著者
山崎 文夫
出版者
産業医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

暑熱環境下では涼しい環境下に比べて、起立時に血圧の低下が起こりやすく、起立耐性は低下する。動脈圧反射機能は起立時に動脈圧を正常な範囲内に維持するために必要不可欠な機能である。圧反射の反応性を考える際、応答量に加えて、圧受容器が刺激されてから心拍変化が起こるまでの時間など応答時間も考慮する必要がある。すなわち心拍応答が短ければ、変化した血圧を短時間で正常範囲内に回復させる能力が高いと考えられるが、心拍の圧反射応答時間に暑熱負荷がどのように影響するかは明らかでない。そこで本年度は、心拍の動脈圧反射反応時間に及ぼす暑熱ストレスの影響について検討した。被験者は健康な成人9名であり、実験の内容や危険性についての説明を受けた後、同意書に署名した。水環流スーツを用いて被験者の皮膚温を調節し、正常体温時と全身加温時に圧反射機能テストを行った。圧反射機能テストにはネックチャンバーを用い、頚部に+40mmHgあるいは-60mmHgの圧を負荷することによって、頚動脈圧受容器を刺激した。各圧負荷は2-3分間の休息を挟んでそれぞれ5回行った。頚部への圧刺激から心拍反応がピークに達するまでの時間(+40mmHg、正常体温時2.5±0.3秒、加温時3.5±0.3秒;-60mmHg、正常体温時1.2±0.2秒、加温時2.2±0.3秒)は、全身加温によって有意に増加した。全身加温によって、+40mmHgの圧刺激から血圧反応がピークに達するまでの時間(正常体温時4.3±0.5秒、加温時6.7±0.6秒)は有意に増加したが、-60mmHgの刺激に対するその反応時間(正常体温時5.1±0.5秒、加温時4.5±0.6秒)は変化しなかった。これらの結果から、心拍および血管運動の頚動脈圧反射反応は、暑熱ストレスによって遅延することが示唆された。
著者
保利 一 則武 祐二 砂金 光記 東 敏昭
出版者
産業医科大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

有機溶剤蒸気の環境測定や個人曝露量の測定には活性炭管を使用する固体捕集方法が広く用いられている.しかし,活性炭管は蒸気が破過しても使用中にこれを検出することは不可能であるため,特に個人曝露量の測定のように長時間の捕集を行う場合,破過により正確な測定ができない可能性がある.そこで半導体ガスセンサーを利用し,使用中に破過を検出する装置を開発した.まず,センサーの特性とと破過曲線の関係について調べた.すなわち,有機溶剤蒸気を活性炭管およびセンサーを装着したカラムに通じた.センサーからの出力信号を定期的にICカードに記録するとともに,センサーの下流側に設置したサンプリングポートから空気を採取し,FID付ガスクロマトグラフ(GC)で濃度を経時的に測定し,破過曲線を求めた.測定終了後,ICカードに記録されたデータをパーソナルコンピュータに転送し,センサーの抵抗値の経時変化をGCによる破過曲線と比較検討した.溶剤蒸気にはアセトン,ジクロロメタン,クロロホルム,1,1,1-トリクロロエタン,メタノール,IPA,酢酸メチル,酢酸エチル,トルエン,1-ブタノール,メチルエチルケトンを用いた.GCで破過破過を検出する以前にセンサーは破過を検知し,抵抗値が変化することが認められた.ただし,ジクロロメタンとクロロホルムについては,センサーの抵抗値の変化は小さく,抵抗値と破過曲線の立ち上がりはほぼ同時であった.この傾向は,乾燥空気でも高湿度(80%)の条件でもほぼ同様であった。ただし,ジクロロメタンとクロロホルムに関しては,高湿度条件下ではセンサーは破過を検知できなかった.以上の結果に基づき,破過を検出すると警報で知らせるシステムを試作し,その実用性について検討した.
著者
北 敏郎 田中 敏子
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

