著者
埋橋 志穂美 東條 元昭 今津 道夫 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.133, 2008

<I>Pythium</I>属菌は世界各地の土壌や水域環境に広く分布する卵菌類で,現在130種以上,日本では約50種が報告されている.多くの種は野菜をはじめ多くの作物の苗立枯れや根腐れを引き起こす重要な土壌伝染性病原菌として知られている.一方,土壌や水域環境下で腐生的に生存している種も認められているが,それらを調査した研究は少なくその分布や種類相については不明な点が多い.演者らはこれら腐生性種を含む土壌中の<I>Pythium</I>属菌を得るため,日本各地より土壌を採集し<I>Pythium</I>属菌を分離した.その結果,日本未報告種や新種の可能性のある種を含む多数の<I>Pythium</I>属菌が認められ,土壌中の<I>Pythium</I>属菌の多様性が示された.そこで,これら未解析の<I>Pythium</I>属菌の系統関係を明らかにするため,得られた菌株についてrDNA ITS領域およびD1/D2領域の塩基配列を決定し,既存のデータとともに分子系統解析を行った.その結果,得られた系統樹上には4単系統群が検出された.<I>Pythium</I>属菌においてはITS領域の分子系統解析により胞子のうの形状と密接に関わる3単系統群が認められており(L&eacute;vesque and de Cock, 2004),本解析でもこれらと一致する膨状胞子のうを形成する種からなる単系統群と球状胞子のうを形成する種からなる2単系統群が検出された.更に本解析ではこれら3系統群とは明確に異なる単系統群も検出された.この単系統群には,異なる地域より分離された8菌株が含まれており,ITS領域には2種の配列が認められ,その相同性は93.9%(687/732)と低かったが,D1/D2領域の塩基配列は全ての菌株で完全に一致した.これらの菌株はいずれも細く特徴的な分枝形態を示す菌糸を形成し,球形,楕円形,洋ナシ型等様々な形態の胞子のうを形成し,一部の菌株では,付着器や膨状胞子のう様の菌糸の膨らみも認められた.造卵器は平滑で1個から数個の造精器が付着し,雌雄異菌糸性または同菌糸性で造卵器内に1個の非充満型卵胞子を形成した.
著者
早乙女 梢 太田 祐子 服部 力 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21, 2007

<I>Polyporus</I>(タマチョレイタケ属)は,担子菌類サルノコシカケ科の一属であり,子実体が有柄で結合菌糸骨格菌糸の未分化な2菌糸型の種が広く含められている.このため,本属は子実体の外形が多様な種が包括されており,属内には子実体の外部形態に基づいた<I>Polyporus</I>, <I>Favolus</I>, <I>Melanopus</I>, <I>Polyporellus</I>, <I>Admirabilis</I>及び<I>Dendropolyporus</I>という6つの形態グループが設けられている(N&uacute;&ntilde;ez and Ryvarden, 1995).<BR>本研究は現在1つの属として扱われている<I>Polyporus</I>の分類学的な妥当性を検証する事を目的とし,本属22種52菌株及び近縁属10属15種18菌株を用い,LSUnrDNA領域, <I>rpb2 </I>遺伝子領域及び<I>atp6</I>領域による分子系統解析を行った. <BR>解析の結果,系統樹上には8個の単系統群が検出され,そのうち2単系統群には本属菌と近縁属菌が含まれていた.したがって, <I>Polyporus</I>は単系統群ではないことが明らかとなった. <BR>属内の各グループの系統関係については, <I>Polyporellus</I>グループの種は同一クレードを形成した.一方, <I>Polyporus</I>グループと<I>Melanopus</I>グループの種は複数のクレードに含まれ,これら2グループは単系統なグループではなかった.なお, <I>Favolus</I>グループ, <I>Admirabilis</I>グループと<I>Dendropolyporus</I>グループの種については系統的な位置を特定することができなかった. <BR>以上の結果から, <I>Polyporus</I>は単系統群ではなく,また形態的にも遺伝的にも多様な種が含まれており,分類学的再構築が必要であることが明らかになった.
著者
糟谷 大河 丸山 隆史 池田 裕 布施 公幹 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.47-52, 2018-11-01 (Released:2018-12-12)
参考文献数
19

