著者
春日井 隆
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.37-44, 2000-03-31

水槽内でヒメイカIdiosepius paradoxusの繁殖行動を観察した。交接は非産卵時だけでなく産卵時にも観察された。非産卵時の交接は頻繁に行われた。オスはメスに近づき, すばやくメスの腕基部をつかみ, 生殖腕(左第4腕)を用いて精莢をメスに付着させた。交接の前にオスのメスに対する求愛は無く, 交接時間は短く5秒以内であった。交接後, メスが頭, 首および腕について精莢を口器を用いてついばむのが観察された。産卵はメスが水槽内のアマモ葉体に背中の粘着器官で張り付いて行い, 漏斗から出した卵を一つづつ腕で抱え込み, 腕全体を用いてアマモ表面に押しつけ付着させた。また, 観察を行ったすべての産卵において, 産卵中のメスにオスが交接を行うのが観察された。オスは産卵中のメスに近づき, メスの腕基部にしがみつき, 卵が送り込まれてくるメスの腕の中に精莢をつかんだ生殖腕を挿入した。メスの産卵時の交接には複数のオスが参加する場合が多く, メスを取り囲むように集まってくる。しかしオス同士の闘争行動や優先的なオスの存在は確認されなかった。
著者
山根 正気 冨山 清升
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.61-64, 1986-03-31

スマトラ・ジャワ両島の間に位置するクラカタウ諸島の生物相は, 1833年の大爆発により潰滅的な打撃をうけたといわれる。1908年から生物の再移住についての数次の調査がなされたが, 1934年を最後に約50年間中断されてきた。これまでに同諸島からは12種の陸産貝類が報告されていたが, 1982年の調査では8種が確認されそのうち2種(Amphidromus banksi, Pseudopartula arborascens)は未記録種であった。今回の調査には陸産貝類の専門家が同行しなかったため, 得られた結果はきわめて不充分なものと考えられるが, 少なくとも新たな種の移住が続いていることが強く示唆された。
著者
西村 和久
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.38-39, 1982-08-31
著者
湊 宏 松村 勲
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.15-20, 2007-08-31
参考文献数
28

本誌の6巻3号には,江戸時代の貝類コレクションである"木村蒹葭堂(きむらけんかどう)の標本の発見"についての報告が簡単になされている(小出,1970)。この木村蒹葭堂貝石標本は数奇な経路をたどった後,大阪市立自然史博物館の所蔵となって現在も大切に保管されている(大阪市立自然史博物館,1982;湊,1983)。その標本のうち貝類については梶山(1982),金子・梶山(1982)によって報告された。それによると腹足類(巻貝)73科249種,掘足類1科1種,二枚貝類38科141種,頭足類:1科2種,多板類1科1種,総計394種の海産,陸産,淡水産貝類が含まれている。この全容は,同館のホームページで容易に見ることができる(http://www.mus-nh.city.osaka.jp/collection/kenkado/)。標本の大半は日本近海産であるが,そのうち南方に分布する種,あるいはヨーロッパに分布する種(例えば,北海や地中海地方に分布し,日本に産しないモミジソデAporrhais pespelecani)があってその構成には興味がつきない。陸産貝類では関西地方に広く分布するヤマタニシ,ヤマグルマ,ツムガタギセル,ニッポンマイマイ,オオケマイマイ,ナミマイマイがみられるが,特に注目されるものは小笠原諸島産のカタマイマイ類(Mandarina)である。これらの貝類について,梶山(1982)は"標本の特異性"としてモミジソデの入手経路について考察したが,カタマイマイ類については詳述しなかった。前述のホームページでこのカタマイマイと同定されている写真をみた筆者の一人,湊は,これは小笠原諸島父島に分布する真のカタマイマイMandarina mandarina (Sowerby,1839)のタイプ標本(Gray&Sowerby,1839;黒住,1995;千葉,2004c,2005)とは趣を異にしていることに気づいた。そこで,我々は2006年10月14日に大阪市立自然史博物館でこれらの標本を調査させていただいた。本稿はその調査結果の報告である。
著者
佐々木 猛智 渡辺 浩記 奥谷 喬司
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-6, 1995-10-31
被引用文献数
2

Intertidal and subtidal limpet fauna in Oga Peninsula, northern part of Sea of Japan was investigated. It is characterized by predominance of temperate and warm temperate species under the influence of the Tsushima Warm Current. The poor occurrence of cold-water elements in spite of relatively high latitude of the area under study exhibits a noticeable contrast to the subarctic fauna of northern Pacific coast of Honshu. It is also revealed that warm temperate species are restricted to south of Boso Peninsula on the Pacific side and Oga Peninsula in the Sea of Japan.
著者
伊谷 行 加藤 真
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.193-202, 2002-12-31
参考文献数
36
被引用文献数
1

南西諸島を含む西日本に分布するオオノガイ科二枚貝類のクシケマスオガイについて, アナジャコ下目甲殻類の巣穴への共生と殻形態の変異を調査した。底質中の正確な位置を確認できた数個体のクシケマスオガイは, アナジャコ, ヨコヤアナジャコ, ミナミアナジャコ, ニホンスナモグリの巣穴の近くから採集された。その個体は, いずれも水管のある殻後部を巣穴に向けていたこと, 堆積物中深くに分布していたことから, この貝はアナジャコ類の巣穴に水管を開口する懸濁物食者であることが示唆された。巣穴への開口は確認できなかったが, クシケマスオガイはバルスアナジャコ, ナルトアナジャコ, Upogebia pugnaxの巣穴が多く存在する堆積物中からも採集された。殻形態の計測により, クシケマスオガイは成長とともに, 殻高/殻長比および殻幅/殻長比が大きくなるように成長することが分かった。これはこの貝が共生生活によって長い水管を必要としないことによるものかもしれない。また, 奄美大島産の個体は本州, 沖縄本島, 石垣島の個体より, サイズが小さく, 殻幅が厚い傾向が見られた。
著者
奥谷 喬司 江川 公明
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.285-289, 1985-12-31
被引用文献数
9

