著者
常盤 俊之 広瀬 大 野中 健一 三川 隆
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.5-14, 2023-05-01 (Released:2023-07-22)
参考文献数
45

日本産多孔菌類子実体に寄生するCladobotryum属菌を調査した結果,日本新産種であるC. arthrobotryoidesならびにC. caribense, C. protrusumを報告した.Cladobotryum arthrobotryoidesは,小歯状に発達した分生子形成細胞からシンポジオ状に単生する2隔壁の分生子が特徴的である.Cladobotryum caribenseは長連鎖性で釣鐘型の分生子を形成する.Cladobotryum protrusumは,分生子形成細胞は出芽型,分生子が淡緑性の色調を特徴とする赤色色素産生菌である.
著者
奥沢 康正
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3-4, pp.jjom.H13-105, 2002 (Released:2020-10-13)
参考文献数
21

Japan has a long history, dating back to the Nara Period, in which nobility and common people have used mushrooms as medicine and food. Here I report a survey of articles about mushrooms appearing in herbal and history books, novels, diaries of the court nobles, and temples records. I record the names and uses of edible mushrooms and poisonous mushrooms. Some antidotal methods found in herbal and medical books of the Edo Period are described and discussed.
著者
佐藤 博俊
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2011 (Released:2012-02-23)

菌類は、地下部において膨大なバイオマスをもち、しばしば他の生物と密接な共生関係を結んでいる生物群であり、森林生態系の中で中核的な存在となりうる生物群である。その中でも、菌根菌は植物と密接な相利共生関係を結んでいることが知られており、とりわけ重要な機能群である。しかしながら、菌根菌がどういった植物種と共生するのかということ(宿主特異性)については、先行研究では十分に正確な情報が得られていなかった。菌根菌の宿主特異性の解明の妨げとなっている要因の一つは、菌類における隠蔽種の問題が挙げられる。菌類は形態形質に乏しく、人工交配実験を行うのも必ずしも容易ではないため、形態的には識別ができないが生殖的に隔離されている種、すなわち隠蔽種が存在する可能性が高い。従来の研究では、隠蔽種識別のための解析が適切に行われていなかったため、異種混同することによって、宿主特異性が正確に評価できていない可能性があった。宿主特異性の研究でもう一つ重要な課題は、いかに宿主植物を正確な同定するかということであった。先行研究では、菌根菌の宿主植物はその菌の近くにに生育している(優占している)植物種と考える場合が多かったが、この方法では宿主樹種を正確に同定できていない可能性があった。そこで、本研究では、近年発達してきた DNA 解析技術を用いることで、これらの問題を解決し、菌根菌の正確な宿主特性を調べることを目的として研究を進めた。本研究では、菌根菌の中でも、いわゆるキノコ類が多く含まれる外生菌根菌に焦点を絞り解析を行った。研究材料としては外生菌根菌であることが知られているオニイグチ属菌(Strobilomyces, Boletaceae)を用いた。 最初に、オニイグチ属菌に実際にどれほどの隠蔽種が存在しているかを調べた。国内と台湾の森林からオニイグチ属の形態種 4 種の子実体を集め、そこから核 DNA(RPB1, ITS2)・ミトコンドリア DNA(atp6)の塩基配列を解読し、別々に分子系統樹を構築した。その結果、これまでオニイグチ(S. strobilaceus)、オニイグチモドキ(S. confusus)、コオニイグチ(S. seminudus)、トライグチ(S. mirandus)という 4 つの記載種が知られていたオニイグチ属菌で、核 DNA とミトコンドリア DNA の塩基配列で共通する DNA タイプが合計で 14 個識別された。それぞれの形態種ごとでは、オニイグチモドキとコオニイグチの複合種は 4 つのDNA タイプに、オニイグチは 7 つの DNA タイプに、形態形質が顕著に他の 3 種と異なるトライグチは 1 つの DNA タイプに、それぞれ分けられることが分かった。また、2 つの DNA タイプはいずれの形態種とも合致しない特殊な形態をもっていた。これらの DNA タイプは、独立の遺伝様式をもつ 2 つの DNA 情報で支持されたことから、オニイグチ属菌では、互いに生殖的に隔離された隠蔽種が多数存在している可能性が強く示唆された。
著者
小林 久泰
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.jjom.H15-43, 2004 (Released:2020-10-01)
参考文献数
12

Taxonomy and mycorrhizal status of Japanese entlomatoid fungi associated with rosaceous and ulmaceous plants were studied. Entoloma saepium and E. clypeatum f. hybridum were newly recorded from Japan. Entolomatoid fungi were not ectomycorrhizal. Transmission electron microscopy of the mycorrhizas suggested destructive infection of the fungal hyphae to the root cells and their collapse near the tip of the stele.
著者
常盤 俊之 内田 有紀 奥田 徹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.jjom.H26-02, 2015-05-01 (Released:2018-01-27)
参考文献数
19

