著者
小川 賢一 平林 公男 中本 信忠
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.14-22, 2001-07-30

長野県の諏訪湖で大量発生して,周辺住民や地域の観光施設,工場施設に健康被害や経済的被害等をおよぼしているアカムシユスリカ成虫の群飛形成や音響に対する応答特性を紹介するとともに,これまでに調べられたユスリカ類の音響応答とも比較した.アカムシユスリカ成虫は日中,湖岸の植物の葉上で静止しているが,夕刻に雄は巨大な群飛を形成した.その間,雄は音響トラップから発せられる周波数150Hzと180Hzの音響に顕著に応答し,誘引捕獲された.これらの音響周波数はこれまでに明らかになったユスリカ類の音響応答の中で最も低い周波数であった.諏訪湖で発生するアカムシユスリカとオオユスリカ,および神奈川県川崎市内の都市河川で発生するセスジユスリカとミヤコナガレユスリカの3属4種間で,雄を最も多く誘引捕獲できた音響周波数とその時の気温との間に正の相関関係が認められた.本研究のような,音響による物理的方法や他のさまざまな手段や発想を組み合わせた「環境に優しい」対策や防除法の考えが今後のユスリカ類を始めとする害虫防除法にとって重要なものになっていくと考える.
著者
宮ノ下 明大
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-21, 2008-11-28
被引用文献数
1
著者
中野 敬一
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-23, 2002-07-30
被引用文献数
4

都市におけるヒトスジシマカの生息状況を把握するため,2000年5月から11月にかけて東京都港区の4箇所でオビトラップにより調査を行った.産卵はオビトラップに5月から11月まで確認された.産卵数は9月中旬にピークがあった.オビトラップに水道水と雑草浸漬水,エビオス混釈水を使用した場合の産卵数を比較したが,はっきりした結果は得られなかった.また,オビトラップの7日後の水質を検査したが,水質と産卵数との相関係数は低かった.さらに産卵数50個以上と5個以下のトラップの水質を比較したが,有意差はなかった.
著者
森 勇一
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-40, 2001-07-30
被引用文献数
1

文明の進展に伴って人が集中居住するようになり,都市が生まれた.都市には,人の生活や生産に関わる生活ゴミや汚物・産業廃棄物が集積され,これらはやがて自然界に大量廃棄されることとなった.昆虫の中のいくつかは,こうした人為度の高い環境に適応するため,食性やライフスタイルを変化させるものが現れた.いわゆる都市型昆虫である.今から約5,000年前の縄文時代前期の頃,青森県三内丸山遺跡では,汚物や生活ゴミに集まるハエ類や食糞性昆虫を多産した.この結果,日本における都市型昆虫のルーツは縄文時代にまで遡ることが明らかになった.本遺跡では,果実酒造りに利用されたと考えられる種子集積層が確認され,この中からショウジョウバエDrosophilidaeのサナギが多量に見いだされた.発酵物に群がる食品害虫の前身は,縄文時代前期の三内丸山遺跡に求めることができる.いっぽう,中国湖南省の城頭山遺跡では,約5,000年前にはすでに城壁と大環濠に囲まれた都城が建造され,この中に多くの人々が居住していた.環濠に堆積した地層中から見つかった多くの都市型昆虫の出現から,その繁栄ぶりが窺われる.時代が下り,弥生時代中期(約2,000年前)の愛知県朝日遺跡,奈良時代の静岡県川合遺跡では,人の集中居住やこれに伴う環境汚染を物語る食糞性昆虫や食屍性昆虫を多産した.また,中世後期の愛知県清洲城下町遺跡からは,コクゾウSitophilus zeamaisやノコギリヒラタムシOryzaephilus surinamensisなどの貯穀性害虫が見いだされ,穀物の貯蔵施設に関する情報が得られている.
著者
井上 嘉幸
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-13, 1993-06-30

木材防腐防虫剤の安全性について,住宅環境に用いられる処理木材の安全性を調べるため,処理木材から揮散した物質を吸入した場合の毒性を調べることにし,処理木材で2種の飼育箱をつくり,マウスを90日間飼育して,飼育箱内の環境条件,マウスに及ぼす処理木材の作用等について検討を行った。別に,処理木粉による皮膚刺激試験,経口投与による毒性,薬剤の揮散速度等について検討を行った。得られた結果は,つぎのとおりである。(1) 2種の飼育箱では,A型の方がB型に比較して飼育箱内の環境条件が良好で飼育に適していることを明らかにした。(2) ペンタクロルフェノールおよびボリデン塩K-33については,マウスの体温が高くなったが,この理由は酸化的リン酸化の解除剤としての作用と考えられる。(3) 臓器重量について,B型飼育箱では肝臓重量が増大し,とくにクレオソート油の場合に著しいが,この理由として接触による吸収および一般に嚼む傾向があるため,その影響が肝臓に表れたものと思われる。脾臓については,ビス-(n-トリブチルスズ)オキシドの場合,肥大が認められた。(4) 全般的にナフテン酸銅は,マウスの行動等を含め毒性が少ないものと考察される。(5)処理木粉による皮膚刺激試験では,ビス-(n-トリブチルスズ)オキシド,クレオソト油などの刺激が大であった。(6) 経口投与による毒性につき,ラットにγ-BHCを投与し,これを継続した結果,飼育箱から飛び出ようとして体を強打するなど異常行動が認められ,組織標本を作成して検討した結果,脳に異常が推定された。(7) 薬剤の揮散速度について測定した結果,重量現象速度は,クロルデン>γ-BHC>クレオソート油の順となり,クロルデンの重量現象速度は従来の値より大きくなった。(8)飼育箱内に昆虫または微生物を置き,揮散による影響を調べることができ,アズキゾウムシ成虫では,γ-BHCの殺虫速度が最も大であった。(9)住環境調和型木材防腐防虫剤の安全性を検討するためには,今後,処理木材の毒性を検討することが重要である。
著者
長田 庸平
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
都市有害生物管理 (ISSN:21861498)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.31-34, 2021 (Released:2022-06-20)
参考文献数
22
被引用文献数
1

