著者
有田 洋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.27-38, 2007-03-31

本稿は,光琳「紅白梅図屏風」の左隻・右隻間で生じている流水のずれの不自然さを,どう解釈するかを軸にした鑑賞教材化研究である。光琳は鑑賞者に両隻間で流水のつながりを想像させるようにずらして描いたという仮説をたて,次の検討を行った。まず,屏風という空間の中に奥行きをもって存在する作品形態についての考察から,鑑賞教育の内容と過程が,1.屏風の折り方,2.左隻と右隻の間の距離,3.左隻と右隻の間隙の想像的接続,という三段階になるとした。さらに,教科書等の挿図で流水のずれがどのように解釈されているのかを調べた。以上を踏まえた鑑賞授業の試行的実践を行い,鑑賞教材としての教育的可能性を確認した。
著者
髙林 未央
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.199-211, 2020 (Released:2022-04-01)
参考文献数
46

本研究は,美術教育における漫画の扱い方について,観相学を応用したキャラクター造形を軸として検討し,提案するものである。 はじめに,美術教育における漫画の立ち位置を確認し,これまでの研究を振り返り,成果と課題を確認した。 次に,テプフェールの『観相学試論』を読み解き,現代のキャラクター造形にもその思考が生きていることを確認した。そして学習マンガの中により顕著にキャラクター造形手法が使われていることを,学習マンガの人物描写から明らかにした。 最後に,キャラクター造形手法から学校教育への展開として,ロマン主義の絵の読み解き,マンガのリテラシー,社会科歴史分野との接点の計3種類の応用方法について提案した。
著者
烏賀陽 梨沙
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.123-135, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

本稿の目的は,近年のアメリカの美術館教育の現状を文化的,教育的,社会的枠組みの中で位置付け,美術館教育の発展にはどのような要因が影響しているかについて,社会的・経済的視座もいれ多角的に分析・考察することである。1990年代以降を中心に,筆者の過去の調査・研究をもとにニューヨークの美術館の実例や先行研究の例から分析する。事例に即して検討した結果,1980年代後半から1990年代の財政困難期,美術館はその脱却方策を模索したが,そこに二つの方向性がみられた。一つは外部資金(公・民)を積極的に取りにいくこと,二つ目は教育的プログラムやサービスの充実に美術館の焦点が移行することである。こうして美術館教育の発展に,資金援助側の戦略的助成方針など外的要因も関係するようになる。また,近年の認知心理学の進歩も相乗し,美術館に関連した新しい学習理論がうみだされ美術館教育の方法論の充実へとつながり発展を助長した。
著者
湯川 雅紀
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.523-533, 2014-03-20

ゲルハルト・リヒターの抽象絵画は美術教育に貢献することができるのか。本研究は,この点に関して考察を行う。絵画の終わりが喧伝される現代美術において,突然変異的に出現したリヒターは,今までのモダニズム絵画を百科事典的に網羅するスタイルによって,現代を代表する芸術家になった。本論考では,彼の様々なスタイルによる幅広い表現の奥に潜むコンセプトに迫りつつ,それが現代の美術教育にどういった意味をもたらすかを明らかにする。そして,授業実践を通じて彼の絵画は,抽象絵画を体験的に理解させるための有効な手段であることが確認され,さらに抽象絵画全般の理解につながる題材開発の可能性を示唆し,さらなる教育的広がりを予感させるものとなった。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012-03-25 (Released:2017-06-12)

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。
著者
初田 隆
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.27, pp.337-349, 2006-03-31

棒人間を描くことによって人体表現と向き合うことを避ける子どもが年々増えている。棒人間という記号を意図的に操作し,利便性やかわいらしさを見出す傾向も認められるが,特に小学校低学年では抑圧された表現欲求や人とのかかわりの希薄さなどが窺える。本稿では大学生及び教員を対象としたアンケート調査,児童・生徒・学生の作品分析を通し,今日の子どもたちの描画発達の特徴と美術教育の課題を捉えようとした。考察の内容は次の通りである。(1)棒人間表現が近年増加傾向にあること。(2)棒人間表現の発生が低年齢化していること。また,棒人間が継続的に使用されていること。(3)棒人間を描く理由と使用場面。(4)現代における棒人間表現の意味と特徴。(5)棒人間表現の背景。
著者
吉川 登
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.441-452, 2011-03-20 (Released:2017-06-12)

