著者
今井 聖
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.121-138, 2017 (Released:2018-10-31)

本稿の目的は,駅構内での女性への痴漢被疑者に対して行われた警察のワークを,「ワークのエスノ メソドロジー研究」の立場から考察することである.本稿では,被疑者を警察署に任意同行するため の説得と,警察署での実質的な事情聴取という2つのワークを分析する. これらの警察のワークは,警察官と被疑者との会話的やりとりを通して遂行される.従来研究にお いて,「ストリートレベルの官僚」としての警察官による裁量の行使が指摘されていたが,実際の会話 的相互行為に基づいた研究は十分取り組まれてこなかった. 本稿では,ある実際の「痴漢事件」において,交番および警察署で行われた,警察官と被疑者によ る会話的やりとりを分析し,それにより達成される警察のワークを記述する. 分析からは,主として次の2点が示される.第一に,交番警察が被疑者を任意同行する際に,被疑 者にとっての必要性を強調することで「説得」を行っていること.第二に,警察署警察が,被疑者と 痴漢被害を訴える女性の同行者との間の相互行為を推断的に記述していることである.以上の分析知 見を踏まえ,警察のワークが被疑者に困難な「現実」をもたらし得るものであったことを指摘する.
著者
今井 聖
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.121-138, 2017

本稿の目的は,駅構内での女性への痴漢被疑者に対して行われた警察のワークを,「ワークのエスノ メソドロジー研究」の立場から考察することである.本稿では,被疑者を警察署に任意同行するため の説得と,警察署での実質的な事情聴取という2つのワークを分析する. これらの警察のワークは,警察官と被疑者との会話的やりとりを通して遂行される.従来研究にお いて,「ストリートレベルの官僚」としての警察官による裁量の行使が指摘されていたが,実際の会話 的相互行為に基づいた研究は十分取り組まれてこなかった. 本稿では,ある実際の「痴漢事件」において,交番および警察署で行われた,警察官と被疑者によ る会話的やりとりを分析し,それにより達成される警察のワークを記述する. 分析からは,主として次の2点が示される.第一に,交番警察が被疑者を任意同行する際に,被疑 者にとっての必要性を強調することで「説得」を行っていること.第二に,警察署警察が,被疑者と 痴漢被害を訴える女性の同行者との間の相互行為を推断的に記述していることである.以上の分析知 見を踏まえ,警察のワークが被疑者に困難な「現実」をもたらし得るものであったことを指摘する.
著者
上野 加代子
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.62-78, 2016

本稿では,「虐待する親から子どもを守る」と称する実践が,どのような形でリスク言説と結びつき, 「ネオリベラル体制」の一翼を担っているかを示す.本稿で言う「リスク」とは,「新しい統治様式」 である.社会福祉の分野において,リスク概念の導入は,児童福祉の実践を根本的に転換させるもの であった.従来の児童福祉では,子どもや子どものいる家族のニーズに対して必要なサービスを提供 することが主要な目的だったが,近年,「虐待のリスク」という考え方の台頭によって,リスクアセス メントを用いて親をリスクの程度で分類し,「ハイリスク」と判定された親をモニターすることが児童 福祉の主要な目的になってしまった.つまり,児童福祉は「子どもの福祉」ではなく,「親を統治する 手段」に変容したのだ.本稿では,先行研究を整理しつつ,日本における児童虐待リスクアセスメン トの実態を,児童虐待事例に即して検討する.それによって,虐待のリスクとは「疑う余地のない事 実」や「統計的事実」ではなく,複数の解釈の余地がある事象に,「虐待のリスク」という単一の解釈 枠組を押し付ける営みであることを示す.
著者
山本 功 島田 貴仁
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.80-97, 2016 (Released:2017-10-31)

従来,わが国の犯罪情勢が論じられるにあたって,人びとの意識を表すものとして「体感治安」や 「犯罪不安」という語が用いられてきた.新聞や行政文書においては「体感治安」が用いられ,学術研 究においては「犯罪不安」が主たる研究対象とされてきたが,これらの差異には関心が向けられてこ なかった. 本稿は,千葉県コンビニ防犯ボックスモデル事業を事例として,この事業が地域住民にもたらした 体感治安とリスク知覚・犯罪不安に対する効果を分析する.異なる2地点で実施された同事業の事前 と事後の2回,地域住民に対する調査が実施された. 分析の結果,同事業は概して体感治安の向上をもたらしたが,部分的に犯罪リスク知覚と犯罪不安 の上昇が観察された.これらの結果から,「体感治安」と「犯罪不安」は異なるものであることが明ら かになった.防犯事業を評価する際には,犯罪不安と体感治安の両者を測定することが必要であるこ とが論じられた.
著者
吉川 真美子
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.27, pp.88-101, 2002-10-26

