著者
松岡 亮二 中室 牧子 乾 友彦
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.89-110, 2014
被引用文献数
3

<p> P. ブルデューの文化的再生産論は日本社会においても教育達成の格差生成メカニズムの一つとして研究され,各家庭における文化資本の偏在,それに家庭の文化資本と子の教育達成の関係について知見が蓄積されてきた。近年,教育選抜の早期化によって社会階層と教育達成の関連強化が懸念されているが,早期家庭内社会化によって文化資本が世代間相続する過程については未だに実証的に明らかにされていない。そこで本稿は厚生労働省による21世紀出生児縦断調査の個票データを用い,文化的行為である読書に着目し,文化資本の世代間相続という動的な過程をハイブリッド固定効果モデルによって検討した。<BR> 分析の結果,父母の学歴と世帯所得は,父母それぞれの一ヶ月あたりの雑誌・マンガを除く読書量という文化的行為を分化していた。また,これらの学歴と世帯所得によって異なる父母の読書量は,子ども間の読書量格差と関連していた。そして,父母の読書量の変化は,観察されない異質性を統制しても子の読書量の変化と関係していた。親の学歴は制度化された文化資本,世帯所得は経済資本であり,それらの資本量の差が読書行為を分化し,親子の文化的行為が関連している──小学校1,2,4年生の3時点の縦断データに基づいた本稿の結果は,子ども間の文化資本格差,それに先行研究が考慮しなかった観察されない異質性を統制した上で,文化的行為の世代間相続を実証的に示している。</p>
著者
石田 賢示
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.325-344, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本稿では,「制度的連結論」の理論的枠組みに関するこれまでの論点を整理したうえで,学校経由の就職が若年者の初職離職リスクに与えた影響の趨勢を分析した。日本における学校から職業への移行過程において,若年者と労働市場を媒介する役割を学校が果たし,制度的連結の仕組みが日本の若年労働市場の成功の重要な要因だと考えられてきた。一方,1990年代以降の労働市場の構造変動期に,制度的連結が機能不全をきたしたという議論がなされるようになった。 制度的連結について対立する2つの立場はいずれも一般化されたものであるといえる。しかし,学校経由の就職とジョブ・マッチングの関係のトレンドを直接に明らかにした研究はそれほど多くない。そのため,本稿では1995,2005年SSM 調査の合併データを用いたイベントヒストリー分析によって,制度的連結効果の趨勢を検討した。 分析の結果,高卒者については1990年代以降に初職を開始した場合,制度的連結論の仮説が支持された。また,学校経由の就職の利用にはメリトクラティックな基準が作用していることも明らかになった。労働市場全体が不安定である時期に制度的連結は高卒就職を保護するようになったが,学校経由の就職の規模の縮小も同時に進んでいる。制度的連結は,それを利用できない層を生み出しながらその機能を維持しているといえる。また,中卒,大卒就職では仮説が支持されず,制度的連結概念自体の検討も必要である。
著者
伊藤 秀樹
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.69-90, 2013-11-30 (Released:2015-03-25)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,生徒指導上の課題が集中する後期中等教育段階の学校(以下,「課題集中校」)で,生徒指導上の指導が受容されるメカニズムについて考察することにある。 課題集中校の生徒指導に関する先行研究では,①生徒たちは地位達成・学業達成へのアスピレーションが低く,教師の指導を受け入れる必要性をもたない存在であること,②教師=生徒間の葛藤を解消して生徒を学校にとどめておくためには,生徒の社会化から撤退するしかないこと,を示してきた。 しかし,課題集中校の中には,教師の指導に反発・無視していた生徒の大多数が,その指導を受け入れるようになる学校も存在する。本研究では,そうした事例である高等専修学校(Y校)でのインタビューと参与観察の結果から,生徒指導上の指導が受容されるようになるメカニズムを,「志向性」という新たな概念枠組みのもとで探究した。 Y校の生徒たちの語りからは,地位達成・学業達成のアスピレーションに集約されない,「成長志向」「被承認志向」「年長役割志向」といった3つの「志向性」との関連のもとで,生徒指導の受容の契機が生まれていることが見出された。 これらの知見からは,逸脱行動ではなく「志向性」という資源へと働きかける,生徒指導の「志向性基盤アプローチ」の重要性が示唆された。
著者
上山 浩次郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.95-116, 2012-11-30 (Released:2014-02-11)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本稿では,「大学立地政策」の「終焉」が,大学進学機会の地域間格差にどのような影響を及ぼしたのか明らかにする。 先行研究においては,その「終焉」は大学進学機会の大都市部への集中と地域間格差の拡大をもたらしていないと示唆されている。だが,その「終焉」の独自の影響力を捉えきれていない等の限界がある。 本稿では,「インパクト評価」に依拠し,実測値と予測値の差からその「終焉」の影響を評価する。具体的には,「高等教育計画」での特定地域における新増設の制限に注目し,この制限の撤廃が,(1)「規制地域」(を含む地域ブロック)での大学進学機会の動向に影響を及ぼしたのか,さらに(2)この動向が全国レベルの地域間格差にどのような影響を及ぼしたのかを検討した。 分析の結果,①大学学部定員数では,「規制地域」で予測以上の定員増がみられ,さらに全国レベルの地域間格差も予測以上に拡大した結果,格差の趨勢が縮小から拡大へと反転した。②大学収容力でも,「規制地域」を含む地域ブロックで予測以上に値が上昇し,地域間格差も予測以上に拡大した。結果的に,現在の格差の大きさは,「大学立地政策」開始直後以上になっている。③大学進学率も,「規制地域」を含む地域ブロックでの値の上昇と全国レベルでの地域間格差の拡大とが予測以上に進行した。 これらから,「大学立地政策」の「終焉」は,大学進学機会の地域間格差の拡大をもたらしたと判断できる。
著者
橋本 摂子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.123-142, 1999-05-15
被引用文献数
4

