著者
谷亀 高広 大和 政秀 鈴木 彰 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.175, 2006 (Released:2007-06-05)

ヒメノヤガラ (Chamaegastrodia sikokiana)は本州、四国、九州のモミ林や、カシ林に自生する無葉緑ラン科植物の1種である。本研究では、ヒメノヤガラの生活様式の解明と増殖・保全を目的とし、菌根菌の種同定とその性質について研究を行った。供試植物は千葉県天津小湊町清澄山(優占樹種 モミ)産の3株と、高知県越智町横倉山(優占樹種 アカガシ、スギ)産の1株とした。菌根菌の分離培養では、一般にラン型菌根菌の分離に使用されるCzapek・Dox+酵母エキス寒天培地ではコイル状菌糸からの菌糸の伸長が見られなかったことから、外生菌根菌培養用の培地として知られるMMN培地を用いた。その結果、計17系統の菌根菌が分離された。これらの培養菌株からCTAB法によりDNAを抽出し、rDNAのITS領域をPCRにより増幅し、得られた塩基配列をもとに相同性検索を行い、系統解析を行なった。その結果、分離菌株は担子菌類のCeratobasidiaceae、いわゆるRhizoctoniaと相同性があることが確認された。また、自生地の状況や分離菌株がMMN培地で生育したことから、これらの菌根菌が樹木に外生菌根を形成するのではないかと考えられた。そこで、得られた菌株の内、清澄山産の供試植物より分離された2系統について、同自生地における優占種のモミに対し、接種試験を行った。分離菌株を液体MMN培地で培養し、滅菌土壌で生育させたモミ苗の根元に埋設させたところ、1ヶ月後に外生菌根が形成された。さらに、形成された外生菌根から得られたDNAを解析したところ、接種した菌株であることが確認された。このことから、ヒメノヤガラは、樹木に外生菌根を形成するRhizoctonia属菌を菌根菌として生育することが明らかとなった。外生菌根を形成するRhizoctonia属菌と無葉緑ラン科植物との共生関係については、海外では数例が報告されているが、日本国内では初めての報告である。
著者
折原 貴道 池田 枝穂 大和 政秀 保坂 健太郎 前川 二太郎 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2009 (Released:2009-10-30)

きのこを形成する菌類の中でも, 被実性の子実体を形成し, 胞子の射出機構を欠失している点が特徴であるシクエストレート菌 (sequestrate fungi) の分類学的および系統学的研究は日本国内において特に遅れており, 今後の研究により多くの新分類群や未知の系統が明らかになることが期待される. 国内のシイ・カシ類樹下に発生するシクエストレート担子菌コイシタケはHydnangium carneum の学名が与えられているが, オーストラリアに分布しユーカリと特異的に菌根を形成するH. carneum とは, 形態的・生態的特徴のいずれも大きく異なる. 演者らは, コイシタケおよびブナ・ミズナラ樹下に発生し, 形態的に本種と酷似する未報告種(仮称:ミヤマコイシタケ)の形態学的評価および核リボソームDNAのITS領域を用いた系統解析を行った. 分子系統解析の結果, コイシタケはH. carneum とは遠縁である, ベニタケ属の系統内で分化したシクエストレート菌であることが示され, 形態的にも子実層部のシスチジアなど, ベニタケ属菌に特徴的な構造が確認された. ベニタケ属の系統内では複数のシクエストレート菌の系統が分化していることが知られているが, コイシタケおよびミヤマコイシタケはそれらの既知系統のいずれにも属さなかった. また, コイシタケはミヤマコイシタケと種レベルで異なることが分子系統解析結果からも支持された. 両種は肉眼的には酷似しているが, 担子胞子や担子器の形態など複数の顕微鏡的特徴に差異があることも明らかになった. ミヤマコイシタケの担子胞子はベニタケ属菌に特徴的なアミロイド反応を呈する一方, コイシタケの担子胞子は非アミロイドであることから, 両種を含む系統ではシクエストレート菌への系統進化が起こった後に担子胞子のアミロイド反応が消失したと考えられる. また, 両種の分布状況に基づく生物地理学的考察も行う.
著者
遠藤 直樹 山田 明義
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.81, 2011 (Released:2012-02-23)

