著者
昆 隆
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.23-32, 1985-06-10 (Released:2017-08-01)

「山月記」本文の叙述そのものから、「作品」としての、(辞書的)意義ならぬ(文脈的)意味を、読解しようとする試みである。基本線は、変身後の李徴が亡霊であること、その悲痛な独白自体が彼にとって未到の詩的達成を遂げていたこと、そして、鎮魂のあったこと、に在る。意識家李徴は変身による不幸の完成によって、無意識の裡に、感情の表現を得た-という逆説が、読み取られる。
著者
志立 正知
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.22-31, 2015-01-10 (Released:2020-01-30)

学習指導要領に〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕が新設され、「古典」教育の見直しが図られるなかで、「古典」教材をいかに扱うべきか。ともすれば近代的な文学作品と同様に扱われがちである現状に対し、「古典」には歴史的に受け継がれてきた「古典」独自の享受のルールがあること、教科書においても、そうしたスタイルを含めて学ぶ必要があることについて、和歌を例として問題提起を試みた。
著者
米村 みゆき
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.63-72, 1995-08-10 (Released:2017-08-01)

宮沢賢治『どんぐりと山猫』の別當はこれまで"周縁人物"として扱われてきた。その背景には別當がこれまでの賢治像に位置づけることが難しい存在であること、逆に別當を隠蔽化したところに賢治神話は成立してきた。本稿はテクストを大正後期の時代状況と対話させ、別當は教育が孕む重要な問題を浮き彫りにする人物であることを指摘する。それは学歴と階層の対応であり、講義録、夜学の記述のうちに当時の農村青年の「学校」への希望と諦めが見える。
著者
構 大樹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.23-32, 2013-12-10 (Released:2018-12-18)

本稿は初期宮沢賢治受容に着目し、彼のイメージ生成と流通の様態を明らかにするものである。生前の賢治は、テクストの表現の革新性をもって評価されていた。しかし、それが『宮澤賢治全集』(文圃堂書店)の出版を前後に、賢治の〝生活〟を強調した解釈が目立つようになる。こうした評価の転換は、賢治をめぐる情報の蓄積はもちろんのこと、彼のイメージが流通した文学場の文脈が絡み合うことで生じた現象であった。
著者
佐藤 至子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.57-65, 2001-10-10 (Released:2017-08-01)

黄表紙や初期合巻には、高慢な人間が異人に教訓される光景を滑稽に描いたものや、武芸上達を志す男が異人たちと関わりながら旅をする内容のものがあり、作の主眼は異界遍歴の過程(プロセス)にあったと思われる。また、草双紙は全てがあるべき理想の状態になり、めでたい結末で終わるのが基本であるが、その中で異人や異界は、人間が拠るべき価値観や、困難を克服して成長する過程を比喩的に語る際のモチーフであったとも解釈できる。
著者
カバット アダム
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.34-44, 2001-10-10 (Released:2017-08-01)

「野暮と化物は箱根から先」という諺をふまえて化物たちの住みかを箱根の向こうにするという設定が、化物の黄表紙の中でよく見られる。つまり、「箱根の先」に住む「田舎者」の化物たちは、江戸の通からみると、「野暮」のような存在であり、笑いの対象でもある。それにしても、「箱根の先」という「異界」が一体どういうものなのか。本論では、初期の黄表紙の内容を検討しながら、「化物」と「箱根の先」との関連性を考察してみる。
著者
神田 龍身
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.29-46, 1990-12-10 (Released:2017-08-01)

物語の主人公の世代交替を円滑にするシステムとしての「男色」の持つ意味について考えてみた。一言でいえば、「暴力」排除のための「男色」ということになる訳だが、物語個々において微妙な差があり、それを分明にすることに論のポイントを置いてみた。また、物語文学史総体の中で、かかる鎌倉物語がいかなる位置を占めるのか、一応それをも測定してみた。
著者
原 豊二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.28-38, 2016-05-10 (Released:2021-05-31)

