著者
順天堂医院禁煙推進委員会
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 = Juntendo medical journal (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.403-412, 2011-08-31

平成15年に受動喫煙対策を定めた健康増進法が施行され, 喫煙関連疾患に対する認識や禁煙の必要性は社会全体に急速に拡がった. このような社会的背景を受け, 順天堂医院では, 平成18年1月に禁煙推進委員会が発足した. 同委員会は, 診療科, 看護部, 病院や大学事務職員, などの多職種の委員から構成され, 病院・医学部を含む本郷キャンパス敷地内を全面禁煙として質の高い医療を提供する環境を整備するとともに, 喫煙による健康被害を啓発し禁煙支援を推進することを使命として活動を開始した. 敷地内禁煙の広報, 客待ちタクシーの禁煙化, 敷地内および周辺の禁煙パトロールや禁煙支援ニュースの発行による啓発活動, 教職員の喫煙に対する意識調査, 周辺町内会・文京区との連携による路上喫煙禁止地区への指定, などに取り組んだ. 本報告では, 発足からの5年間に取り組んできた様々な試みとその成果について, 今後の展望も含めて報告する.
著者
川原 敏靖
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.314-320, 2010-08-31 (Released:2014-11-21)
参考文献数
24

免疫抑制剤の進歩により移植医療は世界に普及し, その成績は飛躍的に向上した. その発展に伴い, 次に問題になるのは免疫抑制剤の非特異的な免疫抑制による感染, 発癌, そして薬剤そのものの副作用である. したがって, 免疫抑制剤投与なしに移植臓器が生着し, さらに感染などに対しての通常の免疫機構が保たれている状態「免疫寛容」の誘導が移植後免疫抑制の最終目標である. 免疫寛容誘導の方法として, 骨髄移植によって誘導する中心性免疫寛容. そしてT細胞の副刺激抑制, あるいは制御性T細胞の誘導により引き起こす末梢性免疫寛容があり, 現在これらの研究が急速に進み, 臨床試験も行われている. 本項では, 筆者の今までの研究成果を交えながら, 臓器移植における免疫寛容の概要と今後の臨床応用の可能性について解説する.
著者
菊池 正一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.157-165, 1988

私の行った研究の軌跡の概略を紹介し, 特に温熱環境条件のマウス免疫応答に及ぼす影響について述べた. 一連の実験結果を概括すると次の如くである.1) 免疫刺激直後にマウスを低温 (8℃), または高温 (36.5℃) の環境に移動すると免疫応答は低下するが, 低温順化後のマウスは対照群 (25℃) に比べ免疫応答に差がない.2) 高温への移動の場合, 環境温度35℃までの移動では免疫応答にほとんど影響がなく, 低温移動の場合は10℃まで影響が現れないが, 8℃-4℃では免疫応答が低下し, 更に2℃, 1℃への移動では再び対照群とほとんど差がなくなる.3) 免疫刺激後, 8℃または36.5℃に移動すると, 上述の通り免疫応答は低下するが, 1日4時間宛連日暴露では低下は見られず, 1日4時間1回, 2時間宛2回, 1時間宛4回と暴露時間一定でも暴露回数を増すほど免疫応答は逆に促進の傾向が見られた.4) 環境温熱条件の変化と免疫刺激との時間的関係の影響を観察したところ, 前者による免疫応答抑制効果の現れる時期は, 低温移動と高温移動とで明らかな差違が見られた. この点を説明するため, 環境温熱条件変化に起因する生理的適応の過程に"effective period"を, 免疫応答の一連の反応の過程に"susceptible period"を仮定し, この両者が一致した場合免疫応答の低下として現れるとの仮説をたてた.最後に, わが国の私立医科大学の経営に関して私見の一端を述べた.
著者
冨原 均
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.522-532, 1993

積極的降圧療法に基づき, 伊豆長岡順天堂病院で治療された解離性大動脈瘤75例の臨床像について検討を行い, 次の結果を得た. 年齢分布は臨床上, 中年者群と高齢者群の2峰性を示した. 73% (55例) に高血圧症合併を認め, 身体を捻るなどの動作が発症の誘因となった例を13例 (17%) 経験した. このことは臨床診断上の手掛かりとして重要と考えられた. 経時死亡率は, 発症48時間以内25%・2週間以内36%, 最終的には49%と比較的良好であったが, 発病早期の死亡率が高かった. 心タンポナーデが死因の第一位であったが (19例 51%), 心タンポナーデ時に77%の高率で不整脈の出現を認めた. 剖検12例全例に房室結節ならびにその近傍に血腫が認められ, これが不整脈の原因と考えられた. 血腫の肉眼的拡がりの程度を3型に分類し, 不整脈の種類との関連を検討したが明らかな相関は認められなかった. この不整脈は大動脈起始部の瘤破裂の予兆と言うよりはむしろ心タンポナーデ発生直後の結果にすぎないと考えるのが妥当と思われた.
著者
広瀬 朝次
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.284-291, 1965-02-10 (Released:2014-11-22)
参考文献数
7
著者
高山 充代
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.339-344, 2009

