著者
大野 泰史 広渡 俊哉 上田 達也
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.99-107, 2000-03-31
被引用文献数
1

Fauna of Lepidoptera that infests acorns of Quercus acutissima, Q. aliena and Q. serrata was investigated in Mt Mikusayama forests of Osaka Prefecture, Japan in 1997. Quercus acorns were infested by a total of 13 lepidopterous species, representing 7 families.
著者
八木 孝司
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.195, pp.21-22, 2002-12-20
著者
坂巻 祥孝 小木 広行
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.209-215, 1999-06-30

Sakamaki(1996b)において日本産Monochroa属11種がまとめられたが,その後の筆者らの調査でさらに2種類が採集された.また,その他にも新たな標本を加えて検討をしたところ,これまで未知であったウスイロフサベリキバガの雄と判断される標本を2頭得た.これらの形態・生態的特徴は以下のとおりである.Monochroa lucidella(Stephens)(Figs 1,3,4)キモンキバガ(新称)本種は外見上,Eulamprotes属のキモンアカガネキバガに似るが,前翅中央部から基部を占める不明瞭な黄色い斑紋があることや開張が一回り大きい(開帳13.5-14.3mm)ことからも一見して,判別可能.同属内に外見が類似した種はなく,特徴的な前翅斑紋および無地褐色の触角等からも容易に識別される.雌雄交尾器の形状からはイグサキバガに近縁と考えられる.日本で幼虫は見つかっていないが,ヨーロッパではカヤツリグサ科のハリイ属(Eleocharis),ホタルイ属(Scirpus)の茎に潜っていることが知られている.旧北区全体に広く分布し,日本では北海道に分布.Monochroa leptocrossa(Meyrick)(Fig.5)ウスイロフサベリキバガ原記載以来本種は雌しか知られていなかったが,今回,外見上の特徴が本種の雌個体と一致する雄個体を2頭得たのでここに雄交尾器の特徴を示した.雄交尾器においては把握器の幅が広く,えぐれがどこにもないことから近縁のホーニッヒチャマダラキバガやミゾソバキバガなどと区別可能.Monochroa conspersella(Herrich-Schaffer)(Figs 2,6,7)サクラソウキバガ(新称)本種は外見上クマタシラホシキバガに似るが,一回り小さく(開帳9.5-11.8mm),暗褐色の触角は末端節にのみ黄土色の輪環を持つことで区別できる.春(5月)にエゾオオサクラソウに潜葉している幼虫を採集した.ヨーロッパでの食草はサクラソウ科のサクラソウ属,およびクサレダマである.旧北区全体に広く分布し,日本では北海道に分布.
著者
福田 晴夫 二町 一成
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
日本鱗翅学会特別報告 (ISSN:05495210)
巻号頁・発行日
no.6, pp.35-68, 1988-09-30
被引用文献数
3

1)日本におけるリュウキュウムラサキの採集記録は年々増加の傾向を示しているが,実際の飛来個体数はあまり変化していないと思われる.近年の個体数変動が目立つのは,一時的な発生個体数の変化が大きく関係していると考えられる.2)日本で採集される型を大陸型,台湾型,フィリピン型,赤斑型,海洋島型としてその年次変化を見ても,とくに著しい変化は指摘できない.3)ただし,1983年は海洋島型を除く各型とも異常に多く,赤斑型だけで51頭が記録されたので,この型について次のようなことを明らかにした.i)これらの飛来は7月から10月にわたって3ないし4波に分けられる.ii)供給地として最も可能性が高いのはボルネオで,パラオ諸島はやや可能性が低く,マリアナ諸島以北は海洋島型の生息地であるので可能性はさらに少ない.4)13科にわたる食草の記録を検討した結果,本種の自然状態における主要食草はイラクサ科,ヒユ科,アオイ科,ヒルガオ科,キツネノマゴ科の植物である.5)パラオ諸島,ボルネオ(サラワク)における赤斑型の調査結果では,生息地は湿地,水田,人家周辺などで,主食草であるツルノゲイトウ,エンサイの多い環境である.6)赤斑型の分布拡大の過程を次のように推定した.i)個体群内における単性系♀の比率変化および生息環境の拡大による個体数の著しい増加.ii)それに伴なう周辺部への分散個体の増加(とくに乾季型的個体の分散).iii)強い気流による分散個体,とくに未交尾個体の運搬(長距離移動).iv)到着地における先住亜種が利用していない環境(湿地)への定着.v)森林性の先住亜種との間のすみわけの成立,ところによってはその接触地付近で両型の交雑による子孫の発生.7)亜種間交雑では,赤斑型×フィリピン型,赤斑型×台湾型のF_1は,相反交雑を含めて,両型の中間的斑紋となる.8)♀が多い異常性比は本種のほとんどの分布域で見られるが,同じ亜種でも地域によって性比は異なる.集団内の性比異常の原因は単性系♀,両性系♀と♂少産系♀の比率によるらしい.9)大陸型とフィリピン型に間性が見られるが,その発現機構はまだ不明である.
