著者
Hayato HASHIZUME
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
JOURNAL OF THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.365-372, 1968 (Released:2008-12-18)
参考文献数
3

1)花粉母細胞は11月下旬に減数分裂を開始した。分裂は12月下旬~1月上旬にオープン・スパイレーム期に達し,しばらく停滞するが,翌年の2月上旬になると急速に進行し,2月中旬~下旬の前半に第一分裂中期像が観察された。四分子は2月下旬に形成された。減数分裂の期間は約100日で非常に長い。花粉母細胞の減数分裂は平均湿度が10°C以下の低温の時期に行なわれる。 2)花粉母細胞の減数分裂にはしばしば異常が認められた。すなわち,遅滞染色体,染色体橋,隔膜形成の異常,退行現象などが観察された。このような異常分裂の結果,巨大花粉が形成された。巨大花粉には円形,広卵形,ひょうたん形のものがあった。成熟巨大花粉では,生殖核を1個有するものと2個有するものがみられた。前者は二倍性の花粉である。巨大花粉の平均直径は43.8μで,正常花粉よりも約10μ大きい。巨大花粉の出現率は個体によりちがいがみられた。 3) 四分子から分離した未熟花粉は3月上旬に急速に生長して,飛散の5~7日前から細胞分裂をはじめた。成熟花粉では生殖細胞と花粉管細胞の二つが認められた。飛散開始期は3月8日~15日であった。四分子形成から飛散までの所要日数は約15日であった。 4)人工発芽試験あ結果,花粉の発芽は飛散の5~7日前から認められた。発芽率は花粉の発育にともなって急速に増加し,飛散期に最高に達した。 以上の結果から,花粉の採取は飛散時に行なうのが最もよいように思われる。
著者
パンディ ラジェンドラ・クマール カンディア アナンド・クマール コトワール プレム・チャンド
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.354-360, 1986

カンハ野生公園の全域に棲息する23種の野生動物のうちから5種(チタール (<i>Axis axis</i> ERXLEBEN), インドレイヨウ (<i>Antilope cervacapra</i> LINN.), パラシンガジカ (<i>Cervus duvauceli</i>-<i>branderi</i> POCOCK), サンバー (<i>C. unicolor</i> KERR.), ホエジカ (<i>Muntiacus muntjak</i> ZIMMERMANN)) にっいて個体群密度と現存量を調査した。両者とも,チタールが最も高い値を示し,インドレイヨウが最も低い値を示した。インド,スリランカ,ネパールの国立公園での研究と比較したばあい,ここで得た値はすべての有蹄類に対してきわめて高い値を示した。とくに調査区IIでは顕著であった。この調査区IIは次のような生物学的条件をそなえている。 1) 有蹄類が食物とする植物の種類の豊富さと多様性が高い, 2) 肉食動物の存在を欠き,草食動物の個体群が急激に増加している, 3) 生物的かく乱,とりわけ人間の活動によるかく乱が少ない。
著者
川邉 洋
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.372-377, 1994-07-01 (Released:2008-12-18)
被引用文献数
1
著者
野口 陽一
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.185-189, 1960

季節の異なる特定の月のみの無降雨鋤こおける流出量を用い,その月の地下水流出量を代表できるような範囲において同時化法により地下水正常漸減曲線を求め,その範囲内の定積分値に日数比例の常数を乗じて平均的なその月の地下水総流出星とみなした。この方法で2流域を比較すると質的に予想される2流域の水文学的差異が量的に示される。また同法により季節ごとの地下貯留量曲線を求め,これにより平均的なある1ヵ月間の重力水貯留分の変化量を求め,水分収支式における来知因子である蒸発蒸散墨を推定した。
著者
伊藤 一雄
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.126-140, 1940

