著者
渡辺 圧美 内田 武司 古谷 進
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.21-36, 1968-05-28 (Released:2009-10-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

1. 古遠部鉱山大黒沢西部OL3ループ坑内水中からチオ硫酸塩を酸化するTh.ferrooxidansが分離された.2. 鉄酸化バクテリア (F.ferrooxidans) による第一鉄の酸化は接種菌量の大きいほど促進される.接種量1.0ml/100ml (培地) では11日間の培養で, 培養初期のFe2+濃度の70%がFe3+に転換されたにすぎなかつたが, 2.0mlの接種では99%がFe3+に転換された.そして4.0~10.0mlと接種が大きくなると, 第一鉄の酸化は一段と促進され, 8日間の培養で97~99%がFe3+に転換された.3. 鉄酸化バクテリアの銅耐性は硫酸銅の濃度を順次高めた培地での培養の繰り返しによつて遂次増大し, 25g/lの銅 (Cu) 濃度に耐性が増大した.4. 鉄酸化バクテリアは第一鉄を酸化するのみならず, 硫黄も酸化する能力を持つが, 多量の硫黄が存在すると第一鉄の酸化は抑制される.5. 鉄酸化バクテリアによる第一鉄の酸化におよぼす有機物の影響を追求したところ, 尿素およびペプトンは0.2%以上の濃度において第一鉄の酸化およびバクテリアの増殖に阻害的影響を示した.グルコースは添加量の増大につれてバクテリアの増殖を促進せしめた.しかし, 0.1%以上の濃度になると, 第一鉄の酸化に阻害的影響を示した.6. 鉄酸化バクテリアのチオ硫酸塩の利用については明らかでなかつたが, 鉄硫黄酸化バクテリア (Th.ferrooxidans) はチオ硫酸塩をよく利用して増殖し, そして硫黄酸化バクテリア (Th.thiooxidans) はチオ硫酸塩を利用する力が小さかつた.7. 鉄硫黄酸化バクテリアおよび鉄酸化バクテリアはエネルギー源として黄銅鉱を利用することができた.鉄硫黄酸化バクテリアは50日間の振とう培養で黄銅鉱中から86%の銅を溶出し, 鉄酸化バクテリアは68%の銅を溶出した.しかし, 硫黄酸化バクテリアは黄銅鉱からの銅の溶出には影響をおよぼさなかつた.
著者
瀬野 錦蔵 山本 荘毅 木内 四郎兵衛 清水 欣一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-12, 1968-05-28 (Released:2009-10-16)

The lake Togo-ike with its area of 4. 1 km2 and maximum depth of 5. 2 m. is a brackish lake and situated on the middle part of Tottori Prefecture. There are many hot springs such as Togo, Shin-Togo and Asazu in and around the lake. The authors studied the influence of the change of lake level due to polderling on the discharge of hot springs. The results obtained are summarized as follows : (1) Togo hot spring group has the same chemical constituents and ground temperature, suggesting that they have the same origin under the ground.(2) Some of these springs discharge through the lake bottom into the lake, but they give little influence on the quality of lake water.(3) Factors which will affect the discharge of spring water are barometric pressure, rain-fall amount, lake level change, tidal change and pumping. Barometric change and tidal change are not separated. Distinguished effects of rain-fall and lake level upheaval are shown in Table 5. Pumping effect is also obvious.(4) The effect of lake water level change on the spring discharge, dQ/dh is larger at Azusa than that of at Togo (Table 6). It suggests that change of lake water level affects directly to the discharge of hot spring.The results above mentioned lead us to the conclusion that the polderling of this lake will cause the decrease of hot spring discharge.
著者
横山 寿
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.125-144, 2019
被引用文献数
2

