著者
竹野 忠弘
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F12-1-F12-8, 2019 (Released:2019-09-26)

「改善」主義への疑問=「かんばん」のない場合の「改善」運用問題 中小製造業企業経営において,「作業改善」活動のみがもちこまれてしまうと人員削減や事業そのものの廃業・転業などの問題を招くことが地元企業経営者やコンサルタントから指摘されてきた。すなわち量販量産の必要性がない場合や受注が「平準化」されていない場合,現場改善した中小企業は,少量の注文を効率的にこなすだけの「縮小均衡」に陥ると指摘されてきた。本論文では,こうした状況について,想定事例に基づき算術的に検討する。すなわち,現場「改善」の生じる利益は,新規事業開拓がされない場合,人件費の削減分として得られることを示す。その結果,「改善」は経営者には「利益」をもたすが,従業員には事業縮小と人員削減という不利益をもたらすことを指摘する。企業全体が事業を存続させ相互的な利益を得るには,経営側には「平準化」された注文を開拓できる製造体制づくりが必要となる。最後に,そのための改革・戦略の方向性について検討し提示する。
著者
宮重 徹也
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F13-1-F13-7, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究では,バイオ医薬品企業のパイオニアであるアムジェン社とジェネンテック社の 2社の事例から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離する傾向にあることを明らかにする。 まずは,医薬品企業の研究開発を分析した既存研究をまとめるとともに,低分子化合物医薬品とバイオ医薬品のそれぞれの研究開発プロセスを説明のうえ,バイオ医薬品の研究開発における特質を示す。続いて,バイオ医薬品企業であるアムジェン社の計量分析から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離していることを明らかする。さらに,アムジェン社とジェネンテック社の事例分析から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離していることを明らかにしていく。なお,アムジェン社については独立企業であり計量分析データが収集できたが,ジェネンテック社はロシュ社の子会社となっており,同社単独の計量分析データが収集できなかったため,計量分析は実施していない。
著者
竹岡 志朗
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F17-1-F17-7, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究は,近年注目されている機械学習技術,これを用いたテキストマイニングの新しい手法に関するものである。具体的には,機械学習技術を用いて商品・サービスの特徴をテキストマイニングによって分析・可視化する手法を提案する。今回提案するテキストマイニングの手法は,現在主流の計量テキスト分析で用いられる集計値に基づくものではなく,機械学習技術によって算出される単語の分散表現に基づいたものである。今回は,水族館のクチコミを分析対象とし,分散表現テキストマイニングの手法に,さらに外形的データ(仕様など)を併用すること,つまり単語の類似度と外形的データを総合的に分析することで,消費者の体験によって構築される意味と仕様などの関係を可視化する手法を提案する。分散表現に基づいたテキストマイニングは,まだまだ未完成の技術であり,定まった手法ではないが,この技術の応用可能性について,実際のデータに基づいて検討する。
著者
嶋根 政充
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F23-1-F23-8, 2019 (Released:2019-09-26)

一般に承継なき承継で行われるファミリー型事業は,組織-個人の軸ではなく,技術―市場の軸がしっかりしている企業である。そこには他社では追随できない技術をもっているか,市場で他社があまり行われていないかの,いずれにせよ,ニッチの事業で成り立っているのであり,いわば持続的イノベーションを不断に行っている企業なのである。これらは,いわゆる“グローバルニッチトップ企業”(国際市場の開拓に取り組んでいる企業のうち,ニッチ分野において高いシェアを確保し,良好な経営を実践している企業)との共通点もあるともいえるわけである。 本稿では,強みのある技術を中心に円滑に事業承継が進み,今なお業績を維持している,森野化工株式会社と株式会社沼澤製作所を対象として取り上げ,半構造化インタビューによる事例研究を行った。その結果,顧客満足度を向上させるために不断の努力を行う点などは共通点として挙げられる一方,特許を取ることは技術のニッチを揺るがすということで,特許を取らない戦略をとる沼澤製作所と,汎用技術を応用する森野化工とは,その戦略が異なったなどの相違点も見られた。
著者
石毛 昭範
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F7-1-F7-6, 2019 (Released:2019-09-26)

企業におけるワークルールの知識普及や遵守については,少なくとも経営学分野からの検討は十分行われてこなかった。本稿では,企業におけるワークルールの知識普及がこれまでどのように行われ,どういった問題があったかについて述べる。これに対して,企業に対するインセンティブとなりうるものとして労務監査・労働条件審査があるが,その広がりに寄与していると思われる「公契約条例」の歴史や意味,役割,さらにはその前提となる ILO第 94号条約の意義について論じる。そして,企業におけるワークルールの知識普及や遵守に対して,公契約条例および労務監査・労働条件審査がどのように関わり,そこにどのような意義や問題点があるか,そして今後どのような方向性が考えられるかについて考察する。