著者
長江 拓也
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現行の設計指針類での露出柱脚の終局せん断特性の評価では,露出柱脚ベースプレートと基礎モルタルの摩擦による最大耐力とアンカーボルトのせん断耐力のうち大きい方を柱脚せん断耐力としている。柱脚負担せん断力が最大摩擦耐力に達し,すべりが生じたのちも一定の摩擦抵抗力が保持されるならば,適切なモデル化を通して強度の加算も可能と考えられるが,実験的裏づけが不足しているため,現状の評価では一旦すべりが生じたのちの摩擦抵抗は考えていない。摩擦係数にして0.5を超えるせん断耐力が安定的に発揮されるとすれば,アンカーボルトのない柱脚,つまり基礎に緊結しない柱脚の可能性や,鋼とモルタルをダンパー材料として用いる損傷制御型柱脚の現実味がおびてくる。本研究はでは,露出柱脚と基礎モルタル間の摩擦実験システムを振動台上に構築し,鋼とモルタル間に動的な多数回繰返しすべりを生じさせることで,すべり進行時における動摩擦抵抗を検証した。得られた知見は以下に示すとおりである。(1)静止摩擦係数:多数回の繰返しすべりに対して静止摩擦係数は常に安定していた。入力波の振幅と振動数に依存せず,静止摩擦係数はほぼ一定であり,実験値の平均値は0.78であった。(2)動摩擦係数:本加振条件下における,すべり時の動摩擦係数は静止摩擦係数と等しく,すべり進行時における摩擦抵抗力は一定となった。つまり,水平外力は静止摩擦を経て,すべり出した後も同等の摩擦抵抗を発揮する。これは,露出柱脚のせん断耐力をアンカーボルトのせん断耐力と摩擦抵抗力の足し合わせによって評価することの可能性を示唆するものである。(3)数値解析による摩擦挙動の再現:すべり時の動摩擦係数を一定と仮定した剛塑性モデルを用いる数値解析では,ほぼ実験で得られた摩擦係数において実験結果のすべり応答を再現でき,すべり応答を通して解析から与えられる動摩擦係数が鋼構造接合部設計指針等で用いられる摩擦係数0.5を上まわることを確認した。
著者
堀内 茂木 入倉 孝次郎 中村 洋光 青井 真 山田 真澄 干場 充之 正木 和明 香川 敬生 正木 和明 倉橋 奨 香川 敬生 大堀 道広 福島 美光 山本 俊六 赤澤 隆士 松崎 伸一 呉 長江 ZHAO Jhon
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東南海、南海、東海等の巨大地震発生時に、面的震源をリアルタイムで推定するための開発を行なった。P波部分の震度の距離減衰式を調べ、P波部分も震源域で飽和することが示された。震度の観測データやシミュレーションデータを使い、震源域の広がりをリアルタイムで推定する手法を開発した。また、速度や加速度の最大値から、断層近傍であるかを判定し、震源域を推定する方法も開発し、リアルタイムでの巨大地震情報配信の目処がたった。
著者
佐藤 篤司 和泉 薫 力石 國男 高橋 徹 林 春男 沼野 夏生
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

日本各地に甚大な被害をもたらした平成18年豪雪について、本研究では、大気大循環場と降雪特性、積雪特性の広域分布と雪崩災害、生活及び建築関連雪害、予測技術と軽減方策の四つの研究課題を設定し調査研究を実施した。大気大循環の調査からは、寒気の南下は38豪雪に次ぐ規模であり、特に12月は冬季モンスーン指標が過去50年で最大となったこと、それには熱帯域の影響も示唆されることなどの特徴が明らかになった。その結果、1月初旬に既に最深積雪に近い積雪を各地で記録した。この時点の広域での積雪分布を調査したところ、新潟県上中越から長野、群馬両県境にかけての山間部を始め、東北、中部、中国地方でも特に山間地域に多量の積雪が集中していたことがわかった。山間地での降積雪は必然的に雪崩を誘発し、数多くの乾雪表層雪崩の発生をみた。本研究では死者の出た秋田県乳頭温泉での雪崩を始め、多くの現地調査を行いその発生要因を調査した。また、広域の一斉断面観測により、早い時期からの積雪増加が高密度で硬い雪質をもたらしたことが観測され、それが生活関連雪害にも反映したことが推測された。生活関連雪害では、死者(交通事故を除く)の圧倒的多数(3/4)は雪処理中の事故によるものであった。その比率は56豪雪時(1/2)と比べて増加していること、多くは高齢者で全体の2/3をしめ、70歳代が群を抜き、高齢者が雪処理に従事せざるを得ない状況などが読み取れた。また、56豪雪と比べて家屋の倒壊による死者が多く、老朽家屋に高齢者が住んでいて被害に遭遇するという構造がうかがえた。さらに本研究では、積雪変質モデルを使った雪崩危険度予測を行い、実際の雪崩発生と比較検討するとともに雪崩の危険性によって長期間閉鎖された国道405号線に適用する試みや冬季のリスクマネジメントに関する調査等を実施し、雪氷災害の被害軽減に有効な手法についての研究も行った。
著者
常松 展充
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究で開発した「黄砂発生輸送モデル」を用いて、地球温暖化に伴う気候変化の情報を反映させた長期間シミュレーションを一部実施した。このシミュレーションでは、全球気候モデル「MIROC」によるSRES-A1Bシナリオ実験の結果から得られた気候予測データと、20世紀再現実験結果から得られた気候再現データをモデルに組み込んだ。具体的には、気温・比湿・ジオポテンシャル高度・風のuv成分・地表面温度について、将来(2080-2100年)と近年(1980-2000年)の差分(以下「温暖化差分」と呼ぶ)を、全球気候モデルの各グリッド毎に算出し、6時間毎の温暖化差分データを作成した。そして、作成した温暖化差分を、黄砂の発生と輸送のシミュレーション(水平解像度:20km)の初期・境界条件となる数値データに加算した。高解像度シミュレーションの初期・境界条件となる数値データに温暖化差分を加算する方法は「擬似温暖化法」と呼ばれ、それが、全球気候モデルのもつバイアスへの依存を低減させたダウンスケーリングを可能にする手法であることから、気候変化予測に関する多くの先行研究で用いられているものの、それを黄砂等の大気汚染物質動態の将来変化シミュレーションに応用した先行研究はない。これにより、本研究では、全球気候モデルのバイアスを低減させた上で黄砂発生輸送の将来変化をシミュレートした。地球温暖化の進行に伴う気候の将来変化が黄砂の発生と輸送に及ぼす影響を予測した研究は現在のところ希少であり、本研究で実施した数値シミュレーションの結果を解析することで、黄砂の発生・輸送の将来変化が量的・空間的に明らかになるとともに、黄砂等のミネラルダスト、あるいは他の大気汚染物質の動態の将来変化に関する今後の研究に資する知見が得られることが期待される。
著者
栗山 弘
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術 (ISSN:04541871)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.15-19, 1981-11-30