東洋区や台湾由来の外来種であるキマダラカメムシ(カメムシ目カメムシ科)は,近年国内では本州,四国,九州地方の広い範囲で分布拡大をしている.バラ科樹木の害虫としてだけでなく,不快害虫としての側面も持つ.この種の東京都区部における分布情報をここに示した.
著者
吉村 英翔 太田 光祐 田渕 研
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
都市有害生物管理 (ISSN:21861498)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-9, 2021 (Released:2022-06-20)
参考文献数
18

オオスズメバチ Vespa mandarinia の個体数と植生タイプおよびその面積との関係を利用して,越冬メス(営巣前の女王)とワーカーの個体数予測モデルを作成した.越冬メスの個体数は,半径 900 m 以内の天然林や二次林を含む森林面積によって正の影響を受けた.一方,ワーカー個体数は半径 300 m 以内の森林と針葉樹林で構成されている植林地と正の関係があり,牧草地とは負の関係にあった.この有効空間スケールと植生タイプ,その面積の違いは,越冬メスとワーカー間で採餌活動の範囲や意図が異なることを反映していると考えられる.ワーカーの個体数予測モデルを用いて,東北農業研究センター周辺地域(盛岡市西部と滝沢市)におけるオオスズメバチの生息域を地図化した.このような地図は,将来,蜂による刺傷被害の危険地域を示すハザードマップの開発につながるだろう.
著者
洗 幸夫
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.112-115, 1996-12-25

ハエはハエ目(双翅目)Dipteraに属する昆虫の総称で,一般に,ハエ,アブ,ブユ,カなどと呼ばれる昆虫の仲間で,世界中には25万種はいると推定されている。本当の意味でのハエはハエ目環縫群(Cyclorrhapha)に属するもので,日本からは約50科, 3,000 種が記録されている。しかし,その95%は人間の生活に関与していないもので,衛生害虫と考えられるものは約10科,数十種だけである。そのうち,イエバエ(Musca domestica L.)はイエバエ科(Muscidae)に属するハエで,幼虫はゴミなどの有機廃棄物に発生し,成虫になってから好んで家屋内に侵入する習性があるため,室内でよくみられる衛生害虫である。イエバエは成長が早く,25℃の場合は卵から成虫になるまでの日数は13〜14日だけで,温度が高くなると,日数はさらに短くなる。人口密度が高く,経済活動の活発な都市では大量なゴミを排出し,イエバエの生育に好条件がそろっているといえる。1965年6〜7月に夢の島,1989年秋に東京湾ゴミ埋立地で大発生したハエによる騒動の主はこのイエバエであった。本稿は著者が走査電子顕微鏡でイエバエの微細形態を観察し,成虫の複眼,単眼および触角の部分をまとめたものである。諸賢の研究に参考資料として役立てば幸いである。
著者
大野 正彦 関 比呂伸 花岡 暭
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
都市有害生物管理 (ISSN:21861498)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.7-13, 2015

<p>カベアナタカラダニは,東京において春から初夏にかけて家屋の壁面,庭,建物屋上を這い回り,住民に不快感を生じさせる.このダニの効果的な防除方法を知るため,建物屋上と地上において産卵場所を調べた.屋上では防護壁と床面の間から多数の卵を採集した.また,地上でもコンクリート壁の割れ目から多くの卵を採集した.壁の割れ目の内部に塊状に産みつけられた卵がみられた.壁に生じた間隙や割れ目が主要な産卵場所と思われた.</p>
著者
曲山 幸生 古井 聡 今村 太郎 宮ノ下 明大
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
都市有害生物管理 (ISSN:21861498)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-9, 2017 (Released:2020-02-22)
参考文献数
21

