著者
関谷 直也
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.78-89, 2003 (Released:2021-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本論では、「風評被害」の実態とその発生メカニズムを論じることに目的がある。実態を反映させ、定義づけると「風評被害とは、ある事件・事故・環境汚染・災害が大々的に報道されることによって、本来『安全』とされる食品・商品・土地を人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害」のことである。元々は原子力に限定され用いられていた。概括して、「風評被害」は次のような過程を経る。[1]「人々は安全か危険かの判断つかない」「人々が不安に思い商品を買わないだろう」と市場関係者・流通業者が想定した時点で、取引拒否・価格下落という経済的被害が成立する。[2]「経済的被害」「人々は安全か危険かの判断つかない」「人々の悪評」を政治家・事業関係者、科学者・評論家、市場関係者が考える時点で「風評被害」が成立する。この時点でいわば「『人々の心理・消費行動』を想像することによる被害」である。[3]①経済的被害、②事業関係者・科学者・評論家・市場関係者の認識、③街頭インタビューの「人々の悪評」などが報道され、社会的に認知された「風評被害」となる。[4]報道量の増大に伴い、多くの人々が「危険視」による「忌避」する消費行動をとる。事業関係者・市場関係者・流通業者の「想像上の『人々の心理・消費行動』」が実態に近づき、「風評被害」が実体化する。
著者
向井 利明 牛山 素行
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-178, 2018 (Released:2021-04-01)
参考文献数
21

気象庁の記録的短時間大雨情報は、大雨警報発表中に、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨を観測又は解析したときに市区町村名等を示して発表されるもので、1983年に運用が始まった。その発表基準や運用等はたびたび見直されているが、気象庁はこの情報について一貫して、「現在の降雨がその地域にとって災害の発生につながるような稀にしか観測しない雨量であることを知らせるもの。」と説明している。一方、「避難勧告等に関するガイドライン」(内閣府)では、土砂災害に対する避難勧告等の判断に活用する情報の1つとしてこの情報が位置付けられている。しかし、記録的短時間大雨情報の業務的な変遷を纏めたものやこの情報が発表された際の災害発生率等について定量的に調査されたものはない。本稿では、記録的短時間大雨情報の業務的な変遷を振り返るとともに、記録的短時間大雨情報が発表された事例について、市町村ごとの災害発生率等を調査し、防災情報としての役割等を考察した。記録的短時間大雨情報の対象となった市町村の61.6%で浸水害又は土砂災害が、大雨警報(土砂災害)と記録的短時間大雨情報が発表された市町村の43.5%、土砂災害警戒情報と記録的短時間大雨情報が発表された市町村の49.8%で土砂災害が発生していた。記録的短時間大雨情報は雨量の実況を知らせるものであるが、大雨警報を補足する防災情報としての一定の役割を果たしていると考えられる。
著者
秦 康範 前田 真孝
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.107-114, 2020 (Released:2022-07-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

我が国は2008年をピークに人口減少局面に入っており、長期的な人口減少社会を迎えている。本研究では、洪水による浸水リスクに着目し、全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内外の人口および世帯数を算出し、1995年以降の推移とその特徴について考察することを目的とする。対象地域は全国の都道府県で、使用するデータは500mメッシュの国勢調査(1995年~2015年の5年分)と国土数値情報浸水想定区域データである。地理情報システムを用いた解析の結果、浸水想定区域内人口および世帯数は、1995年以降一貫して増加しており、区域内人口は1995年(33,897,404人)から2015年(35,391,931人)までに1,494,527人増加し、区域内世帯数は1995年(12,165,187世帯)から2015年(15,225,006世帯)までに3,059,819世帯増加していることが示された。都道府県別の浸水想定区域内の人口および世帯数は、1995年を基準とすると、2015年において浸水想定区域内人口は30都道府県が、浸水想定区域内世帯数は47都道府県が、増加していることが示された。区域内人口が減少している地域を含め区域内世帯数が大きく増加しているのは、浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるためと考えられる。
著者
横尾 泰輔 矢守 克也
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.149-159, 2017 (Released:2021-04-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

