著者
那須 義次 富永 智
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.70-72, 2014

最近,著者の富永が沖縄島でテンニンカ(フトモモ科)の新葉を綴ったりあるいは葉を巻いたりしている見慣れない幼虫を採集した.羽化標本を検討したところ,日本新記録のテンニンカヒメハマキ(新称)Eccoptocera palmicola(Meyrick,1912)であることがわかった.本種は,スリランカから記載された種で,それ以外からの初めて記録となる.また寄主植物を明らかにし,♀交尾器を図示した.本種は前翅開張が9-11mmの小型のヒメハマキガで,♂触角の基部は浅く凹む.前翅は細長く,♂は細長い前縁ひだ(costal fold)をもつ.前翅の地色は白灰色で,前縁部は褐色がかる.肛上紋は白灰色で,中に3本の黒色短線を有する.♂後翅の内縁は伸長し,内縁ひだ(anal fold)をもつ.本種はバンジロウヒメハキStrepsicrates semicanella(Walker,1886)に類似するが,より小さいこと,前翅の地色がより白灰色であること,♂交尾器のソキウスが痕跡的であること,細長いバルバをもつこと,♀交尾器のパピラ・アナリスが大きいこと,コルプス・ブルサエの後方の壁が硬化すること,2個の角状のシグナをもつことで識別できる.バンジロウヒメハマキもテンニンカを摂食するが,本種の終齢幼虫は長さ12-14mmと大きく,体色も暗緑褐色であることで,テンニンカヒメハマキと区別できる.Eccoptocera属はハワイ,グアム,スリランカ,日本(沖縄島),オーストラリア(クイーンズランド)に分布し,6種が知られるが,ハワイには未記載種が9種いるという.本属の幼虫はフトモモ科,ウコギ科およびツツジ科植物を摂食するとされる.本属は,特徴的なウンクス,痕跡的なソキウスおよび前後翅とも翅脈が減少することで単系統性が支持されており,Spilonota,Strepsicrates,HolocolaおよびHermenias属に近縁であるとされる.
著者
原 聖樹 落合 弘典
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.97-101, 1980
被引用文献数
1

北アルプス姫川谷下流域および山形県最上川中流域のLuehdorfia属2種の混生地において,Luehdorfia japonica LEECHギフチョウとL.puziloi inexpecta SHELJUZHKOヒメギフチョウとの間の雑交個体が少なからず採集されている.これらはいずれも,ヒメギフチョウ♂によって形成された受胎嚢を腹端に付着させたギフチョウ♀であって,その逆の組合せ例は知られていない.一方,ハンド・ペアリングによる両種の種間雑種の第一世代の育成は,交配飼育技術が昨今長足の進歩・普及を遂げたこともあって,愛好家の間ではかなり普遍的なものになってきた.ただし,これは前記の組合せの雑交(♀はギフチョウ)に関してであって,逆の組合せ(♀はヒメギフチョウ)にはあてはまらない.もちろん,従来まったく逆の組合せのハンド・ペアリングがこころみられなかったというわけではなく,この場合,正常な産卵を見るところまでは成功している(高倉,1965,1973).けれども,その卵が孵化した例はなく,この組合せによる種間雑種は幼虫・蛹・成虫等については未知である.筆者らは,野外でギフチョウ♂によって形成された受胎嚢を付けたヒメギフチョウ♀を採集し,この母蝶に強制採卵をこころみ,種間雑種F_1の幼虫・蛹を見ることができたので,その概要を報告する.発表に当り,種々ご協力いただいた伊藤正宏・森井謙介・斉藤洋一の諸氏に謝意を表する.