テングタケ属タマゴタケ節(Oda and Tanaka 1999)には,A. caesarea,タマゴタケ(A.hemibapha),キタマゴタケ(A.javanica)など食用価値の高い種が含まれる.しかし,これら菌種では,純粋培養の困難さから菌根苗を用いた人工栽培研究は殆ど行われていない.演者らは昨年の本大会においてタマゴタケ節菌種の菌根合成を報告した.本研究では,タマゴタケ節菌種を定着させたアカマツ菌根苗の順化について検討するとともに,供試菌株の分子系統解析を行うことを目的とした. 菌根合成によりタマゴタケ節菌種を定着させたアカマツ菌根苗を作出した:タマゴタケEN-3株(山梨県鳴沢村産)で8苗,同EN-31株(長野県伊那市産)で3苗,同Asahikawa2-2株(北海道旭川市産)で4苗,キタマゴタケEN-4株(長野県松川町産)で1苗,ドウシンタケEN-29株(長野県南箕輪村産)で1苗.EN-3株とEN-4株を定着させた菌根苗は,滅菌したA層B層混合土壌を詰めた素焼き鉢に植え付け,ガラス温室内の地面に埋設し,最大350日間養苗した.EN-31株,Asahikawa2-2株,EN-29株を定着させた菌根苗は,滅菌したA層B層混合土壌を詰めた250ml容のポリカーボネートポットに植え付け,インキュベータ内の20℃,8000ルクス連続照明下で,最大180日間の養苗した.温室順化の結果,EN-3株を定着させた菌根苗では8苗中6苗で菌根が生残し,菌根量はいずれも顕著に増加していた.EN-4株を定着させた菌根苗では,菌根の生残は認められたが,菌根量の増加は殆ど見られなかった.インキュベータ内での順化の結果,供試した全ての苗で菌根の生残が認められたが,菌根量の増加は必ずしも顕著ではなかった.順化後の菌根の形態観察では,タマゴタケとキタマゴタケの菌鞘構造が酷似していたが,ドウシンタケでは異なっていた.ITS領域の塩基配列をもとにNJ法により系統解析した結果,タマゴタケ3株はいずれも同一クレードを形成した.キタマゴタケでは,EN-4株とEN-62株(大分県産)が同一クレードを形成したが,茨城県産標本は異なるクレードを形成した.
著者
村上 康明
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.jjom.H21-11, 2010-11-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
5

日本新産種Cystoderma tricholomoidesについて報告した.本種は外見的には,大型であること,膜質のつばを有する点などにより,オオシワカラカサタケCystoderma japonicum Thoen & Hongoに似るが,傘の色が濃色であること,つばが,つぼと見間違うほど柄の下部に位置することにより区別される.さらに顕微鏡的にはクランプコネクションを有しない点が顕著に異なる.
著者
帆足 美伸
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.jjom.H16-19, 2005 (Released:2020-08-31)
参考文献数
13

日本新産種であるナヨタケ属菌Psathyrella delineataの発生を滋賀県および.東京都で確認したので,記載および図を添えて報告した.本種の和名として,ハゴロモイタチタケを提唱した.
著者
後藤 康彦 桧垣 正吾 柴田 尚 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.53-58, 2022-11-01 (Released:2022-12-28)
参考文献数
7

福島原発事故後に,富士山の方位別および標高別に野生食用きのこ3種を採集して,子実体の放射性Cs濃度を測定した.富士山東面では全ての地点で最高値を示す試料が多く,特に中標高地域が高かった.次いで北東面の中標高地域および高標高地域で高い傾向にあった.北面では低い値を示す試料が多く,高標高地域では特に低い値を示す傾向にあった.
著者
青池 蕗子 玉井 裕 宮本 敏澄 矢島 崇
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.177, 2006 (Released:2007-06-05)