著者
舩越 進太郎 田中 浩之
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.125-130, 2003-03-30

雌が翅をもたない幼虫型で,一生をミノの中で過ごすミノムシは,幼虫の空中分散が知られる.チャミノガEumeta minuscula Butlerの孵化幼虫を使って幼虫分散を観察した.半透明のプラスチック容器にミノを作る前の孵化幼虫を入れ,扇風機の風を送って分散数や飛翔距離を測定した.暗室内で容器の口を下にし,下から懐中電灯の光を当てた場合,7分間で約60%の幼虫が分散した.それに対し,明るい部屋で容器を上に向けた場合,幼虫は容器の口の周りを回るだけであり,下に向けた場合は上になった底に集まって,ほとんど分散は見られなかった.孵化幼虫にとって負の走地性よりも正の走光性が優先した.約50匹の孵化幼虫を垂直に敷いたろ紙の上に置き,暗室内で光を一方向から当てると,光の方向に向かう走光性を示したが,下に向かう幼虫の移動速度(0.939±0.183mm/sec.)は左右に向かうもの(1.139±0.175mm/sec.,1.152±0.152mm/sec.)より劣っていた.光源をなくした場合は個体によってまちまちで,移動の方向は定まらず,負の走地性はみられなかった.また,移動速度も0.17mm/sec.から0.46mm/sec.の間で,光源に向かう速度に比べて遅いものであった.孵化幼虫の走光性の強さは,ミノの口は下に開口しており,ミノ上部で孵化した幼虫が開口部に向かうことを考えれば当然といえる.また,扇風機の風を3段階に切り替えて実験を行ったが,孵化幼虫の分散数にはほとんど差がなく,ミノガ孵化幼虫は強風を待たずに分散していると推測された.飛翔距離は強風の下で長かったが,自然界では室内の扇風機のように風源から離れると風速が弱まることはなく,弱風でも風に乗って遠くまで分散するものと考えられた.しかし,それぞれの方向から光を当てた場合,孵化幼虫が左右に向かうより,下に向かう方が遅い理由は理解できなかった.
著者
Heppner John B.
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.13-15, 1987-05-20
被引用文献数
1

Palaeosetidaeという原始的な蛾には,オーストラリアのPalaeoses sp.,チリのOsrhoes sp.および東洋区のGenustes sp.とOgygioses spp.の5種が含まれる.チリの種はごく最近までコウモリガ科に所属すると判断されていた(NIELSEN and ROBINSON, 1983).Palaeosetidaeの生態については,TURNER(1922)によるオーストラリア産の本科の記載に成虫と生息地についての短いノートがあるだけで,そのほかはなにもわかっていなかった,ISSIKI & STRINGER(1932)の東洋区の種の記載にも,生態についてはなにも書かれていない.1985年の台湾蛾類調査の際,台湾の中央山地でOgygioses caliginosa ISSIKI and STRINGERの成虫を7月2-4日に観察できた.この場所は台南州嘉義郡奮起湖の近くで,標高は約1450mである.生息地は小さな溪谷で,川が流れており,植物が繁り,また苔で覆われた岩や木生シダがあった.TURNER(1922)も,クイーンズランドのPalaeoses scholastica TURNERについて湿った木生シダのある場所だったと述べている.彼は,成虫の飛翔活動についてはなにも記録していないが,シダや苔で覆われた枝などをスウィープして採集しており,この蛾を比較的不活発なものと考えた.台湾でもOgygioses caliginosaの成虫はほとんど飛ばないようであるが,飛ぶ場合は溪流沿いで曇った日でも晴れた日でも半日陰になる場所である.O.caliginosaの成虫の場合はほとんど溪流の植物に沿ってすれすれに飛んでいる.O.caliginosaの飛翔はかなりのろく,まっすぐに飛び,トビケラによく似ている.ネットなどをふって飛翔中の成虫をびっくりさせると,ただちに飛翔を中止し,林床に真っ直ぐ落ち,落ち葉の間でもっともらしく死んだまねをする.地面から1-2mの高さの大きな葉の裏で休息するのを好む.成虫が休息する時は翅を腹部の上に(屋根型に)畳み,葉上で中脚を前方に伸ばす.また前脚は休息には使用されず折り畳んでいる.成虫が飛ぶ前に苔に覆われた岩の上で休息しているのを一度だけみかけた.台湾では交尾を観察できなかったので,.O.caliginosaの食草は未知のままである.(文責編集部)