盤菌類寄生性のStephanoma strigosum とMycogone cervina のテレオモルフ,Hypomyces stephanomatis とH. cervinigenus を日本新産として報告した.同定は分子系統学的手法により確認した.H. cervinigenus の子嚢胞子を培地上で発芽させ,Mycogone アナモルフを初めて確認した.
著者
平田 正一
出版者
日本菌学会
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.393-395, 1981 (Released:2011-03-05)
著者
北林 慶子 都野 展子 保坂 健太郎 矢口 行雄
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.69-76, 2016-05-01 (Released:2016-08-17)
参考文献数
28

双翅目幼虫は子実体内に多数かつ頻繁に観察されるがその生態は,ほとんど研究されておらず,双翅目幼虫は胞子散布者として機能し得るか否か不明である.本研究では,ハラタケ型子実体内部に生息する双翅目幼虫の生態について,幼虫の子実体内部での摂食対象組織と幼虫による消化が胞子に与える影響を消化管内胞子の外部形態を詳細に観察することによって調べた.ハラタケ亜門4目16科23属114個の子実体から幼虫を3798個体採集した.解剖した幼虫172個体のうち,103個体の消化管内に胞子が存在した.顕微鏡下で消化管内胞子の外部形態に変化は確認されず,トリパンブルー染色においても,対照群胞子より消化管内胞子は6~11%損傷率が高かったが80%程度の胞子は無傷であった.以上より,双翅目昆虫の幼虫による子実体中での胞子摂食が高頻度で起きていること,幼虫の消化管内の胞子の多くはほとんど物理的損傷を受けていないことが示された.
著者
常盤 俊之 奥田 徹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.jjom.H20-10, 2009-11-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
13

イグチ類に寄生する日本産Hypomyces属菌5種とそのアナモルフのSepedoniumを記載し検討した.これらはH. melanocarpus, H. transformans, H. chlorinigenus, H. chrysospermus及びH. microspermusであり,前2種は日本新産種であった.また,日本特産種のホオベニシロアシイグチ(Tylopilus valens)をHypomyces melanocarpusの新寄主として報告した.さらに類似する2種H. chrysospermusとH. microspermusの形態と寄主範囲の相違点について論じた.
著者
岡山 将也 谷亀 高広 大和 政秀 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.90, 2008 (Released:2008-07-21)

ラン科植物の多くが美しい独特の花を咲かせ、多くの人々を魅了してきた。しかし近年、乱獲や開発時の生育地の破壊等により絶滅の危惧に瀕している種が増加しており、生態の解明と保全方法の開発が早急に求められている。ラン科植物の種子は非常に小さく、貯蔵養分をほとんど蓄えていないため、発芽や初期の生育のための栄養分は完全に菌根菌に依存している。本研究は身近な野生ランであるシュンラン(Cymbidium goerinngii)とネジバナ(Spiranthes sinensis)を対象とし、根に共生する菌根菌の多様性を明らかにし、保全のための基礎的データの取得を目的としたものである。シュンランについては栽培品種も実験に用いた。顕微鏡で観察しラン科植物の根にコイル状菌糸(ペロトン)の感染を確認した。根を表面殺菌してガラス棒で潰し、遊離したペロトンを培地上に播き、伸長してきた菌糸をとり菌株を得、rDNAのITS領域の塩基配列解析により菌根菌の種を同定した。その結果、シュンランの菌根菌としてPeniophora sp.が、ネジバナはSistotrema sp.、Epulorhiza sp.、Bjerkandera sp.および Peniophora sp.が同定された。栽培品のシュンランからはTulasnella sp.が同定された。ラン科植物の菌根菌としてPeniophora属菌の報告は本研究が初めてである。これまでネジバナの菌根菌はThanatephorus cucumeris、Ceratobasidium cornigerum、Tulasnella calosporaであると報告されていたが、Peniophora属菌とSistotrema属菌の報告は本研究が初めてである。本研究の結果はシュンランとネジバナにはかなり多様な木材腐朽菌や土壌菌が共生していることを示し、これまで考えられていたようないわゆる’’Rhizoctonia’’に限られたものではないということが明らかになった。また、これらの菌根菌は木材や落葉を分解して得た栄養をランに供給していることを示唆しており、このようなラン科植物の保全のためには、むやみに落葉や倒木を除去しないことが重要であると考えられる。
著者
升屋 勇人 岡部 貴美子 神崎 菜摘
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.53, 2011 (Released:2012-02-23)