東日本大震災で、日本放送協会(NHK)は、巨大地震の発生直後に緊急災害報道を開始し、第1著者は、全国放送のキャスターとして、津波情報の伝達や避難の呼びかけを行った。しかし、多数の住民が、津波到達まで時間的猶予があったにもかかわらず、適切な避難をせずに死亡した。これは、メディア(放送)による情報伝達はできていても、それが住民の避難行動を誘発・促進するのに十分効果のあるものではなかったことを示唆している。本研究では、東日本大震災の初動報道に対応したキャスター当事者の視座から、放送内容および各局面におけるキャスターを取り巻く状況・心理等を自己分析するとともに、放送を視聴・聴取していた住民が、情報をどのように受けとめ、それに基づきどう行動していたかについての聞き取り調査を実施した。その結果、情報の送り手と受け手の間にある認識の相違が明確となった。その上で、住民の避難行動の誘発・促進に資する緊急災害報道の手法として、次の5つの項目を導出した。①インパクトのある表現(強い口調・キーフレーズ)、②発表情報・数値への解釈の付加、③教訓(リアルな事例)を盛り込んだ呼びかけ、④避難行動の段階的アプローチ、⑤津波映像の具体的実況描写と普遍化、である。以上5つの手法を取り入れた緊急災害報道モデルを新たに構築し、訓練等を通じて実践的な考察を試みた。
著者
橋冨 彰吾 河田 惠昭
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.154-163, 2016 (Released:2021-04-01)
参考文献数
15

東日本大震災では、製油所が津波や火災によって大きな被害を受けた。その結果、最大451万6,424B/Dあった国内原油処理能力が、被災直後には300万3,924B/Dまで落ち込んだ。南海トラフ巨大地震で被災する地域は東日本大震災で被災した地域よりもさらに多くの製油所があり、その影響が懸念される。本研究では、南海トラフ巨大地震発災後の地域毎の原油処理能力の推移を東日本大震災の被害実績をもとに推定を行った。その結果、南海トラフ巨大地震が発生した場合、最悪のケースでは我が国の原油処理能力が被災前の16.8%(65万7,500B/D)まで低下することが明らかとなった。人的被害が最大となるケースと原油処理能力の観点からの最悪のケースは異なることが明らかとなった。地方別に見ると、関東地方は比較的早期に原油処理能力が回復する。近畿地方や中国地方はケースによって原油処理能力の推移に差があった。一方で、中部、四国、九州の各地方のすべてのケースで原油処理能力が同じ推移を辿ることが明らかとなった。
著者
関谷 直也
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.102-114, 2004 (Released:2021-04-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本論文は、風評被害の補償についての法的論点と対応策の現状を論じ、その改善案を提案する。風評被害の補償における法的論点は、①損害と事故・環境汚染などの相当因果関係が問題とされる場合、②報道機関など情報発信者の「公共の利害・公益に係わる」名誉毀損が問題とされる場合、③情報発信の意図と内容の根拠に関する「風説の流布」が問題とされる場合の三種類ある。現状では、民事裁判などの裁定によって補償されることが多いが、被害者側にとって、a) 手続き上の煩雑さと解決の長期化、かつb) 損害額および原因との因果関係の立証が難しいという問題点があり、これを緩和するためのリーガルサポートが重要である。具体的には、対策として①人間の心理や行動の専門家と法律の専門家による、生産者の被害の範囲、被害額の認定、②価格差損的手法による損害額の算定が、重要である。次に、その補償の原資を確保するため基金的制度として、③被害業種毎の共済制度、④加害業種毎の強制保険制度の確立が重要であると考え、これら制度をそれぞれの災害事象に応じて整備することを提案する。
著者
金井 昌信 上道 葵 片田 敏孝
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.273-281, 2018 (Released:2021-04-01)
参考文献数
17