異常環境下により発症する熱中症発生メカニズムを検討した。ラットを用いた熱中症モデルで腸内細菌の侵入(BT)の発生が認められた。次に,熱中症における肝臓障害発生に果たすLPSの役割を検討し,熱中症による臓器障害発生にLPSの関与が示唆された。その結果,熱中症の発生因子のPrimary factorとしてLPSが考えられ,Secondary factorとして蓄熱による直接的障害が発生している可能性が考えられた。
著者
花見 健太郎
出版者
産業医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本年度はStat6欠損マウスを用いて樹状細胞(DC)の分化と抗原提示細胞としての機能解析を行った。まず、DC分化にてついてはマウス骨髄を用いたin vitroにおける分化とマウスの脾臓内のDCサブセット解析によるin vivoの分化について解析を行った。何れの評価系においても野生型とStat6欠損DCの間に違いを認めず、同程度のCD11c陽性樹状細胞を認めた。また、脾臓内のconventional DCとplasmacytoid DCの2つの異なるDCサブセットの全体に占める割合及び、これらDCのLPS刺激による発現レベルは野生型とStat6欠損DCの間に違いを認めなかった。抗原貪食能をFITC標識アルブミンの取り込み能にて評価を行ったが細胞内に取り込まれたアルブミン量に差は見られなかった。各々のサイトカイン産生能はLPSにて24時間刺激しIL-10、IL-6、TNF-αにつき評価を行った。Jak3欠損樹状細胞と同様Stat6欠損樹状細胞では過剰なIL-10の産生が見られた。これらの結果は関節リウマチに対する臨床試験において経口内服薬として類を見ない効果を見せているJak3特異的阻害剤の作用機序を示唆するものと考えられる。まず、in vivoとin vitroにおいてStat6はJak3同様DCの分化や抗原取り込み能には関与しないためJak3阻害剤はDCの自然免疫における基盤となる機能に影響は与えない。しかし、一方サイトカイン産生においてはIL-10の産生がやはりJak3欠損樹状細胞同様、野生型と比して亢進していた。以上より、Jak3阻害剤の抗炎症作用は樹状細胞からのIL-10産生を促すことによることが明らかとなり、Jak3-Stat6シグナル伝達経路がIL-10の産生を負に制御していることが明らかとなり関節リウマチ病態の理解と新規治療の開拓に大きな意義があると考える。
著者
緒方 甫 田島 文博
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

障害者スポーツは、脊髄損傷対麻痺者(脊損者)の精神・身体的能力の強化などを助け、身体障害者の社会参加、社会復帰につながる。一方、脊損者では易感染性が指摘され、一般に免疫力低下も危惧されている。免疫系の中で、Natural killer(NK)細胞は免疫能の一つの指標として広く、その活性は運動の影響を受けやすい。そこで、脊損者において車いすスポーツが免疫系に与える影響の一端を調査する目的で、過酷な運動である車いすフルマラソン(フル)と比較的適度な運動であるハーフマラソン(ハーフ)におけるNK細胞活性を測定した。被験者は大分国際車いすマラソン大会フル部門参加の男性脊損者9名とハーフ部門参加の男性脊損7名、コントロールとして競技に参加しない脊損7名とした。フル・ハーフ競技者は競技前日、終了直後、翌目に血液を採取し、コントロール群も同一のプロトコールで採血を施した。フル競技者のNK細胞数(310±130/μl)およびNK細胞活性(42.6±3.0%)は、それぞれ133±61/μlと38.2±3.2%へ競技直後低下し(P<0.05)、翌日には前値に回復した。血中アドレナリン、コルチゾール濃度は競技直後に増加し(P<0.05)、翌日には前値に戻った。一方、ハーフ競技者では、NK細胞数は競技直後も翌日も変化を認めず、NK細胞活性が45.5±7.5%から56.1±5.1%へ上昇(P<0.01)し、翌朝も上昇が保たれた。血中アドレナリン濃度はレース直後上昇し(P<0.05)、翌朝には前値に回復した。コルチゾールは変化しなかった。コントロール群ではいずれの項目も変化を認めなかった。NK細胞活性がフルでは低下しハーフでは上昇する結果は、運動負荷量の違いによるものであると考えられる。機序としては、コルチゾール濃度がフルのみで上昇したため、これがNK細胞活性低下に寄与したと推察される。本研究の結果から、ハーフでは特に格段の配慮は必要ないようであるが、フル競技者はゴール後も少なくとも翌日までは感染に留意することが推奨される。以上のように、本研究は障害者スポーツおける免疫動向を実用的な側面で予想を上回る成果をあげることができた。
著者
八幡 勝也 吉田 勝美 渡邊 清明 吉田 勝美 渡邊 清明 富永 真琴
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