私は, 去年の8月に順天堂浦安病院で乳がんと診断され, 乳房温存手術を受けました. 現在手術から9ヵ月が過ぎたところで, 治療はまだ継続中です.我が家では父親が50代で直腸がんで亡くなっているので, ゆくゆくは自分もがんになるかもしれないという危惧を以前から抱いてはいましたが, それはまだ先のこと, まさかこの年齢で, しかも, 乳がんになるとは, 思ってもみませんでした.それでも, 乳がんは早期であれば怖くないといわれているので, 手術さえうまくいけば, すぐに元の生活が送れるようになる, と私は思い込んでいました. ところが, 治療は手術だけではありませんでした. 手術の後に, 想定していなかった, 長くて大変な治療が待っていたのです.ホルモン療法と放射線療法, 2つの術後の治療を受けるうちに, 副作用とみなされる様々な心身の変調が出てきて, 私はずいぶん戸惑いました. そのなかで, 乳がんになってしまったというショック, 喪失感, 孤独感は強くなり, 自分ひとりが貧乏くじをひいてしまったような, みじめでやり切れない思いにとらわれて, そこから抜け出せない自分を自覚するようになりました.「このままでは自分がダメになってしまう, 何とかしなくてはいけない」と, 乳がんになったことで生じたこころの痛みを緩和する手立てをめぐり, あれこれ試行錯誤をくり返しました.その結果, 次の3つのことを日々の生活の中で実践するようになっています.1. 喪失した女性性の復権2. 自然とのふれあい-散歩の価値の再発見-3. 今を楽しむ-日常の生活習慣を変える-今もまだ模索の途中で, とても十分とはいえない内容ですが, 今回の都民公開講座では, この3つを『私流・こころのセルフ緩和ケア3ヵ条』と仮題して, お話しさせていただきました.
著者
鈴木 賢英
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-91, 1977-03-10 (Released:2014-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

ICR系マウスを用いて, 妊娠14日から20日まで6mgのcyproterone acetate (CA) および溶媒のみを妊娠マウスに注射し, 経時的に殺して雄胎仔の生殖路を組織学的に調べた. その結果, 雌胎仔およびCA投与群の雌性化雄胎仔の腟原基は妊娠16日から18日の間に出現し, その頭側部は前立腺小室に相当するミュラー管由来の腟原基で, 尾側部は尿生殖洞に由来する細胞索 (腟板) であった. この雌性化雄仔の腔原基は, 雌のそれに比べてミュラー管由来の部分が短い点を除けば質的に同様と考えられる. 雌性化雄胎仔での腟板形成は雌胎仔と同様に尿生殖洞背側壁から1対の細胞索として生じ, 妊娠18日でその基部が融合し, 妊娠19日で雌新生仔と同様な尿道から隔離された1つの腟板を形成した. 次に雌性化雄マウスの腔原基形成および雄性性腺付属腺の分化と発達に対するCAの影響を調べるために, 妊娠14日から20日まで, 1mg, 3mg, 6rngのCAおよび溶媒を妊娠マウスに皮下注射し, 妊娠20日に開腹して雄胎仔を取り出し, その生殖器管を調べた. CA投与群の雄の腟原基形成において最も強く影響を受けるのは腟板形成であって, 6mg投与群では腟板の形態は雌とほとんど同様であり, 3mg投与群ではその発達は抑制され, 1mg投与群では雌胎仔またはCA6mg投与群の妊娠18日の胎仔に見られる程度の腟板形成しか起こらなかった. さらに雄性性腺付属腺の発達の抑制 (脱雄性化) もCAの濃度と相関しており, 中でも脱雄性化の程度が著しかったのは尿生殖洞由来の器官で, 尿生球腺・凝固腺・前立腺の順にその発達が抑制された. これに対してウォルフ管由来の精管および精のうはほとんど抑制されなかった. これらのことからアンドロゲンと腔原基形成および雄性生殖路の分化と発達との関係を考察した.