<p> アジア原産のシジミ属二枚貝が1920年代に北アメリカに侵入し,その後,南アメリカ,ヨーロッパに拡散した。1980年代には日本国内にも侵入し,世界各地の生態系や経済に負の影響を及ぼしてきた。この問題への関心を喚起するため,どこを原産地とする何というシジミが,どのように,なぜ新地への侵入に成功し,分布を拡大させ,在来生態系や地域経済にいかなる影響を及ぼしてきたのか,いかなる対策が必要かを2報に分けて解説する。第1報の本報では分類の問題点,外来シジミの起源,侵入・拡散経路の推定に寄与した形態と遺伝子分析による系統分類および侵入・拡散のメカニズムを概説した。最近の系統分類研究の成果は次のとおり:1) 形態のみでは種,系統を同定できない;2) 雄性発生する雌雄同体,淡水性の数系統が外来種となっている;3) 在来のマシジミと外来のタイワンシジミ間の形態・分子遺伝学的差異は微小であり,両種はごく近い近縁種か,前者は後者の一系統と推定される。生息場所,形態,核型,精子形態,生殖様式,ミトコンドリア・核の遺伝子マーカーの分析により,外来シジミの系統,起源と侵入・拡散経路の一端が明らかになりつつある。</p>
著者
神戸 道典 伴 修平
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.375-389, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

琵琶湖固有種であるアナンデールヨコエビ(Jesogammarus annandalei)について, 8,15,20および25℃における生残率,呼吸速度,アンモニアおよびリン排出速度を測定し,その水平分布に与える水温の影響について考察した。本種は,年一世代で,日中7~8℃の湖底に生息し,夜間温度躍層下部まで上昇する。飼育水温を8~15℃に変化させても生残率に影響はみられないが,20あるいは25℃まで上昇させると1日以内に50%が死亡した。呼吸速度はいずれの季節でも水温上昇に伴って増加する傾向を示し,また1~3月と10月に比べて5~6月に高かった。これは成長に伴う増加を示しており,呼吸速度(R)は体乾燥重量(W)と水温(T)で,logR = 0.695·logW + 0.03·T-0.34と表すことができた。一方,アンモニアおよびリン排出速度は5~6月には水温上昇に伴って増加傾向を示したものの,1~3月と10月には温0度に伴う増加はみられず,20℃を上回る高水温ではむしろ低下する傾向を示し,その影響は若齢個体で顕著だった。琵琶湖北湖における本種の水平分布は,湖底水温が周年を通して10~15℃以下の地点に偏っていた。本研究は,このことをよく説明し,水温が本種の水平および鉛直分布を決定する重要な環境要因の一つであることを示唆した。
著者
萩原 富司 諸澤 崇裕 熊谷 正裕 野原 精一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.157-167, 2016-09-26 (Released:2018-06-11)
参考文献数
36
被引用文献数
2

霞ヶ浦には,在来種のヤリタナゴ,ゼニタナゴ,タナゴおよびアカヒレタビラの4種が同所的に生息する。近年,これら個体群の減少が著しく,地域絶滅が危惧されるものの,種ごとの個体数変動の要因はよく分かっていない。そこで,本湖におけるタナゴ亜科魚類群集の変遷とその要因を明らかにするため,1999年から2011年まで,タナゴ亜科魚類およびその産卵基質として利用されるイシガイ科二枚貝類の生息状況調査を実施した。調査の結果,在来タナゴ類の内,ゼニタナゴとヤリタナゴは採集されず,アカヒレタビラとタナゴは湖内全域で徐々に減少し,2010年頃にはほとんど採集されなくなった。外来種のオオタナゴは2000年頃に初確認され,その後徐々に増加し,2005年以降は毎年採集された。外来種のタイリクバラタナゴは減少傾向にあり,国内外来種のカネヒラも全調査期間を通して数個体しか採集されなかった。一般化混合加法モデルを用いて種ごとにタナゴ類個体数の時系列変化を解析した結果,在来タナゴ類が激減した要因として,オオタナゴの影響は検出できなかった。在来タナゴ類が利用するイシガイ科二枚貝類は,2006年の調査時点において,湖内全域で個体数が著しく減少していたことから,産卵基質の減少が影響している可能性が示唆された。一方,オオタナゴは,他のタナゴ類が激減した2010年以降も比較的多数採集された。これは,本種が産卵母貝として外来種のヒレイケチョウガイ交雑種を主に利用し,その産卵基質が淡水真珠養殖用に毎年供給されているためと考えられた。
著者
時下 進一 時下 祥子 政所 由美子 高橋 勇二 山形 秀夫
出版者
日本陸水学会
雑誌
日本陸水学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.69, pp.146, 2005

