著者
大園 享司
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.94, 2008 (Released:2008-07-21)

ヤブツバキの内生菌・葉面菌とその季節および葉齢にともなう変動を調べた.調査地は京都市西部の大原野森林公園内にあるアカマツ・コナラ・ヤブツバキの優占する二次林である.2004年5,8,11月および2005年2月の4回,ランダムに選んだヤブツバキ成木5個体の高さ約6mの枝を刈り取って年枝を読み取り,葉齢0,1,2,3年の見かけ上健全な葉を各10枚ずつ,合計40枚を採取した.これらの葉から直径5.5mmの葉片を合計160葉片を打ち抜き,表面殺菌法と洗浄法により内生菌と葉面菌をそれぞれ分離した.全体で79分類群の菌類がヤブツバキ葉から出現した.内訳は,内生菌が44分類群,葉面菌が52分類群,共通種が17種であった.内生菌の葉片感染率と分離菌株数は5月から2月にかけて有意に増加する傾向を示し,出現種数は葉の加齢にともなって有意に増加する傾向を示した.一方,葉面菌の葉片感染率は季節・葉齢によらず100_%_であり,分離菌株数は5月に最大となり8月に最小となった.葉面菌の出現種数は季節,葉齢で有意差は認められなかった.8種の菌類が高頻度で出現し主要な菌類と見なされた.Colletotrichum gloeosporioides, Colletotrichum acutatum, Pestalotiopsis sp.1, Aureobasidium pullulans, Phoma sp.1, Ramichloridium sp., Cladosporium cladosporioidesの7種では季節間で出現頻度が有意に変動した.出現頻度の季節パターンはこれらの種間で異なっており,5月にはC. gloeosporioides, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioides, Phoma sp.1が,8月にはA. pullulans, Ramichloridium sp.が,11月にはC. gloeosporioides, C. acutatum, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioides, A. pullulansが,そして2月にはC. gloeosporioides, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioidesが高頻度で出現した.一方でGeniculosporium sp.1 とC. cladosporioidesの出現頻度は葉の加齢にともなって有意に増加した.
著者
松田 陽介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2008 (Released:2008-07-21)

森林生態系に生育する多種多様な植物の根系には,菌根菌と呼ばれる土壌菌が定着しており,個々の宿主植物-菌根菌の間で菌根共生系を構築している.さらに隣接する植物個体間においても,菌根菌の菌糸の繋がり,いわゆる菌根菌ネットワークの構築が示唆されはじめている.本発表では森林生態系における菌根菌ネットワークの実態を明らかにするため,演者らがこれまでに調査してきた菌根共生系を概観し,土壌中における菌根菌の菌糸の繋がりとそれに関わる菌根菌について紹介する.森林の林冠を構成するモミを対象として,10×30 mのプロット内に生育する成木とその実生に形成された菌根の種類とその形成に関わる菌の分類属性を調べた.いずれの根系にも外生菌根が形成され,数十種の菌根菌の定着が示唆された.成木,実生ともに最優占する種はベニタケ属の一種であった.2次林に生育するキンランを3調査地から7個体,ギンランを2調査地から3個体採取した.それらの根には典型的なラン菌根が形成されており,キンランの菌根形成率は14%から63%,ギンランのものは57%から68%であった.菌根から得られた菌由来の塩基配列はキンラン4個体がイボタケ科,3個体がロウタケ科,ギンラン3個体はイボタケ科と最も類似していた.無葉緑性であるギンリョウソウを採取し,その根を観察した.いずれの個体にも,モノトロポイド菌根の形成が確認された.さらにその形成に関与する菌は,ベニタケ属,チチタケ属に属するベニタケ科,さらにイボタケ科に属するものと示唆された.二次林の林床に生育するイチヤクソウの根系を観察した.それらには採取時期を問わず,アーブトイド菌根の形成が確認されたが,菌鞘の形成は確認されなかった.この菌根の形成に関与する菌の特定は現在進行中である.これまでに得られた上記の植物の定着に関与する菌群は,いずれも外生菌根菌に属している.以上のことから,異なる菌根タイプを形成する植物群であっても,類似の菌根菌群の定着の関与が考えられた.これらのことを踏まえ,菌根菌ネットワークの生態的な意義について過去の関連研究も踏まえて議論したい.
著者
青木 孝之
出版者
日本菌学会
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.49-67, 2015 (Released:2016-06-15)

