著者
山城 雄一郎
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.25-34, 2014
被引用文献数
1

近年,細菌の検索に導入された菌の遺伝子DNAやリボゾーム16SrRNAをターゲットにした分子生物学的手法の普及により,ヒトの腸内細菌の動態が,培養不可でそれまで知りえなかった菌も含め,より詳細に明らかになってきた.ヒト成人の腸内細菌には,約500~1,000種,100兆個の菌が生着し,その構成の割合は食事(栄養)の影響を受けて生涯を通して変化し,また内的,外的な両方の環境の変動にも修飾されて敏感に反応する.腸内細菌構成菌の変動は,分子シグナルを介して宿主の代謝と免疫など,生理,生化学的機能に影響し,宿主の健康と病的状態に密接に関係する.胎児期に無菌の腸管は,出産時に産道を通過する際に母親から菌を獲得し腸管内へ生着が開始する.母乳栄養児では生後3ヵ月頃までにBifidobacteria優位の菌叢になり,生後6ヵ月頃には全体の90%以上を占めるようになる.しかし離乳食の導入に伴い,人工栄養児のそれと次第に差異は縮小する.他方未熟児は帝王切開(帝切)で出産する例が多く,母親から出産時に菌を獲得する機会を逸し,NICU等の環境から得る菌が最初に腸管へ生着する結果,腸内細菌構成の異常(dysbiosis)を生じ,新生児期の感染や壊死性腸炎(NEC)等の病的潜在リスクとなる.いわゆる善玉菌の腸内細菌,特にBifidobacteriaは,消化吸収,免疫を含む腸管防御等の腸管機能や解剖学的発達,成長に重要な役割を果たす.腸内細菌と食事(栄養)は,相互に密接な関係を有する.食習慣は腸内細菌構成に影響を与え,蛋白質や動物性脂肪(高飽和脂肪酸)の食事摂取が多いとEnterobacteriaceae(Preteobacteria)の割合が多く,高炭水化物食はPrevotellaが増加する.腸内細菌は,食事中の難消化性炭水化物(食物繊維)を代謝,発酵し短鎖脂肪酸(SCFs)の酢酸,プロピオン酸,酪酸を主として産生する.酢酸とプロピオン酸は宿主の,酪酸は直腸上皮細胞それぞれのエネルギー源となる.また,腸内細菌は胆汁酸代謝,食事由来のcholine代謝に関与し,前者は脂質代謝や糖代謝,後者は動脈硬化の進展に関係する.世界的な流行の様相を呈する肥満の元凶は,近代の社会環境の変化に基因したエネルギー摂取と消費のアンバランス,すなわち "西洋食" と称される高カロリー,高(飽和)脂肪食の摂取にある.高カロリー,高脂肪食はFirmicutes, Proteobacteriaの増加,Bacteroidetesの減少など,腸内細菌構成の異常dysbiosisを招く.これらの増加した菌はエネルギー産生や抽出能が高く,宿主の脂肪組織を増加させる.さらに細胞毒性かつ炎症惹起作用のあるリポポリサッカライドを産生し血中に吸収され(endotoxemia),軽度でしかし慢性の炎症を生じる.そのため,炎症性サイトカインが分泌され,インスリン抵抗性の原因となる.インスリン抵抗性が長期化すると2型糖尿病(T2DM)やその他のメタボリック症候群の高リスク因子となる.共同研究者の佐藤淳子ら(順天堂大学代謝内分泌科)は,T2DM患者の腸内細菌が健常者のそれと異なり,その20数%で菌血症を伴うことを世界で初めて発表した.腸内細菌の異常は毒性のある二次胆汁酸産生を増加し,肝に運ばれ肝細胞癌の発症の原因になることをがん研究会の大谷らは報告している.大腸癌の一部も二次胆汁酸がその発症に関与していることが示唆される.腸内細菌と宿主の免疫,代謝等の密接な関係から,腸内細菌のdysbiosisが宿主の健康と疾病に影響を及ぼす学術的エビデンスが近年急速に蓄積されてきている.これに伴いProbioticsによる健康管理,疾病の予防や治療をも見据えた研究も活発になり,近い未来の医療に大きなインパクトを与えるものと期待される.
著者
吉田 博
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.529-537, 1982 (Released:2014-11-21)
参考文献数
16