ラブルベニア目菌類におけるダニ類寄生菌は,同じラブルベニア綱のピキシディオフォラ目との繋がりを考える上で重要であるが、その実体についてはあまり知られていない.ダニ類への寄生が報告されているラブルベニア目は約64種であるが,その多くはRickia属である.一方、その生活史の中でクワガタに完全に便乗した生活を営んでいる便乗ダニの1群、クワガタナカセというグループには,以前からDimeromyces japonicusが知られていた.演者らはダニ類に便乗する菌類の調査の過程で,Dimeromyces属2種と所属不明の便乗菌1種を見出した.Dimeromyces japonicusはコクワガタ体表に生息するクワガタナカセHaitlingeria longilobataの体表に寄生していた.菌体は無色で部分的に褐色,雌個体は3層からなる托を持ち,それぞれの上端から1個の子嚢殻,1本の付属枝を生じ,基部に足を生じる.托の枝は根棒状で,先端に向かって太くなり,約10個の縦1列の細胞から成る.子嚢殻は先端部直下に彎曲した褐色の角状突起を有する.雄個体は長短2本の付属枝と造精器を有する.長い方の付属枝は雌個体のものと類似し,短い付属枝は数個の細胞から成る.Dimeromyces sp.はヒメオオクワガタムシ体表のコウチュウダニ科Canestriniidaeのダニ体表に寄生しており,D. japonicusと形態的に類似しているが,角状突起が短く,付属枝を生じる托が短い点で区別できる.所属不明種はサンゴ樹状に分枝した枝が発達した形態を有し,アルケスツヤクワガタ体表に便乗するCanestrinia spの後部に付着していた.形態的にはラブルベニア目の付属肢に類似するが,他に分類群を特定する手がかりとなる形態は認められず,場合によってはラブルベニア目ですらないかもしれない.いずれにしてもクワガタに便乗するダニ類には様々なラブルベニア目菌類が寄生することが明らかとなった.これらの便乗ダニは未記載種が多く,未だ十分に探索されていないため,同様に潜在的に様々なラブルベニア目菌類が節足動物便乗ダニ上で見つかる可能性が高い.
著者
折原 貴道 大藪 崇司 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2006 (Released:2007-06-05)

ユーカリ属Eucalyptus の多くはオーストラリア大陸原産であり、成長が早く、また乾燥や塩害等にも強いことから、世界中の多くの地域で植林が試みられている。近年では更にパルプ材としての利用や葉から抽出・精製したオイルの利用など、幅広い用途可能性を有する樹木として注目されている。ユーカリ属の樹種は外生菌根を形成することが知られており、オーストラリアやブラジルを初めとする多くの地域からその菌根菌相が報告されているが、日本におけるユーカリ外生菌根菌相ついては未解明な点が多い。本研究では、三重県亀山市の王子製紙森林資源研究所ユーカリ試験植林地において、植栽後8-9年が経過したE. globulus 植栽地に2箇所、及びE. camaldulensis 植栽地に1箇所の方形コドラート(10×10 m)を設置し、2004年7月より月1回の間隔で外生菌根菌の子実体発生状況の定点調査を行った。その結果、Laccaria fraterna, Scleroderma cepa, S. sp. 及びPisolithus sp. の計4種の子実体発生が現在までに確認された。また、子実体発生量及び種数は9月から12月にかけて多くなった一方、1月から8月にかけては常に少ない状態であった。主要な原産国であるオーストラリアでは約660種の外生菌根菌が確認されており(Bougher, 1995)、日本におけるユーカリ植栽地の外生菌根菌相の種多様性は著しく低いことが示唆された。本発表では、これら4種の子実体の形態的特徴及び発生状況の季節変動について考察するとともに、現時点までに演者らが観察した、オーストラリアのユーカリ林及び日本国内の他地域で採集された同種標本との比較も行い、日本におけるユーカリ外生菌根菌の種多様性と、ブナ科樹種の菌根菌相との共通性に関しても考察を行った。本研究の主旨に賛同し、試験植林地の利用を快く承諾してくださった、(株)王子製紙 森林資源研究所に心より御礼申し上げます。
著者
糟谷 大河 下保 有紀子 下保 敏和 下保 晴稜 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.85-91, 2016-12-16 (Released:2016-12-23)
参考文献数
13

本州より初めて発見された海浜生の担子菌類であるスナハマガマノホタケ Typhula maritima について,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.本菌は新潟県,富山県および石川県の海浜のケカモノハシ Ischaemum anthephoroides およびチガヤ Imperata cylindrica 群集付近で採集された.核rDNA のITS 領域を 用いた分子系統解析の結果,日本 (本州および北海道) 産のスナハマガマノホ タケは最節約法のブートストラップ値で強く支持される単系統群を形成した.これらの結果は,スナハマガマノホタケの海水に浮く菌核が海流によって長距離分散するという考えを支持している.