著者
森下 和彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.1978, no.93-94, pp.3-17, 1978-05-15 (Released:2017-08-19)

1 0 0 0 OA 他山の石(10)

著者
磐瀬 太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3-4, pp.30-31, 1954-12-15 (Released:2017-08-10)
著者
〓 良燮 朴 奎澤
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75-82, 1992

韓国産Lobesia属(鱗翅目,ハマキガ科)についてはMicrolepidoptera of Korea(朴, 1983)において, L. coccophaga FalkovitshとL. permixtana Hubner (=reliquana Hubner)の2種が記録されていたにすぎない.今回,韓国の昆虫系統分類研究センターに所蔵されているものを中心に詳細な比較検討を行った結果,従来韓国から知られていた種以外に,3新記録種(virulenta Bae & Komai, yasudai Bae & Komai, aeolopa Meyrick), 1新種(pyriformis Bae & Park)を含む計6種を認めた. 1. Lobesia reliquana (Hubner)分布:韓国(江原, Gangweon Prov.);日本;ユーラシア大陸に広く分布する.寄主植物:モモ. 2. Lobesia virulenta Bae & Komai (韓国新記録種)分布:韓国(江原, Gangweon Prov., 京畿, Gyunggi Prov.,全南, Jeonnam Prov.);日本.寄主植物:韓国では不明.日本ではカラマツ,ナシ,エゴノネコアシアブラムシのゴールなど. 3. Lobesia yasudai Bae & Komai (韓国新記録種)分布:韓国(江原, Gangweon Prov.);日本.寄主植物:韓国では不明.日本ではノリウツギ,ハマナス,シュウリサクラが記録されている. 4. Lobesia pyriformis Bae & Park (新種)以上の3種とよく似ているが,本種の前翅は他種に比べて前縁がやや突出し,黄褐色の斑紋が明瞭に現れることにより他種から区別できる.雄交尾器では幅広いvalvaと短いcucullusをもち,雌交尾器はやや長いナシ形を呈することにより特徴づけられる.分布:韓国(京畿, Gyunggi Prov.).寄主植物:不明. 5. Lobesia aeolopa Meyrick (韓国新記録種)分布:韓国(済州島, Jeju Is.);日本;南アジアに広く分布する.寄主植物:韓国では不明.国外ではアキニレ,ビワ,ソメイヨシノ,ミカン属,ブドウ,チャ,カキなどが記録されている. 6. Lobesia coccophaga Falkovitsh 分布:韓国(京畿, Gyunggi Prov.);日本;沿海州.寄主植物:スイカズラ.
著者
久保 快哉 室谷 洋司
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
日本鱗翅学会特別報告
巻号頁・発行日
no.3, pp.67-77, 1967

1) 1965年4月,中華民国台湾省において,ヒョウマダラTimelaea maculata formosana Fruhstorferの幼生期の観察を行なった。野外において生態観察を行なう一方,材料を飼育することによって幼生期の形態についても研究した。2) 産卵は概して背丈の低いニレ科のタイワンエノキCeltis formosanaの葉に1卵ずつ行なわれる。幼虫は静止する際に胴部をゆるやかなN字形に彎曲させる習性を有する。3) 卵および若齢幼虫からの飼育は,室内で行なったが,卵期約6日,幼虫期約30日,蛹期約14日であった。4) 幼生期の形態について判明したことは,(a)卵の概形はコムラサキ亜科Apaturinaeのものと大差ない。約25本の隆起条がある。産卵直後の卵の色彩はクリーム色である。径0.92mm,高さ0.94mm。(b)終齢(5齢幼虫はナメクジ状であり,腹部第3~6節でもっとも肥大する特異な形態を有する。体色は淡緑色で,亜背線と気門線は黄白色であり,他に斑紋や突起はない。体長29mm位。(c)蛹の色彩は淡緑色で隆起部分は黄褐色をおびる。全面に白粉を装う。体長18mm位。左右に著しく扁平であり,他のコムラサキ亜科の蛹と比較して小さく且つ,背稜は非常に凹凸が激しい。
著者
長嶺 邦雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.30-34, 1962

筆者は1961年9月3日〜9月24日の21日間,琉球八重山群島の石垣,西表両島の昆虫,主に蝶類採集を行った.その間,台風20号,18号と二度も台風に見舞われ,また2人でテントをかついでの旅行とあって十分な採集も出来なかったが60種を目撃し,47種を採集することが出来た.また幼生期に関しても若干の新知見を得たのでここに報告したい.なお私の採集してない種でも同行の長嶺将昭氏の採集した種はこの報文に加えた.その際は氏の姓名の頭文字(M.N.)を文尾に附した.