著者
井上 寛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.271-287, 1998-10-05

Artona(Balataea)martini Efetovタケノホソクロバ:本種とA.funeralis(Butler)ヒメクロバについては杉(1997)を参照されたい.本土から食草と共に移入されたものである.Hyblaea puera(Cramer)キオビセセリモドキ:大林隆司氏によって父島でクマツズラ科のハマゴウで幼虫が発見された.杉(1982,蛾類大図鑑,pl.35:14)の写真は父島産の雌である.Banisia myrsusalis elaralis(Walker)ヒメシロテンマドガ:父島と母島でそれぞれ1♀がとれているにすぎず,本土では屋久島産の1♀しか知られていない(井上,1982:304).Banisia whalleyi Inoueコシロテンマドガ(新称):父島と母島に多産する特産種.Belippa boninensis(Matsumura)オガサワライラガ:父島と母島に多産する特産種で,新属Contheyloidesのもとに記載されたが,この属を本文でBelippaのシノニムにした.Gathynia fumicosta islandica Inoueアトキフタオの小笠原亜種:原名亜種とちがって極めて変異性に豊んでいる.父島と母島に多産.スズメガ科は,エビガラスズメ,キョウチクトウスズメ,ホシホウジャク,イチモンジホウジャク,キイロスズメの5種がとれているが,確実に土着しているものが此のうちどれかはっきりしていない.Utetheisa pulchelloides umata Jordanベニゴマダラヒトリのミクロネシア亜種:土着性はあやしい.Hyphantria cunea(Drury)アメリカシロヒトリ:竹内・大林両氏によると,父島で1994年に発見され,以来定着してしまったらしい.Nyctemera adversata(Schaffer)モンシロモドキ:父島で2頭とれただけで土着しているかどうかわからない.Nola infranigra Inoueシタジロコブガ:父島と母島には土着しているようである.シャクガ科の追加.Pelagodes antiquadraria(Inoue)オオサザナミシロアオシャク:第2報で既に記録したが,久万田博士が父島でヒメツバキ(ツバキ科)を食べている幼虫から羽化させた1♂を検することができた.Perixera illepidaria(Guenee)コブウスチャヒメシャク:大林氏によってガジュマル(イチジク科)とレイシ(ムクロジ科)で幼虫が飼育され1♂1♀の成虫がえられた.本州でわずかしか得られていない珍種(井上,1982:444).Gymnoscelis subpumilata Inoueホソバチビナミシャクは第2報で記録したが,竹内氏によってマンゴウ(ウルシ科),ワダンノキおよびセングングサ(以上キク科)から父島と母島で幼虫が発見された.Gymnoscelis tristrigosa tristrigosa(Butler)トベラクロスジナミシャク:これも第2報で記録した種だが,シロトベラ(トベラ科)で竹内氏が幼虫を飼っている.沖縄県ではオキナワトベラが食草として知られている(井上,1982:514).Gymnoscelis esakii Inoueケブカチビナミシャク:竹内氏はマンゴウ(ウルシ科)から幼虫を得て成虫を出している.Collix ghosha ghosha Walkerオオサビイロナミシャク:大林氏によって父島でモクタチバナ(ヤブコウジ科)で,竹内氏によって兄島で同じ植物から幼虫が飼育された.