東日本大震災の教訓として、“津波てんでんこ”の重要性が指摘されている。片田(2012)は津波襲来時の釜石市の児童生徒とその保護者の避難実態から、“津波てんでんこ”が実現された要因として、家族間の信頼関係が構築されていたことを指摘している。この実績を参考に、東日本大震災以後、小中学校の防災教育において、津波避難に関する信頼関係の構築を目指して、家族で防災会議を開くことを促している地域もある。しかし、家族での相談が、家族間の信頼関係の構築および“津波てんでんこ”の実現にどの程度影響するのかは明らかにされていない。そこで本研究では、児童生徒とその保護者の関係を対象に、“津波てんでんこ”促進策として、家族間の津波避難に関する相談の実施状況に着目し、その“津波てんでんこ”促進効果を検証することを目的とする。分析の結果、家庭で避難方法について相談しておくことが子どもの適切な避難を選択することにつながることが確認された。さらに、子どもが適切な津波避難行動が実行できないかもしれないと保護者が思うと、“津波てんでんこ”が実行される可能性が低くなることが確認された。以上の結果より、家庭での津波避難に関する相談をすることを通じて、子どもは適切な行動をしようと思うようになり、それを保護者が信頼することによって、“津波てんでんこ”が実行される可能性が高まることが確認された。
著者
桶田 敦
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-40, 2016 (Released:2021-04-01)
参考文献数
13

東京電力福島第一原発事故(以下、第一原発事故と略記)は、災害報道における取材と報道姿勢において多くの教訓を残した。本稿では、キー局であるTBSと系列のテレビユー福島(以下、TUFと略記)における「ニュース番組」の構造分析を行い、原発事故取材における「議題設定」がどうニュース番組に表象したのか検討を行った。その結果、第一原発事故以降のおよそ1年間の、福島のローカル局TUFの夕方ニュース(スイッチ!)においては、年間を通じた原発事故関連のニュースは41.3%を占めたことがわかった。その内、被災住民の動向や被ばくリスクに関するニュースの割合が高く、年間総放送時間のそれぞれ、17.0%、19.3%となった。一方で、福島第一原発そのものや東京電力(以下、東電と略記)の動向を扱ったニュースは3.7%と低いことも明らかとなった。それに対して、全国ニュースであるTBS「Nスタ」における第一原発事故関連のニュースは、1年間の総放送時間の16.5%で、その内、83.8%をTBSが出稿し、TUFの出稿はわずか9.5%に過ぎないことが明らかとなった。TBSは社会部を中心にした発取材チームを結成し、「東電・原子力安全保安院(以下、保安院と略記)などの大本営発表に頼らない取材を行う」方針で取材に臨み、TUFのニュース編集長は「原発のニュースがTBSに任せる。TUFとしてやることは、それ以外の県民に寄り添う取材、被災者の立場を打ち出す」と述べた。こうしたTBSとTUFの第一原発事故取材における議題設定の差異が、それぞれのニュース報道の差となって表象した、と考えられる。
著者
平川 雄太 佐藤 翔輔 鹿島 七洋 今村 文彦
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.128-139, 2016 (Released:2021-04-01)
参考文献数
17

津波災害を受けて命名された地名は、津波の経験や教訓を後世に伝える媒体となることが期待される。本稿では、東日本大震災の被災地である岩手・宮城・福島の東北3県を対象に、刊行書籍から、「津波由来である」または「津波由来である可能性が高い」と記述されている地名を抽出した。これらをKJ法によって分類し、津波由来地名の空間分布を考察した。本研究の結論は次のとおりである。1)東北3県に存在する110個の地名が、津波に由来する可能性がある。2)津波由来地名は、「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」と「津波痕跡を示す音に由来する地名」の大きく2つに分類され、さらに「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」は、「モノが流れてきたことに由来する地名」、「津波の挙動に由来する地名」、「念仏を唱えたことに由来する地名」などに分類された。3)「津波来襲に関するエピソードに由来する地名」の多くは石巻市牡鹿半島以北の「リアス部(津波の常襲地域)」に位置しており、過去の大津波の経験が地名に残された可能性を示唆している。4)津波由来地名が存在している町・大字は全て東北地方太平洋沖地震津波の浸水域内に位置しているが、それらは浸水域全体の町・大字の約10%に過ぎず、津波由来地名が災害伝承に寄与しうる範囲は、東日本大震災のような極めて大きな津波に対しては限定的であると言える。
著者
加藤 健
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.82-93, 2011 (Released:2021-04-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