人水晶体が蛍光をもち加齢とともに増強することは良く知られているが, その分布はほとんど報告がない. 今回は蛍光強度および吸収度分布とその特性を正常および老人性核白内障水晶体で検討した結果を報告する. 正常人水晶体と, 混濁と核硬化の程度により分類した老人性核白内障水晶体を0.5mmの薄切り切片として, アミンコ社自記分光光度計と日立社蛍光分光光度計で蛍光および吸収測定を, オリンパス社マルチ測光顕微鏡で蛍光強度分布と吸収度分布をおこなった. 紫外部吸収スペクトルでは正常人水晶体の280nmの吸収極大は, 核白内障進行とともに変化はないが, 340nm-390nmの長波長側に吸収極大が形成された. 励起光395nmにおける蛍光強度も正常人水晶体で示す465nmの極大は, 核白内障形成とともに減少していくと同時にやや長波長の500nmに新しい吸収極大が表われ, 495nmに等放射点を形成した. 励起光400nmにおける蛍光強度は正常水晶体核部から次第に核白内障の進行につれて核部周囲に強く分布した. 紫外部および可視部吸収度分布は核部中心に変化がみられた. 正常人水晶体で低い吸収を示す核部は, 核白内障の進行とともにその吸収度を増し逆に山を形成した.
著者
住吉 正孝
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.321-326, 2003-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
5

本邦においてゴルフは大変人気の高いスポーツであるが, スポーツ中に発症した心筋梗塞はゴルフが最も多いと報告されている. その理由として, (1) 動脈硬化危険世代である中高年男性のプレーヤーが多い (心筋梗塞を発症し易い人がゴルフをしている!), (2) 普段運動しない現代人にとってはゴルフといえども楽なスポーツではない, (3) 仕事の延長線上で気を使いながらプレーすることが多い (接待ゴルフなど), (4) 飲酒してのプレーやプレー中の喫煙は当たり前といった娯楽的風潮がある, などが挙げられる. 実際にゴルフ中発症した急性心筋梗塞患者の検討では, 全例男性で, 50歳代から-0歳代がほとんどを占め, 喫煙率が高く, 冠動脈危険因子を複数持つものが多かった. また, 心筋梗塞は午前中, フェアウエーでの発症が多く, ショットの前後に心拍数がいちじるしく上昇するため危険な状況になると考えられた. 以上の検討より, 本稿ではゴルフで心筋梗塞を起こさないための10ヵ条を提言する.
著者
荒井 稔
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.386-391, 2005-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
3

うつ病は, 有病率が3%から8%の一般的な病気であり, 適正な治療を受ければ半年で約80%が寛解する. しかし, 症状は, 心身領域に現れ, 思考の渋滞化, 行動の制止, さまざまな身体症状などがあり, 診断が適正に行われない場合には, 軽快するのに時間がかかることもあり, さらに, 症状のひとつの自殺念慮の結果として自殺が完遂されることもある. 現在, 日本の自殺は, およそ3万3千人におよび, うつ病の診断と治療は, 自殺予防といった観点からも重要である. うつ病の病態生理としては, 脳内のシナプス間隙におけるセロトニンやノルアドレナリンの枯渇と考えられており, これらの神経伝達物質の枯渇を抗うつ薬等で治療することによって, 軽快, 寛解, 完治することを述べた.
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.T5, no.520, pp.273-289, 1916-04-25 (Released:2015-06-13)
著者
森 創 堀口 逸子 清水 隆司
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.267-272, 2013-06-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的: 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析のうつ状態像の判定における有効性について検討した. 対象と方法: うつ状態群22名ならびに対照群21名に対して開眼状態での脳波測定による脳波スペクトル分析を行った. 脳波はFp1, Fp2に相当する位置より導出した. またSelf-rating Depression Scale, Social Adaptation Self-evaluation Scale, Gotow Alexithymia Questionnaireの質問紙調査を行った. 結果: 脳波スペクトル分析において, S波のパワースペクトル値は, うつ状態群で有意な増加を認めた. 脳波の各成分帯域の出現頻度は, うつ状態群でのα成分帯域の有意な低下およびθ成分帯域の有意な増加を認めた. 各質問紙調査においてうつ状態群と対照群に有意差を認めた. 対照群とうつ状態群の設定は, 質問紙調査結果等から妥当と考えられた. 考察: うつ状態群は, 安静時脳波による先行研究と同様に活動時脳波のパワースペクトルが増大すると考えられた. 脳波成分の出現頻度は, 安静時脳波による先行研究の結果と異なるが, 活動時脳波における特徴を示していると考えられた. 近年うつ病の診断や治療効果の判定などについては, 精神科医による問診, また質問紙等をはじめとした評価尺度が多数存在するが, 生理的指標を用いた客観的検査法はいまだ開発途上にある. 脳波検査は, 頭皮電極で得られる脳の電気活動を時間的, 空間的に記録し, 脳の活動状況を客観的に評価するものであるが, 従来の脳波検査は, 電源雑音を遮蔽した専用の脳波計測室で行う必要があった. 近年, 遮蔽空間が不要で覚醒開眼生活行動下での測定が可能な小型脳波計が開発されたが, 今回の結果より, 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析について, うつ状態診断補助としての利用可能性が示唆された. 本機器を使用した検査は, 使用に際して環境的制限が少ないこと, さらには被験者にとって非侵襲的であり負担が少ないことから, さらなる研究により利用可能性を検討すべきと考えられた.
著者
鈴木 良雄
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.95-99, 2011-04-30 (Released:2014-11-21)
参考文献数
39

