著者
杉本 直己 川上 純司 中野 修一 三好 大輔
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

分子クラウディングのモデル実験系を構築することで、細胞で行われる相互作用や化学反応の橋渡しとなる定量データを取得し、核酸の構造と機能に対する分子環境効果を化学的に解明する試みを行った。こうして得られたデータに基づいて、分子環境効果を利用した機能性核酸の開発とその機能解析を行い、細胞反応を理解するための新規実験系や、細胞内部のような特殊環境で機能する種々の核酸マテリアルを開発することに成功した。
著者
北村 達也
出版者
甲南大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,発声時や歌唱時の体表面の皮膚振動パターンを計測する方法,さらには発声訓練において皮膚振動を視覚的にフィードバックする方法について検討した.まず,歌唱時の皮膚振動パターンをスキャニング型レーザードップラ振動計により計測した.そして,裏声と地声により顔面の皮膚振動パターンが異なること,歌声の基本周波数によって前額の皮膚振動のパワーが増加することなどを明らかにした.また,ストロー発声に基づく発声訓練において口唇部の皮膚振動の情報をフィードバックするシステムを開発した.10名を対象にした評価実験の結果,このシステムを利用することによって訓練効果が向上することが示された.
著者
細見 心一 長谷川 美和 辻田 忠弘
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 理工学編 (ISSN:13480383)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-78, 2005-07-31
被引用文献数
1

本論文は国宝源氏物語絵巻「柏木(二)」の制作当時から現在に至る約900年の間に変化したと思われる絵画の魅力について、現代人の感性(年齢は20代に限定)を使い、自然科学的に追求することを目的とし、SD(Semantic Differential)法による感性的な分析と色彩の観点からの考察を行ったものである。SD法の実験ではAdobe Systems社のPhotoshop7.0.1による画像編集を行い、9枚の実験絵面を用意し、モニターを使い印象評価を行った。用意した実験絵画は原本1枚・修復絵画1枚・復元絵画1枚・モーフイングによる合成絵画6枚である。また、日本人の心の中にある美についての評価軸を決定するために、源氏物語絵巻以外の国宝絵画20枚によるSD法実験を行った。さらに、和紙やろうそくの効果について調べるため、原本・修復絵画・復元絵画を和紙に印刷しSD法実験を行った。次に、色彩の観点からの考察では国宝源氏物語絵巻「柏木(二)」が約900年の間にどのように変化したかを調べるため、復元絵画と原本について色差・配色・CMYKの分析と考察を行った。SD法の分析を行った結果、「柏木(二)」の復元絵画では極彩色で雅やかな美を、原本ではわび・さび・幽玄のある美を被験者が感じていることがわかった。さらに、この絵画についている傷・ムラのある変色・絵具の剥落がこの絵画を見る者の想像力をかきたて、わび・さび・幽玄の印象をさらに出していることを定量的に分析した。また、色彩分析の結果から、「柏木(二)」は時が経つごとに、絵の具が色あせることなく、より明度の低い暗い色に変わり、そして幽かに残る制作当時に近い色と変色が進んだ色が混在することにより、元の極彩色で雅やかだった状態や時の流れを想像させるのではないかと考えられる。つまり、時の経過とともに失われていく極彩色で雅やかだった印象やその歴史を想像させる傷、ムラのある変色・絵具の剥落の効果プラス、絵の具が色あせることなく、より明度の低い暗い色で青の無いまとまった配色になるという色彩の変化により、この絵画を見るものを静かに引き込んでいくようなわび・さび・幽玄のある美へと「柏木(二)」が変化したことを定量的に分析することができた。
著者
道免 逸子 Itsuko Domen
出版者
甲南大学
巻号頁・発行日
2018-03-31

