著者
森本 桂 岩崎 厚
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.177-183, 1972-06-25 (Released:2008-12-18)
参考文献数
11

1) マツノザイセンチェウの最も有力な伝播者は,マツノマダラカミキリである。 2)大矢野町の枯損本から羽化したマツノマダラカミキリは, 71%がこの線虫を持っており,また1頭当りの持っている線虫数は平均3,146頭,最高8,783頭であった。 3)マツノザイセンチュウは,耐久型幼虫の形で,マツノマダラカミキリの体表面や上翅裏面に付着しており,また気門(特に腹部第1気門)の中には塊状になってはいっている。 4)この耐久型幼虫は,マツノマダラカミキリを高湿度に保つか,水に浸すと虫体から容易に離脱する。試験管による個体飼育では, 2~3週目に線虫落下の山がある (20°C, 93%RH)。 5) 野外では,耐久型幼虫はマッノマダラカミキリの羽化脱出から産卵を始めるまでの間に, 80%以上が虫体から落ちるものと思われる。 6) マツノマダラカミキリの後食部で,耐久型幼虫は脱皮を行ない,マツ樹体内へ侵入することができる。 7) 枝の一部を,羽化脱出直後のマツノマダラカミキリに後食させると,健全なマツでも枯れてしまい,その枯死木から多数のマツノザイセンチュウが検出できる。 8) 1939~'41年にまっくいむしの激害地から採集されたマツノマダラカミキリの標本から,マツノザイセンチュウの耐久型幼虫を検出できたので,当時のマツ枯損にもこの線虫が関係していたものと思われる。
著者
藤井 禧雄
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-5, 1969

二脚の台の上に置かれた角材を,さまざまの条件下で (Table 1参照)鋸手に支えられたチェンソーで玉切った。そしてその際チェンソーのハンドル部位に生ずる振動加速度 (<i>G</i>表承)を,非接着型加速度変換器を通して,おのおのが直角な三方向別に記録し,それらを分散分析法を用いて解析した。実験は二段階に分かれている。第1段階は,チェンソー自体の特性(その馬力数,原動力の種類)がチェンソーの振動におよぼす影響を考察するために,スティール (6馬力型),ホームライト (5馬力型),電動型 (1.35馬力)を用いて予備実験を行なった。そして次の点を明らかにした (Table 2参照)。<br> 1. チニンソーに生ずる振動は,チェンソーの馬力数や原動力の種類によって大きく支配されている。<br> 2. 切削時に比べれば低いけれども,しかし空転時ですでにかなり高い振動加速度が生じている。<br> 3. 左右切歯の各角度およびデップス量の不揃いは,振動加速度を増加させる。<br> 第2段階は主実験で,供試機としてホームライトZIPを用い, Table 1の因子を直交配列表L<sub>64</sub>に割付けて64のさまざまな切削条件下で玉切実験を行なった。その結果は次のとおりである。<br> 1. あらゆる切削条件を通じての平均振動加速度は8.4<i>G</i>であり,最大値は12.9<i>G</i>, 最小値は5.1<i>G</i>であった。この平均値を方向別に示すと, <i>C<sub>〓</sub></i>:<i>P</i>.:<i>C<sub>〓</sub></i>=2.9<i>G</i>:4.0<i>G</i>:6.7<i>G</i>であった。<br> 2. 角材の木口幅,デップス量,樹種,エンジンの回転数,交互作用角度<i>i</i>×回転数は1%の危険率で有意であったが,最も興味のあった角度β, <i>i</i>およびその交互作用は有意でなく,他の因子 に比べればチェンソーの振動にさしたる影響を与えるものではないことが明らかになった。<br> 3. しかし,尚角度の16の組み合わせごとの振動加速度を見ると, β=55°, <i>i</i>=5°の場合の7.5<i>G</i>から, β=85°, <i>i</i>=50°の9.8<i>G</i>まで2.3<i>G</i>の差が現われた (Fig. 2参照)。<br> したがって結論としていえば,チェンソーに生ずる振動の大部分は両角度以外の要因に影響されるものであるが,チェンソーの稼動時の振動をより少なくするためには,均一な,しかも適正な角度とデップス量を保持することも必要であるといえる。
著者
宇田川 竜男
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.41-42, 1955-01-25 (Released:2008-12-18)
参考文献数
3