古典文学の時代、一般に「記録」するとは筆で紙に書くことを意味する。けれども、「記録」というものを「戦略」の一つとして考えるならば、通常の筆記の方法から逸脱したものについても意識的であるべきだ。平安時代以降の歌集や物語では、特殊な筆記法が多く描かれている。小論では『伊勢物語』や『大和物語』などの歌物語の「特殊筆記」について考察を加え、それらが作品の構想や方法にも関わる重要な「記録の戦略」であることを提示する。
著者
西原 志保
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.22-33, 2009-09-10 (Released:2017-08-01)

女三宮は、研究史においてその存在が六条院世界や物語のありようを変容させたものの内面を語らないと言われるが、『源氏物語』中に心内語や心情に添った描写、会話文、和歌は少なくない。それゆえそれらを女三宮のことばとして総合的に捉え、結婚当初、柏木事件後、出家後の変容を考察する。「身」、「我」など自己をあらわす語と、対置される語である「心」「世」「人」に着目し、柏木事件後にあらわれる「身」「我」という意識が、出家後「心」は描かれるものの消えることを述べる。
著者
風間 誠史
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51-62, 1984-01-10 (Released:2017-08-01)

Mitake Soji is a travel description written by Ueda Akinari more than 30 years after his journey. I've attempted to explain the time and space covered in this work, but found the time and space somewhat confused. The reason seems to be that the moment and place of his writing appear in his work as something different from the theme of travel. The characteristics of Ueda Akinari as a wri-ter also appear in the confusion itself.
著者
宇都宮 千郁
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.10-18, 1997-02-10 (Released:2017-08-01)

紫式部日記に描かれた、敦良親王御五十日の儀の記事の中に、御膳の取り次ぎ役にあたった小大輔と源式部の装束について、「織物ならぬをわろし」とする同僚女房からの非難の声があがったようである。なぜ小大輔と源式部の装束が非難の対象となったのか、解釈の揺れる所であるが、所謂「禁色」などの、当時の女房装束にまつわる禁制そのものを改めて考証することにより、より無理のない解釈を試みた。
著者
氣多 恵子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.29-39, 2001-09-10 (Released:2017-08-01)

オックスフォード大学ボドリアン図書館にて、一九世紀の科学者H・N・モーズリー旧蔵和書二〇余点を調査した。明治維新の混乱未だ冷めやらぬ日本を、英国海洋観測艦チャレンジャー号の科学スタッフの一人として訪れた際に収集したものである。収集の経緯の考察、及び日本学の一側面としての位置付けを通して明らかになるのは、未知の異文化に対峙する英国人たちの多様な姿である。収集の品々は多彩で、日本への関心の大きさを物語る。
著者
光石 亜由美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.28-38, 1999-06-10 (Released:2017-08-01)

田山花袋「蒲団」に端を発した性欲描写論争は、「性慾」という言葉の猥褻性を消去し、<性欲=人間の真実、生のエネルギー>という読み換えを行い、<性>を描くことの文学的必然性を唱えた。またlt;性>に関する知の所有者としての作家の誕生、読者への文学的<読み>の性教育、文学史における「肉慾小説」の切断などを通じて、自然主義文学は<性>を語る特権を獲得してゆくのである。
著者
北條 勝貴
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.13-27, 2016-05-10 (Released:2021-05-31)

アジア史の局面には、平地における水田経営から王権、領域国家へと展開した権力、および同一の文化を共有する集団が、狩猟や焼畑を生業とする山地の集団・文化を疎外する言説が確認される。ヤオ族の持つ漢文文書『評皇券牒』は、かかる山地/平地のカテゴリー生成における神話=歴史、民族的アイデンティティーと、その忘却の意味を考えさせる。それは、定住社会の幻想と稲作至上主義に束縛され続ける、「日本文学」「日本歴史」の歪さをも暴露することになる。