メイガ科の追加.Eucampyla estriatella Yamanakaシロチビマダラメイガ:四国・九州・奄美大島・沖縄本島から記載された種で,父島と母島でとれている.Cryptoblabes gnidiella(Milliere)ネッタイマダラメイガ(新称):地中海地方が原産と推定され,幼虫が果実,干果などにつくところから,人為的に世界の熱帯圏に運ばれ土着してしまった.Microthrix inconspicuella(Ragonot)サビイロマダラメイガ:山口県を基産地とするSelagia manoi Yamanaka,1993は同じ著者(1998)によってM.inconspicuellaのシノニムとされた.アフリカからインド,ネパール,日本(本州)などに広く分布する.Indomyrlaea eugraphella(Ragonot)シロフタスジマダラメイガ(新称):東南アの広分布種で,父島と母島で7頭とれている.Hampson(1896)は乾燥タバコとMimusops elengi(アカテツ科)を食草とし,Meyrick(1933)はジャワから今はシノニムとされているSalebria iriditisという新種を書いたとき食草としてクサギ属(クマツズラ科)と名称不明の果物を挙げている.Musotima kumatai Inoueクマタミズメイガは母島産の1♂で第3報で記載したが,父島でとれた2♂1♀を検した結果,色彩斑紋に大きな変異のあることがわかった.M.colonalis(Bremer)ウスキミズメイガに近縁だが,外観ばかりではなく雄交尾器の形態にも明確なちがいがある.Eurrhyparodes tricoloralis(Zeller)オオアヤナミノメイガ(新称):父島でとれた1♀にこの種名を当てはめたが,アヤナミノメイガの仲間はまだ十分に種の解析が行われていないので(井上,1982:332),将来学名が変更されるかもしれない.Palpita munroei Inoueオオモンヒメシロノメイガ:第3報では種名未定で記録したが,この属についてはInoue(1996b)の論文で詳しく書いたのでそれを参照されたい.
著者
行成 正昭
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.188, pp.50-53, 2001-03-20
被引用文献数
1
著者
湯川 淳一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.47-74, 1984-09-20
被引用文献数
1

インドネシアのジャワとスマトラの間のスンダ海峡にあるクラカタウ諸島の動植物は,1883年の大噴火で死滅したと言われており,その後の動植物の再移住に伴う生態遷移の過程は地理生態学者らの注目の的になっている.筆者は,爆発後100年目の昆虫相を調査するために,1982年にこれらの島々と周辺地域(パナイタン島とジャワ西海岸のチャリタ村)を訪れる機会を得た.他の昆虫に比較してチョウは同定が容易で,しばしば,亜種の区別まで可能である.また,寄主植物や分布に関する知見も多い.さらに,どの調査でもチョウの採集や目撃の記録は数多く報告されている.したがって,寄主植物そのものの分布や採集記録が同時に備わっていれば,チョウは地理生態学上,恰好の研究材料となり得る,幸いにもクラカタウ諸島の植物相の遷移に関しては,これまで比較的充実した調査・研究がなされており,チョウのような食植性昆虫の再移住を考察する上で,きわめて有益な情報が用意されている.クラカタウ諸島では39種,パナイタン島では29種,チャリタ村では18種のチョウを採集した.クラカタウ諸島とパナイタン島で採集したチョウの大部分のものはジャワ亜種に属しており,これらの島々へは,スマトラよりもむしろジャワから移住した種の方が多いことが明らかとなった.クラカタウ諸島4島全体での39という種類数は,ジャワの583種の6.69%,スマトラの686種の5.68%に当り,この100年間でまだほんの一部のチョウしか再移住していないことを示している.ジャワでの種数に対する割合を科別で比較してみると,セセリチョウ科が2.21%で最も低く,シロチョウ科とマダラチョウ科,シジミチョウ科が10.32〜11.43%と高かった.島の生物相では,しばしば,不調和性が見られるが,クラカタウの蝶相ではあまり顕著ではなかった.クラカタウ諸島は4つの小さな島からなっており,その内の1つ,子クラカタウ島は1927年から1930年にかけての海底火山の活動によって形成された新しい島である.