- 著者
-
岡 孝和
- 出版者
- 産業医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
ストレス性体温上昇反応の機序を解明するために以下の実験を行なった.(1)発熱の主要媒介物質であるプロスタグランディンE2(PGE2)による発熱反応に関与する脳内部位調べるために,EP3受容体ノックアウト(KO)マウスとワイルドタイプ(WT)マウスにリポポリサッカライド(LPS)10μg/kgを腹腔内注射し,2時間後の体温と,Fos-like immunoreactivityの発現する脳内部位を比較した.LPS投与2時間後,WTマウスでは約1℃の発熱を生じたが,EP3受容体KOマウでは発熱は生じなかった.WTマウスでは脊髄中間質外側核(IML)に多くのFos陽性細胞が見られたが,EP3受容体KOマウスではほとんど見られなかった,延髄孤束核,視索前野腹内側部(VMPO),室傍核,後部視床下部,中脳水道周囲灰白質,青斑核,raphe pallidus nucleus(RPa)では,両マウスともに多くのFos陽性細胞が見られた.(2)心理的ストレスによる体温上昇反応時にLPS発熱反応に関与する脳内部位(VMPOとRPa)が活性化されるかどうかをラットを用いて検討した.ケージ交換ストレスを加えると,体温はケージ交換20分後に0.9℃上昇した.ケージ交換1時間後,Fos陽性細胞はRPaには発現したがVMPOでは観1察されなかった.(3)ヒトの心因的ストレスによる体温上昇反応にPGE2,サイトカインが関与するかどうかを検討する1目的で,当科を受診した心因性発熱患者15名で,(1)アスピリン660mgを1日2回服用した時の体濫と,服用しない時の体温を比較したが,アスピリンを内服しても体温は低下しなかった.(2)高体温1時(平均腋窩温37.6℃)と体温が正常範囲内の時(36.8℃)とで,発熱性サイトカイン(IL-1,IL-6,MIP-1α,)と解熱性サイトカイン(IL-10)の血中レベルを測定し比較したが,両群で差はなかった.(3)これらの患者に選択的セロトニン再取込み阻害薬である塩酸パロキセチンを4週投与したところ,腋窩温は37.6±0.2℃から36.8±0.2℃へと有意に低下した.したがって心理的ストレスによる体温上昇にはVMPO,サイトカイン,PGE2は関与せず,遷延化した1高体温には脳内セロトニン系の機能低下が関与すると考えられる.