1 0 0 0 OA うつ病の症状

著者
井原 裕
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.378-385, 2005-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
5

うつ病には, わかりやすい症状とわかりにくい症状とがある. ほとんどの症状は, わかりやすい. 気が滅入る, 悲しい, あとに引きずる, 決断ができない, 興昧が湧かないなどである. このような症状を呈すると, 「申し訳ない」「生きていても仕方ない」といった厭世的な思いに陥りがちである. また, 眠れない, 食べられない, 夜「その気」になれない, 「月のもの」が不規則になるなどの症状も出やすい. 一方で, わかりにくい症状もある. 頭痛・耳鳴り・めまい・下痢と便秘の繰り返しなどである. うつ病のなかには, これらのような身体の症状だけを呈する場合もあり, 内科疾患と紛らわしい. 感情面での問題が身体症状によってマスクされているタイプの場合, 不快な出来事に対する情緒的な反応を抑制しすぎるため, 鬱積した感情のはけ口がなく, 身体的な症状として出てしまう場合が多い. うつ病の回復は, 焦燥, 憂うつ, 意欲の順に回復していく. 職場不適応によるうつ病の場合, 発病のきっかけとして仕事と本人の個性とのミスマッチがある場合が多い. したがって, 復職前に労務上の配慮が与えられることが望ましい. 自殺は, うつ病の症状としてもっとも警戒すべきものである. 自殺念慮には周期性があり, あとから考えて「なんて馬鹿なことを」と思えるときがかならず来る. そのときまで, 何とか全力で自殺をくい止めることである. うつ病は, 自殺さえなければ, 「死に至る病」ではない. 憂うつ自体は病的なものではなく, 正常な情緒的反応であり, うつ病も, その人の人生にとって重要な意義をもつ場合もある.
著者
鷲崎 誠
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.52-62, 1980

第1編で改良を加えた恒圧型体プレチスモグラフの構造および本装置による気道抵抗 (Raw) の正常値について報告したが, 本編ではひきつづき気道抵抵におよぼす喫煙の慢性, および急性効果, β-blockerの使用効果, 喘息タバコの効果について検討し, 以下の成績を得た.1. 健常者52例について気道抵抗および特種気道コンダクタンス (SGaw) を測定したが, 軽度喫煙者群と非喫煙者群との間に有意差を認めなかった. すなわち軽度以下の喫煙の慢性効果は, Raw, SGawの異常をもたらす程のものではないとの結果を得た.2. 喫煙直後のRawおよびSGawの変化は, フィルターの有無により明らかな差を示した. すなわちフィルター付セブンスターでは喫煙前後の変化は認められなかったが, 両切りピースでは喫煙直後Rawは上昇し, SGawは低下した. フィルターは喫煙による気道閉塞現象の防止に役立つと解される.3. β-blockerの事前投与はPlacebo投与に比し, 喫煙直後のRawとSGawの変化を増幅する. すなわち喫煙による気道閉塞現象はβ-blockerたより助長された.4. 喘息煙草「葯烟」を気管支喘息患者に喫煙させ, その前後でRawとSGawを測定すると, 明らかに改善を認めた. 成分中のAtropine, Scopolamineの効果と解される.
著者
高木 正稔
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.167-179, 1998-09-28 (Released:2014-11-18)
参考文献数
37

目的: 毛細血管拡張性運動失調症Ataxia Telangiectasia (AT) は神経変性・免疫不全を主徴とする遺伝性疾患である. また高率に白血病・悪性リンパ腫など悪性腫瘍を合併することが知られている. ATにおける高発癌性の分子生物学的機構を明らかにするため, DNA損傷による細胞周期調節機構・アポトーシス誘導機構について検討を行った. 対象: 正常人, ATM (ATmutatedgene) 遺伝子にホモの変異をもつ患者 (2例), およびヘテロの変異をもつ保因者 (2例) よりEpstein-Barrウイルス (EBV) を用いて細胞株を樹立し, 比較検討を行った. 方法: 放射線照射・H202・C2-ceramideによるアポトーシス誘導能をPropidium iodide (PI) 染色によるsubdiploid集団を指標としてflow cytometryにより評価した. 細胞周期調節機構はflow cytometryを用い, PI染色によるDNA核量から評価した. アポトーシスおよび細胞周期関連蛋白をウエスタンブロット法を用い, Stress activated proteinkinase/jun kinase (SAPK/JNK) 活性をin vitro kinase assayを用いて検討した. 放射線感受性をclonogenicassayにより検討し, アポトーシス誘導能と比較した. 成績: AT細胞株は放射線照射によるp53の蓄積およびそれに伴うp21Cip1/WAF1転写の活性化が障害されていた. これらの障害はG1/S期での細胞周期調節機構の障害を伴っていた. またmitotic/spindle (M/S) チェックポイントも障害されていた. AT細胞株は放射線高感受性を示すにも関わらず, 急性のアポトーシスに対しては抵抗性であった. 結論: AT細胞株は放射線による急性のアポトーシスに耐性である一方でclonogenic cell survival活性が低い特徴を有していることが明らかになった. またG1/SおよびM/Sチェックポイントが障害されていた. 今後ATの患者において変異しているATM蛋白の働きを明らかにするため, これらの細胞生物学的特徴の分子生物学/生化学的な基盤に関する検討が必要と考えられた.