(1) ベツコウタケ (<i>Polyporus rhodophaeus</i> LEV.) はニセアカシア,サクラ,ハンテンボク,ケヤキその他の濶葉樹の傷痍部から侵入し根株,根材部の主として心材を腐朽せしめ尚徐々に生活力ある邊材及び形成層をも侵し,遂に之を枯死せしめる。而根株部並に根部の心材を甚しく腐朽せしめるため樹體の外力に對する抵抗力著しく弱くなり風倒の大なる原因となるものである。<br> (2) 本菌は東洋に於て相當廣範圍に亙り分布するもので,我國では北海道以南本州,九州,臺灣に及んでゐる。<br> (3) 風倒によつて現れた腐朽部には極めて短期間に多敷の子實體が形成せられるのを認めた。<br> (4) 本菌の擔子胞子は29°C附近に於て最もよく發芽するものゝやうである。<br> (5) 本菌の菌絲は5~40°Cに於て發育し,最適温は33°C附近である。<br> (6) 分離系統を異にする本菌の對待培養に於て,嫌觸現象を認めた。<br> (7) 實驗室内に於て,本菌の各樹種に對する腐朽力をみるにハンテンボク,ソメイヨシノ.オニグルミ,アカマツ等は甚しく腐朽せられるが,ニセアカシア,スギは比較的輕微である。<br> (8) 本菌はKorrosionspilzに屬し,その腐朽型はHUBERTのWhite rotである。<br> (9) 本菌に於ては厚膜胞子は非常に多くの場合に見出される。
著者
大河内 勇 大川畑 修 倉品 伸子
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.125-129, 2001

道路側溝への両生類の転落死は両生類減少の一因として問題とされている。それを防止するために, 簡易な後付けスロープ型脱出装置をつけた場合の効果, 脱出装置の改良方法を調べた。スロープ型脱出装置をつけた場合, アズマヒキガエルでは側溝からの脱出数が多くなるという効果がみられたが, ニホンアカガエルでは装置がなくともジャンプによる脱出が可能なため効果はわからなかった。脱出装置は, 一部の種とはいえ効果があるので, 道路側溝につけるべきである。移動力の弱いアズマヒキガエルの幼体を用いた脱出装置の改良実験では壁面の角度が30度以下になると, 壁面が乾燥条件でも全個体脱出できた。これらから, 100%脱出可能な側溝は, 角度が30度より浅いV字溝になることを示した。
著者
石崎 厚美 高木 哲夫
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.307-311, 1951

1.本試験は飫肥地方のスギ各品種について実験生態学的見地から屈折率に就て1950年5月より翌年3月に到る1ケ年間の季別変化を見たものである。<br> 2.供試材料は地質,土壤,外囲の気象条件の殆んど同一と認めらるる飫肥営林署大戸野国有林内の18年生造林地より採取し,各個樹共に梢頭部先端2年生幹枝の先端の当年度伸長の枝葉を毎月18日朝10時を期して採取したが, 7月のみは1週間連続雨天のため午前中の雨の晴間を見て採集した。<br> 3.圧搾液は油圧式圧窄器を使用し, 300kg/m<sup>2</sup>にて搾液した。<br> 4.屈折率は島津製作所の加温装置附のAbbe屈折計を用い,温度は18℃と200℃に分つて測定した。<br> 5.屈折率の変化を季別に見るにスギの開舒期に於ては稍低く,生育最盛期に於ては漸次高まり,終止及び休止期に於ては昇騰の傾向を示して, 2月に最高に達し, 3月には急に降下する。<br> 6. 7月に於て総じて低位の屈折率を示すのは採取前日まで数日間連続雨天続きであつて,僅かな雨の晴間を見て採取した結果に基因するものであるが,これは一面同地方に於て同時期が最も旺盛な生長を行いつゝあることを示すものと認むべきである。<br> 7.屈折率が12月より2月の期間に累積的な増大を示すのは,同時期に於ては同地方の雨量は極めて少く,土壤水分減少し,地温も低いため,体内の水分は一層濃縮せられて養料も亦深費少く糖としての貯蔵せられた結果に基因するものと考えた。<br> 8. 品種による屈折率の月別変化の型を次の5種類に分類した。<br> 1. アカ型<br> 2.トサアカ,カラツキ,エダナガ型<br> 3.ガリン,ヒダリマキ型<br> 4.クロ,トサグロ,ハアラ型<br> 5.チリメントサ型<br> 6.メアサ型
著者
小出 良吉
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.356-368, 1942