日本新産のオオフクロタケ属菌,Volvopluteus earlei (ヒメシロフクロタケ)について,新潟県と千葉県で採集された標本に基づき,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.Volvopluteus earleiはかさが径50 mm以下と小型である点,担子胞子長径の平均値が12 µm以上である点,側シスチジアを欠く点,そして縁シスチジアに嘴状突起を持つ点により特徴づけられる.分子系統解析の結果,日本産標本の核rDNAのITS領域は,インド,アフリカ大陸およびヨーロッパ産V. earleiのものと一致する塩基配列を有し,本菌が複数大陸に広域分布することが示された.
著者
本郷 次雄
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.p319-323, 1978-10
被引用文献数
1
著者
中森 泰三
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.3, 2009 (Released:2009-10-30)

菌類の子実体は菌類の繁殖器官であると同時に,多くの動物の餌ともなる.子実体のいくつかの形質(形態や毒成分など)は菌食動物に対する防御として進化してきたと考えられているが,実際の菌食動物に対する防御効果はほとんど調べられていなかった.本研究では,子実体食トビムシCeratophysella denisanaの食性を明らかにした上で,子実体のいくつかの形質に防御機能があることを明らかにした. まず,野外調査・実験により,C. denisanaは特定の子実体菌種を選択的に利用しており,餌選択を決める要因が子実体にあることを明らかにした.これは,子実体の形質がトビムシの餌選択に影響し,場合によっては防御として機能しうることを示唆する結果である.また,C. denisanaの子実体上での摂食部位,および,胞子の摂食耐性の調査により,C. denisanaは糞によって胞子を分散する可能性が低く,捕食者的性格が強いことが示唆された. 次に,C. denisanaにほとんど摂食されないヘラタケ(Spathularia flavida)およびツバキキンカクチャワンタケ(Ciborinia camelliae)の子実体は,傷を受けるとC. denisanaに対し忌避作用を示すことを明らかにし,この忌避作用が,これらの菌種が摂食されない一要因であり,被食防御として機能していると推察された.同様に,C. denisanaに利用されない菌種に着目することで,スギエダタケ(Strobilurus ohshimae)とニオイコベニタケ(Russula bella)のシスチジアにはC. denisanaに対して致死作用があり,被食防御効果があることを明らかにした.シスチジアは多くの菌種に見られるが,その生態的機能はこれまでほとんど知られていなかった.本研究はシスチジアの生態的機能を明らかにしたものとしてインパクトは大きいと思われる.
著者
小川 哲弘 赤地 拓澄 増田 貴久子 山口 宏二 矢澤 一良 高橋 守 河岸 洋和
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.106, 2006

In recent years, the number of osteoporosis patients is increasing. Various foods were screened for inhibition activity of osteoclast formation and we found that <I>Agrocybe chaxingu</I> showed potent inhibition activity. In this research, we tried to purify the active principle(s) from <I>Agrocybe chaxingu</I>.Powder of dried fruiting bodies of the mushroom was extract with CH<SUB>2</SUB>Cl<SUB>2</SUB>, followed by EtOAc and EtOH. After removing each solvent, each fraction was tested for the inhibition activity. Scince the CH<SUB>2</SUB>Cl<SUB>2</SUB> soluble part showed the strongest inhibition activity, the fraction was fractionated by flash column chromatography, preparative TLC, and HPLC with a C30 column. As a result, we obtained an active compound (8.1 mg) and determined its structure. This compound strongly inhibited osteoclast formation without no cytotoxicity.
著者
杉山 純多 勝本 謙
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.54, 2007

