実験の結果から予測されるよりも長い時間を要した.これは施設内部の高さによって温度差が生じるため,葉温が気温ほど上昇せず,高温を回避した成虫や低位置の葉に寄生する蛹が生存・羽化するためと考えられた.以上のことから,太陽熱処理でタバココナジラミバイオタイプBの防除をするには,十分な温度が確保される晴天日に, 3日程度施設を閉鎖する必要があると考えられる.
著者
桐谷 圭治 法橋 信彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.124-140, 1962-06-30
被引用文献数
3 33

ミナミアオカメムシの最近の増殖の原因を生命表を連続3世代にわたって作成することにより解析した。調査は, 1化期にはバレイシヨ236株, 2化期は早期栽培水稲1,250株, 3化期は晩期栽培水稲1,000株を2区(1区は無処理区, 他はクモ除去区として隔日にクモを採集除去)に使用した。調査は1化期(5月7日〜7月17日), 2化期(7月5日〜8月16日)は週2回, 3化期(9月5日〜10月29日)は隔日ごとに全株調査を行なった。1化期の卵および各令期, 2,3化期の卵期, 1,2令期の個体数は実数を用いたが, 3令期以後は観測値を(1)式により補正を行ない, 各令期の中期における個体数Nを算出した。[numerical formula]A=各令期別の累積観測値, P=各令期の出現期間中における平均調査間隔, I=各令期の平均期間。各令期間は2化期についてはささげのさやを飼料として30℃で, 3化期は直接調査ほ場で測定した。3化期における卵から成虫羽化までの所要日数は25℃, 30℃, 自然温下でそれぞれ40.1日, 34.7日, 42.5日であった。産卵期間は2〜3週間で, 1株当たりの卵塊密度は1化期0.10,2化期0.10,3化期0.07で, 平均卵塊サイズはそれぞれ74.1卵, 82.5卵, 97.6卵であった。卵から成虫羽化までの生存曲線は, DEEVEY(1947)の第IIと第III型の中間の型を示した。死亡率曲線は1化および2化期は, 卵期から2令期にかけて1つのピークが見られるが, 3化期は越冬成虫の死亡による産卵前の他のピークがあると考えられる。死亡率(100qx)は1化期では, 卵から2令期幼虫にかけて減少するが, 2・3化期では逆の傾向を示す。これはおもに1化期と他の化期との間の卵寄生率の違いによる。卵期のおもな死亡要因は, 卵寄生蜂, 生理的原因による死ごもりおよび気候要因である。Asolcus mitsukuriiはどの化期でも最も優位な種である。Telenomus nakagawaiは3化期卵にはほとんど見られない。その他の卵寄生蜂2種は2化期卵にわずかに寄生した。卵寄生率は1化期74%, 2化期25%, 3化期21%であった。A.mitsukuriiによる寄生率は後期に産れた卵塊ほど高くなるが, T.nakagawaiではこのような関係は見られない。若令幼虫は強い集合性をもっているため, 若令期における捕食や気候要因による死亡は幼虫集団全体の消滅をもたらす。1化・3化期の95卵塊の観察および2化期の令期別の集団消滅率から2令幼虫が最もクモに捕食されやすい時期であることがわかった。3化期におけるクモの捕食がカメムシ個体数に及ぼす影響は, ふ化幼虫数の2.3%に当たると計算された。天候は卵期, 老令幼虫の直接的死亡要因としては通常の条件下では重要でないと思われる。若令の幼虫集団は地表面に近いところにある場合は豪雨によって消滅することがよくある。台風が卵および1令幼虫に及ぼす影響は, 発育が進んだ段階にあるものほど大きい。すなわち産卵直後のものは最も影響少なく, 1令初期のものは最も大きい。2令になった幼虫は台風による影響を全く受けなかった。卵から成虫羽化までの死亡率は1化期約99%, 2化期91%, 3化期95%であった。成虫の性比を1,産卵卵塊数2,その間に死亡がないと仮定すれば, 個体数変動の状況は1対の越冬成虫は1.48頭の1化期成虫を生じ, 続いて早期栽培水稲で11.00頭の2化期成虫, これが晩期栽培水稲では54.44頭の3化期越冬前成虫を生ずる。すなわち水稲における連続2世代の繁殖は1化期成虫のおよそ35倍に成虫密度を高める。このことは各種作付の水稲が混在しているわが国南部でミナミアオカメムシが増殖した事情を説明しているかと考えられる。3世代にわたる生命表の比較から, 1化期卵における平均寄生率74%を, 6月に産まれた卵の平均寄生率90%(5月は60%)の水準に上げる, いいかえれば早い時期に産まれた卵の寄生率を天敵の導入または増殖によって人工的に高めることができれば, ミナミアオカメムシの個体群密度を長期にわたって低い水準に保ちうる可能性があると結論された。
著者
垣矢 直俊 桐谷 圭治
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.79-86, 1972-06-25
被引用文献数
2 8

固定飛しょう法を用いてツマグロヨコバイ成虫の飛しょう能力に及ぼす羽化後の経過日数(実験I), 親の産卵開始後の日齢(実験II), 飼育密度の影響(実験III)を調べた。実験Iの飼育は25℃, 24時間照明下で, 実験II, IIIのそれは30℃, 16時間照明下で行ない, 飛しょう実験は30℃の恒温室内で, 固定したテグスの一端に試験虫の前胸背板を固定し, 上方より螢光燈で照明, 前方より扇風機で1-2m/secの風を送りながら行なった。羽化後, 雌では2日目, 雄では4日目より飛しょうを始め, 雌雄とも羽化後約8日目に飛しょう時間, 飛しょう虫率ともピークに達した。この時期は産卵開始日(平均9.7日)の少し前であった。親の日齢の影響は若齢の親(産卵開始後1-3日目), 中齢の親(6-8日目), 老齢の親(9日目以後)に産卵された卵をとり, それに由来する子世代間で飛しょう能力と生理的諸形質(幼虫期間, 成虫寿命, 総産卵数, 日当り産卵数, 後翅幅/後脚脛節長)との関係を比較した。若齢の親に由来する子世代では飛ぶ個体は飛ばない個体に比べ, 生理的形質の悪化がみられたが, 老齢の親に由来する子世代ではその関係が逆転していた。したがって若齢の親に申来する子世代で定住型と移動型の分化がみられるが老齢の親に由来する子世代では単にVigourの強い個体がよく飛ぶということが推察された。幼虫期の飼育密度を変えた個体間では集合区(チューブ当り5頭)の個体が単独区の個体に比べ飛しょう能力が高かったのに対し, 生理的諸形質がすべて劣っていた。このことから幼虫期の集合飼育は定住型と移動型の分化を促すものと思われる。成虫期の飼育密度の影響は飼育密度が低かったせいもあってはっきりしなかった。