本論文の目的は、ナラティブ・エクスポージャー・セラピー(Narrative Exposure Therapy、以下NET)の、日本の心理臨床現場における適用可能性を検証することである。 精神病院に長年通院・入退院を繰り返し、情緒不安定で自傷・自殺企図の傾向が高く、安定した治療に乗りにくい患者には、原病にPTSD(心的外傷後ストレス障害)が併存することが多い。子ども虐待やDV、いじめ等長期的反復的な被害から生じる複雑性PTSDは、PTSDの中核症状に情動調整の困難を伴い、原病の症状を増幅し治療を困難にしている。 NETは、曝露療法に証言療法を組み合わせたPTSD治療のための認知行動療法である。馴化による恐怖反応の消去と全人生史の構築による自伝的記憶整理は、特に複雑性PTSDに有効とされる。NETは、国際的ガイドラインで複雑性PTSDに対する有効な治療法として推奨されている。日本では2010年に試行的に導入され、次第に実施例が増加しているが、さらに系統的な導入を図るべき段階に至っている。本研究は、今後の普及の準備として、日本の臨床現場におけるNETの有効性を検証しようとするものである。 この目的を達成するために、道免氏は、まず第1章で、PTSDおよび複雑性PTSD、解離、自伝的記憶、複雑性悲嘆という、NETの治療メカニズムに関係する諸概念について、近年の診断基準の改訂状況も含めて概説する。そのうえで、開発者が提示するNETの技法とそこに含まれる治療的要素を記述する。第2章では、まず、NETがPTSDに対して推奨される治療技法として、ISTSSをはじめとする関係機関の近年のガイドラインで紹介されていることが示される。そして、現在までの先行臨床研究を網羅的に調査し、戦争や武力紛争という「組織的暴力」に由来するPTSDへの治療実践とその効果検証研究が行われてきた経過と、近年、通常の医療機関における市民生活由来のPTSD治療に対象を拡大していることを明らかにする。効果検証結果には、PTSDへの効果だけでなく、併存するうつ症状、BPD(境界性人格障害)症状、解離症状などの軽減が報告されていた。 第3章では、実施されたNETによる効果検証の結果が報告される。治療実践を行った臨床機関は、精神病院外来と大学心理相談室であり、対象者は複雑性PTSDと診断された14名(精神病院12、大学相談室2;女性13、男性1;平均38.1歳)である。複雑性PTSDの併存症状として、うつ病、双極性感情障害、BPD、アルコール依存症、摂食障害、複雑性悲嘆、解離性障害、適応障害、線維筋痛症があり、通院歴は0〜23年、入院歴は0〜33回であった。実施者はNET研修を受けた臨床心理士で、面接頻度は週1回〜2回、NET回数は8〜46回、平均27.4回であった。 効果評価のために用いた症状評価尺度は、PTSD症状にIES-RとCAPS、うつ症状にSDS、解離症状にDESを使用し、NET実施前、実施2週間後、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後に評価した。 症状評価尺度によって実施1年後に評価された治療効果は、以下の通りであった。IES-R のCohen’s d は2.972、CAPSのCohen’s d は2.587であり、PTSD症状が著しく軽減したことを示す結果であった。IES-R得点は、14例中6例において、過去の出来事から影響を受けていないと判定される水準までに低下した。他の例においても1年間を通じて漸減傾向にあった。CAPSは実施の負担から6例のみに実施された結果である。PTSDの3大症状以外の、罪悪感、注意減退、非現実感、離人感においても症状が軽減していた。うつ症状については、NET実施1年後の SDSのCohen’s d は0.953であり、明らかな軽減を示す結果であった。ただし、PTSD症状と異なり、6ヶ月後では軽減が少なく、効果が得られるまでに時間を要した。解離症状では、低得点に偏った偏りの大きな分布であるため、いくつかの指標によって結果が示された。BPD症状の著しい軽減は先行研究と一致するものであった。他の併存症状にも軽減が見られたが、アルコール依存への効果は明らかではなかった。 第4章において道免氏は、第3章で確認された症状評価尺度上の全般的効果を踏まえて、本研究から得られたNET実施上の知見を提示し、考察を加える。解離症状の軽減が大きかったことは先行研究と一致する。治療前に解離傾向が高かった例では、すべて治療過程で新たな記憶の想起があった。