災害時に設置される災害対策本部には、単なる情報収集機関としてではなく、意思決定機関としての役割が期待される。災害対策本部に参集・常駐する警察、消防、自衛隊などの災害対処機関は、被災地現場において情報収集活動の中心的役割を果たす。その一方で、被災自治体の職員をみると、災害の規模に比例して、その参集率は漸減していく傾向にある。このため、災害対策本部が意思決定機関として機能するには、これら災害対処機関を基軸とする連携のあり方を考究する必要がある。これら災害対処機関は、相互に活動領域が重なり合うため、災害時には組織間連携の必然性が生じる一方で、別個の指揮系統に属しているためその調整は容易ではない。さらに災害時の連携においては、人員や構成機関が流動的になるため、意思決定機関としての役割を果たすことは一層困難なものとなる。これを解決するには、各機関同士の相互依存性を強化することよりもむしろ低減させることが重要である。本稿では、災害時の優先事項を事前にルール化した「準拠枠のルール化」の設定、さらに常駐機関の「群化」による「連携のモジュール化」を提唱している。これにより、災害時における各機関の相互依存関係を低減させ、意思決定の迅速化を図ることが可能となる。ただし、こうした連携のモジュール化が機能するためには、各機関がスムーズに情報共有を行なうことができるための共通土台の構築が必要条件となる。
著者
岡山 和生
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.46-57, 2007 (Released:2021-04-01)
参考文献数
13

ハリケーン・カトリーナによる大規模高潮災害で明らかになった、大都市の避難行動の困難さを踏まえ、ニューオーリンズでの実績とその分析を行い、日本における大都市の大規模高潮災害・水害における避難行動のあり方を提案する。ニューオーリンズでは、ハリケーンの強風被害に対する、上陸2日前からの広域避難が、大きな成果を収めたが、高潮浸水被害に対する具体的な警報の仕組みが無かったために、破堤氾濫による浸水からの避難に役立つ効果的な情報が不足して、多くの犠牲者を生んだ。そのための高潮警報と連動した避難体制の整備の必要性を示す。また、とりあえず命を守る緊急避難と、仮に生活できる安全な場所への再避難を二段階に考えた避難方式を採用することを提案するとともに、避難所の機能について、ライフラインのバックアップや、アクセスの確保の重要性を示す。さらに、水防計画だけでは対応できない大規模水害に対して、広域的な機関の役割と、その連携のための、スーパー高潮警報や、危機管理行動計画の必要性を明らかにする。
著者
高原 耕平
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.23-33, 2021 (Released:2022-07-20)
参考文献数
36

減災の実践や研究は生活を構成する多様な価値や意味に対して摩擦を生じうる。たとえば高齢者が避難訓練への参加を「(災害が起きたら)もう死ぬからいい」と拒むといった例がある。死生観、自然観、公共性、宗教性といった諸価値と「減災」が調停されないままであれば、減災が社会と生活に本当の意味で息づくことが妨げられてしまう。わたしたちが取り組んでいることの意味を解釈するために、減災と社会の関係を生活と身体の次元にまで降りて捉え返す必要がある。そこで本稿では、減災・防災に関する様々な技術や制度が有機的につながり、そこに生きる人々の生活や姿勢に影響を与えながら、みずから発展してゆく社会を「減災システム社会」と名付け、その構造を素描する。まず減災システム社会における技術の好事例として緊急地震速報を取り上げ、有機的に接続された技術ネットワークが生活と身体に浸透するさまを分析する。ついで減災システム社会の一般的構造を記述し、技術・身体・行動・改良のPDCAサイクルが中心を持たないまま持続することを指摘する。最後に、こうした減災システム社会の将来像の可能性として、減災システム社会それ自体の進化を徹底する「情報アプローチ」と、生活における意味を注意深く読み取りながら諸価値の調和を試みる「生活アプローチ」を提示する。
著者
宇田川 真之 三船 恒裕 定池 祐季 磯打 千雅子 黄 欣悦 田中 淳
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.21-30, 2019 (Released:2021-04-01)
参考文献数
19