スポーツにおいてサプリメントとして利用されているアミノ酸のうち, 分岐鎖アミノ酸 (Branched-chain amino acid;BCAA) とグルタミンについて, ヒトで観察されている効果とそのメカニズムについて最近の知見を紹介する. BCAAは, 比較的大量に摂取した場合に, 遅発性筋痛を軽減し, そのメカニズムとしてロイシンによるmTORを介したタンパク代謝の調節があると考えられている. グルタミンは, 術後感染性合併症低下させたり, 運動後の免疫抑制を軽減したりするが, そのメカニズムは当初考えられていた血漿グルタミン濃度の維持による免疫細胞の機能維持ではなく, HSPを介した身体ストレスの軽減であると考えられるようになってきている. グルタミンには, 運動後のグリコーゲンの回復を促進する作用も報告されているほか, 安定なグルタミン素材である小麦グルテン加水分解物 (Wheat Gluten Hydrolysate;WGH) により運動中の血漿グルタミン濃度を維持すると持久運動が可能になる可能性も示唆されている. またWGHには遅発性筋痛を軽減する効果のあることも報告されている.
著者
長岡 正範
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.133-146, 2004-06-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
3

救急病院に入院した脳卒中患者を例に, リハビリテーションの進め方を説明した. リハビリテーションは, 個人に, 彼らの機能障害 (生理学的あるいは解剖学的な欠損や障害) および環境面の制約に対応して, 身体・精神・社会・職業・趣味・教育の諸側面の潜在能力 (可能性) を十分に発展させることと定義されている. 現在は, 工学や種々の新技術により失われたものを再獲得することも可能性として議論されるようになっている. しかし, 目の前の困難や不安をどのように解決するかという問題は, 今, 直ちに解決されなければならない事柄である. リハビリテーションでは, 種々の職種が広くかかわって, 困難を少しでも軽減するような集団的なアプローチが採られている. 医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士・医療ソーシャルワーカーなどは主に, 医療を中心に関与する. 一方, 病院から出た後の社会における専門家も多い. 特に, 高齢化社会に対応して, 医療と福祉の連携を図るべく創設された介護保険によってさらに多くの職種が関与するようになっている. このような現状の中で, 直接患者に接する医師に求められる知識は, 専門家としての医学的知識のほかに, 疾病や傷害が直接もたらす機能的障害, 一人の個人としての能力の障害, 社会の一員として役割を演ずる上での障害など, 社会における人間として患者にかかわる諸問題に眼を向ける必要がある. このようなリハビリテーション医学の知識は, 従来の肢体不自由だけでなく, 感覚器障害 (眼・耳など) ・精神障害, その他の内部障害など医学の広い分野で必要なものである. 特定機能病院の限られた条件の中では, 急性期 (順天堂医院) から慢性期 (社会) への〈連続した医療ネットワーク〉を構築することがリハビリテーションの観点から重要である.
著者
光畑 裕正
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.403-408, 2012-10-31 (Released:2014-11-11)
参考文献数
10
被引用文献数
4