この島は面積も小さく(280ha),植物は約50種,しかも,それらの生育地が限られているために,チョウも僅か8種しか確認できなかった.これに対し,面積が大きく,地形も複雑で,植生も比較的豊富な大ラカタ島(1,152ha)やセルツング島(784ha)ではより多くの種類が採集された.ジャワ西海岸のチャリタ村やパナイタン島で,きわめて普通に見られる何種かのチョウがクラカタウ諸島でまったく採集できなかった.これらのチョウの寄主植物を調べてみると,いずれも,植物そのものがクラカタウ諸島に移住していないことが判明した.また,ヤコブソンやダンメルマンらがクラカタウ諸島の昆虫相を調べた1908年から1932年にかけて,島に生息していたいくつかのチョウが1982年の調査で発見されなかった.これらの大部分のチョウの寄主植物も,かつては島に繁茂していたにもかかわらず,現在では絶滅したか,あるいは,生育場所が限られているということがわかった.とりわけ,イネ科やヤシ科を寄主としていたチョウは島から消えていったものが多い.これとは反対に,これまでクラカタウ島で採集されたことのないチョウが14種も新しく記録された,とくに,シジミチョウ科が多かった.草原などオープンランドに生息する,いわゆるr-淘汰を受けた種にかわって,K-淘汰を受けた種が遅れて移住してきたものと考えられた.このように,植生の遷移に伴って種の入替りが起こりつつ,クラカタウ諸島のチョウの種類数は,1908年の6種から1919〜1922年の32種へ,そして,1928〜1934年の29種から1982年の39種へと変化してきた.マッカーサーとウィルソンは島に移住してくる生物の移入率と移住した生物の絶滅率が等しくなる時点で,島における種類数は平衡に達すると述べている。今回示したクラカタウ諸島へのチョウの移住曲線の増加傾向からも明らかなように,チョウの種類数は爆発後100年を経過した現在も平衡状態に達しているとは考えられない.島を調査した植物生態学者らは,いわゆる熱帯季節林と呼ばれる極相林に達するのに,なお多くの年月を要し,様々な植生段階を経過すると予測している.また,1つの植生段階は10年以上も継続すると言われている.そうだとすれば,寄主植物の遷移に大きく依存しているチョウ相は今後も変化し続け,種類数も増加していくに違いない.しかし,その時々の植生段階の優占種やその他の構成樹種が合わせもつ一定の容量によって最高種数が決定されるため,その植生段階が続く間,種類数はいわゆる偽平衡に達するであろう.したがって,移住曲線はなめらかに増加するのではなく,植生の遷移に応じて段階的に変化していくものと考えられる.クラカタウ諸島は長期に亘る生態遷移を研究する上で掛け替えのない天然の大実験場と言える.これまで提唱された地理生態学に関する様々な理論を検証するためにも,また,再移住の過程を分析するに足る多くのデーターを得るためにも,今後の定期的な調査の必要性を強調しておきたい.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-5, 2005-01-01

ツリフネソウトラガSarbanissa yunnanaの発見を報告した論文(宮田・野崎,1989)で,ノブドウにつく謎の幼虫について言及し,おそらくそれがベニモントラガSarbanissa venuataの幼虫であろうと述べた.その後,長い間調べる機会が無かったが,大分県九重町地蔵原に移って間もなく2003年9月27日再びノブドウにつく幼虫を発見した.前2回の遭遇では幼虫は茎に70頭から100頭の大きな群れを作っていた.しかし今回は1本のノブドウに12-19頭からなる小さな4つの群れが見つかった.群れにはリーダーがおり,敵を威嚇するときはリーダーが頭を上にそらせ体を震動させると,メンバーが一斉に同じ行動を行った.また摂食の際,群れは解散したが,終わると元の葉に戻ってまったく前と同じように並んだ.地蔵原は海抜約830mの高原で涼しいためか低地では二度も失敗した幼虫飼育は順調で,数日でクヌギの朽ち木に潜り込み蛹化した.2004年8月10日から15日にかけてベニモントラガ2♂1♀が羽化した.ツリフネソウトラガもベニモントラガも地蔵原には多いので,両種の成虫の発生期を調べた.その結果,ベニモントラガは年1回8月に出現する一化性の種であるが,ツリフネソウトラガは初夏と夏の年2化であることがはっきりした.