食用として栽培されているきのこを中心とする担子菌類のセンチュウに対する捕捉能力を調査した。シャーレ内の2.0%素寒天平板上にPDAを用いて培養した菌を接種し、インキュベートし、菌糸伸張を確認した後、センチュウを接種し、センチュウと菌糸の挙動を顕微鏡下で継続的に観察した。センチュウはシイタケほだ木からベールマン漏斗装置を用いて採取し培養したものを用いた。供試菌のヒラタケ(Pleurotus ostreatus)4菌株は全てセンチュウを捕捉したが、菌株による捕食能の差は顕著ではなかった。同じくPleurotus属であるウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)1菌株もセンチュウ捕捉能を示した。この2種5菌株にセンチュウを接種した際には、24時間以内にほとんど全てのセンチュウが動かなくなり、その後、2_から_3日のうちにセンチュウの体内に菌糸が伸長し、内容物が消失した。菌糸は体内の一部ではなく全体に伸長した。センチュウが動かなくなる時点での特別な捕捉器官は確認できなかっ た。シイタケ(Lentinula edodes)6菌株、サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)3菌株はいずれもセンチュウ捕捉能を示さなかった。ハタケシメジ (Lyophyllum decastes)2菌株に関してはセンチュウ捕捉能が認められた。ハタケシメジの菌糸が伸長した寒天培地に接種したセンチュウはおよそ7日後にはほとんどのものが動かなくなった。センチュウ体内への菌糸の伸長が確認できるまでに7日以上の日数を要した。菌糸のセンチュウ体内への伸長の様子はPleurotus属と同様、全体へ伸長していた。ハタケシメジにおいても特別な捕捉器官の確認はできなかった。
著者
常盤 俊之 奥田 徹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.jjom.H12-199, 2001 (Released:2020-10-13)
参考文献数
16

日本産Hypomyces菌,H. armeniacus,H. luteovirens,H. hyalinusを報告した.うち,H. armeniacusは日本新産種として記載した.H. luteovirensは子嚢胞子がこれまでの報告より大型で,H. hyalinusは子嚢殻がKOH(+)を示す標本が認められたため,それぞれ新知見として報告した.
著者
Daniel GUEZ 長沢 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.jjom.H11-75, 2000 (Released:2020-10-13)
参考文献数
16

従来日本から未記録であったスッポンタケ科の菌,Mutinus elegans の日本における発生を初めて報告し,本種にタヌキノベニエフデ(狸紅絵筆)の和名を与えた.本種はキツネノエフデ(M.bambusinus)に類似するが,子実体がより大形で,かつほぼ全体的に比較的濃い赤色(淡紅赤色~珊瑚赤色)を帯びる点で区別される.産地としては今のところ大阪府高槻市が知られているのみであるが,11月から12月にかけて,道端や開放地などの良く陽の当たる場所においてマダケやクヌギ,ケヤキ,クスノキなどの木の下あるいはそれらの近くの地面に発生する.
著者
小林 裕樹 重信 秀治
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-21, 2022-05-01 (Released:2022-07-07)
参考文献数
14

愛知県の林内地上より,有彩色の色彩を欠き,傘と柄の全体が黒い鱗片で覆われ,全体に強い黒変性を持つアカヤマタケ属菌を見出した.形態観察およびrDNA領域内のITSおよび26S rRNAの2箇所の配列を用いた系統解析の結果,2020年に中国より新種報告されたH. griseonigricansと同定した.本邦からの本種の報告は初となる.
著者
小長谷 啓介 宮本 敏澄 玉井 裕 矢島 崇
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.81-90, 2020-11-01 (Released:2020-12-18)
参考文献数
61

2000年に噴火した有珠山の噴出物堆積地において,2004年に調査した既報告の大型菌類の発生調査を2006年まで継続して行い,噴火から間もない遷移初期の立地で繁殖する大型菌類相の経年変化を明らかにした.菌種数は,2004年の9種から緩やかに増加し,2006年には23種が確認された.外生菌根菌は2005年秋に初めて4種が確認された.2006年も新たに4種が発生し,計8種が確認された.その他の腐生菌は,2004年に確認されていたナヨタケ科,モエギタケ科,キシメジ科の菌類が継続して発生しており,種数は年経過とともに緩やかに増加した.次年度に消失した菌種は,2004-2005年では2種,2005-2006年では1種と少なかったのに対して,新たに確認された菌種は2004-2005年では9種,2005-2006年では8種と多かった.噴出物堆積地では,埋没した植物遺体や更新稚樹を資源として利用する菌類が繁殖しており,その菌類相は年経過とともに新たな種が加わる形で推移していた.
著者
常盤 俊之 広瀬 大 野中 健一
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.111-117, 2021-11-01 (Released:2021-12-28)
参考文献数
37

日本産イグチ類子実体に寄生するSepedonium属菌を調査した結果,日本新産種であるS. chalciporiとS. laevigatumを発見した.S. chalciporiはコショウイグチを寄主とし,輪生状に発達したフィアライドと表面構造が樽状の疣状突起となる厚壁胞子が特徴的である.また,S. laevigatumは,顕著に長いフィアライドと表面構造が緻密な結節状の厚壁胞子により特徴づけられる.