慢性疼痛は複雑な病態を呈し, 治療に難渋することがしばしば見受けられる. 西洋医学的治療で鎮痛が得られない症例で漢方薬が有効なことがある. 抑肝散は抗アロディニア作用があり, 神経障害性疼痛を含む慢性痛に効果がある. 抑肝散は絞扼性神経損傷ラットモデルで抗アロディニア作用を示し, その機序の一つはグルタミン酸トランスポーター活性化によりグルタミン酸濃度を低下させることを筆者らは明らかにした. また慢性痛は冷えを伴うことが多く, 当帰芍薬散, 苓姜朮甘湯, 当帰四逆加呉茱萸生姜湯, 真武湯, 八味地黄丸など冷えを改善する方剤が効果を示す. また慢性痛では気の異常 (気鬱, 気逆, 気虚) を伴うことが多く, 半夏厚朴湯や四逆散, 柴胡疏肝湯など気剤が著効することがある. 慢性疼痛治療の一つの選択肢として漢方は有用である.
著者
TAKESHI NARA SACHIO MIURA
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.389-395, 2015 (Released:2015-11-17)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Chagas disease, or American trypanosomiasis, is caused by the parasitic protist Trypanosoma cruzi. 10 million people are estimated to live with this disease. Chagas disease is endemic to the Americas, which corresponds to the distribution of the insect vectors, blood-sucking triatomine bugs. The presence of many mammalian species as reservoir hosts and the occurrence of a long asymptomatic phase of infection that may last more than 10 years make control difficult. In the United States, domestic transmissions from triatomines to humans are rarely reported, but it is estimated that there are 300,000 people living with Chagas disease among Latin American immigrants. Patients with Chagas disease are also found outside the Americas, as well as in Japan, via international migration. Thus, there is a growing need to understand the current situation in non-endemic countries in terms of establishing better preparedness against the incursion of Chagas disease.
著者
呉 友慕
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.S11, no.577, pp.577_33-577_37, 1936-12-31 (Released:2015-06-12)
参考文献数
17
著者
原田 静香 杉本 正子 秋山 正子 岡田 隆夫 櫻井 しのぶ
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.480-489, 2013 (Released:2014-05-29)
参考文献数
42

目的:入院中の患者の退院調整において,訪問看護師が病院に出向き,直接退院調整に関与した場合としなかった場合で,在宅移行期に起きた家族介護者の状況の違いについて比較し,検討した.対象:都内急性期病院を退院した65歳以上の在宅療養者を主に介護する家族12名.方法:対象者のうち,入院中に訪問看護師が病院に出向いて行う退院調整を受けて退院した場合を「関与あり群」6名,入院中には訪問看護師の関与がなく病院で通常の退院調整を受けた場合を「関与なし群」6名とした.調査は事例ごとに自記式質問紙および,半構造化インタビューを行った.聞き取った回答は研究者が検討し分類した.退院調整から在宅移行時の経験や思いについては質的帰納的に分析した.結果:①関与なし群では,家族介護者の主観的な健康度が低く,介護負担感が高い傾向があった.②退院調整へ関与した専門職人数は,関与あり群が平均4.3名,関与なし群で平均2.8名であった.関与あり群は,病院と在宅ケア事業者の双方向の関与があったが,関与なし群は在宅ケア事業者の支援が少なかった.③保健・医療・福祉サービスの導入状況では,関与あり群は入院中にサービスの導入が計画され,退院後に追加導入はなかった.一方,関与なし群は退院後に介護力不足が顕在化し,サービスを追加導入していた.④在宅移行時の経験として,関与あり群は訪問看護師の支援に安心感を持ち,介護方法の指導を受け,介護を何とかやっていけると回答した.関与なし群は在宅移行時の不安感と,介護への戸惑いを感じていた.結論:訪問看護師が退院調整に関与した場合,①家族介護者は健康状態の悪化や介護負担の増大を回避できると示唆された.②退院調整に多職種が関与し,地域連携の促進が可能である.③入院中に的確な保健・医療・福祉サービスが導入できることが示唆された.④家族介護者は在宅移行期より安心感をもち,生活状況に合わせた支援が補完され,介護へ適応するための支援が行われていた.訪問看護師の関与のなかった場合は,介護負担が大きく在宅移行期の不安感や介護への戸惑いがみられた.
著者
千葉 百子 篠原 厚子 稲葉 裕 中山 秀英 林野 久紀 小出 輝
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.406-410, 1990-10-20 (Released:2014-11-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