著者
三枝 豊平 李 伝隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-"24-Plate1", 1982-12-20

ウンナンシボリアゲハBhutanitis mansfieldi(RILEY, 1939)は,中国の雲南地方で採集を行った英国の植物学者,G.FORRESTの採集した蝶類標本の中から,M.J.MANSFIELDが見出した1♀の標本に基づいて記載された種である.本種は原記載以来全く標本がえられず,しかもこの標本には信頼にたるデータが全くついていなかった.本種はBhutanitis属の他種に比較して,翅形や翅斑がLuehdorfia属と一見類似したところがあり,しかも白く顕著なsphragis(交尾後付属物)をつけているために,MUNROE(1960),ACKERY(1975),日浦(1980)は本種とLuehdorfia属との類縁関係に触れており,本種の♂の発見に期待していた.特に日浦(1980)は,斑紋,翅形,翅脈,交尾後付属物,爪等の形態にもとついて,本種を模式種とするYunnanopapilio属を創設した.1981年春に,北海道山岳連盟は中国四川省の貢〓山(ミニヤ・コンガ山)に登山隊を派遣したが,その際同山麓の新興村の近く標高2,200mの地点で,隊員の梅沢俊,故浦光夫の両氏が全く偶然にも本種を♂♀合わせて14頭も採集した.これらの標本は次に述べる亜種的な相違をあらわしているものの,その諸形質はB.mansfieldiと完全に一致し,この種と同一種であることはほとんど疑いない.本論文では,これらの標本にもとついて新亜種の記載を行い,またその形態学的形質を近縁種やLuehdorfia属と比較することによって,本種の分類学的位置について言及する.Bhutanitis (Yunnanopapilio) mansfieldi pulchristriata subsp. nov.斑紋や翅形の詳細は原色図版で示されているので省略し,従来不明であったいくつかの形態学的特徴について記述する.複眼は大形で黒色,全面に長さ約0.3mmの黒色の細毛を密生する.触角の先方2/3では各小節の先端の下面が鋸歯状に突出する.♂交尾器:第8背板の形状は一般的,その後縁部には長く硬い黒毛をいくらか生ずるが,鱗毛状の軟毛はみられない.♂交尾器は比較的大形,tegumenはその周縁部に沿って走る円形の内面隆起線と,これにとり囲まれた十字形の内面隆起線を具える;uncusは基部がほぼ左右に二分され,基部側縁に有毛の小隆起を生じ,著しく細長く,直線状に後方へ伸びる1対のuncal processを生ずる;valvaは側面からみるとほぼ菱形で,端半部にはsetaeを生じ,内面は広くanelliferとなり,遊離骨片または膜状片としてのharpeは存在しない;valva先端部はかなり強く細まり,突起状になる;aedeagusは著しく長く,直線状,先端は鋭く尖る.♀交尾器:第8背板は腹板と完全にゆ着し,その後半部の側部は下方へ拡大し,両側縁は第8腹節の腹中線部でほぼ相接する;apophysis anteriorisを欠く;ostium bursaeは第8腹板の前縁に近く開口し,その周囲は弱く隆起し,またその後方の腹中線部は顕著な竜骨状突起となる.Sphragisは今回採集された3頭の♀のいずれにも付着しており,色彩は黄白色ないし淡黄褐色.その形状や大きさはやや変異がみられるが,いずれも交尾した状態での♂交尾器の先端部の鋳型の形状をなし,ostium bursaeの両側にあたる位置にはvalvaeの先端部に対応する1対の小孔があり,aedeagus挿入部近くには1〜2本の細くやや曲ったフィラメント状のものが突き出している.前翅長:(♂)40.0-42.5mm,(♀)41.0-43.5mm.翅開長:(♂)67.0-72.0mm,(♀)71.0-73.0mm.分布:中国四川省.完模式標本♀,中国四川省濾定県新興(2,200m),7.iv.1981,梅沢俊採集(中国科学院動物砥究所蔵).別模式標本:11♂♂2♀♀,完模式標本と同一データ,梅沢俊または浦光夫採集(中国科学院動物研究所,北海道大学農学部昆虫学教室,九州大学教養部生物学教室,国立科学博物館,大阪市立自然史博物館,五十嵐邁所蔵).新亜種♀の原名亜種♀からの相違点.1)翅表の黄色条や黄紋は新亜種の方がより減退し,細くまた小形,2)後翅裏面中空の分岐した黄色細条の前枝は新亜種では第5,6脈基部の中央近くで終る(原名亜種では第6脈基部で終わる),3)後翅第4脈の尾状突起は新亜種の方が長く,尾状突起を除く第4脈長の約3/4,尾状突起の先端は強くサジ状に拡大する,4)第3脈の尾状突起も長く,これを除いた第3脈長の1/5よりやや長い,5)後翅表第2室にも亜外縁橙色紋があらわれる.
