著者
加茂川 優紀 山室 真澄
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.39-45, 2015-05-08 (Released:2017-02-28)
参考文献数
7
被引用文献数
2

枯死体の増加を通じた有機物供給の増加や消波施設による波あたりの低下などを通じて,アサザ植栽事業が底質に何らかの影響を与えた可能性を検討する一環として,消波施設内外で堆積物の性状を調査した。アサザの植栽を行ったが消滅した地区における消波施設陸側では,底質の細粒化と有機物濃度・全硫化物濃度の増加が認められた。アサザの自然群落が存続している地点では細粒化や有機物の蓄積は認められなかった。これらの地点は消波施設の開口部が広いことから,消波施設の影響が少ないと考えられた。
著者
谷口 義則 中野 繁
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.79-94, 2000-02-25 (Released:2009-06-12)
参考文献数
75
被引用文献数
1 3

地球温暖化に伴う水温の上昇が,淡水魚類に及ぼす影響に関する研究は,主に1990年代に入ってから盛んに行われてきている。これらの研究の多くは,対象魚種の水温に対する生理反応データに基づく分布変化予測と生物エネルギーモデルを用いた個体群動態の予測に大別される。しかし,実際には,温暖化が淡水魚類に及ぼす影響は,温度上昇そのものだけでなく,他の局所的環境撹乱因子との複合効果などを通じてもたらされると考えられる。さらに,多くの場合,従来の温暖化の影響予測では,個体群の遺伝構造の変化,生活史の可塑的変化および捕食者一被食者関係や競争などといった生物問相互作用の変化を介した影響に関する議論が欠落している。そのため,温暖化に対する淡水魚類群集の反応に関して十分に適正な予測が未だ得られているとは言い難い。また,温暖化によってもたらされると予測される淡水魚類の絶滅や分布変化は,食物網や物質循環の動態など生態系の諸特性に波及的な効果を及ぼすものと考えられるが,このような視点からの研究も未だ行われていない。今後は,長期間の観測データの蓄積や大規模操作実験によって温暖化の影響をメカニスティックに解明することに主眼を置くこと,さらに多分野の研究者が相補的に共同しうる研究体制を構築することなどが必要と考えられる。
著者
渡辺 仁治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.83-88, 1966-06-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1 3

1.いままで日本では知られていなかつたDaphnia similis CLAUSが,大和郡山市内の溜池で発見された.2.本種は従来D.carinataとして報告されていることが多く,上野益三博士は,アジア大陸に広く分布するD.carinataは,D.similisと改める必要があるといわれる.3.本種は近年中国から,金魚の新しい品種を輸入した際に,魚とともに本邦に入り,それが増殖したものと推定される.
著者
高村 健二
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.249-253, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
25
被引用文献数
1 7

固有種に富む琵琶湖の魚類相は,生物学的侵入や生息環境減少などによって脅かされる一方,固有種の他陸水域への放流により,生物学的侵入を生じるという矛盾した状態にある。関東地方河川では,琵琶湖産アユ放流に随伴した侵入により,琵琶湖由来と関東在来の2系統のオイカワが混在していることが,ミトコンドリアcytochrome b遺伝子分析によりわかった。湖産アユ放流は放流河川での翌年のアユ回帰へ貢献しないと報告されているため,放流の停止がアユ資源維持にも生物学的侵入の抑制にも望ましいと考えられた。琵琶湖魚類相を取り巻く矛盾した状態の解消には各々の地域環境に適応した在来生物の保全が鍵となるであろう。
著者
草野 晴美
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.223-236, 2009 (Released:2010-02-23)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

湧水性端脚類の1種,ヒメアナンデールヨコエビJesogammarus fluvialis Morinoの地理的分布と生息場所の環境ついて,1986年から2006年にかけて調査を行なった。東海から中部にかけての広域調査により,本種は鈴鹿山脈周辺と富士山周辺の2つの地域に分かれて分布することがわかった。高密度の生息は湧水源流周辺に限られ,湧水が流入する河川本流では生息しないか,または密度が低かった。また本種が生息していた湧水流には,5つの共通する特徴が見られた。すなわち,(1)水温は10~17℃の範囲内である,(2)底質は砂礫である,(3)平野部または平坦な地形にある,(4)開空度が高い,(5)沈水性または抽水性の水生植物が繁茂する。本種はこのような湧水流でミズムシや水生昆虫などともに,主に水生植物に付着して生息していた。また微小分布の調査からは,密な植物体に密集する傾向があること,スラッジの堆積やエビや魚などの捕食者の存在が生息を抑制する要因となっていることが示唆された。
著者
冨川 哲夫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.92-96, 1972-12-01 (Released:2010-11-22)
参考文献数
9

This paper deals with the seasonal variation of body length of Sinodiaptomus volkanoni KIEFER, collected from small ponds near Miki City, Hyogo Prefecture, from August, 1967 to July, 1970. With regard to its body length, two different types could be found i. e., a small-sized group occurring in the warm season (autumn) and a large-sized group in the cold season. The seasonal changes in length of the head, thorax and abdomen were also found. The maximum percentage of head length to body length was met with in the warm season and the minimum in the cold season. On the contrary, the maximum percentage of abdomen length to body length was found in the cold season and the minimum in the warm season. However, the thorax length to body length, regarding its maximum percentage, was sporadic to some extent.In the specimens collected in winter it was observed that reddish orange oil drops were deposited in the body, but, as the season progressed, they gradually decreased and entirely disappeared in summer.
著者
佐伯 有常
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.118-124, 1956-11-30 (Released:2009-10-16)
参考文献数
2
被引用文献数
1