糖尿病を含む生活習慣病においては、個人の健診データと生活指導が中心で進められているが、日常生活や社会的要因が大きく影響する。今回、地方の糖尿病調査および企業従業員の経年変化を調査し比較した結果、通勤・移動、食生活の食材、生活習慣、地方と都市、経済状態など直接個人の健康状態に結びつかないように見える要因の影響が無視できないことがわかった。また、このような社会的要因を個人情報と連携させるためには、従来の医療を中心とした枠組みではなく、個人と社会や環境などの要因を含めた総合的な枠組みを構築する必要があり、その概要モデルを検討した。
著者
徳井 教孝 南里 宏樹 三成 由美
出版者
産業医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

植物性蛋白分解酵素パパインの摂取によって、酸化ストレス抑制効果があるかどうかを二重盲検法による介入研究を用いて検討した。対象者は北九州市に在住の老人会に所属する60歳以上の高齢者である。研究内容を説明し47名から承諾を得た。無作為に2群に分け、介入群はパパイン酵素40mgを含むふりかけを1日3回摂取し、非介入群はパパイン酵素を含まず、他の成分は同一のふりかけを1日3回摂取するようお願いした。研究開始前に1名が入院し、研究期間中に3名が中止したため、摂取完了者は43名であった。摂取状況は、1日ごとに対象者が摂取状況を記入した。摂取期間は40日間で、摂取前後で採血、採尿を行った。2群間で酸化ストレスマーカである尿中の8ハイドロキシグアノシン(8-0HdG)をクレアチニン値で除した8-0HdG/クレアチニン値の変化を比較した。介入群の摂取前後の尿中8-0HdG/クレアチニン値は0.056±0.023、0.056±0.026、非介入群は、0.050±0.017、0.052±0.019であった。変化率はそれぞれの群で5.1±24.7%、6.3±6.06%を示し、両群の間で有意な差はみられなかった。消化酵素摂取により酸化ストレス抑制効果は認められなかったが、これまでの研究では2週間の野菜・果物摂取により酸化ストレスマーカが減少することが報告されており、今回の結果がタンパク質の消化による酸化ストレス抑制への影響が小さいのか、抗酸化食物摂取の絶対量が少ないのか、今後検討する必要がある。
著者
斉藤 和義 河野 公俊 田中 良哉
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

転写因子に対する抗体とリウマチ性疾患の臨床病態との関連につき、その網羅的な解析をこころみた。96種類の細胞増殖周期、恒常性維持などに重要な機能をもつ、種々の核内因子をGST融合蛋白として調整し1枚のDEAEシートにブロッティングした。SLE10例をはじめとした患者血清中の対応抗原の検索を行った。血管炎症候群の血清の一部でHMG1に対する抗体が検出された。一方、SLEではPCNAに対する抗体が2例で検出されたが、その他の多数の抗原にも反応しており、疾患特異性や病態への関与などを示す傾向は認められなかった。抗原をアセチル化、メチル化して翻訳後修飾を受けた核内蛋白への血清の反応も検討したが、翻訳後修飾を行うことで新たに得られた陽性結果や陰性化などの変化は認めなかった。
著者
吉村 健清 早川 式彦 溝上 哲也 徳井 教孝 八谷 寛 星山 佳治 豊嶋 英明
出版者
産業医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