著者
寺田 剛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.101-122, 2014

奥(2003)のStathmopoda sp. 1とこれに近縁であると考えられる種について検討し,S. pedella種群を認めた.また,5新種フトオビマイコガ(S. pullicuneata n. sp.),セグロフトオビマイコガ(新称)(S. atridorsalis n. sp.),ネグロマイコガ(新称)(S. dorsioculella n. sp.),スジボソマイコガ(新称)(S. sericicola n. sp.),ヒダナシオオマイコガ(新称)(S. centihasta n. sp.)を含む本種群の日本産7種について記載および再記載を行った.さらに7種について成虫の外見的特徴,翅脈,雌雄交尾器を図示し,比較した.日本産のS. pedella種群は外見的には胸部や前翅の斑紋,後翅の前縁ひだの有無で識別できるが,オオマイコガとヒダナシオオマイコガの雌は外見での識別が困難である.本種群の分布,幼虫の食性に関しては情報が不足しており,さらに調査が必要である.1. Stathmopoda pullicuneata n. sp.フトオビマイコガ 開張7.3-14.2mm.前翅長3.5-6.6mm.胸部および前翅は黄土色であり,中胸前縁,1/4,中央にアーチ状の黒褐色帯が走る.前翅基部,1/3,2/3に黒褐色帯が走り,前翅1/3の帯の前縁付近と中央から黒褐色条が走り,前者は翅頂付近まで達する.雄の腹部第8節背面に毛束がある.雄交尾器の挿入器には短いコルヌツスが6つ程度ある.雌交尾器の交尾嚢に1つのシグヌムがあり,ドゥクツス・セミナリスにはブラが発達する.成虫は6-8月に採集されている.本種は奥(2003)によってフトオビマイコガStathmopoda sp. 1として記録され,寺田・坂巻(2013)においても未同定種として扱われている.中国から記載されたS. neohexatyla Li and Wang,2002に酷似するが,雄交尾器の挿入器にコルヌツスが無い点で異なる.分布:本州,四国,九州.寄主植物:不明.2. Stathmopoda pedella(Linnaeus,1761)キイロオビマイコガ 開張11.1-13.8mm.前翅長5.1-6.5mm.フトオビマイコガに似るが,胸部および前翅は黄色であり,胸部前縁は黒褐色である.前翅1/3と2/3の帯は黒褐色条で繋がる.前翅頂には黒褐色の斑紋がある.雄交尾器の挿入器にはコルヌツスが4つある.雌交尾器の交尾嚢に2つのシグヌムがある.成虫は5月と7-8月に採集されている.ヨーロッパでは幼虫は秋に寄主植物の未熟な果実に潜り,主に種子を摂食し,その後地表に降りて繭をつくることが報告されている.分布:北海道,本州,四国;ヨーロッパ,ロシア南東部,北アメリカ.寄主植物:国内では不明.ヨーロッパではハンノキ属2種(カバノキ科)を寄主とすることが知られる.3. Stathmopoda atridorsalis n. sp.セグロフトオビマイコガ 開張12.7-15.1mm.前翅長5.9-6.9mm.前2種に似るが,胸部は暗褐色であり,中胸後縁は白色である.