著者
原 仁司
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.60-73, 1991-05-10 (Released:2017-08-01)

『田園の憂欝』は、当初ブレイクの詩をその巻頭に掲載していたことからもわかるように、絵画的な趣向が全篇に行き亘っていた。この絵画的趣向が作品に与えた意義はじつに種々様々なのであるが、その意義のひとつに『田園の憂欝』特有の"多声的な文体"の形成という点があった。これはポーの文学的心理解剖を作品構造に応用したこととも密接に関連し、またその"多声的な文体"の内実は、当時の春夫の創作主体の微妙な位相を我々に解きあかしてくれるものでもあった。
著者
土方 洋一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.23-33, 1982

The basic form of early waka rests on a correspondence between the representation of psychological states and that of material objects. The developnlent of lyric poetry may be seen as the process whereby the depiction of objects was suppressed and the psychological came to stand on its own. The independence of the psychological was not won in the course of waka history in isolation, but came into being through a dialectical relationship with narrative. As prosenarrative took over the function of representing the material world, poetry, standing in metaphoric relation to the prose, was able to devote itself to the expression of psychological states. The rise of lyric poetry may be seen to depend fundamentally on the act of writting.
著者
木村 朗子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.32-43, 2014-05-10 (Released:2019-05-31)

宮廷物語は多く性愛関係を扱うものの、どうやら肉欲そのものの発露を描いてはこなかった。性的欲望の根拠として物語が主張するのは前世の契りという因果である。この世に生を受ける以前にまで遡って、今の欲動について考えようとするのは日本の古代だけではなくて、古代ギリシアにも同様にあった。「古代」は、今の理論において最も先進的な概念のクィアから発して議論が成る。本稿は、こうした「古代」的発想から、ジェンダー、セクシュアリティで議論されてきたことを再度捉え返すものである。
著者
中澤 千磨夫
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.44-56, 1991-11-10 (Released:2017-08-01)

後藤明生の『壁の中』は、<小説の小説>として、世界の最前線に位置付けられる。その要諦を二点挙げる。まず、小説という枠組を拡大したこと。具体的には、小説内で本格的な文学論が展開されていることである。本来、小説はかなり自由な(ルーズな)ジャンルであったはずで、本小説はかような地平を回復した。次に、本小説の結構自体が、長編小説の生成の一つの秘密を明かしていることである。それは、連続せる逸脱に、筋を展開させる力を持たせることであった。またこれは、方法自体を小説化する冒険でもあったのだ。
著者
堤 邦彦
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.2-12, 2005-10-10 (Released:2017-08-01)

女人蛇体といった説話・伝承のモチーフの変遷を、古代アニミズムの伝承や中世の仏教唱導を出発点に追尾しながら、近世文芸のなかに、そうした題材が固定化するまでの展開史を明らかにしたもの。とりわけ中世唱導文芸を苗床とする『法華経』竜女成仏説話型の蛇身譚が、女性の嫉妬や心の奥底の邪念を戒める説話に援用され、さらに江戸の倫理啓蒙思想、女訓文芸とからみながら怪異談の素材に姿を変えるさまを考察する。
著者
正木 ゆみ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.34-43, 2011-07-10 (Released:2017-05-19)

近松晩年の世話浄瑠璃『女殺油地獄』では、主人公の不良青年与兵衛が、日頃から自分に親切に接してくれていたお吉を殺害する。近松は、殺されたお吉の「救い」は保証したが、結末部分で悔悟した与兵衛の「救い」を保証することはなかった。本稿では、そのような二人の「救い」のゆくえを近松が対比して描いたところに、お吉が、深く信仰していた親鸞聖人の教えと通底するものが見出されることを指摘した。
著者
呉 哲男
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.10-17, 1997-01-10 (Released:2017-08-01)

戦後いちはやく国文学に実証的な批評を導入し、古代文学研究の先端を切り開いた存在として西郷信綱がいる。西郷は本居宣長の国学批判から出発し、その負の遺産を構造主義で乗り越えようとした。現在の自己完結的な古事記研究もそれを基本的に継承している。
著者
佐藤 かつら
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.36-44, 2007-10-10 (Released:2017-08-01)

明治八年九月大阪・角の芝居で上演された勝諺蔵作「早教訓開化節用」は、錦絵新聞が典拠であることを考察した。またその内容は、当時の事件を「白浪五人男」と「縮屋新助」という既存の黙阿弥作品にあてはめたものであることを見た。主人公の一人である錦織熊吉という巡査、新しい時代における新しい職務を担った人物が抱えた苦悩を、既存の物語によってあらわし、観客に新時代の人物を理解させる価値をもった内容であると考えた。
著者
鶴田 清司
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.43-51, 1995-08-10 (Released:2017-08-01)

今の生徒たちが陥っている問題状況を認識し批評するためには、現代社会や学校制度の歪みや病理をテーマとしつつ、自らが切実な文芸体験(同化・異化)を通して読み深められるような作品を教材化すべきである。作品自体の持つ批評性が、読者の内なる批評力(社会批評・自己批評)を喚起するという仕組みである。こうした観点から、子どもの閉塞した状況を象徴的に描いた「子供のいる駅」を取り上げて教材研究を試みる。
著者
山本 一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.23-30, 1995-07-10 (Released:2017-08-01)

承元期(一二〇七-一一)の慈円の、夢・密教・和歌に関する言説を、彼の自己史に関わらせつつ読解することにより、その重層した意味関係の分析を試みる。そして、政治権力への関与を通した「衆生救済」の実現への欲求が、仏教の現世拒否志向をはねのける際に、性的なもの、就中「許された」性愛としての稚児寵愛が、慈円の内面で重要な役割をはたしたことを明らかにする。