米国におけるドメスティック・バイオレンス(以下DV)への警察の対応は,過去四半世紀で不介入原則から加害者の積極的逮捕へと大きく変化した.今日では殆どの州が「相当の理由」に基づく令状なしの逮捕を警察官に許可している.しかし,警察官は加害者の逮捕に消極的であるという批判はなくならず,いわゆる「寛大さの仮説」を検証する調査研究が行われてきた.加害者と被害者の間の「親密な関係」を特徴とするDV事件では,警察官のジェンダー・バイアスによって,犯罪である暴力が見逃されたり,女性被害者が差別的に扱われたりすることもある.また,DV犯罪への対応では,従来の被疑者に対するデュー・プロセスの保障と,新しいジェンダー問題としての被害者保護という二つの目的を実現しなければならない.本稿では,逮捕の決定に大きく影響するのは,加害者と被害者の「親密な関係」,状況的要素や法的要素であることが判明した.「親密な関係」のイデオロギー性を指摘するとともに,状況的要素や法的要素が被害者保護の要請や手続法上の要件といかに関連しているかを考える.
著者
佐藤 哲彦
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.124-137, 2013-10-15 (Released:2017-03-31)

本稿は,欧州連合(EU)において薬物問題対策として採用され,こんにち広く影響を及ぼしている「欧州アプローチ(European Approach)」について,その来歴と概要および実践をアムステルダム市のケースを題材として検討し,その施策の含意について論じている.まずEUにおける薬物政策の成立過程について,EU自体の成立過程やその過程における諸機関との関係を含めて論じたのちに,それらを現行の形として成立させ維持する制度と仕組みについて論じた.そこではとくに補完性の原則が重要な役割を果たしていること,さらに欧州委員会の管轄領域との関係が重要であることなどが指摘されている.次に欧州アプローチの一事例としてアムステルダム市におけるハーム・リダクション施策を具体的に論じ,その施策が現在の福祉政策に影響を受けていること,とくに勤労福祉政策がコミュニティという視点の強調によりハーム・リダクションに組み込まれている最近の傾向を指摘している.最後に,脱犯罪化統制であると同時に社会政策として広がりつつあるハーム・リダクションが「逸脱の経済化」の一つの現れであることを示唆している.
著者
新海 浩之
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯社研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.40-58, 2012

刑務所収容は刑罰の執行形式として主要なものとなっているが,その意義については,現在,活発に議論されていない.そのような状況下で,刑務所収容を実際に執行する刑務所職員と,刑務所収容の対象となっている受刑者は刑務所の状況についてどのような心象を抱いているのだろうか.本稿では刑事収容施設法の施行後に導入された専門的処遇との関係で職員が抱いている印象について,研修の後に示された意見を基に探り,LA受刑者に対するアンケートを元に受刑者の抱いている刑罰に対する印象について探ることを試みた.職員は新法によって導入された専門的処遇との関係で自らの役割に戸惑いながらも担当する受刑者の社会復帰と改善更生を目指して仕事をする必要性を認識しており,一方,LA受刑者は受刑に関して不満感を抱きながら,自らが変化する必要性を感じているが,再犯の可能性は低いと考えていること等が判明した.これらは今後のLA受刑者の処遇に向けた方向性も示していると考えられる.
著者
伊藤 茂樹
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.14-26, 2015-10-30 (Released:2017-04-30)

少年非行をめぐる現代の社会的状況について,大人と子どもの関係性に着目して検討する.現代において子どもや若者は,コミュニケーション能力の規範化,SNSの普及などに伴う人間関係の極度なまでの洗練,個性や自己選択を重視する学校教育,貧困や生活苦の前景化などを通じて,性急に「大人になること」を迫られている.その背景には,大人の成熟が遅くなって「子ども化」し,彼らは子どもを子どもとして保護したり教育したりする責任を放棄している状況がある.このような大人が少年非行について語るとき,非行の「新しさ」や非行少年の「強さ」が殊更に強調されるが,実際の非行の多くは伝統的な形で起こっており,非行少年の多くは「弱い」存在である.彼らの社会復帰や更生を可能にする支援として,就労支援など福祉的なそれが強調される傾向があるが,生活の基盤を整える福祉的支援はあくまで必要条件であり,自律的に更生の道を歩み続ける「力」をつけるための教育的支援が十分条件として不可欠である.
著者
岩井 宜子
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.27-38, 2015-10-30 (Released:2017-04-30)