災害危険時の避難行動に対して、平常時における避難行動の意図が影響するものと想定し、その規定要因として、健康予防行動や環境配慮行動の分野で用いられている計画的行動理論や修正防護行動理論など参照し、「リスク認知」「効果評価」「実行可能性」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」の6つの認知要因を仮定した。この心理モデルを適用した既往の住民調査の因子分析の結果では「効果評価」と「実行可能性」は独立した要因として抽出されていたが、他の要因の分別が十分ではなかった。本調査では、同じ6要因の心理モデルを用いて、設問項目の改善などを行い再調査した結果、「リスク認知」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」、および「効果評価」「実行可能性」の合併した「避難の安全性評価」の5因子が抽出され、避難意図に対しては「リスク認知」「効果評価」「主観的規範」が有意な影響を及ぼしていた。因子分析で「効果評価」と「実行可能性」が分別されなかった原因は、モデルの不適切さによるものではなく、調査地域の地理環境が反映されたためと解釈できたことから、6要因に基づく調査フレームは、他地域にも適用し得る汎用性の高い調査フレームと考えられる。こうした汎用的な心理モデルの有用性として、地域間の比較や同一地区の時間変化の数量的な把握、効果の高いと期待される防災対策への示唆が得られることを整理した。
著者
中森 広道
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.76-86, 2007 (Released:2021-04-01)
参考文献数
14

我が国の震度情報は、近年、めまぐるしい展開を見せている。しかし、その一方で、震度情報に関する問題やトラブルが大きく取り上げられることも多くなった。「新潟県中越地震」や「千葉県北西部の地震」などの昨今の地震では、「震度情報の遅れ」などの問題に対する批判的な評価がみられるようになっている。震度情報に関わる問題は最近始まったことではないが、1995年の「阪神・淡路大震災」で震度情報の遅れが初動体制を遅らせたという点が指摘されて以来、大きく注目されるようになったようだ。これは、震度観測が体感から計測震度計に移行し、無人の観測点や気象庁以外が管理する観測点が増えたことによりトラブルが顕著になったこと、震度が「記録性」よりも「速報性」を重視するようになっていることなどが挙げられる。ただし、器械による計測である以上、地震により何らかのトラブルが生じることは仕方がない面もある。そのために、「阪神・淡路大震災」の教訓から「震度5弱以上未入電情報」が発表されるようになっているが、この点は必ずしも有効に活かされていない。本来は状況を把握するための「参考情報」の役割を果す震度が、正確な状況を把握するための「確定情報」のような役割を求められるようになっている現状を再考する必要があるのではないだろうか。
著者
金井 昌信 片田 敏孝
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.103-113, 2011 (Released:2021-04-01)
参考文献数
17

平成22年2月28日に南米チリ沖で発生した地震津波に伴って津波警報が発表された。しかし、17年ぶりに大津波警報が発表され、また太平洋沿岸全域に津波警報が発表されたにもかかわらず、住民の避難率は低調であった。そこで本稿では、この度に津波警報発表時における住民避難の実態を把握することから、今後の津波襲来時の津波避難を誘発するための社会対応策を検討した。まずこの度の津波警報発表時に把握された課題としては、自宅が避難情報の対象であったのかどうかを把握していない住民が多く存在したこと、発表された津波予想到達時刻に津波が襲来しなかったことを理由に避難先から帰宅してしまったこと、過去の津波警報のはずれ経験がこの度の津波警報を軽視する方向に作用したこと、津波警報や避難情報以外の社会的対応が津波襲来可能性認識を低下させたことが挙げられる。これらの結果を踏まえて、今後の津波避難促進策として、“津波警報がはずれたことを是とする態度”の形成を促すこと、“「今が緊急事態である」という社会的雰囲気を社会全体でつくりだす”ことを提案した。