昆虫の体サイズは生物種,あるいは集団として,重要な特徴の一つであると考えられている.体長は試料調整の影響を受けにくく,代表的な体サイズの指標である.しかし,従来の手作業による体長測定は手間がかかるために,十分なデータ数を得るために長い時間がかかっていた.そこで,本研究では,画像解析技術を用いて,ゾウムシ類成虫の体長分布を半自動的に測定する方法を開発した.本方法により,体長分布測定の作業時間が短くなったことに加えて,十分に大きなデータ数を容易に収集できるので,非対称性など体長分布の形状について詳細に検討することが可能になった.
著者
大澤 貫寿 Dadang
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-46, 1998-06-30

インドネシア,沖縄など熱帯および亜熱帯植物からの抽出物について,農業および衛生害虫に対する殺虫,摂食阻害ならびに忌避作用について調査研究し,活性成分の精製と単離同定を行った。1)バンレイシ科の植物種子の抽出物からアズキゾウムシとコナガに対して殺虫性の非常に強いSuqamocinなどアセトゲニン関連化合物を単離した。2)ハマスゲの塊茎からは,コナガ幼虫に対して殺虫性と摂食阻害活性を有する化合物α-Cyperoneを単離同定した。3)ショウガ科ナンキョウの根茎からはコナガ幼虫とアズキゾウムシに対して殺虫性を示す化合物1'-acetoxychavicol acetateを単離した。4)アオギリ科サキシマスオやキク科のセンジュギクからチャバネゴキブリの忌避物質としてそれぞれSafroleとPiperitoneを見出した。5)シソ科パチョリとイネ科べチバーからネッタイシマカの忌避物質としてPatchouli alcoholとα-Vetivoneなどのテルペン系化合物を同定した。6)センダン科植物23種についてコナガ幼虫に対する摂食阻害試験を実施しクラブウッド(Carapa guianensis)に非常に強い摂食阻害活性を認めた。
著者
三原 實
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-50, 2003-06-30
被引用文献数
4

ゴキブリ目は,石炭紀後期(約3億年前)地層より化石が発見され,国内でも2億3千年前の翅の化石が山口県美祢市で出土している歴史の旧い昆虫である.地球上のゴキブリは現在まで約3,500種が知られ,日本では9科25属52種が纏められている(朝比奈,1991).ゴキブリは熱帯・亜熱帯が主な生息域であり,国内における分布状況も南西諸島に多くその種数は45,九州23,四国11,本州17,北海道3,小笠原8種である.自然界におけるゴキブリの生活場所は森林や草原の地表で,林内では落葉内,石の下,倒木下,浅い土中,樹木根際,樹木では樹葉上,樹皮下,樹洞内,朽木内,その他草原や叢中などに生息し,植物の腐食有機物,動物,昆虫などの屍骸,樹液,朽木などを食餌としている.
著者
柴山 淳 吉垣 茂 富岡 康浩
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-43, 2001-07-30

植物精油16種のイエバエに対する忌避効果をオルファクトメーターを用いた試験により評価した.その結果,スペアミント,シナモン,レモンでは特に高い忌避効果が認められた.さらに,ゼラニウムやローズウッドなどにも比較的強い忌避効果が見られた.
著者
水谷 澄 新庄 五朗 田中 生男
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.115-118, 2004-12-15

オオチョウバエの各種飼育法の概要を示した,さらに人工汚水と森谷らが1969年に報告したエビオス水溶液による飼育方法を室内観察で比較検討した.その結果,雌成虫が産卵適期であれば両法共培養液を設置後すぐ産卵した.25℃の温度下では,設置52時間後に一部1齢幼虫が孵化したので,卵期間は2〜3日であった.その後設置4日後まで双法の間で幼虫の発育に差は認められなかった.しかしそれ以降は人工汚水区の方がエビオス水溶液区より発育が早く進行した.成虫は両法とも自然個体と同様な大きさの個体が得られた,卵期間は2〜3日,幼虫期間は人工汚水区が8〜14日,エビオス水溶液区が10〜15日,蛹期は双法とも3〜4日であった.成虫の寿命は比較的短く,通常の湿度環境(60〜80%RH)では2週間以内にほとんどが死亡した.
著者
吉村 剛 インドラヤニ ユリアティ
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.37-45, 2006-06-30
被引用文献数
3

1970年中頃より日本でその被害例が報告されるようになったアメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor (Hagen))の被害の現状とその対策について,現在解析が進みつつある食害生態における特徴とともにまとめた.アメリカカンザイシロアリの被害は全国的に拡大しつつあり,現在では日本全国に薄く広く分布していると考えるべきである.現状の被害報告件数から類推して,日本全国で数千軒以上の被害家屋があると思われるが,その被害は家屋上部,特に屋根部材に集中して発生する.食害行動や樹種嗜好性,および好適摂食環境条件などにおいて,アメリカカンザイシロアリはイエシロアリやヤマトシロアリとは大きく異なっていた.イエシロアリやヤマトシロアリを対象とした現在のシロアリ防除システムではアメリカカンザイシロアリに適切に対応することは不可能であり,新たな防除マニユアルの作成が早急に望まれる.これ以上の被害の拡大を防ぐために,行政-研究者-業界団体-薬剤メーカー-施工業者がスクラムを組んで真摯に取り組む必要がある.