オオミジンコは溶存酸素量の低下に伴い血リンパ中のヘモグロビン量を増加させる。この発現制御は 哺乳類の低酸素誘導因子(HIF-1)のホモログであるARNT と HIF-1α により転写レベルで行われていることが示された。HIF-1による低酸素適応機構が生物に普遍的に存在すると考えられる。また抗 ARNT 抗体を用いた免疫染色の結果から、epipod が溶存酸素量の変化を感知している可能性が示唆された。ARNTおよびARNTとヘテロ二量体を形成するトラキアレスの胚における発現パターンから、 ARNT は低酸素応答以外にも様々なタンパク質と相互作用して環境応答に広く関与しているものと考えられる。
著者
三橋 弘宗
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.251-258, 2000-10-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

東京都多摩川水系秋川において,ニッポンアツバエグリトビケラNeophylax japonicus とコイズミエグリトビケラNeophylax koizumii の流程分布及び生活史の調査を行なった。上流域にはニッポンアツバエグリトビケラが,下流域にはコイズミエグリトビケラのみが分布しているが,比較的広範囲で両種の分布の重複がみられた。両種が同所的に生息する地点で生活史の調査を行なった。この2種はともに年一化の生活環をもち,ニッポンアツバエグリトビケラは,コイズミエグリトビケラよりも3ケ月早く12月に初齢幼虫が,1ケ月早く10月に成虫が出現した。両種間で幼虫,蛹,成虫の出現期間にずれがあったが,幼虫期の一部と前蛹期では,出現期間の重複が認められた。両種の幼虫が重複して出現する時期に,微生息場所の物理環境条件を調べたところ,両種間で齢期構成は異なるが,ニッポンアツバエグリトビケラはコイズミエグリトビケラと比して,より流速が早く水深が深い場所に分布していた。また,両種ともに前蛹期と蛹期が生活環の半分以上の期間を占め,この時期に集合性を示すことがわかった。
著者
谷口 智雅
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.19-25, 1995
被引用文献数
1

戦前の水環境について,特に水質については現在発表されている数値に対応できるレベルのデータはない。そのために歴史的水環境の復元をするにあたり,文学作品中の水に関する記述に注目し,現在の資料と同じレベルの指標に変換することによって水環境の評価を行った。文学作品は著者による主観的なものではあるが,その時代や土地柄などの背景を十分映しだしている。そのため,自然の描写や社会情勢などは,ある程度客観的なものとして捉えることができるとみなした。文学作品中の河川や魚,植生などの自然の描写は,水環境を復元するうえで有効な資料である。<BR>文学作品中の生物的・視覚的水環境表現は生物的水域類型をもとに3段階評価を行い,1920,1940年頃の東京の水環境をメッシュマップとして復元した。その結果,1920年頃は「きれいな水域」が24,「少し汚れた水域」が186,「汚れた水域」が56であったのが,1940年頃にはそれぞれ13,150,113になった。1920~1940年頃にかけては「きれいな水域」と「少し汚れた水域」が減少し,「汚れた水域」のメッシュ数は2倍以上にも増加した。
著者
平林 公男 林 秀剛
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.p105-114, 1994-04
被引用文献数
5
著者
古田 世子 吉田 美紀 岡本 高弘 若林 徹哉 一瀬 諭 青木 茂 河野 哲郎 宮島 利宏
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.433-441, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
4 6