前翅は明るい黄土色であり,前翅1/3,2/3に暗褐色の斑紋がある.斑紋は暗褐色条によって繋がり,2/3の帯から翅頂にかけて暗褐色条が走るが不明瞭である.雄の腹部第8節背面に三日月状の硬化した構造が1対ある.雄交尾器の挿入器には短いコルヌツスが10以上ある.雌交尾器の交尾嚢に2つのシグヌムがあり,一方が大きい.成虫は7-8月に採集されている.分布:北海道,本州.寄主植物:不明.4. Stathmopoda dorsioculella n. sp.ネグロマイコガ 開張13.5-15.6mm.前翅長7.0-7.5mm.前翅は明るい黄土色であり,前翅基部に黒褐色帯が走り,後縁基部付近からCuP脈の中央にかけて後縁に沿って黒褐色条が走る.前翅基部から褐色条が3本走り,黒褐色条から褐色条が1本走る.雄交尾器の挿入器には短いコルヌツスが7つ以上あり,基部が融合する.雌交尾器の交尾嚢に1つのシグヌムがあり,ドゥクツス・セミナリスにはブラを欠く.成虫は8-9月に採集されており,奄美大島では11月にも採集されている.分布:本州,四国,奄美大島.寄主植物:不明.5. Stathmopoda sericicola n. sp.スジボソマイコガ 開張14.0-17.0mm.前翅長6.5-8.2mm.胸部および前翅は明るい黄土色であり,中胸前縁付近,1/4,中央にアーチ状の黒褐色帯が走る.前翅CuP脈上と後縁基部付近からCuP脈の中央にかけて後縁に沿って黒褐色条が走る.前翅基部,2/5,2/3,翅頂付近に黒褐色の斑紋があり,2/5と2/3の斑紋は黒褐色条によって繋がる.雄の腹部第8節背面に半円状の硬化した構造が1対ある.雄交尾器の挿入器にはコルヌツスが4つある.雌交尾器は前種に似る.成虫は4-5月と7月に採集されている.幼虫は寄主植物のアブラムシの虫こぶで見つかる.分布:本州,四国,九州.寄主植物:シロダモ(クスノキ科).6. Stathmopoda centihasta n. sp.ヒダナシオオマイコガ 開張14.5-15.3mm.前翅長6.4-8.1mm.前種に似るが,中胸中央付近に1対の黒褐色の斑紋がある.前翅基部,1/3,3/5に黒褐色の斑紋があり,3/5の斑紋から翅頂にかけて黒褐色条が走る.雄の腹部第8節背面に棍棒状毛の束がある.雄交尾器の挿入器にはコルヌツスが2-5つある.雌交尾器は前2種に似るが,ドゥクツス・セミナリスの先端付近が太くなる点で異なる.成虫は7-8月と10月に採集されている.分布:本州,九州.寄主植物:不明 7. Stathmopoda stimulata Meyrick,1913オオマイコガ 開張11.5-18.4mm.前翅長5.4-8.7mm.前2種に似るが雄の後翅に大きな前縁ひだを形成する.前種同様雄の腹部第8節に棍棒状毛の束があるが,前種よりも先端が丸い.雄交尾器の挿入器には短いコルヌツスが4つある.雌交尾器の交尾嚢にラメラを持たず,ドゥクツス・セミナリスは短い.成虫は4-9月に採集されており,琉球諸島では2-3月にも採集されている.幼虫は寄主植物の果実を摂食する.分布:北海道,本州,四国,九州,屋久島,奄美大島,沖縄本島,石垣島,西表島,与那国島;中国,韓国,台湾,ベトナム,タイ,マレーシア,ブルネイ,インドネシア,インド,スリランカ.寄主植物:ヤブニッケイ(クスノキ科).