解離傾向が少なく侵入症状の強い例では、NETの進行に従って侵入症状が速やかに軽減し、症状が及ぼす苦痛が軽減することを実感するのに対し、解離傾向の高い例では、解離されていた記憶や感覚が繋がってくる第1段階から、喪失体験への直面から生きづらさを改めて感じる第2段階へ進んだ時点で、安全の確保と共感的・支持的環境とともに感情の重要性に関する心理教育が必要である。特に環境調整が重要と考えられた。それら留意点を有するものの、NETには、記憶整理の効果、人生を理解されることによる愛着外傷への治療効果、言語化能力の向上による対人関係改善などの効果が期待でき、解離症状を併存するPTSDの治療に有望な技法であると考えられた。 BPD患者の60%にはPTSDが併存すると言われるように、BPDの診断名を持つ患者のPTSDに対するNETの有効性を指摘する文献が増加している。本研究は、BPD治療を直接対象としたものではないが、14例中7例に、BPD周辺の症状があった。孤独感や不安定な対人関係を特徴とするそれらの例について、治療中の語りを整理すると、治療中および治療後のフォローアップの中で、交友関係を楽しめる、一人の時間を楽しめる、怒りがコントロールできるなどの症状軽減を示す内容が多く見られた。これらの知見および先行研究の知見を総合し、道免氏は、PTSDを構成する恐怖ネットワークと、過去の体験に由来する怒りのネットワークの相乗効果から症状を理解し、人生史の整理という目標を共有することで、対等な関係の中で治療に取り組む道を開くことができると考察する。 NETが対象とするPTSD症状を有する患者には、死別体験を有するものが含まれる。NET後に悲嘆を扱うグリーフワークを組み合わせる方法を有効とする先行研究も存在する。今回対象とした例の中にも、近親者との死別による重い悲嘆を伴う例があった。この例に対してグリーフワークに取り組むことによって、うつ症状が軽減されたことから、死別を伴う例に対しては、NETだけでなく、グリーフワークを治療計画に組み入れることが有効であると示唆された。 以上のような検討の後、道免氏は、第5章の総合考察によって全体を総合した上、NETには多くの治療的要素が複合的に組み込まれていると指摘しながら、NETで扱えない要素を以後の治療で扱うことの必要性、安全を確保することの重要性、普及のためのスーパーバイザーの育成の必要性を指摘する。最後に、事例数による限界、比較対照群を持たないことの限界、評価尺度の不足という本研究の限界を整理し、さらなる効果検証の必要性を述べて論文を締めくくっている。
著者
中辻 享
出版者
甲南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ラオス山地部では人や家畜の移動が活発化しており,その中でブタや家禽に壊滅的な被害を与えるような伝染病が多発するようになっている.また,集落内では舎飼いの必要性が高まっているが,従来どおり放し飼いでこれらの家畜を育てたいと考える村人は多い.この中で,伝染病を避けつつ,放し飼いも行なえるような飼育拠点(現地でサナムと呼ばれる)を村落領域内の奥地に設ける例が多数見られることが明らかになった.
著者
伊藤 稔 田中 雅博
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 理工学編 (ISSN:13480383)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.125-135, 2005-07-31

In this paper, we evaluate the performance of Differential Evolution (DE), Particle Swarm Optimization (PSO), and Real-Coded Genetic Algorithm (Real-Coded GA) on a function optimization problem. The comparative study is performed on 4 benchmark problems. The results from our study show that DE outperforms the other methods.