澤田兼吉 は1929 年, 1928 年 8 月台湾台中州尾上(約 2,600 m)で採取したホソバゼンマイ (<I>Osmunda japonica</I> var. <I>sublancea</I>) の葉・葉柄に寄生する菌類を変形菌類の新属新種<I>Phytoceratiomyxa osmundae</I> Sawada (台湾博物学会会報 19 : 31. 1929) として記載した. 原記載文ならびに再記載文(台湾産菌類調査報告, 第五編, p. 11, 1931)とその図解(外生胞子を付けた胞子嚢が描かれている)を見ると, 明らかに H. Nishida et al. (Can. J. Bot. 73 (Suppl. 1): S660-S666. 1995) によって明らかにされた <I>Mixia osmundae</I> (= <I>Taphrina osmundae</I>) の特徴によく似ており, 澤田の誤同定の可能性が強く示唆された. 最新のDictionary of the Fungi, 9th ed. (2001) によると, <I>Phytoceratiomyxa</I> は「疑問名 ?Myxomycetes」と表記されている. 昨年、件の新属新種のタイプ標本が国立科学博物館菌類標本庫に収蔵されていることが判明し, このたび当該標本を詳細に調べることができた. その結果, <I>Phytoceratiomyxa osmundae</I>の形態学的特徴は H. Nishida et al.(前述)定義の<I>Mixia osmundae</I> (T. Nishida) Kramerと合致した. 従って, <I>P. osmundae</I> Sawada は<I>T. osmundae</I> T. Nishida、すなわち<I>Mixia osmundae</I>(T. Nishida)Kramer の分類学的異名となる. 両属の命名法上の取り扱いについては別途正式に提案する. また, <I>Mixia osmundae</I> のバシオニム<I>Taphrina osmundae</I> T. Nishida の原記載文の根拠となった2標本は消失したものと判断し, 上記 H. Nishida et al.(前出)に記載, 引用された1標本(IAM-F 0148)を <I>Taphrina osmundae</I> T. Nishida のネオタイプに指定することとする. なお, 新属新種 <I>Phytoceratiomyxa osmundae</I>と新種 <I>T. osmundae</I> の原記載文はそれぞれ日本語と英語で書かれラテン語記載を欠くが, 発表年 (1911年)が1935年1月1日以前なので国際植物命名規約第36条1に抵触しないことになる.
著者
澤畠 拓夫
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.100, 2007 (Released:2008-07-21)

菌類の子実体の形態は多様性に富んでいるが,その生態的な機能についてはほとんど明らかにされていないのが現状である.ナメコのような強い粘性を持つ表皮によって覆われている子実体の場合,ナメクジは粘性表皮に覆われた部分からの摂食を避け,裏側の子実層面から摂食する傾向がある.このことは,ナメクジが粘性表皮を食べるのを好まない可能性を示している.そこでナメコの粘性表皮がナメクジに嫌われるかどうかを調べるために,1:ナメコ子実体の傘の表皮を剥いだものと表皮付きのもの,2:ナメコの表皮を貼り付けたヤナギマツタケ子実体の傘と貼り付けていない傘に対するナメクジの摂食の度合いについて比較実験を行った.実験に用いた子実体は栽培施設で発生させたものを用い,ナメクジは当敷地内の広葉樹林で10月28日に捕獲したヤマナメクジの幼体5匹(体長5 cm程度)を用いた.実験は、プラスチックの容器(直径11 cm,高さ7 cm)に石膏と活性炭を容積比で10:1に混合した床の上に,水洗した子実体(傘の直径1cm程度のもの)を置き,2日間絶食させた上述のナメクジを1個体ずつ放して20℃下で一晩放置した後,子実体上に残された摂食痕跡の広さの度合いを5段階評価して検定する方法で行った.各実験は,5つの容器で3反復ずつ行った.表皮を剥いでいないナメコの子実体のみを与えた場合,子実体に残された摂食痕跡は小さいものがほとんどであった.表皮を剥いだナメコと剥いでいないナメコでは,剥いだものの摂食度合いは剥いでないものより有意に大きかった(U検定:P<0.01).ナメコ子実体の表皮を貼り付けたヤナギマツタケ子実体は,貼り付けていない子実体よりも摂食の度合いが有意に小さかった(U検定:P<0.01).以上の結果から,ナメコの粘性表皮はナメクジに好まれないことが示唆された.
著者
藤原 恵利子 三川 隆 矢口 貴志 長谷川 美幸 池田 文昭
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2011 (Released:2012-02-23)