This paper aims to clarify the dynamic process in "ijime" situations, focusing on the practical role of bystanders in group dynamics. In "ijime" studies, bystanders have been identified as the key persons who influence the seriousness of the "ijime" situation. However, the practical effects of bystanders on the "ijime" situation is not clear. Since the structure of an "ijime" group is presumed to be static, and the change of the "ijime" situation has been overlooked in previous studies. In this study, we attempt to show the different effects caused by the various roles bystanders play in the process of "ijime". Through interviews conducted on 62 students at the university and high school level, we were able to classify their experiences in elementary school or in junior high school on the subject of "ijime". There is a remarkable difference between the "ijime" situation in elementary school and in junior high school. Depending the role of the bystander in any given "ijime" situation, three patterns of "ijime" in elementary school and two patters in junior high school were identified. These differences can be attributed to the varying attitude that bystanders have toward a particular "ijime" situation. In elementary school, bystanders act either as an audience or remain silent for personal safety reasons, thus allowing the "ijime" to attract more attention by adults. In junior high school, however, bystanders are no longer concerned with the role of "ijime" because they have lost interest in the "ijime" behavior. In this case, bystanders detract attention away from the "ijime" in such a way that the assailants behavior become more serious. Then the situation turns for the worst with the possibility that a victim will emerge. It is during the freshman and sophomore year in junior high school that incidents of "ijime" can become most serious. This fact has been explained with the increase in the number of bystanders in previous studies.
著者
有本 章
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.5-21, 1994-10-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
30
被引用文献数
2
著者
上山 浩次郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.207-227, 2011-06-10
被引用文献数
1

本稿では大学進学率における都道府県間格差の要因構造を時点間の変容を考慮しながら明らかにする。そのことを通して,近年の都道府県間格差がどのようなメカニズムによって生じているのか,その特質を浮かび上がらせる。そこで1976から2006年の4時点マクロデータに基づき,共分散構造分析の下位モデルである多母集団パス解析を行った。結果,(1)1976年には「所得」と「職業」によって格差が生じていたものの,(2)1986年には「地方分散化政策」(供給側要因の格差是正)の効果もあり「所得」と「職業」の影響力が弱まった。だが(3)1996年に入ると,男子で「所得」の影響力が,女子で「大学収容率」の影響力が増し始め,さらに(4)2006年には,男女ともに「所得」と「大学収容率」が影響力を持ち始めただけでなく,男子のみではあるが「学歴」も大きな影響力を持っている。加えて,「大学収容率」を介した「所得」の間接効果ももっとも大きい。以上から,こんにちの大学進学率の都道府県間格差のメカニズムには,社会経済的条件が持つ影響力の大きさ,供給側要因の「実質化」と「機能変容」,両者の「相乗効果」の増大という特徴があることが浮き彫りとなった。
著者
橋本 健二
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.127-139, 1984-09-30

The purposes of this paper are to outline Marxist approaches in the socio-logical study of education taken initiative by S. Bowles in 1971, to point out problems to be solved in them, and to find direction to overcome them. There are three major question in the theory of Bowles and H. Gintis : (1) Instrumentalist view of public educational institutions, (2) Underestimation of economic functions of them, (3) Overestimation of reproductive functions of them. They dealt with the problems of reproduction of capitalist mode of production as far as public educational institutions took part there, and failed to locate them in the whole processes of the reproduction. Furthermore, they regarded public educational institutions as instruments of ruling classes which they could operate arbitrarily. And they concentrated on only noneconomic, political and ideological functions of them. There have been many critiques of their theory. And some have been proposed attempts to overcome them in two directions : (1) integration of "micro" and "macro" sociology, (2) investigation of structural mechanisms and contradictions. Relative to the second direction, I try to locate "Marxist sociology of education" as a branch of the theory of the capitalist state. That is, "Marxist sociology of education" must, based on more general theories of the state and social classes, (1) analyse functions of public educational institutions as a part of the state, (2) investigate factors influencing these functions, (3) locate these functions in the whole processes of reproduction of capitalist mode of production including both economic and non-economic.
著者
戸村 理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.219-240, 2013-07-25 (Released:2014-07-28)
参考文献数
32

本論文は明治期慶應義塾における教育課程と教員給与の分析をとおして,当該期間における慶應の経営実態を明らかにすることを目的とする。 大学教員は教育課程の運営を行い,その対価として給与を得る。このように経営上,教育と財務は不可分の関係にあるが,高等教育史研究ではこの関係性が十分に考察されて来なかった。そこで本論文では教員の雇用形態に着目して「教育と財務の相克」という歴史的課題を考察した。 教育課程の分析では,専任教員が各学科の授業科目をどれだけの時間担当し,いかに配置されていたのかを検証した。その結果,担当時間および配置ともに学科間で差異があることが明らかになった。 教員給与の分析では人事管理,人件費分析,教員個人の処遇と負担の実態を検証した。人事管理は採用管理,時間管理,給与管理の3点を考察した。人件費分析では,教員給与総額が年々増加し,とくにその9割が専任教員の給与であることを示した。教員個人の処遇と負担の考察では,専任教員の中に「高給かつ低負担」,「薄給かつ高負担」という階層性が存在することを明らかにした。 以上の知見を整理すると,慶應では専門性の高い授業科目を担当した少数の専任教員には「高給かつ低負担」という傾向が,それ以外の授業科目を担当した多数の専任教員には「薄給かつ高負担」という傾向がみてとれた。こうした階層性は,経営の維持と発展を目指すがゆえの階層性であったと推察された。