The damage to the young pine and ceder plantations by the hare reached about 70000 ha. in 1953 only. We are planning to control the hare, so the writer explaine here some effective traps which are used in the different parts of Japan. 1. The wire loop trap It is made of a wire, 0.75mm in diameter with its brightness taken away by burning slightly. It is a loop about 12cm in diameter, a little broader on the sides (Fig. 1). The trap is very effective, if set on the runway, hung in such a way as its lower end is 8cm high from the surface of earth or snow. 2. The hanging trap As shown in Fig. 2, two wires are fasten at the top of a standing tree 2-3cm in diameter, and bent on the runway, they are again fastened by a wire to a bifurcated twig stuck in the ground. The other wire is a loop trap, a wire, 0.7mm in diameter is used and the loop is 14cm in diameter. 3. The rat trap The trap is set on the runway, covered with paper, and over it with soil, and the bait is placed around the trap. 4. The tempting trap A bundle is to be made of slender trunks of 4 feet in length. Two or three parts of it are opened for the passage of the hare (Fig. 3), where a few loop traps shown in Fig. 1 are set, with the greens, foliases such as cabbage, or mistltoe in the middle of the stockade. 5. The crushing trap A board of 4 square feet is formed with sticks tired up. This board (A) is hung on a stick (C) by a vine (B) as shown in Fig. 4 and the other end of the stick is fastened to a stare (E) driven in the ground, by a vine (D) thin enough to be bitten off by the hare. The bait (cabbage, wheat, etc.) is put between the board and the vine, surrounded around with twigs (F) which are unable to be bitten off. Then, the hare must cut off the vine with his teeth, whenever he wishes to eat the bait. It is necessary to lay some stones on the board as heavy as possible. The wire loop trap (Fig. 1) is the most common method, but the crushing trap (Fig. 4) is the most effective and harmless to useful birds and mammals.
著者
白石 進 磯田 圭哉 渡辺 敦史 河崎 久男
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.175-182, 1996-05-16 (Released:2008-05-16)
参考文献数
29
被引用文献数
1

カラマツ(ニホンカラマツ)の天然分布の北限は,福島県蔵王山系馬ノ神岳とされている。馬ノ神岳のカラマツは,外部形態的にはグイマツに類似しており,近年,ニホンカラマツとして分類することに対し疑問が呈されてきた。本研究では,DNA分類•系統学的な観点から,馬ノ神岳のカラマツの分類上の位置付けと遺伝的多様性の評価を試みた。馬ノ神岳のカラマツと分布中心地域のニホンカラマツ,グイマツ,チョウセンカラマツの葉緑体DNA(rbcL遺伝子)の塩基配列を比較した結果,馬ノ神岳のカラマツはニホンカラマツと完全に一致し,進化系統的にグイマツよりもニホンカラマツに近いことが明らかとなった。また,RAPD分析による核ゲノム組成の比較においても,同様の結果が得られた。しかし,馬ノ神岳のカラマツとニホンカラマツの核ゲノム組成には大きな差異が認められた。馬ノ神岳のカラマツは,ニホンカラマツとの遺伝的分化がかなり進んでおり,形態的にも大きく異なることから,ニホンカラマツの変種として分類するのが妥当である。
著者
大河内 勇 大川畑 修 倉品 伸子
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.125-129, 2001-05-16 (Released:2008-05-16)
参考文献数
15
被引用文献数
2

道路側溝への両生類の転落死は両生類減少の一因として問題とされている。それを防止するために, 簡易な後付けスロープ型脱出装置をつけた場合の効果, 脱出装置の改良方法を調べた。スロープ型脱出装置をつけた場合, アズマヒキガエルでは側溝からの脱出数が多くなるという効果がみられたが, ニホンアカガエルでは装置がなくともジャンプによる脱出が可能なため効果はわからなかった。脱出装置は, 一部の種とはいえ効果があるので, 道路側溝につけるべきである。移動力の弱いアズマヒキガエルの幼体を用いた脱出装置の改良実験では壁面の角度が30度以下になると, 壁面が乾燥条件でも全個体脱出できた。これらから, 100%脱出可能な側溝は, 角度が30度より浅いV字溝になることを示した。
著者
池田 茂
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.192-195, 1955

鳥取県岩美郡,鳥取市,及び気高郡内の海岸砂丘地における被覆植物並びに海岸砂防造林木(幼令木)の寄生菌について調査研究したが,要約すればつぎの通りである。<br> (1) 被害被覆植物<br> コウボウムギ,ハマゴウ,ハマボウフウ,イヌムギ,<br> スナビキソウ,ケカモノハシ,ハマニガナ,ナデシコ,<br> ハマヒルガオ,ウンラン,オオ分マツヨイグサ,アキノキリンソウ,<br> トメムカシヨモギ。<br> 被害造林木(幼令)<br> ニセアカシャ,ポプラ。<br> (2) 見出された病原菌<br> <i>Alternaria, Macrosporium, Diplodia, Phyllosticla, Botrytis, Bacterium</i>.<br> (3)病原菌で最も多いのはAlternaia で Macroporium や Diplodia, 細菌類がこれに次いでいる。また原因不明(生理病)の病害もかなり多い。
著者
伊藤 進一郎 窪野 高徳 佐橋 憲生 山田 利博
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.170-175, 1998-08-16 (Released:2008-05-16)
参考文献数
31
被引用文献数
8