Conidiobolus属菌は主に土壌,腐植などに生息する腐生菌であるが,一部の菌はヒト,動物に感染症を起こすことが知られ,特に熱帯圏では本菌による播種性感染症が報告されている.本属菌は接合菌類のトリモチカビ亜門,キクセラ亜門と系統関係にあることが示唆されており,接合菌類の系統進化を論じる上で鍵となる系統的位置にある菌群であると考えられている.本属菌の分類・同定は形態や生理学的性状に基づいた研究により現在32種以上知られているが,本属菌の系統分類は未だ確立されていない.我々は本邦産の本属菌の種相互の系統関係の解明を目的とし,土壌,腐植などから本属菌を分離し系統分類学的な研究を行っている.本属菌は15℃~35℃で生育する中温性菌が研究の対象となっており40℃以上で生育する菌に関する研究は殆どない.今回は高温条件下で発育する本属菌の分離法および系統的位置関係を検討した. 土壌,腐植など530サンプルを用いて40℃および25℃で5日間培養し,40℃のみで発育した菌株を分離した.参照株としてヒトから分離された高温性菌(IFM58391、IFM55973)を用いた.これらの菌株の18S rDNAの塩基配列を決定し系統解析を行った.高温性菌は4株(F325,F328,F329,F330)検出された.系統解析の結果,分離菌株4株およびIFM株は4つの系統群に大別された.今回分離した高温性菌およびIFM株は相互に類似した形態学的特徴を示すが,18S rDNAでは多様な系統関係にあり,形態,生理特性,遺伝子などの多相的な方面からの分類が必要であると思われた.
著者
糟谷 大河 小林 孝人 黒川 悦子 Hoang N.D. Pham 保坂 健太郎 寺嶋 芳江
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-45, 2016

<p>3種の日本新産のチャツムタケ属菌,<i>Gymnopilus crociphyllus </i>(オオチャツムタケ),<i>G. dilepis</i> (ムラサキチャツムタケ)および<i>G. suberis</i> (エビイロチャツムタケ)について,本州(茨城県,富山県,石川県,愛知県),鹿児島県(奄美大島)および沖縄県(西表島)で採集された標本に基づき,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.核rDNAのITS領域を用いた分子系統解析の結果,これら3種はそれぞれ,最節約法のブートストラップ値で強く支持される単系統群を形成した.</p>
著者
丸山 厚吉 堀 清鷹 村上 哲明
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, 2017

<p> ハラタケ科のいわゆる<i>Lepiota</i>類に属する日本では未報告の<i>Macrolepiota mastoidea</i>を東京都・山梨県・神奈川県で,<i>Echinoderma</i> <i>echinaceum</i>を山梨県富士山麓で採集し,核rDNAのITS領域を用いた分子系統解析,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.和名としてそれぞれトガリカラカサタケ,コオニタケを提案した.</p>
著者
尾谷 浩
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.5, 2009 (Released:2009-10-30)

自然界では,無数の病原微生物が植物を攻撃しているが,その中で特定の植物に病気を引き起こすことのできる病原体の種類は驚くほど少ない.多くの病原体は特定の植物を選択的に侵害し,個々の寄生性には明確な宿主特異性があるのが通例である.植物の寄生病のうち約80_%_は菌類によって引き起こされるが,植物寄生菌類の宿主特異的な寄生性を決定する因子として,宿主特異的毒素(HST)の存在が知られている.HSTの発見は1933年にさかのぼる.Tanakaは,鳥取県の二十世紀ナシに大被害を与えていたナシ黒斑病菌(Alternaria alternata Japanese pear pathotype)の培養ろ液を黒斑病に感受性と抵抗性のナシ品種に処理すると,感受性品種のみ黒色壊死斑が形成されることを見出し,宿主特異性を示す毒素の存在を初めて報告した.しかし,当時は国際的に全く反響を呼ばなかった.その後,1964年にPringleおよびSchefferは,エンバクvictoria blight病菌(Cochliobolus victoriae)などの毒素研究の成果に基づいてHSTの基本概念を提唱し,HSTが注目を浴びるようになった.現在,HSTの定義として,(1) 宿主植物にのみ毒性を示すこと,(2) 宿主植物の毒素耐性度と病害抵抗性が一致すること,(3) 病原菌の毒素生産能と病原性が一致すること,(4) 病原菌の胞子発芽時や侵入時に毒素が放出されること,(5) 放出毒素により宿主植物に生理的変化が引き起こされ病原菌の感染を可能にすること,が挙げられている(西村1970,甲元1990,KohmotoおよびOtani,1991).このような性質を持つ毒素は,ただ単に特異的な毒性を示す物質ではなく,病原菌の病原性発現に不可欠な第一義的病原性決定因子であると考えられている.これまでに, Alternaria属菌とCochliobolus属菌を中心に20種類を越える病原菌がHSTを生産することが報告されている.