著者
綿引 大祐 吉松 慎一 竹内 浩二 大林 隆司 永野 裕
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.53-60, 2017

<p> 属 <i>Acidon</i> Hampson はインドからオーストラリア地域にかけて21種(そのうち2種は雌しか知られていない正体不明種)が知られ,Kononenko and Pinratana(2013)でいうところの"<i>Mecistoptera</i> generic group"に属する一群である.本グループには<i> Acidon </i>属のほか,<i>Mecistoptera</i> Hampson,<i>Perciana</i> Walker,<i>Hiaspis</i> Walker,<i>Hepatica</i> Staüdinger,<i>Coarica</i> Moore,<i>Ruttenstorferia</i> Lödl,<i>Lophomilia</i> Warren の7属が含まれており,さらにHolloway(2008)は形態学的な研究から<i> Gonoglasa</i> Hampson も本グループに含めるべきとの見解を示している.また,本グループは全世界でおよそ600種を含む大属である<i>Hypena</i> Schrankと近縁であることから,ヤガ上科の中でも特に分類学的問題を抱えたグループに属している.ヤガ上科の高次分類は今なお混沌としており,本種を含む"<i>Mecistoptera</i> generic group"の種は,日本産蛾類標準図鑑2(岸田,2011)に従うとヤガ科アツバ亜科とカギアツバ亜科にまたがって含まれる扱いとなる.ここでは最近の分子遺伝学的な研究であるZahiri <i>et al</i>. (2012) に従いトモエガ科アツバ亜科として扱った.以下に本新種の特徴を示す.</p><p><i>Acidon sugii</i> Watabiki & Yoshimatsu sp. nov. シマイスノキアツバ(新称)</p><p>前翅長:♂12.3-16.0 mm, ♀12.1-15.4 mm. 雄の触角は両櫛歯状で,下唇髭は非常に長く頭部の5倍程度の長さを有する.雌の触角は糸状で,下唇髭は雄より短い.雌雄ともに前後翅の色調は黒褐色から赤褐色で,前翅の内横線と外横線の間および亜外縁線より外側は暗色になる傾向があり,個体によっては薄紫色の鱗粉を散布する.環状紋は通常白色あるいは黒色の点状であるが,大きな白色紋状となる個体もある.前後翅とも裏面には黒褐色線があり,後翅はその内側に黒褐色紋を伴う.</p><p>本種は日本における本属の初記録種で,交尾器の形態からボルネオ島より記載された <i>Acidon calcicola</i> Holloway が最も近縁な種であると考えられる.両種は外見上よく似ているが,本種の雄は触角が両櫛歯状,下唇髭が頭部の5倍程度の長さを有するのに対し,<i>A. calcicola</i> を含む <i>Acidon</i> 属の他の種は,雄の触角が繊毛状や毛束状であり,下唇髭は頭部の2-4倍程度の長さであることから容易に識別できる.また,雄交尾器からも明瞭に識別できる.</p><p>分布:小笠原諸島(兄島・父島・母島). 寄主植物: マンサク科シマイスノキ (<i>Distylium lepidotum</i> Nakai)</p><p>本種の兄島と母島から得られた1雄2雌の標本を用いた分子遺伝学的な検討も行った結果,得られた分岐図と解析データから,兄島と母島間においておよそ1%の塩基置換率が確認された(Fig. 14).また,チョウ目における同属内の種間のミトコンドリアDNA (COI) 領域の平均塩基置換率はおよそ7~8%であるとされるほか (Hebert <i>et al</i>., 2009; Hausmann <i>et al</i>., 2011),ヤガ科ヨトウガ亜科 <i>Tiracola</i> 属における近縁種の塩基置換率がおよそ5.1%程度であったことが示されているが (Watabiki and Yoshimatsu, 2013),今回分子遺伝学的解析を併せて行った <i>Perciana marmorea</i> Walker,ナンキシマアツバ <i>Hepatica nakatanii</i> Sugi, および本新種の平均塩基置換率はおよそ6.2%であり,属以上のレベルで一般的に見られるような大きな遺伝的差異は見られなかった.