海洋科学技術センターの"しんかい2000"によって, 相模湾東部海域でシロウリガイCalyptogena soyoae Okutani, 1957の生活状態と遺骸堆積を観察した。潜航は1984年6月5日に行われ, 35°01′N, 139°12′E付近, 水深1130∿1000mの範囲であった。シロウリガイの死殻は, 直径数mから数十mのパッチ状に散乱していたが, 生貝は少く, 死殻堆積の中心をやや離れた所に, 体の前半を埋め, 殻を僅かに開いた状態で見つかった。体にはへモグロビンが含まれ濃紫赤色で, マニピュレーターによって破壊されると赤い血が流れ出した。シロウリガイのパッチには, エゾイバラガニと思われるカニ及び束状になった管棲多毛類の群集が伴っていた。
著者
冨山 清升
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.211-227, 1984-10-15

タネガシママイマイSatsuma tanegashimae(Pilsbry)の種内変異について特に個体群間変異(地理的変異)の統計学的解析を行った。殻の20形質を計測し, 判別分析法, クラスター分析法によって個体群間の類似度を解析した。その結果以下のようなことがわかった。1. 本研究でタネガシママイマイとして扱った種は地理的変異が著しいが, すべての個体群が近縁種であるコベソマイマイとは明確に区別される。2. タネガシママイマイは4個の地理的グループ(宇治, 草垣, 三島-トカラ, 種子-屋久)に分けることができる。3. 宇治群島家島, 草垣群島上ノ島の個体群は他個体群にくらべ非常に特異的であり, 特に宇治群島個体群は若干の形質でコベソマイマイに似る。4. 硫黄島, 竹島の個体群は人為的に黒島から入った可能性が高い。5. トカラ列島の個体群は, 種子-屋久グループに対立する1つのグループを形成する。このことから, トカラ列島が過去に陸塊でつながっていた可能性が示唆される。
著者
渡辺 久美 安藤 和人 土屋 光太郎 瀬川 進
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.291-301, 1998-12-31
被引用文献数
2

ソデイカの浮遊卵塊から得られた孵化6目前の胚から、孵化4∿5日後の孵化幼生までの発生を観察した。孵化6目前の胚は、器官形成期にあり、ほぼStage IXの発生段階(Neaf, 1982)にあると判断された。この胚には既に多くの色素胞が形成されており、ソデイカの発生上の特徴として色素胞出現時期が他のツツイカ類に比べ早いことが判った。また、孵化個体の色素胞の数は他のツツイカ類の孵化個体に比べ顕著に多かった。第III、IV腕の発達が遅く、孵化4∿5日後の個体の腕長式は、I>II>IV>IIIであった。また、観察の結果、従来腕として認識されていたものが触腕であることが明らかとなった。孵化4∿5日後の個体の触腕は第I腕の2倍の長さに発達していたが、触腕掌部は分化しておらず、基部寄り1/3の位置に4列に13∿14個の吸盤が形成されていた。この触腕の形態および吸盤の位置は成体とは大きく異なり、ソデイカのparalarva期を定義する上での重要な形質の1つであると考えられた。
著者
奥谷 喬司
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.3, no.8, 1966-04-15
著者
桜井 欽一
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.3, no.8, pp.220-225, 1966-04-15
著者
石田 惣 岩崎 敬二
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.55-59, 1999-06-30

捕食者であるアクキガイ類を, イガイ科二枚貝ヒバリガイモドキが足糸で捕捉する行動について, 野外及び室内実験で調べた。ヒバリガイモドキのベッド上にいたアクキガイ類の108個体中10個体に足糸が付着しており, 足糸の付着とともに腹足が仰向けのアクキガイ類は, 少なくとも30時間はそのままの状態であった。室内で観察されたヒバリガイモドキの巻貝に対する足糸付着行動は, ムラサキイガイ等での過去の報告と類似した特徴を持っており, 足糸を用いて巻貝を捕捉する能力をヒバリガイモドキも有しているとみられる。この行動は今までイガイ亜科の3種で知られるのみで, ヒバリガイ亜科の種では本報告が初めてである。足糸による捕捉という対捕食者防衛行動は, イガイ科の多くの種に共通する戦略なのかもしれない。
著者
岡野 元哉 和田 年史
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.58-62, 2012

We investigated size structure and reproduction of violet shell <i>Janthina prolongata</i> stranded on the coast of Iwami-cho in eastern part of Tottori Prefecture, southwestern Sea of Japan, on 27 September, 2010. Shell length (SL) exhibited a bimodal size distribution with a range of 6.08–40.36 mm. Our results also indicated that individuals of more than 27.4 mm SL laid egg capsules under their bubble raft. Moreover, there was a significant positive correlation between the length of egg capsules and SL. Larger individuals had shrunken and differently colored egg capsules on the forefront of bubble raft, suggesting that <i>J. prolongata</i> might lay egg capsules intermittently.