新しく造つたコンクリート池での魚の飼育は順調に行かないことが多い.これは “アク” が出るからだといわれている。即ち, セメント中の石灰その他のアルカリが原因 [1] と考えられるが, 筆者はモルタルブロツクの海水, 淡水等での浸漬試験をして, これについて吟味, 考察を行つた.コンクリートの “アク” についてモルタルブロックの浸漬試験により次の結果を得た.(1) コンクリートの “アク” はその固化に際し著量の炭酸を吸収すること。遊離アルカりの溶出することが原因と考えられる.(2) この結果pHの上昇, アルカリ度の低下, カルシウムの沈澱等がみられる.(3) コンクリート作製後1ヵ月で “アク” は少くなるが, その後カルシウムの溶出等があり, 水に殆ど影響を及ぼさなくなるのは数ヵ月後であろう.(4) “アク” の防禦法としてはアルミニウム塩や水ガラスでの洗滌塗布よりビニールペイントの塗布が有効であろう。
著者
石田 昭夫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.349-358, 1997-12-01 (Released:2009-06-12)
参考文献数
7
被引用文献数
2 10

Eucyclops serrulatusとE.speratusに類似する1新種Eucyclios roseusを記載した。本種はヨーロッパからアジアに広く分布すると見られる。日本において混乱していたE.serrulatusとE.speratusの分類は本種の存在が知れたことで部分的に解決された。琉球列島から北海道までE.roseus,E.serrulatusおよびE.speratus-likespeciesが分布するが,E.speratus s.str.は出現しない。日本のsperatus-likespecies complexは幾つかのタクサに分けられ,その一つは主に日本の北半分に,他方は南半分に分布する。E.roseusとE.speratus-like species complexの日本における棲み場所は池,湖沼,河川の中・下流域で,E.serrulatusのそれは一般的に山地水体と泉流に限られる。
著者
Janet W. REID 石田 昭夫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.133-144, 1996-06-01 (Released:2009-06-12)
参考文献数
13
被引用文献数
3

北米から得られたソコミジンコ,カントカンプタス科,Gulcamptus属の2新種を報告する。これまでG.uenoiMIURAとされていたアラスカの個体群は新種であることが判明したので,G.alas-kaensisと命名した。ヒューロン湖とアラスカから得られた雌のGulcamptus huronensis,n.sp.を記載した。雄は得られていない。Neomaraenobiotus FLOSSNERはGulcamptus MIURAの異名と考えられ,したがってN.laurentiacus FLOSSNERはGulcamptus属に移される。Gulcamptus属の記相を改める。Gulcamptusに属する種の分布は韓国,日本(北海道),カナダ(ユーコンとNorth West Territories)および合衆国(アラスカとヒューロン湖)に及ぶことになる。
著者
河合 幸一郎
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.161-171, 1991-07-27 (Released:2009-06-12)
参考文献数
9
被引用文献数
2 4

日本各地の種々の陸水域において採集した底質サンプルから得ら.れたNeobrillia(新属),Nano-cladius,Paracladopelma,Polypedilum及びTanytarsusの五属に属する7種のユスリカ新種について,雄成虫の形態を記載した。
著者
御勢 久右衛門
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3-4, pp.113-122_1, 1965-03-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
3
被引用文献数
1

1.吉野川水系(奈良県)の丹生川において,黒渕ダム湖築造前と完成後の水生昆虫群集について1954年4月3日と1960年4月2日に調査を行なつた.2.黒渕ダム湖築造前の丹生川の水生昆虫群集は,種数,個体数,現存量ともに多く(Hydropsyche ulmeri―Parastenopsyche sauteriが優占種),造網型係数が64~94%に達し,瀬における水生昆虫群集の極相にあると考えられる.ダム完成後(ながれダム湖)の水生昆虫群集は,ダム湖の影響のない城戸では,種数,個体数,現存量とも変りはない.ダム湖と化した黒渕では種数,個体数,現存量ともに少なく,そのうちでも底質が湖首部の石礫,湖中部の泥かぶりの礫砂,湖尾部の泥となるにつれて,底生動物の優占種はEcdyonurus yoshidae→Potamanthus kamonis→Limnodrilus sp.の移りゆきを示す,またその優占生活形は匍匐型→掘潜型となる.黒渕堰堤のすぐ下流では,種数,個体数,'現存量とも少なく,優占生活形は匍匐型となる.和田の優占生活形は遊泳―匍匐型.さらに下流の生子は種数,個体数,現存量が増加し,優占生活形は造網型となる.
著者
河合 幸一郎 佐々 学
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.15-24, 1985-01-30 (Released:2009-11-13)
参考文献数
28
被引用文献数
2 5

The distribution of the chironomid larvae in the Ohta River, Hiroshima Prefecture, was studied at 12 stations covering almost the entire length of the stream by the method in which male adults emerging from bottom samples were identified.As a result, a total of 97 species was recorded, at least 12 of which are regarded as new species.Seven of these new species belonging to 5 genera, i.e., Cricotopus, Microtendipes, Polypedilum, Rheotanytarsus and Tanytarsus were described. In addition, brief comments were made on the larval habitats of 3 of these species.
著者
花里 孝幸 廣川 春香
出版者
日本陸水学会
雑誌
日本陸水学会 講演要旨集 日本陸水学会第69回大会 新潟大会
巻号頁・発行日
pp.44, 2005 (Released:2005-09-21)

ミジンコの個体群変動を実験室内で起こし、増殖期、ピーク期、衰退期に殺虫剤カルバリルを投与してその影響を調べた。ピーク期に殺虫剤が投与された時に最も大きく個体群が減少し、また回復が遅れた。このことから、殺虫剤に対する個体群の感受性は、個体群の趨勢によって異なり、ピーク期が最も殺虫剤の毒性影響を受けやすい時期であることがわかった。これには、個体群の変動に伴って変動した餌条件が関わっていたものと考えられた。