</p><p>本種は日本産ヤガ上科の分類学者であった故杉繁郎氏の助言をもとに竹内・大林(2006)においてクルマアツバ亜科の属名・種名の未決定種として初めてリストアップされた種である.そこで本種の学名は杉繁郎氏に献名し,和名は杉氏が竹内と大林に書面上で提示していたもの(杉私信,1996)と同様に,シマイスノキアツバとした.なお,竹内・大林(2006)では"シマイスアツバ"として扱われたが,これは杉氏提案の和名を誤って略してしまったものである.</p>
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.387-404, 2007
参考文献数
57
被引用文献数
2

日本列島産ベニヒカゲの種内系統関係を調べるため,aethiopsグループの主要な地理的変異と,外群としてErebia属および近縁属合計6種を用いて分子系統解析を行った.種ランクについては系統樹(近隣結合法と最大節約法による解析では亜種ランクまでのトポロジーは同じため近隣結合法による樹形をFig. 2に示す),地域集団ランクについてはネットワーク樹(統計的節約法)によって解析した. 大陸産近縁種を含む系統関係 種ランクでは,共通祖先種からscoparia, alcnena, neriene, aethiops, niphonicaがほぼ同時期に分岐している事が示唆され,いずれも高いブートストラップ値で支持される.Scopariaとniphonicaが分割されている点を除けば,従来の形質に基づく亜種レベルまでの分類が分子系統的にも支持される.Fig. 2に示すように,scopariaとniphonicaは分布域が地理的に近接しているものの,種ランクの分化が進んでいる事が示唆される.Erebia vidleriはカナダBritish ColumbiaからアメリカWyomingにかけて局地的に分布する種で,E. niphonicaと似ているとの指摘がある.Warren (1936)は1種で1グループとしaethiopsグループの隣に置いている.その生息地は針葉樹林縁の明るい草原であり(Fig. 5d), aethiops (Fig. 5a), neriene (Fig. 5b), niphonicaの生息環境とよく似ている.しかし分子系統的にはaethiopsグループとは遠い位置にある事が示唆された.亜種ランクでの分岐に関しては,E. aethiopsではCaucasus集団(ssp. melusina)の分岐が深く,その他のスイス(ssp. aethiops)・Middle Ural (ssp. goltzi)・Sayan (ssp. rubrina)の集団はあまり分化していない.E. nerieneではAmur地域集団(ssp. alethiops)とSayan・モンゴル集団(ssp. neriene)に分岐している.日本列島産ベニヒカゲ集団については,Sakhalinから2種,北海道から24種,本州から26種のハプロタイプを検出した.ネットワーク樹(Nakatani et al., 2007)によると北海道で3系統,本州で2系統が認められた.北海道産集団(Fig. 3a)は,西部系統が稚内付近から日本海岸沿いに渡島半島まで分布し,中部Sakhalin,利尻・礼文両島の集団も含まれる.広域分布のハプロタイプHA000から狭分布型の多くのハプロタイプが派生している.東部系統はオホーツク海沿岸から道央・日高山脈まで広い範囲に分布する.日高山脈北部に狭分布型のハプロタイプが産する他は,すべてハプロタイプHD000であり遺伝的に均一な集団である.北部系統はネットワーク樹では北部系統に結合されるが,他の系統とは遺伝的距解か離れており,北部の狭い範囲に分布している.本州産集団(Fig. 3b)では,北部系統が東北地方から上越山系の東半分と赤石山脈に分布する.また南部系統は上越山系の西半分と赤石山脈以外の中部山岳に広く分布する.Sakhalin集団では,南部Sakhalin, Yuzhno-Sakhalinsk産は北海道北端の稚内市周辺に限って分布するものと同じハプロタイプであり,また中部Sakhalin, Khrebtovyi Riv. 