地域住民を対象とした大規模コホート調査(JACC Study)の調査票情報および保存血清および1997年末までの予後追跡調査データを用いて、胃がんのリスク要因を解析した。死亡を結果指標としたコホート解析では、胃がんリスクを高める要因として、短い教育歴、胃がん家族歴あり(男:RR,1.6;女:RR,2.5)、男の喫煙(RR,1.3;喫煙開始10-19歳:RR,1.9)、女性では生殖歴・出産歴がないこと、胃がん検診未受診(男:RR,2.0)があげられた。家族歴では、特に女で母親が胃がんの塙合に高いリスクを示した。また胃がんには家族集積性があることも示唆された。一方で、これまで胃がん関連要因として報告されてきた緑黄色野菜・高塩分含有食品・緑茶の摂取との関連は明らかでなかった。追跡期間別に分けた分析方法を用いると、干物類は、胃がんがあると摂取が減少する可能性が示唆された。また、コホート内症例対照研究の手法により、調査開始時に採取された血清を用いて、IGF、SOD、sFAS、TGF-b1の4項目を測定、胃がん罹患および死亡との関連を検討した。TGF-b1は、女性において、4分位で最も低い群にくらべ、値が高い群ほど胃がん罹患・死亡のリスクが上昇する量-反応関係を認めた。その他の3項目は、罹患と死亡で一致した傾向は認めなかった。同様の手法により、胃がんとの関連が強いとされる血清項目を測定した結果、Helicobactor pylori陽性のオッズ比は1.2、pepsinogen低値(胃粘膜萎縮あり)のオッズ比は1.9であった。H. pyloriのリスクが比較的低かったことの理由として、本解析集団が高齢であることが考えられる。現在、H. pyloriのCag-A抗体について測定を進めている。
著者
高橋 浩二郎 柳原 延章 豊平 由美子
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

交感神経系のモデル実験である培養ウシ副腎髄質細胞を用いて植物由来化合物のカテコールアミン(CA)動態について検討した。その結果、蜜柑の果皮成分のノビレチン、タバコの葉の成分ニコチン及び大豆成分のゲニステインは、それぞれCA生合成-分泌や再取り込みに影響を及ぼすことが明らかとなった。これらの化合物は、日常生活において食物や嗜好品として摂取しており、その薬理学的な影響については今後注意深く見守らなければならない。
著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は産後1年間の初産の母親の対児愛着の経時的変化と母親の背景・特性及び育児ストレス状態やストレス対処能力との関連を明らかにすることにある.F市産科クリニックで出産した母親を対象に倫理的配慮の元に対面と郵送で調査した.調査票はBonding質問票,SOC,EPDS,育児ストレスと生活出来事調査票,属性票を用いた.平成17年2月〜19年2月期間内総対象数2497名(実数591名),回答2135名.産科的ローリスクの母親が多い。以下,初産の母親の結果である.分析対象数1047名.妊婦(32〜40週)145名,退院時255名,1カ月時274名,3カ月時137名,6カ月時124名,1年時112名.平均年齢28.9±4.4歳.Bonding得点退院時2.3±2.1点,6カ月時1.3±2.0点,1年時1.6±2,4点.退院時と3・6カ,月,1カ月時と3・6カ月時で有意差があり,対児愛着は産後1年でより肯定的に変化した.SOC得点は妊婦61.9±10.7点,退院時64.6±11.9点,6カ月時67.9±12。7点,1年時68.4±12.7点.妊娠中と産後1・3・6カ月・1年時,退院時と1カ月時で有意差があり,SOCは産後緩やかに向上した.EPDS得点は退院時5.5±3.6点(高得点18.1%),6か月時4.2±3.2点(高得点11.7%),1年時3.8±2.8点(高得点10.6%).退院時と全時期で有意差があり,退院時の精神状態が最も悪く,1年間に抑うつ状態の母親が9.6〜18.1%出現した.全ての時期で半数を超える母親が育児を負担に感じていた.日常生活でストレスを感じている母親は3カ月以降に半数を超え,家事ストレスが顕著だった.初産の母親の対児愛着やストレス対処能力,精神状態などに関する有意義な基礎的データを得る事が出来た.母親のストレスに応じた産後の支援が必要である.