我が国の少年矯正の中心を担う少年院は,大正11年の矯正院法に端を発するが,その位置づけは,明治初年以来社会における非行少年保護のために培われてきた感化院教育と刑事罰の中間に位するものとされてきた.昭和23年の新少年法とともに制定された少年院法は,大きな改正もなされずにきたが,少年院教育は,矯正院以来の伝統的な訓育論の科学化が図られていき,効果的な処遇技法の体系化がなされて,矯正の実を上げていると評価がなされてきた.しかし,非常に閉鎖的な面も指摘されており,収容少年の人権を侵害する少年院職員による暴行・陵虐等の不適正事案も表面化して,透明化を図り,収容少年の権利義務関係も明定した少年院法の全面改正が平成26年に実現し,少年鑑別所についても独立した少年鑑別所法が制定された.より少年院教育が更生の実を上げることが期待される.女子非行の場合は被虐待歴をもつものも多く,少年院は,受容的環境で安心感を育み,自尊感情を育てる個別的な教育が要請される.非行内容の変化も見られるが,女子非行の場合,やはり,性被害が大きな意味を持つことは変わらないと思われる.
著者
前野 育三
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.11-26, 2002-10-26 (Released:2017-03-30)

修復的司法は,数年前までは,日本では,ごく少数の人以外にはまったく注目されていなかった.今日では実践例も現れ,修復的司法について論じられることもずいぶん多くなった.それとともに,修復的司法とは何か,についても,見解の相違が目立つようになってきた.本稿では,日本社会で今なぜ修復的司法が求められるのかを論じ,ついで,それに適した修復的司法は,どのような条件を備えた,どのようなタイプのものであるかを論じることにしたい.
著者
トンリー マイケル
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.11-29, 2008

アメリカの刑事政策がなぜ,これほど厳しいのかということに関し,従来なされてきた解釈は,いずれも説得力に欠けている.犯罪率の上昇,犯罪に対する大衆の不安増大,選挙を第一に考える政界の利己主義は,どれもその答えとはなりえない.犯罪率に影響を及ぼす政府権限の制約,国民の多様化と「他者の犯罪学(排他的犯罪学)」,特権階層が犯罪被害者となる危険性の上昇,グローバリゼーションと急速な社会変化に伴う治安の悪化など,さまざまな「後期近代の状況」も同じく答えにはならない.これらは1975年から2000年までのほぼ全期にわたって,どの先進国にもみられた特徴であり,にもかかわらず,そうした国々の大半は,極端なまでに政策を峻厳化させることはなかった.「大衆迎合的な厳罰性」「Penal Populism」といったあいまいで過度に一般化された概念や,喧伝されているネオ・リベラリズムもやはり,答えではない.複数の国に共通してみられ,説得力を持つ事象も確かにある.刑事政策が穏健で,拘禁率が低い場合,そうした国では収入の格差が小さく,信頼関係と合法性が高度に保たれ,国家の福祉基盤も強固で,刑事司法は政治化されたシステムと裏腹に専門化されており,政治文化は対立的ではなく,合意の下に成り立っている.これら要素のどれを取っても,アメリカという国は評価の低い方に位置づけられるのだが,問題はその理由である.答えは,国家の歴史・文化という明確な特徴の中に求めるべきであろう.4つの際立った特徴が挙げられる.すなわち,アメリカ政治の「偏執狂的特徴」,原理主義者の宗教観と結びついた二元論者的道徳主義アメリカ憲法の無用の長物化と,あからさま庶民感情が政策を動かしうる政治文化,そして,アメリカにおける人種関係の歴史である.
著者
岡本 英生 森 丈弓 阿部 恒之 斉藤 豊治 山本 雅昭 松原 英世 平山 真理 小松 美紀 松木 太郎
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.84-93, 2014

大規模災害後の被災地では,ドアや壁が壊れて外部から侵入しやすくなった建物や,人々が避難して無人になった家屋や店舗が多くなることなどから,便乗犯罪が発生しやすい.また,災害によるダメージからの回復が遅れればそれだけ犯罪を誘発する要因が解消されず,犯罪は発生し続けることになる.逆に言えぼ,災害被害からの復旧・復興が速やかに進めば,犯罪発生は抑制されることになる.災害の被害が大きいほど,また災害被害からの回復が遅いほど犯罪が発生しやすいということは,阪神淡路大震災(1995年1月発生)のあとの被災地住民を対象とした調査では示されている.そこで,本研究では,地理的条件などが異なる東日本大震災(2011年3月発生)でも同様なことが言えるかどうかを調べた.東日本大震災のあとの被災地(宮城県及び福島県)の住民(n=1030)を対象にインターネット調査を実施し,ロジスティック回帰分析により検討したところ,震災被害が大きいと,また震災被害からの回復が遅いほど,「自転車・オートバイ盗」や「住宅への空き巣」が発生しやすいことなど,阪神淡路大震災後の調査と同様な傾向が確認できた.
著者
安田 恵美
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.170-185, 2013