産は利尻島,礼文島に分布するハプロタイプに近縁なタイプであった.Sakhalinと北海道を分ける宗谷海峡の水深は約60mであり,最終氷河期の約1.1万年前以降に海峡が形成されたとされる(大嶋, 1990, 2000).Sakhalin南部集団は北海道北端集団と遺伝子的に同じ集団であることが確認され,またSakhalin中部の集団も利尻・礼文など北海道北部集団と近縁であることが遺伝子的に確認された.すなわち,宗谷海峡が形成されるまではSakhalinと北海道のベニヒカゲ集団の間には遺伝的交流があったことが裏付けられた.一方利尻島と礼文島を北海道本島と分ける利尻水道の水深は海図によると約80-85mであって,宗谷海峡よりも古い時代から海峡となっていた可能性がある.北海道本島の集団と比較して,利尻・礼文集団の方が,Sakhalin南部産の集団より分子系統的に分岐が古いという結果と整合性がある.大陸とSakhalinを分ける間宮海峡の水深は宗谷海峡よりもさらに浅く,海峡の形成は約4,000年前以降とされる(大嶋,2000).朝日らの調査(朝日ほか,1999;朝日・小原,2004)によるとSakhalinにおけるベニビカゲの分布は北緯51-52°より北では生息が確認されておらず,永久凍土が存在するほど寒冷な気候には適応できないものと推測される.陸化されていてもその環境がベニヒカゲの生息に適さないものであれば往来は不可能である.現在よりも寒冷な氷河期には間宮海峡は陸化していたものの,ベニヒカゲが大陸との間を行き来できる環境ではなく,Sakhalin・北海遠のベニヒカゲ集団は最終氷河期に大陸との間を往来することはなかったと考えられる.これはSakhalin・北海道集団が対岸のAmur地域のnerieneとされる集団とは分子系統的に非常に離れた存在であるという解析結果から示唆される. Aethiopsグループの系統地理 Aethiopsグループの生息環境をみると,aethiops (Fig. 5a), neriene (Fig. 5b), scoparia (竹内, 2003), niphonica (中谷・北川2000;中谷・細谷,2003)は,いずれも針葉樹林内やその林縁の明るい草原が主な生息環境となっている.またalcmenaの生息環境は渡辺(1993;私信)によると,中国甘粛省夏河(Xiahe, Gansu, China)では乾燥した潅木帯(Fig. 5c)である.Aethiopsグループの生息環境と現在の分布域(Fig. 1)からみると,共通祖先種はBaikal湖付近の針葉樹林と草原がモザイク状に拡がる地域を中心に分有していたと推定される.そして環境の悪化(温暖化または乾燥化)によっていくつかの集団に隔離分布したもののうち,東部の分布近縁部にあたるSakhalin・北海道付近でsconariaが分岐し,近縁部南部の中国で乾燥地に適応したalcmenほが分岐した.またSayan・Baikal地域の北部でnerieneが分岐した.Niphonicaは大陸の東南方で分岐した可能性が考えられる.これらの分岐年代はほぼ同時期とみられる.その後の環境改善(寒冷化または湿潤化)期にaethiopsはBaikal, Sayanから西へCaucasus, Uralを経てヨーロッパまで分布を拡大し,niphonicaは日本列島へ進出した.NerieneとaethiopsはSayan, Altaiでも分布を拡大し,Baikal地域からSayanにかけて混生状態を生じた.中国東北部から朝鮮半島北部に分布する集団は現在nerieneとされるが,朝鮮半島北部の集団は本州産niphonicaと同じとする見解(川副・若林,1976)や,移行型がみられるとの指摘(江崎・白水,1951)もあり,今後の調査が期待される.すでに述べたようにaethiopsグループの内,alcmenaを除くタクサはいずれも針葉樹林の林縁を主な生息域としており,乾燥が強い広大な草原には生息していない.このような生態から推定すると,ヨーロッパにおけるErebia epiphron (Schmitt et al., 2006)と同じように,分布を分断され孤立化した集団の隔離は,間氷期の温暖期だけではなく氷河期の乾燥が強い環境下でも起こっていた可能性が考えられる.分岐の年代推定はErebia属全体の進化プロセスの中で検討していく必要がある.
