著者
阿部 淳一 保坂 健太郎 大村 嘉人 糟谷 大河 松本 宏 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故により,多量の放射性物質が環境中に放出され,広い地域に拡散した.3月15日には,当該発電所から167 kmに位置する筑波大学構内でも,最大放射線量2.5 µSv/hが大気中で測定された.野生きのこ類および地衣類の放射性物質濃度を調査するため,構内およびその周辺で発生していたきのこ類8種および地衣類2種を4月26日に採取し,本学アイソトープ総合センターで放射性セシウム(137Cs, 134Cs) およびヨウ素(131I)濃度を測定した.その結果,きのこ類ではスエヒロタケ (木材腐朽菌)>ツチグリ(外生菌根菌),チャカイガラタケ(木材腐朽菌)>Psathyrella sp.1,Psathyrella sp.2 (地上生腐生菌)の順に,それぞれの核種で濃度が高かった.スエヒロタケでは137Cs:5720,134Cs:5506,131I:2301 (Bq/kg wet)であり,これは,2004年に構内で採取した標本と比較しても極めて高い値であった.なお,アミガサタケ,カシタケ(外生菌根菌),ヒトクチタケ(木材腐朽菌)では,放射能物質濃度は比較的低かった.一方,地衣類では,放射性物質の濃度が極めて高く,コンクリート上で採取したクロムカデゴケ属の一種では137Cs:12641,134Cs:12413,131I:8436 (Bq/kg wet),樹幹から採取したコフキメダルチイでは137Cs:3558,134Cs:3219,131I:3438 (Bq/kg wet)であった.これまでの報告で,きのこ類や地衣類は放射性物質を蓄積することが報告されているが,今回の調査でも,そのことが認められた.現在,継続的に調査を行っているが,その結果も加えて報告する.
著者
大前 宗之 折原 貴道 白水 貴 前川 二太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2011 (Released:2012-02-23)

地中に子実体を形成する菌類,いわゆる地下生菌の大部分は外生菌根菌であり,これらは外生菌根性の樹木が分布する地域を潜在的な分布域とする.日本には,様々な外生菌根性の樹木が広く優占しているため,これら地下生菌の多様性も高いことが推察される.しかし,日本における地下生菌の分類学的な研究は著しく遅れており,その多様性の全貌把握には至っていない.HydnotryaはPezizales,Discinaceaeに含まれる地下生菌であり,日本ではこれまでH. tulasnei(クルミタケ)の一種しか報告されていない.しかし,菌根由来のDNAを用いた系統解析により,日本にはより多くの系統群が分布している可能性が示されている.そこで,演者らは,日本におけるHydnotrya属菌の多様性を明らかにすることを目的とし,採集した子嚢果及びGenBankのデータを用い,核rDNAのITS領域,及び28S領域の分子系統解析を行った.その結果,日本におけるHydnotrya属菌は大きく3つのクレード(クレードA, B, C)に分かれた.クレードAはアジア,北アメリカ,ヨーロッパの種から構成され,その中で,日本産標本は,韓国の外生菌根から検出されたHydnotrya属菌と単系統群を形成した.クレードBは日本産標本のみから構成され,クレードAの姉妹群となった.クレードCは日本産の標本とヨーロッパ産H. cubisporaから構成された.
著者
松田 陽介 清水 瞳子 森 万菜実 伊藤 進一郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2009 (Released:2009-10-30)

イチヤクソウ属植物は根に菌との共生体であるアーブトイド菌根を形成し,自らの光合成生産物に加え,根系に定着する菌根菌を通じて周囲の樹木から光合成産物を獲得すると示唆されている.イチヤクソウは日本の様々な森林生態系の林床に生育する常緑多年生草本であるが,上記のような栄養獲得様式に関する知見はない.そこで本研究では,イチヤクソウの栄養獲得様式を明らかにするための端緒として,異なる光環境下で生育する個体の菌根形成とその形成率の季節変化,定着する菌類を調べた.調査は,三重県津市のコナラ・クヌギ二次林で行った.2007年1月から11月にかけて,合計6回,イチヤクソウ3個体ずつを明所,暗所から採取した.採取個体の光環境は,各個体と林外の被陰されない場所における照度の比較にもとづき相対照度として算出した.各個体の根系は,基部,中央部,先端部の3つの部位に大別し,各部位から10~30枚の切片を作成してから,光学顕微鏡観察を行った.根の表皮細胞に貫入する菌根菌菌糸の侵入形態にもとづき6タイプ(コイル初期,コイル,分解初期,分解,コイルなし,デンプン)に大別し,その割合を測定した.上記調査のために採取した個体,さらにDNA解析用に採取した個体の菌根からDNA抽出をしてからITS領域のシークエンス解析を行った.得られたDNA塩基配列はBlast解析を行った.採取した全ての根で菌糸コイルが確認されたことから,イチヤクソウにおいてアーブトイド菌根の形成を明示した.明所,暗所における菌糸コイルの形成率は,それぞれ16.8%から46.2%,14.1%から58.1%と季節によって異なり,上層木により林冠が被覆される5月,7月の夏期において高くなる傾向を示した.菌糸コイルの形成割合は根の部位により異なり,根の先端部から基部にかけて減少する傾向にあった.根に定着する菌種として,現在までに,主としてベニタケ科が推定されている.以上より,イチヤクソウは林床の光環境が悪くなる条件下で菌根形成を,特に根の先端部で高頻度に行なうと考えられた.さらに,イチヤクソウに定着する菌根菌種はいずれも外生菌根菌種と分類学的に同一であるため,上層木のコナラ,クヌギに外生菌根を形成する菌と菌糸を介して繋がっている可能性がある.
著者
Furukawa Hisahiko Abe Yasuhisa Neda Hitoshi
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.p235-245, 1983-07
著者
下野 義人 広井 勝 上田 俊穂 後藤 康彦 高松 進
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.41, 2009 (Released:2009-10-30)