終末期にある受刑者においては,その後,刑の執行停止を用いて「塀の外での死」を迎える者と,拘禁が継続され「塀の中での死」を迎える者がいる.この点,実務では,出所後の受け皿が見つかるか否か,という点が重要視されているようである.とりわけ,出所後の受け皿の確保が困難なのは,いわゆる「社会的排除状態」にあった者である.彼らについては,社会で孤独死するよりも,簡単な葬儀もしてもらえる「塀の中での死」の方が幸せなのではないか,とすら言われることもある.しかしながら,「死」という人生最後の局面においてすら「市民」としてではなく,「受刑者」であることが優先されている現状は,受刑者の尊厳を著しく傷つけるものではなかろうか.それゆえ,一部で行われている刑の執行停止により「塀の外での死」を確保するという試みは,終末期にある受刑者すべてに対してなされる必要があろう.しかしながら,この点に関する議論はほとんどなされていない.本稿は治療を理由とした刑の執行停止という制度を用いて「塀の外で死ぬ権利」を保障する試みがなされつつあるフランスに目を向け,受刑者の「塀の中での死」に対する議論の必要性を強調するものである.
著者
土井 政和
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.67-81, 2014

本稿は,まず,更生保護法施行前後における保護観察実務の変化の存否とその背景について述べたのち,刑事司法と福祉との連携が進行していく中で,保護観察の将来の方向性はいかにあるべきかについて言及する.次に,刑事司法と福祉との連携を促進し,対象者の社会復帰支援を強化する福祉の側からの試みが現在どのような課題に直面し,また,刑事司法制度にどのような課題を提起しているかについて検討する.本稿では,検察庁への社会福祉士の配置及び保護観察所による更生緊急保護事前調整モデルの二つを取り上げる.特に更生緊急保護事前調整モデルは二つ可能性をもつ.一つは,対象者が保護観察所に赴いてから手続をとる現在の更生緊急保護制度における時間的制約を解消し,早期に福祉に繋ぐことを可能にすること,もう一つは,対象者の選択に関し,被疑者段階にある対象者に対して綿密な情状調査が一種の「起訴猶予前調査」として行われ,更生緊急保護実施後の経過が良好でない場合は再起するという運用をもたらす可能性があることである.近年,再犯防止を目的として諸施策の試行が拡大しているが,再犯防止概念は本人支援と社会防衛の両者を内包しており,その用い方によっては,視点が本人支援から社会防衛へと容易に転換しうるものであることから,福祉の刑事司法化をもたらさないためにも,福祉は刑事司法との関係において対等性・独立性を失わないようにしなければならない.
著者
伊豆丸 剛史
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.24-36, 2014

長崎県地域生活定着支援センターでは,主たる業務である矯正施設を退所する障がい者・高齢者への福祉的支援だけではなく,捜査・公判段階にある障がい者・高齢者に対する福祉的支援にも積極的に取り組んできた.その理由は,ひとえに矯正施設退所者を支えるシステムだけではなく,矯正施設に至る前のより早い段階,即ち刑事司法手続上の捜査・公判段階から福祉的介入がなされるシステムも同時並行的に構築していかなければ,社会的弱者を犯罪へ至らしめる負の連鎖は,真の意味で断ち切ることができないのではないかと実感したからである.こうした問題意識から,長崎県地域生活定着支援センターでは,社会福祉法人南高愛隣会等と協働し,平成23年度から調査研究事業に基づく様々な司法と福祉のモデル的実践を積み重ねてきた.また,その一環として,平成25年度には定着支援センター内に「司法福祉支援センター」をモデル的に開設し,被疑者・被告人に特化した支援も実践してきた.本稿では,これらの取り組みから見えてきた捜査・公判段階からの障がい者・高齢者支援における成果や課題について述べるとともに,司法と福祉の狭間を紡いでいくために,これまで交わることのなかった様々な機関が互いを知り,深めあうことでの「イノベーション」の必要性を説く.