Fusarium属の種の分類,種概念の変遷,本属への分子系統学の導入とその発展,現状について,自らの研究例等を紹介することで概説した。Fusarium属の分類は従来,形態等の表現形質に基づいて行われてきたが,培養下を含めた顕微鏡レベルの表現型質は必ずしも安定でなく,その変異のため種の定義や範囲を巡る論争が絶えず,世界的に共通する合理的な分類・同定法の確立は長期に亘って難航した。1990年代から本格的にFusarium属菌の分類研究に導入された遺伝子DNAの塩基配列に基づく分子系統解析は,本属の分類学に多大な影響を及ぼし,本属の種概念を狭く細分して定義する方向へと収斂させた。その一方で,従来の緩い種の定義に隠れた多数の隠蔽種の発見など,既存の種をさらに細かく分割して記載する必要性も生じ,形態等の表現形質の記載方法もより精密かつ詳細になった。培地や照明条件等,そのデータ取得の条件も細かく定めることが求められる。種の分割も含めて,新たな種が多数記載される一方で,種を定義する上での表現形質の限界も伺われるようになり,分子系統学により識別される種(分子系統種)と表現形質で定義される種(形態種)の乖離も認められる。客観性の高い新種等の記載方法として,分子系統学的な違いに対応する表現形質を用いて記載等が行われる流れにあるが,種を定義するための分子系統データを直接的に記述し,また,命名規約にも準拠する手法の確立が望まれる。
著者
紙野 圭
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.jjom.H22-10, 2011-11-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
12

本稿では,菌類の職場のひとつ,リグノセルロース系バイオマスからのバイオエタノール生産技術開発について,専門でない研究者にとってやや取り付き難いと思われる点を,平易に解説することに焦点を当てた.その取り付き難さは,ターゲットとなる基質が,元々植物という生き物で,固体で,結晶性で,化学的・構造的にヘテロな物質だということに,糖化前処理の種類やバイオマス種の変動因子が掛け合わさることによる.菌類のバイオマス分解のための複雑な酵素系の理解は進み,それを最大限に引き上げる努力も続けられている.一方で,菌類のバイオマス糖化のポテンシャルや多様性は私たちの理解を大きく超えたものであり,角度を変えて読み解く努力を続ければ,糖化技術はさらに向上し,バイオエタノール生産は私たちの生活を支えるひとつの重要なエネルギー源として定着すると思われた.さらに,真菌類から有用な酵素系をみつける実際についても考察した.
著者
小野 義隆
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.jjom.H19-01, 2008-06-01 (Released:2020-07-17)
参考文献数
136

日本には763種のサビキンが知られている.104種が同種寄生性生活環を持ち,116種が短世代型生活環を持つ.192種の異種寄生性生活環が報告されているが,そのうち161種の異種寄生性生活環が日本で実験的に確かめられている.サビキン種は宿主特異性と生活環の違いによって識別できる.このサビキン種の認知・識別方法は,現在最も広く受け入れられている生物学的種概念に合致すると考えられる.宿主特異性と生活環の違いによって識別された近縁種間には,表形形質の共変異パターンの断絶が認められる.表形形質の共変異パターンの分析によって後験的に得られた分類形質によって,宿主特異性と生活環の相違に対応したサビキン種の異同を推定することができる.また,サビキン種の宿主特異性と生活環の特徴を明らかにすることによって,分子系統学的方法で推定されたサビキン系統関係に,より生物学的に意味のある説明を与えることができる.
著者
エストラーダベラスコ ベアトリス ルイスロサノ ファン マニュエル バレア ホセ ミゲル
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.37, 2009

Increased salinization of arable land is anticipated to raise devastating global effects in the coming years. Mediterranean countries already have both arable land salinization and desertification problems. Arbuscular mycorrhizal (AM) fungi have been shown to improve plant tolerance to abiotic environmental factors such as salinity. The AM fungi <I>Glomus coronatum</I>, which is a reperesentative species in salinity environments, and isolated from sand dunes in the Natural Park of Cabo de Gata (SE Spain) was used in our study. Two other AM fungi isolated from non-salinized environments; <I>G. intraradices</I> and <I>G. mosseae</I> were also used in the experiment. <I>Asteriscus maritimus</I> (L.), a member of the Asteracea family, was selected to carry out the greenhouse experiment to be native of lands surrounding the Mediterranean Sea, especially Spain. In this study, <I>A. maritimus</I> plants were grown in sand and soil mixture with two NaCl levels (0 and 50 mM) during 10 weeks of non-saline pre-treatment, following 2 weeks of saline treatment. Results showed that inoculated plants grew more than nonmycorrhizal plants. Unexpectedly <I>G. intraradices</I> was the most efficient AM fungi in terms of fresh weight, dry weight and Qyield although plants inoculated with <I>G. coronatum</I> showed better stomatic conductance. Plants inoculated with <I>G. mosseae</I> showed a intermediate pattern between the other two AM fungi. Based on these results, the AM fungi inoculation helps the growth of <I>A. maritimus</I> in saline conditions and <I>G. intraradices</I> appears to be the most efficient of the three AM fungi studied. This study may be useful in revegetation and regeneration projects by selecting adequate species of AM fungi.
著者
澤畠 拓夫
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.95, 2009 (Released:2009-10-30)

