著者
猪股 ときわ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.2-11, 2009-06-10 (Released:2017-08-01)

「乞食者詠」の一首目は、一首の歌表現を通して人と動物、動物と植物の境界を溶解し、死を生へ、殺すことを殺されることへ、祝福されることをされることへと転換しながら、根源的な生のエネルギーの磁場を開こうとする。「はやし」の語に代表されるその表現の特徴は、祝福をすることが痛みを述べることである、とする『万葉集』巻一六の題詞・左注の捉え方に即応しているだろう。
著者
宮川 健郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.62-72, 2006-01-10 (Released:2017-08-01)

子どもむけの落語の本(読み物、絵本、紙芝居)がいろいろ出版されている。このなかで、特に落語絵本について考えた。口伝えで可変的なテクストである落語は、落語絵本においては固定的なテクストとなり、「声の文化」としての落語が「文字の文化」になる。落語絵本は、小学校の国語教科書で学習材化もされている。落語の子どもむけメディアの横断の背後に見えてくるのは、文化の受け渡しの欲望とでもいうべきものである。
著者
濱橋 顕一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.51-59, 1998-05-10 (Released:2017-08-01)

現代の源氏物語の准拠論は、河海抄が力説し以下の旧注にも受け継がれた延喜天暦准拠説を再生させることによって本格化した。この准拠論が延喜天暦准拠説への疑義の提出や河海抄の注釈態度への批判などによって相対化され、准拠に関する論議は混迷の中にある、というのが学界の大かたの現状認識である。この認識そのものにも混乱の原因がある。それに修正を迫るべく准拠に対する私見を述べながら、併せて旧注の意義についても論ずる。
著者
白戸 満喜子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.66-76, 2007-10-10 (Released:2017-08-01)

書物の装訂が和装本から洋装本に変化するには紙と印刷の近代化が深く関わっているが、その初期にはさまざまな試行がなされている。和紙がいかにして洋紙へと切り替わっていくのか、その過程を『当世書生気質』諸本の装訂と料紙を観察することで双方の近代化を探る。ルーペを使用して書物料紙の原料である繊維を推定する「料紙観察」の方法と、「料紙観察」が奥付や刊記以外の情報として「明治」を知る手掛りとなりうることを報告する。
著者
須藤 敬
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.12-21, 1994-09-10 (Released:2017-08-01)

『保元物語』の描く源為朝の有する孤立性について、為朝の判断・主張が保元の乱の発端から終結までの因果関係とうまく噛み合わないこと、そうした為朝が「我一人、世ニアラントセンズルエセ者」、「不孝の者」と規定されていること、為朝の弓矢が特異なものであること、等から検討を加えた。またそのことが、伝本によって為朝の扱われ方の違いに結びついていることを鎮魂の問題を含めつつ考察した。
著者
島村 輝
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.30-39, 2003-04-10 (Released:2017-08-01)

筆者は二〇〇二年秋、三ヶ月間、中国・広州の大学に出講した。中国人の「日本文学」研究者は、専門外であっても、日本との歴史・経済・政治など全般的な関係についての認識を要求されることになる。この点で、日本国内にいて「日本文学」を見、考える場合とは大きな違いがある。現在中国では新たな研究方法が模索されているが、従来の閉ざされた「日本学」研究の枠を越えるためには、日本の研究者の側にも、「日本文学」の自明性を疑う姿勢が必要である。
著者
岡部 隆志
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.12-21, 2006-05-10 (Released:2017-08-01)

中国居住の少数民族は豊かな歌垣文化を持っている。日本古代の歌垣研究も少数民族の歌垣研究からの成果をもとに再検討が必要だ。例えば、少数民族の歌垣では、歌い手の世俗的な現実が歌に織り込まれることで、歌の掛け合いが持続していくという面がある。日本の歌垣論では歌垣を儀礼として捉えがちで、こういった歌の実態が見えてこない。少数民族の歌垣を踏まえれば、歌垣における歌についてのより深い考察が可能となるであろう。
著者
西川 貴子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.24-34, 2013-11-10 (Released:2018-11-10)

昭和初期、雑誌や新聞上で「実話」が取り上げられ流行した。特に『文芸春秋』はいち早く「実話」欄を設置し懸賞実話を積極的に行って、「真実」を語る新しいジャンルを切り拓くことを印象付け、また雑誌を通じて読者が場を共有するあり方を演出することに成功した。しかし、この懸賞の当選作である橘外男「酒場ルーレツト紛擾記」は『文芸春秋』が演出した「実話」のあり方自体を相対化した挑戦的な作品となっている。本稿では、『文芸春秋』懸賞実話のあり方を考察した上で「酒場ルーレツト紛擾記」の魅力に迫りたい。
著者
辰巳 正明
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.68-76, 1995-11-10 (Released:2017-08-01)

本誌一月号(一九九五年)において、呉哲男氏は家持と池主との宴席歌・贈答歌を検討して、家持の同性愛を指摘した。確かに二人の交友をめぐる表現に男女の恋情の表現を認め得る。だが、二人が文学の贈答を通して交友を成立させているのは、文選が分類する贈答を示唆する。同心を理念とする贈答詩が見られ、それらには恋愛詩の表現を内在させるのを特徴とする。交友の感情が恋情に近くあったことは確かである。ただし、それが直ちに同性愛を意味するものではない。
著者
松澤 俊二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.73-86, 2016-05-10 (Released:2021-05-31)

一九〇〇年前後の「和歌革新」以降を「近代短歌」=「新派」和歌の時代とする見方は、近年の研究により補正されつつある。すなわち「革新」以降も「旧派」は勢力を温存して、二派が〈両立〉していたというのである。本論は、以上の観点を引き継いで「新」・「旧」〈両立〉の具体的な姿を大正期に即して考察した。特に当時の入門書を資料とすることで先鋭的な歌人の言説ばかりでなく、同時代の初学者のニーズまでを視野に入れて多面的な把握を試みている。
著者
秋山 虔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.49-57, 1986

『源氏物語』「螢」巻の物語論は、光源氏と玉鬘との対話の過程において、物語についての通念を百八十度逆転させ、物語こそ人間の歴史を過不足なく構築するものであると主張する。この主張には律令政府の伝統的価値規範にもとづく一定の公的立場から書かれた官撰国史の権威をも一蹴する気概を感取しうるが、ここに展開される虚構の理論は、とりもなおさず『源氏物語』の作者による『源氏物語』創作の方法についての自注と解することができよう。そうした視点から、最近ことに重視されている准拠・引用(引詩・引歌)等の問題をあらためて爼上にのぼせ、『源氏物語』のまさに現代史として屹立する達成であることを明らかにしたい。
著者
益田 勝実
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.59-60, 1953-06-01
著者
谷川 恵一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.1-11, 1998

欧米の女たちは日本の女たちとは違ったしゃべり方をしているはずだという認識が芽生えるのは明治二〇年ごろになってからであり、以降、彼女たちが口にすべき日本語を求めての試行錯誤が繰り広げられていく。日本の女のものではないもうひとつの女のことばをつくり出そうとする試みが最初の成果をあげるのは、明治二一年から出された末松謙澄の『谷間の姫百合』というイギリスのラブロマンスの翻訳においてであった。