著者
白水 隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.136, pp.2-8, 1989

(1)ヒョウモン類,ドクチョウ類の基本食草がスミレ目(牧野のイイギリ亜目)であることは確実,他の食草はそれからの二次的,三次的転換である。(2)ホソチョウ類の基本食草はスミレ目またはイラクサ目,スミレ目の公算が大きい。アメリカのホソチョウ類の主食草キク科はスミレ目からの二次的あるいは三次的転換と考える。(3)テングチョウ類,コムラサキ類,イシガケチョウ類,クビワチョウ類の基本食草がイラクサ目であることは確実。スミナガシ類もその基本食草はイラクサ目であると思われる。(4) 真正タテハ類のうち,ヒオドシチョウ群,アカタテハ群の基本食草はイラクサ目。タテハモドキ群(アフリカのSalamis,Catacroptera,新熱帯のAnartia,Siproeta,東洋熱帯のKallima,Doleschalliaなどを含む)の食性(キツネノマゴ科,ゴマノハグサ科,クマツヅラ科が中心となるもの-この3科は牧野の管状花目に含まれる1群-)はイラクサ目からの二次的転換と考える。ヒョウモンモドキ類の食性はタテハモドキ群やヒメアカタテハ属のそれの僅かな変形,同様にイラクサ目からの転換と考える。(5)カバタテハ類の基本食草がタカトウダイ科であることは確実,ムクロジ科食はそれからの二次的転換と考える。(6)イチモンジチョウ類の中の真正イチモンジ群の基本食草はアカネ目,その他の食草はそれからの二次的転換と考える。この群にみられるタカトウダイ科食は原始食草の名残りである可能性もある。ミスジチョウ群,Euthalia群の食性は多岐に分化しており,資料不足,筆者の研究不足で推定ができない。(7)フタオチョウ類の基本食草をタカトウダイ科と推定。マメ科,ムクロジ科,その他の科はそれからの二次的転換と考える。以上でスミレ目,イラクサ目,アカネ目,フウロソウ目(タカトウダイ科)の4群がタテハチョウ科の主要な基本食草として浮かびあがってきたが,これらの関係はどうであろうか。私は大胆にタカトウダイ科食が原始食草,タテハチョウ科の分化の初期にスミレ目に移った1群,イラクサ目に移った1群,アカネ目に移った1群があり(これに準ずる重要な食草群はムクロジ科など他にもいくつかある),これらの食草(食性)を中心にして,さらに分化,発展したのが現在のタテハチョウ科の食性であると考えたい。
著者
今井 彰
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.1976, no.85, pp.65-66, 1976
著者
北原 曜
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.150-157, 2014-12-30 (Released:2017-08-10)

Neope goschkevitschii and N. niphonica are closely related species that occur sympatrically in various areas of Japan. In order to verify the possible existence of natural hybrids and genetic introgression between these species, artificial hybridization and backcrossing experiments were conducted by hand pairing. The results showed that adult male and female F1 hybrid individuals of both species were not capable of reproducing and that genetic introgression between these species must not occur in the natural environment.
著者
藤井 恒 渡辺 康之
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.169, pp.10-24, 1997-05-20
被引用文献数
1

1996年8月18日〜24日に行われたギフチョウフォーラムの懇親会は,メインテーマであるはずのギフチョウの話よりもむしろ「オオモンシロチョウ」の話題で盛り上がった。筆者の一人,藤井は北海道の川田光政氏や青森の工藤忠氏からの情報で,北海道の道南部だけでなく,稚内や青森県の竜飛崎付近でもオオモンシロチョウが採れたということをこの時すでに知っていた。すぐにでも北海道へ飛んで行きたい気分であったが,ギフチョウフォーラムの仕事をすっぽかす訳にもいかず,ギフチョウフォーラム終了後に調査に出かけることを決めていた。一方,渡辺も9月中旬には大雪山へ行くのでその際,オオモンシロチョウの撮影などを行うことにしていた。その後,紆余曲折を経て,結局一緒に調べに行きましょうとが決まったのが,8月27日の夜。翌日の早朝,大阪伊丹空港で落ち合うこととなった。ここでは,この時の調査行の結果を簡単に報告しておきたい。なお,8月28日〜8月31日午後までは2人で行動を共にしたが,それ以降は別行動をし,藤井は9月1日〜5日まで青森県で調査を行い,渡辺は9月2日〜12日まで大雪山に滞在した後,9月13日に札幌で調査を行った。