スギエダタケが子実体上に形成する,トビムシを殺す物質を分泌するシスチジアの生態的意義について明らかにする目的で,新潟県十日町市のスギ林でスギエダタケ子実体を,2006年11月13日と20日,2008年10月28日,11月14日と20日に20個,傘表面の写真を撮影した後に採集し,傘の表面および裏面を摂食している動物の個体数を調査した. 子実体の傘表面では,多数(子実体あたり平均91.2個体)のトビムシが観察され,傘表面を摂食していたが、子実層周辺で観察されたトビムシは少数(子実体あたり平均1.9個体)のみで,しかもそれらはすべて死んでいた.トビムシと同様にササラダニと中気門ダニも子実層表面で死んでいるのが観察された(子実体あたり平均0.5個体).これらの小型節足動物遺体には,体表に菌糸が伸長して遺体が子実層に食い込んだ状態となり,ピンセットで引っ張っても離れないものがあった.またトビムシの遺体とその周辺では,子実層から菌糸が脱分化して繁茂する現象が観察された.双翅目昆虫(キノコバエの一種)の幼虫は(子実体あたり平均2.2個体)子実層の間でも死ぬことなしに子実層基部を摂食しているのが観察され,姿は観察されなかったが,陸貝による摂食痕も観察された(調査した全子実体の5分の1に摂食痕あり).子実体の柄では死んだトビムシが観察されることもあったが,子実層の場合のようにトビムシの遺体が柄の表層に食い込むことはなかった. 以上の結果から,スギエダタケのシスチジアはトビムシ等の小型節足動物に対し,子実層裏面と柄において防除効果を発揮するが,双翅目昆虫の幼虫や陸貝に対する防除効果は薄いことが明らかとなった.さらに子実層上で死んだ小型節足動物遺体に脱分化した菌糸が食い込んでいた事実は,この菌が殺した小型節足動物を栄養源としている可能性を示すものである.
著者
田中 栄爾 田中 千尋 柴田 昌三
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.jjom.H20-06, 2009-05-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
6

日本国内のタケ・ササ類に発生する「てんぐ巣」症状 について,Aciculosporium take,Heteroepichloë sasae,Ustilago shiraiana の菌類による病徴の特徴を解説した. さらに開花現象や老齢化などの自然現象によって起きる 「てんぐ巣様症状」との違いを解説した.
著者
竹内 嘉江
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2011 (Released:2012-02-23)

ツガ・コメツガとマツタケ菌との共生関係 竹内嘉江1)・松下範久2)・(1)長野県林総セ・2)東大院農) symbiosis relation between tsuga sieboldii ,t.diversifolia and tricholoma matsutake by y.takeuchi,n.matsushita.(1)nagano pref.for.res.ins.;2)the univ.of tokyo) マツタケ菌が,ツガ・コメツガの根に共生するのかを明らかにするために,野外のマツタケのシロに苗木を植栽して,マツタケの菌根が形成されるのかを調査した.長野県下伊那郡松川町のマツタケが発生する59~66年生アカマツ林において,林内に植栽した31年生ツガと,マツタケのシロ前線に植栽した6年生コメツガ幼木の根を採集し,実体顕微鏡下で観察した.その結果,両樹種ともに,アカマツのマツタケ菌根と形態的に類似した菌根が観察された.これらの菌根からDNAを抽出し,菌類のrDNA-ITS領域の塩基配列を決定した.得られた塩基配列をDNAデータベース登録配列と比較した結果,両樹種の菌根から得られた配列は,マツタケの登録配列と99%以上一致した.これらの結果から,人工植栽したマツ科ツガ属の2樹種ともに,自然条件下でマツタケ菌が菌根を形成することが実証された.このことによりマツノザイセンチュウによるアカマツ被害の多い地域では,ツガ・コメツガを植栽することによりマツタケのシロを保持できる可能性のあることが明らかになった.
著者
青木 孝之
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.21-23, 2018-11-01 (Released:2018-12-12)
参考文献数
3
著者
〓[「登」偏におおざと(「都」のつくり)] 志強 鈴木 彰 吹春 俊光 田中 千尋
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.42, 2007