著者
森田 三郎 大津 真作 西川 麦子 北原 恵 坂上 香
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本共同研究の目的は、映像利用の実践と教材・モデル作りにある。そのために、研究メンバー5名と研究協力者3名を含めて共同研究会を組織し、以下の4つの具体的な計画をたてた。(1)映像制作実習法の改善。映像教材の開発。(2)メディア・リテラシー教育の実践プログラムの開発。(3)コミュニケーションの手段としての映像作品の利用法とシステムの考案。(4)メディアの発信・交信、大学と社会との交流の実践。「計画1」に関しては、研究協力者の竹田京二氏、鈴木岳海氏、研究分担者の坂上香氏を中心として、映像編集マニュアルの更新などを行った。「計画2」に関しては、それぞれ研究メンバーが報告論文の中で取り上げているが、とりわけ北原恵氏は、この問題に焦点を当てて実験的な試みを行った。「計画3」に関しては、本研究の主目標であった。フィールドワークの現場におけるビデオカメラというメディアの存在が、調査者と被調査者との関係に影響を与えることに着目した西川麦子氏の報告がある。研究協力者、辻野理花の報告も、朝鮮学校におけるビデオ制作を通した在日朝鮮人と日本人(社会)の相互理解を促進するコミュニケーションの可能性を探った試みである。また、学生が制作した自分の日常的な食生活の短いビデオ作品が、日本と韓国の学生どうしの相互理解に有効であるかを実験し、インターネットを通した交流も含むショートビデオ映画祭の提案を行った森田三郎の試みも、本研究の最終報告書に紹介されている。「計画4」に関しては、坂上香氏が2004年に制作した『Lifersライファーズ 終身刑を超えて』の全国での上映会を通して、また2006年に米国で開催されたV-Dayへの参加体験を通して、大学の枠を超えた映像による実践を行った。森田、鈴木の各論文も実践例を紹介している。
著者
井野瀬 久美惠
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、18世紀末〜19世紀初頭にかけて創造され、19世紀半ば以降に確立された「解放する/自由主義の大英帝国」「慈悲深き/博愛主義の帝国」という言説について、この帝国像の構築に重要な役割を果たしたと思われる「帝国からの訪問者」、とりわけ、奴隷解放直後のヴィクトリア朝社会にさまざまな事情でやってきて暮らした非白人、いわゆる「黒いヴィクトリア朝人(Black Victorians)」に当てて、この言説の意味と役割、その構築のメカニズムを探ることにある。多様な形態をもつ彼らのなかから、本研究が分析対象としたのは、イギリス海軍(ないし陸軍)によって現地の苦境から解放、救出され、女王(あるいはイギリス貴族)の庇護の下、(本人の意志とは無関係に)イギリスに連れてこられ、(期間の差こそあれ)ここ帝国の中心部で生活した経験を持つ非白人の少年少女たちである。救出時、10歳前後であった彼らの渡英時期は、おおむね1850、60年代前後に集中しており、彼らが言及されたコンテクストは、奴隷貿易や奴隷制度と深く絡みあっていた。この時期、アジアやアフリカの植民地(正確にはイギリスによって植民地化されつつある地域)からやってきた彼ら、特に彼らの「救出劇」がどのように語られたのかを、同時代の資料(議会報告書や外務省や植民地省への報告書、新聞や雑誌、伝道諸団体の年次報告書など)から分析し、従来の在英黒人(非白人)分析ではすっぽりと抜け落ちていた1850〜60年代が、「奴隷を解放する慈悲深き帝国」という大英帝国の自己像にとって決定的に重要であったことを明らかにした。と同時に、この大英帝国の自己像が、21世紀初頭の現在、深化するイギリス国内のポストコロニアル状況のなかで200年目を迎えた「奴隷貿易廃止の記憶」によって、改めて問題視され、再検討されている諸相を、2007年を通じてイギリス各地でおこなわれた奴隷貿易廃止200周年記念イベントの中に探り、この記億をめぐる現代都市戦略を明らかにした。
著者
北村 達也 真栄城 哲也 竹本 浩典
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

鼻腔は複雑な形状をもっており,さらに大小さまざまな副鼻腔が接続されている.鼻をつまんで声を出せば声質が変わることからもわかるように,鼻腔や副鼻腔は音声の生成に大きく寄与しているが,従来,鼻腔や副鼻腔の影響は軽視され,それらの音響特性は十分に検討されてこなかった.本研究では,X線CTデータを用いて詳細な3次元形状を抽出し,音響計測や音響シミュレーションなどによって音響特性や個人差を明らかにする.