琵琶湖(北湖)の今津沖中央地点水深90 mの湖水検体から,通常Metallogeniumと呼ばれる微生物由来の特徴的な茶褐色のマンガン酸化物微粒子が2002年11月に初めて観測された。しかし,Metallogeniumの系統学的位置や生化学については未解明な部分が多く,また特に継続的な培養例についての報告はきわめて少ない。今回,Metallogeniumが発生した琵琶湖水を用いてMetallogeniumの培養を試みたところ,実験室内の条件下でMetallogenium様粒子を継続的に産生する培養系の確立に成功した。Metallogeniumを産生する培養系には,真菌が存在する場合と真菌が存在せず細菌のみの場合とがあった。実際の湖水中には真菌の現存量は非常に少ないため,細菌のみによるMetallogeniumの産生が湖水中での二価マンガンイオン(Mn2+)の酸化的沈殿に主要な役割を担っていると考えられる。真菌が存在する培養系では約2週間程度の培養によりMetallogeniumが産生された。しかし,細菌のみの培養系においては,Metallogeniumの産生に4週間から6週間を要した。本論文では特に細菌のみの培養系におけるMetallogeniumの発育過程での形態の変化を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡を用いて継続観察した結果について報告する。
著者
石飛 裕 神谷 宏 糸川 浩司
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.69-79, 1993-01-25 (Released:2009-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
12 19

1985年の9月から1986年8月まで,宍道湖および中海の水位を観測した。境水道では潮汐と気圧の影響を受けた水位変動が見られるが,これが,殆ど減衰することなく中海に伝わっていた。ところが,宍道湖では大きく減衰した半日周潮,日周潮と4~8日程度の不定期な周期をもつ長周期変動が見られた。この宍道湖の水位の変動特性を,355日間の時間データを用いたフーリエ解析により,下流の中海および境水道の水位変動と比較検討した。宍道湖で見られる半日周潮,日周潮は境からの伝搬時間が異なるが,これは,潮汐成分によって,中海が高く宍道湖が低い場合,その水位の関係が持続する時間が異なるために起きると推察された。また,流入河川による淡水の供給が小さい時の長周期変動は,境の水位変動の25時間平均値に従うことが明らかになった。毎秒200トンを越える斐伊川出水がある時の長期変動パターンについても議論した。
著者
昆野 安彦
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.145-149, 2003-08-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

我が国で唯一永久凍土丘のパルサが存在する大雪山平ヶ岳南方湿原(43°37'N,142°54'E,標高1,720m;以下,パルサ湿原)において,池塘に生息する水生昆虫を調べた。その結果,4ヶ所の池塘から合計して5目15種238個体の水生昆虫類が採集された。優占4種はキタアミメトビケラ,ダイセツマメゲンゴロウ,オオナガケシゲンゴロウ,センブリであった。
著者
浦部 美佐子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.109-116, 1993-04-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
16
被引用文献数
8 6

琵琶湖水系及びその周辺の2地点より得られたチリメンカワニナSemisulcospira reinianaを,遺伝的変異と成殻・胎殻形態の面から調べた。浜大津・宇治・美濃津屋の3ケ所では,遺伝的に区別される2型が生息していた。MPI-A型は,比較的小さく平滑または縦助のある胎貝を持っていた。MPI-B型は大きく縦肋のある胎貝を持っていた。しかし,同じ地点から得られたこれら2型は,成殻形態では区別できなかった。これらの結果から,過去の分類学的研究においては2型が混同されてきたことを指摘し,さらに成殻の収斂現象について示唆した。
著者
田邊 優貴子 工藤 栄
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.191-199, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
4

湖沼研究において湖盆図作成は重要な情報であるにも関わらず、南極昭和基地周辺の湖沼において湖盆形態に関する調査はほとんど実施されてこなかった。一年のほとんどが氷で覆われ、また調査湖沼へのアクセスが不便であるために、船舶や機材の搬送が困難であるというような様々な要因が湖盆図作成までに至らなかった原因である。本研究では2007年~2008年にかけて、南極昭和基地周辺露岩域の長池とスカーレン大池の2湖沼で調査を実施した。小型のGPSと音響測深器もしくは測鉛を用いて位置と水深データを取得し、これまで明らかにされることが無かった東南極宗谷海岸露岩域湖沼の湖盆図を作成した。位置決定のための測量機材や測深器を搭載した船舶等を利用することなく、効率的かつ簡便に湖沼研究にとって十分な湖盆図を作成することが可能となった。本研究で明らかになった湖盆形態とその水質や水生生物との関わりについて考察した。