1 0 0 0 OA 低血圧症

著者
村上 正中
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.266-267, 1966-10-10 (Released:2014-11-22)
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.22, no.50, pp.87-88, 1889
著者
上原 由紀
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.102-106, 2009-06-30 (Released:2014-11-11)
参考文献数
4

何らかの病原微生物による感染性腸炎は日常診療でよく遭遇する疾患である. このなかには食中毒も含まれています. 季節により起因微生物は異なり, 冬期はウイルス, 夏期は細菌が主体となります. 診断には十分な病歴聴取が必要で, 摂取した食物, 潜伏期間, 臨床症状および基礎疾患などから起因微生物を推定して治療方針を決定します. 便培養や寄生虫検査は診断および公衆衛生的側面からも必要です. 治療では抗菌薬を必要としないものが多く, 水分, 糖分, 塩分を不足する分だけ補うことが大切です. 食中毒を疑った場合は食品衛生法に従い保健所に届出を行います. 起因微生物の種類によっては感染症法に基づいた届出が必要なものもあります.
著者
大日方 薫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.353-356, 2001-01-20 (Released:2014-11-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

ヒトパルボウイルス (HPV) -B19感染に伴ってループス様症状を呈し, 低補体血症や自己抗体産生など免疫学的検査異常を認めた2例を経験した. 症例1は35歳の女性. 発熱・多関節炎・レイノー症状, 体幹の発疹および顔面の蝶形紅斑があり, リンパ球減少・低補体血症・抗核抗体陽性を認めたため, SLEと診断された. 同時期に6歳の長女が伝染性紅斑に罹患したことからHPV-B19抗体を測定したところ, 母子ともにIgM抗体が上昇しており, HPV-B19特異的PCRによるゲノムDNAの検出が陽性であった. 症例2は13歳の女児. 顔面・四肢の紅斑, 多関節痛があり, リンパ球減少・血沈亢進・低補体血症・抗核抗体陽性を認め, SLEと診断された. 同胞2名が伝染性紅斑に罹患したことから, 患児のHPV抗体の検索を行ったところ, IgM抗体を検出した. これら2症例のループス様症状は短期間に消失し, 検査値も数ヵ月以内に正常となった. HPV-B19感染により自己免疫反応が誘導され, 一過性にループス様症状を呈した可能性が考えられた.
著者
宮腰 由紀子 西田 美佐 塩原 正一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-63, 1999

目的: 次代の子供の健康を担う母親の食品添加物等への意識と, 食品表示の確認行動の妊娠期と育児期の比較から, 母親に向けた食品選択に関する効果的な保健指導を検討するための資料を得ることを目的とした.対象: 妊娠期間中の調査 (以下『妊娠期』と略) の回答者で, 育児期間中の調査 (以下『育児期』と略) へ回答した366人中の, 妊娠期調査時点の胎児を第1子として出産した母親327人を, 今回の解析の対象とした.方法: 食品添加物関連17項目を含む39項目から成る質問紙を, 妊娠期は手渡し, 育児期は郵送で配付した. 回収は両時期とも郵送とした.集計・分析は統計パッケージSPSSにより, 同一人物の妊娠期と育児期のデータを用いて, 両時期間の食品添加物に対する意識と行動と各項目との相関関係・因子分析 (バリマックス回転を行った最尤法) の結果を比較した. そして共分散構造分析により, 育児期の食品添加物等『表示の確認』行動に対する主要項目の影響関係を把握した.結果: 全項目において妊娠期と育児期の回答間には強い相関関係が認められ, 妊娠期の意識や行動の傾向が育児期に反映することが確認された. 9割の人が「食品添加物のことを詳しく知りたい」と関心が高いが, 食品添加物を『気にする』『表示の確認』をする人は5割に留まった. 意識・行動項目の因子分析から両時期とも第一因子『購入品』を得たが, 第二・三因子は時期による相違が見られた. 育児期の『表示の確認』は妊娠期よりやや減少しており, 育児期の『表示の確認』に対する項目間の関係構造は, 『表示の確認』が『気にする』から強い影響を受けていた. 一方, 『気にする』は「食品添加物について詳しく知りたい」からの影響を受けていた.考察: 食品添加物等の表示を確認する行動を促進するには, 食品添加物に関する正しい知識を母親が持つことにより, 母親が食品添加物を気にする意識が強化されることが, 大切なポイントであることが明らかになったと考える.