一般に樹冠大なれば,大なる程,林木の直徑生長は大なるも,此の當然と思はるゝ法則にも相當數の例外ありて例外を例外として放置し得ず,樹冠小にして特に樹冠長小にして生長良好なる林木の天然に併も相當數存在する事は無節用材育成上看過し得ざるも,數的に樹冠と生長との間の關係を示めす概論的の數値も之れ無き今日,本報に於ては先づ樹冠と生長との一般關係を數的に示めすべく上賀茂試驗地ヒノキ枝打試驗區(植栽當初hr當り3,000本程度現在(調査當時)立木本數1,000本程度)に於て1939年(皇紀2599年調査當時林齡26年生)及び1942年(皇紀2602年調査當時林齡29年生)の毎木調査結果より,生長不良林木並生長良好林木の樹冠状態の差異及び林木生育經過中に於ける樹冠の變遷に就き2cmのAbrundungcmによる直徑級別平均數値より概論的に,樹冠の大きさを構成する樹冠長,樹冠半徑,樹冠占領面積並に樹冠容量と胸高直徑生長との一般的關係を示めしたるものである。<br> (1) 上賀茂試驗地一齊同齡林ヒノキ26年生時及び29年生時の調査結果よりすれば,2cmのAbrundungによる直徑級を一級上昇せしむる即ち胸高直徑2cmを増大せしめるに必要なる樹冠構成要素及び樹冠容量の差,次の如く85cmの總樹冠長 (Gesamtkronenlänge), (林内木の總樹冠長の差は98cm~107cmにして85cmなる數値は林内木,林縁木を通じての數値なり)23cmの樹冠半徑 (Radien bei der grötfton Kronen-breite), 2.8m<sup>2</sup>の樹冠占領面積 (Schirmfläche), 即ち12.7m<sup>3</sup>の總樹冠容量 (Gesamtkronenraum) の差にて胸高直徑2cmの差を生ずる事となる。<br> (2) 上賀茂試驗地一齊同齡林林内木の樹高,胸高直徑並に樹冠状態の標準木たるnr. 77(調査當時樹高9.80m,胸高直徑9.7cm,總樹冠長7.08m)の過去幼齡時より現在までの樹冠長の増大經過は,大約一年間に24.3cm程度にて又胸高直徑生長經過は大約4年間にて2cmを増大し居るを以て,胸高2cmを増大するに必要なる總樹冠長の増大數値は24.3cm×4=97.2cmとなり,此の數値は上述 (1) よりの一齊林林内木に於ける胸高直徑2cmを増大せしむるに必要なる樹冠長の差98cm~107cmと非常に近似す。<br> (3) 以上よりして上賀茂試驗地ヒノキ枝打試驗區に於ては幼齡時(7年生)より現在(29年生)までの間に於ては,2cmの胸高直徑を増大せしむるには大約1m程度の總樹冠長の増大の必要なるを示めす。<br> 以上之等の數値は,筆者の枝打に關する研究に參考となる諸種の意味を含む爲此處に枝打に關する研究第五報として載げたのである。
著者
越智 鬼志夫
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.188-192, 1969

本報告は,マツ類を加害する穿孔性害虫である<i>Monochamus</i>属2種,すなわち,マツノマダラカミキリ<i>M.alternatus</i> HOPE, カラフトヒゲナガカミキリ<i>M. saltuarius</i> GEBLERについて,主として飼育によってえられた成虫の羽化脱出から産卵までの生態を比較対照して論じたものである。<br> 1. 成虫の羽化脱出は,カラフトヒゲナガカミキリが4月中旬~5月上旬,マツノマダラカミキリは6月上旬~7月下旬であった。<br> 2. 後食は両種とも羽化脱出後,マッ類の芽や新条,古い枝の樹皮などで行なわれるが,マツノマダラカミキリのほうが古い枝などの樹皮を多く食べる。<br> 3. 後食を行ない,生殖器官の成熟が完了した成虫は,羽化脱出後3週間前後で産卵をはじめる。産卵は,樹皮をかじってかみ傷をつけた白色の内樹皮の間に行なわれる。<br> 4. 産卵期間は,マツノマダラカミキリが約2ヵ月,カラフトヒゲナガカミキリが約1ヵ月である。<br> 5. 1雌当たりの卵数は,卵巣小管の数では両種とも平均で21.7であったが,産卵数はマツノマダヲカミキ9が59~184, カラフトヒゲナガカミキリでは44~122であった。<br> 6. 卵期間は, 5~lO日であった。
著者
安藤 愛次
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.265-268, 1960

6月から8月にかけて, 5日ごとにニホンギリの伸びをはかり,そのときの気象条件との相関性をしらべた。くらべた気象の因子は貝平均気温,最高,最低気湿,降水量および雲量とである。<br> 相関関係のみとめられた因子は気温,ことに平均,最高気温であり,キリの伸びと降水量および雲量との相関性はみとめられなかつた。伸びの量と気温との回帰式から,この地方の台切りしたキリの上長生長において,貝平均の気温が1°Cたかいときには13cmおおくのびて2.6mとなることが推定された。
著者
鈴木 正 長島 善次 内山 正昭
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.180-183, 1959-05-25 (Released:2008-12-18)
参考文献数
9