体重減少, 全身倦怠感, 筋力低下を主訴として受診, ゲルマニウムを飲用していたことが判明した症例, および神経痛治療の目的でゲルマニウム含有粉末を摂取していたため精査を希望して受診した症例の2例について検査し, 次のような結果を得た. 1) 2症例ともに測定した組織, 臓器中に高濃度のゲルマニウムが検出された. この結果はゲルマニウム含有物質の服用歴を裏付けるものである. 2) ゲルマニウムの中毒作用として腎障害が知られているが, 症例1においては臨床的ならびに病理組織学的に横紋筋融解による明らかな急性尿細管壊死が認められた. 3) ゲルマニウムの中毒作用として筋力低下, 筋萎縮が知られているが, 今回の結果では筋肉内にゲルマニウムを検出し得なかったことから, 筋肉内蓄積性のものではないと考えられる. 4) 毛髪, 爪は経口的に摂取したゲルマニウムの排泄経路の一部である.
著者
笠原 剛敏
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.550-553, 2000-03-22 (Released:2014-11-12)
参考文献数
3

1. 喘息の呼吸リハビリテーションを見ると, 本邦では未だ普及が遅れ, 標準的なプログラムの確立はされていない. しかし小児喘息における運動療法は治療の一貫として位置づけられ, 運動嫌いによる運動・体力低下を防ぐのに有益とされている. 今回, 小児および成人喘息で見られる呼吸障害・喘息発作に対処するため, 家庭でできるリハビリテーションについて報告する. 2. 家庭でできるリハビリテーションとして, 腹式呼吸は呼吸効率の改善を目的に, 排痰法は痰の累積を防ぐことを目的に, そして柔軟体操は呼吸運動に必要な柔軟性を目的に行い, それぞれの指導内容, 注意点を紹介する. 3. 喘息の呼吸リハビリテーションの重要なポイントは患者の自己管理能力の向上である. そのため患者および援助者が具体的な対処・援助法を理解し, 呼吸困難時・パニック時に対処可能な状態か, いなかを判断できる能力が必要となる.

2 0 0 0 OA 排便と健康

著者
浦尾 正彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.16-24, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

便秘とは,排便の頻度が週2回以下で,便が硬く,排便困難,残便感がある状態といわれている.実際には放置されていたり自己流の対処をされていることが多い.が,便秘患者では労働生産性が障害されたり,肛門疾患や結腸癌などの様々なリスクも増加することが知られており,しっかり取り組むべき疾患である.慢性便秘は,症候性,薬剤性,器質性,機能性便秘などに分類される.症候性便秘は神経疾患,内分泌疾患の症状の一部としてみられるもの,薬剤性便秘は薬剤によって誘発されるもので薬剤の中止変更で改善する.器質性便秘は結腸などの器質的変化によるもので時として手術を必要とする.特に排便時出血,50歳以上,大腸癌の家族歴,急激な体重減少がある場合は専門医に相談する必要がある.ほとんどの慢性便秘は機能性便秘であり,生活習慣の改善でコントロールできることが多い.すなわち,①睡眠を十分にとる,②1日の生活リズムを整える,③朝食を食べる,④軽い運動を行う.また腸内環境を整えるために,⑤食物繊維を摂る,⑥1日2l の水分摂取,⑦ヨーグルトや整腸剤を摂取する.またスムーズな排便のために,⑧排便マッサージ,⑨排便姿勢の調整,⑩リラックスできる環境づくりなどがあげられる.機能性便秘を放置することで,さらにひどい便秘となり手術を要する疾患に発展することもあるので,重症化を予防するための日々の努力が重要である.
著者
小友 進
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.606-612, 1992-03-20 (Released:2014-11-18)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

ミノキシジルは血管拡張作用を有し, その作用は代謝物であるミノキシジルサルフェートのK+チャンネル開放作用にもとづくことが知られている. 一方, ミノキシジルは発毛効果も示し, その効果は臨床試験においても確認されているが, 作用メカニズムに関してはかならずしも完全に解明されているとはいい難い. ミノキシジルの動物実験での発毛効果は, サル・ラット・マウス等において発現し, この効果の一部には, 皮膚血管の拡張による血流増加が関与するものと考えられている. しかし, これ以外に毛包に対する直接作用があることが, in vitroの皮膚細胞や毛包の培養試験から明らかにされてきた. しかも, これにはミノキシジルから毛包スルホトランスフェラーゼによって変換されたミノキシジルサルフェートが関与し, さらに血管拡張作用と同じく, そのK+チャンネル開放作用が重要な役割を果たしていることが示唆されてきている.
著者
森谷 敏夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.470-476, 2011-10-31 (Released:2014-11-11)
参考文献数
13