<I>Hebeloma</I>属, <I>Porphyrospora</I>亜属のアンモニア菌の種同定を行なうため, 交配試験を行なった. 尿素区に発生した子実体の形質に基づき, <I>H. vinosophyllum</I> (日本産), <I>H. aminophilum</I> (オーストラリア産) ならびに<I>Hebeloma</I> sp. (ニュージーランド産) と同定された3菌種を供試した. まず, <I>H. vinosophyllum</I>の培養子実体から単胞子分離によって単核菌糸を得た. 同単核菌糸間の交配試験を行い, <I>H. vinosophyllum</I>は4極性の交配型をもつことを確認した. <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.については, 分離菌株が子実体形成能を消失しているため, スライド培養した複核菌糸先端部の検鏡下で切離あるいは振とう培養によって遊離した菌糸断片の選別によって, それぞれ単核菌糸を得た. <I>H. vinosophyllum</I>の単核菌糸をテスター株として, <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.の複核菌糸をダイ・モン交配したところ, いずれの組み合わせでも交雑は認められなかった. 次に, <I>H. vinosophyllum</I>, <I>H. aminophilum</I>, <I>Hebeloma</I> sp.の単核菌株を用いてモン・モン交配したところ, <I>H. aminophilum</I>と<I>Hebeloma</I> sp.の組み合わせでは交雑が認められたが, <I>H. vinosophyllum</I>と<I>H. aminophilum</I>, <I>H. vinosophyllum</I>と<I>Hebeloma</I>. sp.の組み合わせでは交雑が認められなかった. 以上の結果は, <I>Porphyrospora</I>のアンモニア菌に関する分子系統解析の結果(Deng <I>et al</I>. 2006) を支持するものであり, ニュージーランド産<I>Hebeloma</I> sp.は<I>H. aminophilum</I>と生殖レベルで同一種と取り扱うべきこと, 日本産<I>H. vinosophyllum</I>と<I>H. aminophilum</I>はそれぞれ独立種として取り扱うべきことが明らかになった. * 日本菌学会50周年大会講演要旨集, p. 50.
著者
工藤 伸一 長沢 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.33, 2006

青森市郊外のスギ植林地内草地で採集された2種のきのこを調査した結果,それぞれアカヤマタケ属のアカヤマタケ節(sect. <I>Hygrocybe</I>)およびベニヤマタケ節(sect. <I>Coccineae</I>)に所属する新種と考えられたので報告する. 1)<I>Hygrocybe niveoconica</I> (sp. nov.)_-_トガリユキヤマタケ(新称):子実体は中形で,全体が淡クリーム白色_から_白色.傘は平滑,湿時弱い粘性あり,初め円錐状鐘形,のち開くが中央突出する.ひだは柄に湾生し狭幅,やや密.柄は細長く,基部で多少細まり,中空.表面は平滑.胞子は楕円形,7_-_10×5_-_7μm.担子器は通常4胞子性,ときに2胞子性.アカヤマタケ節に所属し,アケボノタケ <I>H. calyptriformis</I> (Berk.& Br.) Fayodに最も近縁と考えられる.しかし,同種は傘がライラック色を帯び,胞子が6.5_-_7.5×4_-_5μmと小形,また側および縁シスチジアをもつなどの点で異なる.外観的には北アメリカの <I>H. pura</I> (Peck) Murrill(ナナイロヌメリタケ節 sect. <I>Subglutinosae</I>)にも多少似るが,同種は柄に強い粘性があり,また傘および柄の傷んだところがピンク色を帯びると言われている (Hesler & Smith, 1963).2)<I>Hygrocybe ramentacea</I> (sp.nov.)_-_クロゲヤマタケ(新称):子実体は中形.傘は黄色の地に暗褐色の顕著な繊維状小鱗片を生じ,初めやや円錐状丸山形,のち開いて中高の平らとなる.ひだは直生_から_上生あるいは多少垂生し,広幅,疎,淡黄色.柄は下方で多少太まり,中空.表面は黄色,基部で淡黄白色,繊維状.胞子は楕円形_から_長楕円形,8_-_11(_-_13)×5.5_-_7(_-_8)μm.担子器は4胞子性.側および縁シスチジアをもつ.ベニヤマタケ節に所属し,小笠原の母島から報告のあるクロゲキヤマタケ <I>H. hahashimensis</I> (Hongo) Hongoに極めて近縁な種と考えられる.しかし,同種は胞子が7_-_9.5×4.5_-_6.5μmと小形,縁および側シスチジアを欠くと言われている(本郷, 1987).
著者
秋山 綾乃 広瀬 大 小川 吉夫 一戸 正勝
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.45, 2011