わが国で最も雪深い地域の一つを通る国道17号線の,長岡から新潟・群馬県境までの,約100kmの道路の除雪量は2,000万m^3と推測されている(建設省長岡国道工事事務所).道路100kmでこれだけであるから,わが国の全積雪地域で処理される雪の量は,ぼう大なものであり,そのために費されるエネルギーの量もまた,ぼう大であるに違いないが,いまだ実態は把握されていない.いろいろな雪処理において,消費エネルギーのいくらかでも節減できれば,現今の社会的要請である省エネルギーに備えるし,除雪経費の低減にも寄与できよう.雪害対策に関係する方々の参考のために,雪処理のエネルギーについて,除雪での身近な例をとり上げて,少し述べてみよう.
著者
小杉 健二
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術研究所年報 (ISSN:09186441)
巻号頁・発行日
vol.12, 2001-10-30

雪氷防災実験棟内に駅ホームの屋根模型を設置し、降雪装置を用いて雪庇の発生条件及び成長の形態について調べた。雪庇の形成は、雪質に依存することがわかった。すなわち、樹枝状雪を用いた実験では雪庇が形成されたが、球状の雪では雪庇はほとんど形成されなかった。
著者
防災科学技術研究所 長岡雪氷防災実験研究所
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術研究所研究資料 (ISSN:0917057X)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.1-249, 1995-02-09

本資料は, 1964/65冬季から1993/94冬季までの過去30冬季間に長岡雪氷防災実験研究所で行った毎日の積雪観測記録を編纂したものである. 観測要素は, 積雪深, 積雪相当水量, 新積雪深, 積算新積雪深, 新積雪の相当水量, 新積雪の密度および天気である. 本資料には, これらの観測要素の日毎のデータを掲載したほか, 積雪深, 新積雪深などの積雪量や初雪, 長期積雪などの積雪現象の30冬季間の年毎・月毎・日毎の時系列, 極値ならびに平均値を掲載した. ちなみに, 既往30年間の観測史上の積雪深の最大値は1981年1月22日に観測された282cmであり, 新積雪深の最大値は1986年1月9日の111cmであった. また, 過去8年間は, 顕著な寡雪の冬が続いている.
著者
石峯 康浩
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

画像解析技法の一つであるParticle Image Velocimetry法(以下、PIV法)を火山噴煙の映像に適用した。特に、2006年以降、噴火活動が活発になっている桜島火山の昭和火口で発生した噴火において、火山噴煙の速度を定量的かつ面的に抽出することに成功した。
著者
防災科学技術研究所長岡雪氷防災実験研究所
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術研究所研究資料 (ISSN:0917057X)
巻号頁・発行日
vol.186, pp.1-14, 1998-07-30

本報告は1997年から1998年にかけての冬の積雪観測結果をまとめたものである. 観測項目は天気, 積雪深, 積雪相当水量, 新積雪深, 新積雪の相当水量および新積雪の密度の6項目である. 今冬は1月5日にようやく根雪となり, その後は順調に降雪がみられたが, 2月18日以降はほとんど降らなくなった. 観測期間中の最大積雪深は1月29日に観測された110cmである. また新積雪深の最大値は1月26日に観測された45cmで, 積算新積雪深は457cmとなった.
著者
佐藤 篤司
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
防災科学技術研究所年報 (ISSN:09186441)
巻号頁・発行日
vol.12, 2001-10-30

2月上旬頃におけるオウトウ(=サクランボ)'佐藤錦'の凍害は、-15℃以下で8時間以上遭遇すると花芽の枯死が発生することが明らかになった。また、-20℃の低温遭遇では、花芽の枯死に加え、樹体生育に悪影響を及ぼすほどの凍害発生が確認された。