肥満は, 食べ過ぎ, 運動不足, 遺伝, 食事の偏り, 熱産生障害 (体温維持や食後のエネルギー燃焼低下), 自律神経機能の低下などが複雑にからみあった結果であると考えられます. ですから, 太る原因は人さまざまなのです. でも, この地球上の多くの人々は実際には飢餓と毎日戦っており, 「肥満」という文字は存在しないのです. 肥満が目立つのは機械文明が発達した国の飽食と運動不足社会だけといっても過言ではないでしょう. 日本も例外ではなく, 40歳以上の男性の二人に一人がメタボリックシンドローム (内臓脂肪症候群) に罹っている可能性が強く示唆されているのが現状です. 戦後の激変した食環境, 運動不足環境が生み出した産物であると理解したほうが妥当なのです. 肥満はほとんどすべての生活習慣病 (糖尿病, 高血圧, 脳・心臓血管系疾患など) の温床になっています. ただこれらの生活習慣病と関係が深い肥満症, 高血圧症, 高脂血症, 糖尿病などの「死の四重奏」は病魔への序曲を音もなく奏でるので, 病気が発生するまでほとんど「無自覚, 無痛」なのです. 運動不足を意図的に再現した7日間のベッドレスト実験で, 骨格筋の糖取り込み能力やインスリン作用の低下が劇的に起こることが証明されました. 世界でも最も健康管理ができているNASAの宇宙飛行士が, 2週間の無重力飛行で超運動不足を強いられて地球に帰還すれば, 糖尿病患者よりも血糖コントロールが悪くなっているのは容易に理解できるでしょう. 筋肉はわれわれの体の約4割を占め, 糖質・脂質エネルギーを最も多量に使う“臓器”なのです. この“臓器”筋肉の収縮はインスリンとは別の細胞内シグナル伝達機構を介して, 糖輸送を活性化できるので, インスリン抵抗性の存在下においても, 運動により糖輸送は通常正常に機能します. また, 運動により記憶などをつかさどる海馬での脳由来神経栄養因子が増加することが明らかにされており, 学習能や記憶力の増加, 認知症の予防, 自律神経活動や脳諸機能の保全のみならず, IGF-1, インスリン, GLP-1などのホルモンを仲介してエネルギー代謝や食欲調節にも大きく関与している可能性が示唆されています. 「生涯現役, 死ぬまで元気」に生きるためには, それなりの努力が当然必要になってくるでしょう. 一生涯の習慣的な運動の継続や賢い食生活が肥満や生活習慣病の予防や豊かな老後への免罪符になるのです.
著者
鈴木 賢英
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.414-420, 1976-12-10 (Released:2014-11-21)
参考文献数
31

ICR系の妊娠マウスに6mgのcyproterone acetate (CA) を妊娠14日から20日まで皮下注射し, 妊娠20日に帝王切開で仔マウスを取り出し, 雄仔マウスは去勢後他の母親に哺乳させた. これら去勢された雌性化雄マウスを出生当日から10日間ゴマ油のみを皮下注射する群 (第1群), 20μgのエストラジオール-17β (ED) を皮下注射する群 (第2群), そして50μgのEDを皮下注射する群 (第3群) に分けた. 各群の動物は60日令で殺し, 通常の方法でH-E染色して検鏡した. 組織学的観察の結果, 全ての雌性化雄マウスに腔形成が認められたが, 尿道と腔の分離は不完全であった. 第1群の動物の腔上皮は萎縮的な重層立方ないし扁平上皮であった. ところがED処理を行なった第2, 3群では腔上皮の増殖肥厚が見られ, 50μgのED処理を行なった第3群では15匹中2匹の腔前部から会陰の全域にわたって腔上皮が角質化していた. この第3群の残りの大部分の動物では, 腔全域にわたって上皮の著しい肥厚が見られ, 角質化は膣中部から会陰にかけての上皮に認められた. CAの母体投与で得られた雌性化雄マウスの腔は大部分が尿生殖洞由来と考えられているので, 本実験で雌性化雄マウスの膣中・後部で上皮に角質化が見られたことは尿生殖洞由来の細胞がエストロゲン非依存の腔上皮の角質化に関与する可能性が強いと推論された.