(1)植付後12カ月経過のワサビ(品種ダルマ)を葉,葉柄,根茎,根の4部に分けて4~8までの月別の無機成分変化をしらべた。 (2)窒素含有率は特に葉に多く,葉柄が最も少なく,株全体として3.05%で時期別変化は少ない。しかし4月と7月の葉,葉柄の生長期には,この部分に多い。 (3)燐酸含有率は三要素中最も少なく,葉に最大で根は最小,株全体として0.60%で,6月が最も低く変化は少ない。 (4)加里含有率は窒素に次いで多いが,葉に最も多く根茎,根はほかの部分に比べて特に少ない。株全体として2.65%で,葉,葉柄における変化は特にワサビの生育と関係深く, 5月と8月に高く7月に低い起伏に富む曲線を示している。 (5)株全体の三要素含有率は,窒素>加里>燐酸の順で燐酸を1とすれば窒素5,加里4の割合となり,加里の時期別変化は葉,葉柄の含有率変化に影響される。(6)総じて葉の養分含有率は特に高い。 (7)三要素含有量は6>5>8>7>4の順に多い。 (8)三要素含有量は試料重量に,含有率は生育時期に深い関係がある。
著者
岡部 貴美子
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.461-468, 2009-12-01
被引用文献数
1 2 1

キクイムシとダニの相互関係は, ダニによる便乗, 寄生, 捕食, および (便乗以外の) 片利共生や相利共生などである。最も歴史が長く一般的な関係はダニが移動分散のために他の生き物にヒッチハイクする便乗であり, 寄生をはじめとするより長期的な共生関係が進化したものと考えられた。共生や捕食などの相互関係は, トゲダニ, ケダニ, コナダニ, ササラダニの4亜目に認められ, それぞれ独立に始まったと考えられた。捕食性のダニはキクイムシ未成熟ステージのほか, 他の昆虫や線虫も摂食するものが多く, 餌としての選好性は低かった。キクイムシの卵や幼虫を捕食または捕食寄生するダニがキクイムシに便乗することが普通であり, ダニによる個体群動態へのインパクトは低いものと予想された。これまでに知られているキクイムシとダニの相利共生は直接的ではなく, 菌や線虫, 他種のダニなどを介した間接的なものであることが示唆されている。これらのことからキクイムシとダニおよびその他の微生物を含む相互関係は, ハビタットの共有が起点となっていると考える。
著者
鳥居 春己
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.417-420, 1989-10-01 (Released:2008-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2

The food habits of the Japanese black bear, Selenarctos thibetanus, were studied by scat content analysis in the headwaters of the Ohwi River in Shizuoka Prefecture, central Japan. Fifty scats were collected from May to December from 1981 to 1984 in the low mountainous zone (about 1, 000_??_1, 600m in altitude). The contents were classified into six categories: namely, seeds and fruits, leaves, branches and wood fragments, other vegetable matter, insects, and the other items. The black bear was omnivorous mainly depending on vegetable foods; it amounted to 98.5% of the total dry weight of the contents. Seeds and fruits were detected in summer through fall, and buna (Fagus crenata) and mizunara (Quercus mongolica) were staples of the diet in the period before hibernation. Most of leaves were detected in spring and summer. Branches and wood fragments were detected in all seasons. Other vegetable matters were small both in amount and frequency. All animal matter consisted of adult insects were of some importance in the diet during summer and fall. The nests of Hymenoptera sp. were detected in summer.
著者
加藤 正吾 細井 和也 川窪 伸光 小見山 章
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.123-128, 2011
被引用文献数
5

付着根型つる植物であるキヅタ (ウコギ科) の匍匐シュートの伸長方向と光環境の関係を実験的に解析した。匍匐シュートに傾度のある光環境条件を与えた場合, 10 mm以上伸長したすべてのシュートで, キヅタは負の光屈性を示した。また, その負の光屈性は, シュートの先端が水平方向と垂直方向の光強度が均一に低下するような空間をめざして伸長するように生じていた。シュートの伸長量は光量の減少にしたがって低下したが, 20 μmol/m<SUP>2</SUP>/sという弱光環境においても負の光屈性は生じていた。つまり, キヅタの匍匐シュートの負の光屈性は, 単なる強光を避ける反応ではなく, 三次元空間的な光環境で暗所方向へ伸長する反応であった。この負の光屈性は, つる植物が林床の不均一な光環境下で, 支持体として有効な樹木を匍匐シュートによって探索する際に, シュート先端が登攀開始点となる暗い樹木の根元に到達する有効な生態的特性であると考えられる。