ニセクロハツには5型がある *下野義人1)・広井勝2) ・上田俊穂3) ・後藤康彦4) ・高松進5)(1)大阪府立香里丘高;2)郡山女子大;3)長岡京市;4)我孫子市;5)三重大生資) Russula subnigricans consists of the five genetic species, by *Y.Shimono1), M.Hiroi2), T.Ueda3), Y.Goto4), S.Takamatsu5)(1)Kourigaoka H. S.; 2) Koriyama Women’s col.; 3) Nagaokakyou City; 4) Abiko City; 5) Mie Univ.) ニセクロハツは子実体に触れたり,傷つけたり,あるいは子実体を切断すると,その部分が赤変したままで,クロハツやクロハツモドキのように赤変後,黒変しないきのこである.リボソームDNAの28SおよびITS領域に基づいたクロハツ節の解析結果から,クロハツは3型に,クロハツモドキは9型に,ニセクロハツは5型にそれぞれ分かれた.ここではニセクロハツの分子系統解析の結果,子実体の巨視的な形態的特徴・顕微鏡的な特徴に関して,報告する. 28Sを用いた分子系統解析ではニセクロハツは大きなグループを作り,遺伝的に異なった5群(型)に分かれた.しかし,ITS領域の解析ではニセクロハツの3型(B-2,B-3,B-4)は同一群に属したが,それ以外の2型(B-1,B-5)は3型と同じ群に属さなかった.タイプ標本を含むB-1はクロハツと同じ群を形成した. 子実体の巨視的な形態観察ではヒダが細かくて柄が長いB-2,ヒダの赤変性が強いB-3など,型間に違いが見られた.顕微鏡的な特徴では胞子の表面構造やカサの表皮の状態が,タイプ標本を含むB-1とB-3との間で明らかに異なった. 以上のことから,分子系統解析で得られた5型間に子実体の巨視的な,あるいは顕微鏡的な特徴の違いが見られたので,B-2やB-3はニセクロハツの別種か,あるいは変種と考えることができる.
著者
佐藤 大樹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年4月から5月にかけて筑波山中腹の3箇所の沢でフタバコカゲロウ(Baetiella japonica)を採集した.このカゲロウは大きめの石や岩盤の表面にしがみついており,左手で水をよけ,現れた幼虫を鋭利なピンセットでつまみとり氷冷して研究室に持ち帰った.採集された複数の個体において,肛門から伸び出た菌糸が観察された.5月23日に採集された個体では,21頭中4頭が肛門から菌糸を伸ばしていた.菌体の基部は半球形に寄主の後腸クチクラに食い込んでおり,周囲は褐色を呈していた.菌体は主軸があり,肛門から伸び出した後に隔壁部分から一箇所あたり2-3本に分枝し,これを繰り返した.菌糸先端付近は,6-14μm間隔で隔壁に区切られた胞子形成細胞を形成し,続いて斜めにトリコスポア(trichospore:離脱生の胞子嚢)を形成した.トリコスポアは細長い円筒形でカラーはなく,長さ50-62.4μm幅4.0-4.6μmであった.同様の菌体基部,分枝様式を持った菌体において,菌糸の先端部分が癒合し,中間に紡錘形の接合子の形成が認められた(高さ8.0-9.4μm幅38.0-42.0μm).水生昆虫の肛門から菌体が伸び出すトリコミケテス類は,レゲリオミケス科(Legeriomycetaceae) のOrphella, Pteromaktron, Zygopolarisの3属である.Orphella属とは,トリコスポアの形態が異なり,Pteromaktronとは分枝のタイプが異なる.Zygoporarisとは,トリコスポア形成様式が似ているが,接合子の形態が異なる.従って,本属を新属と判断した.トリコミケテス類は観察に適した良い状態の標本を採集することが困難である場合が多いが,今回は,胞子形成が始まったばかりの菌体をスライドガラス上に1滴の沢の水とともに5℃で追培養を行い,トリコスポアの形成過程を約10日間連続観察できた.レゲリオミケス科のように分枝する菌体を持つトリコミケテス類は,分離培養までは達成できなくても,追培養による形態形成観察は有用な手段であると考えられた.