ブルーチーズは, 代表的なカビ付け成熟型チーズのひとつで, その生産には<I>Penicillium roqueforti</I>が用いられている.生産過程でのこの菌の添加は, 特有の臭いとテクスチャーを生むことになる.ブルーチーズとして有名なのは, ロックフォールト(フランス), フルム・ダンベール(フランス), ゴルゴンゾーラ(イタリア), スティルトン(イギリス)などで, 今日では, これらの他にもデンマーク, ドイツ, スイスなどのヨーロッパ諸国において, また, 日本においても<I>P. roqueforti</I>を用いたカビ付け成熟型チーズが生産されている.これら多様な原産地と製法の相違は, いくつかの遺伝的に変異した<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズ生産に用いられていることを予想させる.本研究では, 市場で入手した34種のブルーチーズの各々から<I>P. roqueforti </I>を分離し, beta-tubulinのイントロンを含む部分塩基配列(447塩基対)を基にその遺伝的変異を近隣結合法により解析した.分離された34株は, 2つのクレードに分割され, 一方のクレードは, 4種のロックフォールから分離された4株を含29株から成り, もう一方のクレードはフルム・ダンベールから分離された1株を含む5株から成っていた.ロックフォールとフルム・ダンベールの2つは, 最も古くから生産されているブルーチーズで, その歴史はローマ時代にまで遡るといわれている.これら古くから生産されている2つのチーズの生産で異なる系統の菌株が使用されていることは興味深い.ただし, これら2つの系統間で異なる塩基配列数は2塩基のみで, 近縁の<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズの生産に用いられているものと考えられる.ブルーチーズの風味やテクスチャーの相違は使用する原乳や共存する微生物の相違によってもたらされると思われる.
著者
廣岡 裕吏 小林 享夫
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.69, 2007

<I>Cosmospora</I>属菌は,<I>Nectria</I>属<I>Dialonectria</I>亜属(Samuels et al. 1991)を1999年にRossmanらが属へ昇格させたHypocrea目,Nectria科の1属である.現在,本属菌のアナモルフは,5属が知られておりアナモルフとテレオモルフの一元化には至っていない.演者らは,日本で未記録の<I>Fusarium</I>アナモルフを持つ<I>Cosmospora</I>属菌2種を確認したので報告する.1. <I>Cosmospora</I> sp. (アナモルフ: <I>Fusarium</I> sp.): 東京都西多摩郡奥多摩町および宮城県宮城郡利府町の枯れ枝より採集,子のう殻は孔口部に短い付属糸を持ち薄いオレンジ色で,子のう胞子は表面に小疣があり,大きさ8-12 × 4-5μmである.アナモルフはSNA(暗黒下)上でポリフィアリディックの分生子形成細胞から鎌形で末端に脚胞があり,1-3隔壁を持つ大きさ22-46 × 2.5-3μmの分生子(大分生子)を豊富に形成した.無隔壁で紡錘形などの特徴を持つ小型の分生子(小分生子)は形成されない.本菌は両世代ともこれまで記録が無く新種と考えられる.2. <I>Cosmospora</I> <I>pseudoflavoviridis</I> (Lowen & Samuels) Rossman & Samuels (アナモルフ: <I>Fusarium</I> sp.): 宮城県宮城郡利府町の落枝より採集,子のう殻は孔口部に付属糸を持ち赤色で,子のう胞子は表面に疣があり,大きさ10-20 × 5-8μmである.アナモルフはSNA(BLB照射下)上でモノフィアリディックの分生子形成細胞から鎌形で末端に脚胞があり,1-5隔壁を持つ大きさ10-57 × 2.5-5μmの大分生子と短い棍棒形から楕円形で大きさ3-20 × 2-4μmの小分生子を豊富に形成した.また,長さ52-135μmの分生子柄を立ち上げた.本菌のアナモルフは,これまで<I>Fusarium</I> cf. <I>melanochlorum</I> Casp. と記録されていたが,極端に長い分生子柄を立ち上げるため新種と考えられる.