鑑賞学の基礎理論として筆者が提示した研究論文「行為としての鑑賞-鑑賞学の序章としての鑑賞行為の分析-」(平成4年度)の内容を再検討することによって,鑑賞学の基礎理論の充実・補強を図る。特に,第5章鑑賞の思考レベル:「考えること」では,具体的な画像読解の手法を提案した。また,平成4年から平成22年までに公表された「鑑賞学実践研究」の成果を背景にして,鑑賞学の特色および有効性について論究した。
著者
三根 和浪
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.18, pp.295-307, 1997-03-31

This is a practical study of a lesson on art appreciation. The lesson was given to 38 six-grade pupils at elementary school. A hypothetical situation was created in which the pupils were all connoisseurs of fine arts, and they looked nine works of art painted by three painters; three works by Paul Signac, three by VincentVan Gogh, and three by Paul Klee. The information of these works, for example, the names of the paintings, the names of painters, and so on, were withheld at first. Pupils compaired these works of art with one another and divided them into three groups based on their own critiques. Then they discussed their impressions of the individual pictures and the characteristics of the three groups, and appreciated them. After this practice, the activity was examined from the following viewpoints: 1. creating a hypothetical situation in which the pupils were all connoisseurs of fine arts 2. instructing the pupils in a method of comparing works of art 3. using prints of works of art 4. selections of works of arts 5. pupils' words of expression on art appreciation
著者
本村 健太
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.399-409, 2009-03-21

本稿は,バウハウス教師であったヨハネス・イッテンの造形教育において実践されていた「昔の巨匠絵画の分析」の理念及び方法論を確認するとともに,その今日的な展開の可能性を試みる実践研究である。この研究の前提には,筆者の継続するバウハウス研究の課題としてのバウハウス認識の見直し,また,イッテン研究の課題としての彼の造形活動や教育実践の明確化,そして,美術教育研究の課題として昨今注目されてきた鑑賞教育のあり方に対するオルターナティブの提示という目的が重ねられている。イッテン教育の方法論が今日にまで射程を延ばしていることの例証のため,ここでは画像処理による絵画イメージの変容を試行して,絵画の認識を深める実践を行った。
著者
北野 諒
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.34, pp.133-145, 2013-03-25

本稿は,対話型鑑賞における美学的背景についての考察を経由して,芸術をめぐる学びとコミュニケーションの様態を再検討することを目的としている。具体的には,「開かれた作品」「(敵対と)関係性の美学」といった美学理論の解題から,「半開き性」という鍵概念-芸術/学び/コミュニケーションの基礎的条件をなす弁証法的運動-を抽出し,分析を展開していく。行論のすえ,本稿はふたつの可能性(暫定的な結論と仮説の提議)にいたるだろう。ひとつは,「半開き性」を,対話型鑑賞の学びの場面へ実際的に応用する「半開きの対話」の可能性(暫定的な結論)。もうひとつは,「半開きの対話」を楔に,コミュニケーションをメディウムとした現代アートの作品群と芸術教育の実践群とを接着し,新たな芸術教育パラダイムのコンセプト・モデルとして胚胎させる可能性(仮説の提議)である。
著者
杉本 覚 岡田 猛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.34, pp.261-275, 2013-03-25

近年,美術館においてワークショップという形態の教育普及活動が頻繁に行われるようになってきている。しかし,ワークショップの実践家の数はまだ少なく,その育成が喫緊の課題として挙げられている。この課題を解決するためには,まずはファシリテーターの熟達過程を調査し,その実証的なデータに基づいた教育プログラムを作成する必要があるだろう。そこで本研究では,実際のワークショップにおいてスタッフの活動の様子を参与的に観察するとともに,参加したスタッフに質問紙を実施して,その回答やミーティングでのやり取りをもとに学習や認識の変化を分類し,ワークショップ内の活動との対応を検討した。その結果,スタッフの学習として「ファシリテーションに関する学習」「ワークショップ自体に対する認識の変化」「作品との関わり方に対する認識の変化」「日常の自身の姿勢に対する認識の変化」の4つのカテゴリが見出された。
著者
相田 隆司
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-12, 2000

This thesis is to consider the standing of comics in art education in junior high school through examples from the classroom from which I was able to catch a glimpse of the students expressively describing their daily lives using comics. In trying to achieve richness in children's creative expression by allowing them to use comics, it is important, first of all, to give them a positive perception of comics and make them realize they can express themselves through this medium. I would further like to emphasize that art education should extract the overwhelming breadth and depth from the so-called "comic culture" and define its status as well, centering around the theme of the expression of children.
著者
石崎 和宏 王 文純
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.55-66, 2010-03-20