著者
船越 進太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-198, 1988-09-20

ヤガ科カラスヨトウ亜科Amphipyra属の蛾は初夏に羽化した後,夏眠場所へ移動し数ヶ月を過ごす.夏眠期間は種によって異なり,オオウスヅマカラスヨトウA.erebinaが8月下旬に姿を消すのに対し,オオシマカラスヨトウA.monolithaやカラスヨトウA.lividaの中には,11月中旬になっても夏眠場所に残るものがいる.しかし,夏眠期間中にあっても光に誘引されるものがいて,7月から9月に至る期間,この属の蛾の採集記録は少なくない.そこで,光に誘引される個体は夏眠個体とは多少とも異なった生理状態にあるのではないかと考えて,この実験を行った.材料は岐阜市三田洞の白山神社拝殿と同地域に位置する百々ヶ峰山(341.5m)の中腹で採集した夏眠個体36(17♂19♀)および光に誘引されたカラスヨトウ4(3♂1♀)を用いた.これらの個体を黒砂糖溶液を与えながら飼育し,金網を張った木箱の中に一匹ずつ入れて赤外線を照射し,その動きをカイモグラフに記録した.実験は1987年6月30日より7月22日の間に行い,17時より翌朝8時までの活動状態を調べた.木箱は恒温室内に置き,温度や湿度を一定に保ち,自然光が入り込む条件および24時間照明の条件を設定した.また,1987年8月1日,岐阜県山県郡美山町の神明神社および1987年9月19日,岐阜市三田洞の白山神社において,拝殿より約5m離れた位置に100W水銀灯を設置した.拝殿軒下で夏眠する蛾の種,個体数,静止位置を記録した後,水銀灯を点灯した.点灯時間は1時間で,その間,光に飛来する個体を捕獲した.消灯後,再度軒下の個体を記録した.以上の結果,室内実験において24時間照明下では,カラスヨトウの光誘引個体も夏眠個体も全く動かなかった.自然光下では19:30前後より活動が始まり,多くの個体は断続的に活動したが,中には一晩中動き続ける個体がいた.全ての個体は4:30頃までに活動を停止した.しかし,夏眠個体と光誘引個体との間に行動の差違を見い出すことができなかった.神社拝殿の夏眠個体の中で,8月上旬のオオウスヅマカラスヨトウは,大半が光に誘引された.しかし,カラスヨトウ,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオシマカラスヨトウは全く誘引されず,多少静止位置を変えるものがいたが,夏眠を継続した.
著者
井上 寛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.69-75, 1978-06-01

Okano[岡野磨瑳郎]は,台湾産のタイワンアゲハモドキの学名を論じ(1958,1964),学名はEpicopeia formosana Nagano, 1912(=E. hirayamai Matsumura, 1935)とすべきであるという結論に達し,さらに第3の論文(1973)では,E. formosanaのなかで,前後翅に白帯のあるのがf. formosana,白帯のないのがf. hirayamaiとした.また第3の論文では,E. hainesii Hollandアゲハモドキの台湾亜種matsumurai okanoを記載し,そのなかで,ジャコウアゲハの♀のように翅の白っぼい型をf. albaと名付けた.私は以前から,日本,朝鮮,台湾などに産するこの属の種や亜種に関心をもち,標本や文献を集めてきたし,British Museum (Natural History) (以下BMNHと略す)では,タイプ標本を含め,多数のシナ産の標本を検することができたので,Okanoがまったく言及していない文献や大陸の標本を含めて,2種の学名や地理的変異についての私見を述べることにした.