本研究の目的は,美術鑑賞学習におけるメタ認知の役割を明確にすることである。その方法は,まず先行研究のレビューから,美術鑑賞学習とメタ認知のかかわりについて,発達や熟達化,転移,学習者の資質の観点から考察する。また,鑑賞スキルや思考の構造化を方略的知識としてメタ認知するよう促す事例を示し,美術鑑賞学習におけるメタ認知の有効性と今後の研究課題を検討する。その結果,鑑賞スキルを方略的知識としてメタ認知することが中学生以降において可能であることを確認し,また,知識や思考の構造化を方略的知識としてメタ認知することが熟達化や転移を促し,鑑賞の深化にも有効であることを指摘した。一方,メタ認知の精度と鑑賞の質,そして多様な学習者や環境などとの相関分析が今後の課題であるとした。
著者
武田 佳恵
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.339-349, 2008-03

本研究の目的は,現在の中学生はどのような絵を描きたいと思っているのかを,作品における写実の程度と個性の発揮の2観点から探ることである。目的を達成するため,中学生を対象に,美術科授業での描画に関する質問紙調査を実施した。写実の程度が異なる3作品の中から自分が描きたい絵を選択する質問では,写実的傾向が最も高い絵を選択した生徒の割合は,写実的傾向が最も低い絵を選択した生徒の割合と同程度であった。以上のことから,現在の中学生は写実的な描画に対してだけ好意を示す訳ではなく,写実的傾向の低い描画に対しても好意を示すことが示唆された。
著者
王 文純 石崎 和宏
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.465-476, 2009-03-21

本研究の目的は,1)鑑賞スキルの熟達化は学習によってどのくらい促されるかの検証,2)習得した鑑賞スキルが作品探究の方策として機能するかについての検証,3)鑑賞スキルの熟達化における転移のかかわりの明確化である。方法は,大学生への学習プログラム(5ユニット)を開発し,その調査結果の量的分析と事例分析による考察である。その結果,学習プログラムによる鑑賞スキルの熟達化は,熟達化の三つの指標値の有意な高まりで示された。また,鑑賞スキルは,その学習後に支援がなくても能動的に活用され,作品を探究する方策としての機能が確認された。そして,鑑賞スキルの熟達化か認められた場合,全体として鑑賞スキルの転移もうまくいっていた。ただし,学習者の資質に応じて転移の詳細は事例ごとに異なるものであった。
著者
三橋 純予
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.353-366, 2010-03-20

筆者はこれまで美術教育の新たな領域として「アートマネージメント手法」の有意性を理論的に検証・提起し,実践研究として現代美術家との2つのアートプロジェクトを教材化して,その過程から育まれる「複合的鑑賞教育」の可能性を考察してきた。本稿では,これらの研究と平行して進めてきた北海道立近代美術館との3年間にわたる「連携授業プロジェクト」を新たな実践研究として,公立美術館を現場とした,展覧会の企画から実施までの授業プロセスを系統的に検証し,「作品と向き合うA段階」と,「他者(社会)と向き合うB段階」に分類し,「学習の転移」をキーワードとして,鑑賞教育におけるアートマネージメント手法の有意性を,理論的に明らかにする。
著者
鈴木 幹雄
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.287-298, 2008-03-27

バウハウス教授陣のアメリカへの亡命に伴ってシカゴへ設立されたNew Bauhausに関して,我々は,『50年シカゴにおけるバウハウスの後継学校50.Jahre new bauhaus. Bauhausnachfolge in Chicago』とロサンゼルス郡美術館の共同研究『亡命者達と移民達-ヒットラーからのヨーロッパ芸術家達の逃走Exiles+emigres. The flight of European artists from Hitler』を手掛りに一定の一般的理解を持つことができる。本論ではこれら資料と並んで,イリノイ大学ジョン・ワォーリー文書のホルダー198,ペーター・ゼルツ,リチャード・コッペ著「美術教師の教育」,モホリ・ナギの弟子であり,後イリノイ大学美術部門の主任教授となった人物,リチャード・コッペの証言「シカゴのNew Bauhaus」(ドイツ語書籍『バウハウスとバウハウスの人々Bauhaus und Bauhaeusler』)を手掛りに,本テーマを開明する。