著者
大野 豪
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.202-204, 2000-06-30
参考文献数
6

アワノメイガ属の一種ウスジロキノメイガの幼虫は,タデ科のオオイタドリおよびイタドリを寄主としているが,これらの植物と同所的に生息する他の植物にも食入する場合があることが明らかになった.新たに記録された本種の寄主は以下のとおりである.オオヨモギ,ハンゴンソウ,アキタブキ,オナモミ属の一種(以上キク科),エゾニュウ(セリ科),ギシギシ属(タデ科),カラムシ属の一種(イラクサ科).イタドリ類が生息していない地点においては,これらの植物にウスジロキノメイガが食入する例は知られていない.したがって,上記植物への食入は,偶然による幼虫の移動分散によって生じたと考えられる.得られた羽化成虫は外見上正常であり,これは本種幼虫がイタドリ類以外の植物でも生育可能であることを示している.アワノメイガ属の種ごとの寄主範囲は多様であり,植物の属レベルでの単食性種から,多数の科にまたがる広食性の害虫種まで存在する.ウスジロキノメイガが潜在的に広食性であることは,メス成虫の寄主選好性における遺伝的変化のみによって,寄主範囲の多様化が生じうることを示唆する.本属の寄主選好性の種間・種内変異,およびその遺伝的背景を解明することは,農業害虫を含む植食性昆虫における食性の進化機構を理解する上で重要であると思われる.
著者
中島 秀雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.195-205, 1991-10-15

Operophteraは日本に6種分布している.そのうち,Operophtera brumata(LINNAEUS)は旧北区に広く分布しており,日本でも全国的に広く産することが知られていた.そして,その近縁種のO. fagata (SCHAR-FENBERG)はヨーロッパに分布し,brumataに比べて♂の前翅長が大きく,黄白色で光沢があり,♀においても前翅長が大きいことで明確に識別されていた.私は,日本の各地の多数の個体を採集して調べて行くうちに,日本のものにも♀の前翅に大小の差があることに気づき,fagataの分布の可能性を考慮して再検討した.しかし,ヨーロッパの2種の雌雄を入手して比較したところ日本のものは外観および交尾器にbrumata, fagataとは明瞭な差異が認められ,別種と判断できた.さらに,日本に生息しているものを交尾ペアを重点的に比較した結果,2種含まれている結論に達したので,これらを新種として記載した.Operophtena brunnea NAKAJIMA, sp. n. コナミフユナミシャク(新称) ♂の前翅長は14-17mm.外観はbrumataに似る.触角の中央部から先端の各節は短い.前翅は灰褐色から暗褐色で中横線,外横線,亜外縁線は波状に走る.翅の色は変化に富むが,brumataのように赤みを帯びることはない.♀の前翅長は1-3mm.体は暗褐色で前翅は非常に小さい.♂交尾器はbrumataに似るが,valvaの幅は狭い.Cornutiは長短2本の針状の突起からなり,brumata, fagata,もう一種の新種のvulgarisに比べて短い.♀の交尾器ではsignumを欠く.一方brumataは2個,fagataでは1個生じる.北海道,本州,九州に分布し,各地で採集されている.関東地方でみると,低山地に多いが,中禅寺湖(1,300m)などがかなり高標高の地域まで産するOperophtera vulgaris NAKAJIMA, sp. n. オオナミフユナミシャク(新称) ♂の前翅長は16-22mm.触角は中央部から先端の各節で長く,前種との良い区別点となる.前翅長は変化に富むが一般にbrumata, fagata, brunneaに比べて大きい.前翅の色も変異があるが,灰白色から灰褐色である.Brunneaとは個体変異を含めてみると,外観で区別することは困難であるが,本種では中横線が前縁の近くで外側にくの字状に切れ込み,真っすぐ前縁に向かううbrunneaとの区別の目安になる.♀の前翅長は3-5mm.Brunneaに比べて前翅が大きい.Fagataに似るが前翅がやや幅狭い.♂交尾器のvalvaはbrumata, fagataに比べて幅狭い.Brunneaに非常によく似ており,valvaの形状で区別するのは困難である.Cornutlはbrunneaに比べて長いのでこの点で区別できる.♀交尾器のsignumは1個生じる.その形状は小さい突起が多数集合するが,その数には変化があり,突起がほとんど無く板状になるものもある.本種は北海道,本州に広く分布し,前種との混生地も多い.そして,垂直分布は関東地方でみると500m位の低山から1,500mの亜高山帯まで産する.多摩湖(150m)では本種は生息しない.高尾山山頂付近(480m)ではbrunnea, vulgarisともいる.