1980年以降,日本海側の各地において,ナラ類(コナラとミズナラ)の集団的な枯死が発生して問題となっている。枯死木には,例外なくカシノナガキクイムシの穿入が認められるのが共通した現象である。このナガキクイムシは,一般的には衰弱木や枯死木に加害するとされており,枯死原因は現在まだ明らかでない。この被害に菌類が関与している可能性を検討するため,野外での菌害調査と被害木から病原微生物の分離試験を行った。被害発生地における調査では,枯死木の樹皮上にCryphonectoria sp.の子実体が多数形成されているのが観察された。しかしながら,日本海側の6県にわたる調査地に共通する他の病害,例えばならたけ病や葉枯•枝枯性病害の発生は観察されなかった。そこで,枯死木やカシノナガキクイムシが穿入している被害木から病原微生物の分離試験を行った。その結果,変色材部,壊死した内樹皮,孔道壁から褐色の未同定菌(ナラ菌と仮称)が高率で分離されることが明らかとなった。この菌は,各地の被害地から採集した枯死木からも優占的に分離されることがわかった。また本菌は,カシノナガキクイムシ幼虫,成虫体表や雌成虫の胞子貯蔵器官からも分離された。分離菌を用いたミズナラに対する接種試験の結果,ナラ菌の接種において枯死したのに対し,他の処理では枯死は認められなかった。これらの結果から,この未同定菌は,ナラ類集団枯損被害に深く関与しているものと判断した。本菌は,母細胞に形成された孔口から出芽的(Blastic)に形成されるポロ(Polo)型分生子を持つことがわかったが,現在その所属については検討中である。
著者
栗田 憲二 鈴木 正 安藤 愛次
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.14-16, 1953-01-25 (Released:2011-09-02)
参考文献数
6

We attempted to apply the burned soil (mixed ashes of tree leaves and branches) on the culturing bed soil of the horse radish (Eutrema wasabi) field.At the end of the growing period the seedlings were harvested and measured; then culturing bed soils were sampled and determined on their properties.(1) The growth and yield remarkably increased by the treatment. Especially the new shares of seedlings showed the better results.(2) On the mechanical compositions of culturing bed layers, percentages of silt and clay in the treated plot indicated some higher value in comparison with the control plot.(3) Two years elapsed since beginning of the treatment. The results of chemical analysis have shown that the contents of humus and nitrogen in the treated plot are higher than those in control plot; but that pH value shows no difference between them.
著者
大庭 喜八郎 岡田 幸郎 塩田 勇 武藤 惇 岡本 敬三
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.438-443, 1965

約180本/0.1haからなる17年生のスギ人工林において,大,中および小直経級別に,それぞれ, 5本ずつの母樹をえらび, 1963年秋に採種した。この種子を施肥量のちがう播種床に直播し,幼苗の生長を調査した。肥料は化成肥料(〓スーパー1号)を使用し, 1m<sup>2</sup>あたり,それぞれ, 600, 300, 150 および0gr の4段階とした。播種床には120×120×18(cm)<sup>3</sup>の木製木枠を用い,底にビニールシートをしいた。この木粋に関東ロームのやせた土をつめた。播種は線密度とし,長さ50cm, 列間, 6cm, 幅1cm, 深さ約 0.5cm の播種溝に,それぞれ,200粒,100粒および50粒の3段階とし, 4回の繰返区をもうけた。播種約6カ月後,幼苗を地際から切りとり,笛高と地上部乾物重とを測定した。各処理別に発芽率のちがい,または,その他の原因により生存数にちがいがあったので,各繰返し区ごとに密度補正をした。すなわち,母樹別,施肥量別に,乾物重は各繰返し区の生存本数とその平均乾物重の対数とで,また,苗高は各繰返し区の生存本数とその平均苗高とにより回帰直線を計算し,それぞれの回帰直線を用いて50cmの播種溝あたり100, 50および25本の生存数について,平均乾物重,平均苗高の補正値を算出した。施肥量,生存密度の組合せで12の処理区があり,その各処理区に15母樹の実生集団がはいっている。平均乾物重および平均病高について,施肥量,生存密度の組合せの 12処理区のそれぞれの総平均値に対する各処理区内の母樹別平均値を対応させた回帰直線を15母樹について計算した。この回帰係数は母樹別幼苗集団の肥料反応をしめすものと考えられ,回帰係数が大きいほど施肥効率が良いと推定される。直経級別により施肥効率をしめす回帰係数には明らかな関係はないようである。しかし,母樹別には,乾物重,苗高の回帰係数には95%の信頼度でその信頼限界が重複しないものがあった。直播幼苗での生長調査であるため,種子重との関係を,母樹別1,000粒重と母樹別の平均乾物重,平均苗高それぞれの肥料反応をしめす回帰係数との相関を計算し,その回帰係数の有意性を検定したところ,いずれの場合も有意でなかった。
著者
大庭 喜八郎 岡田 幸郎 塩田 勇 武藤 淳 岡本 敬三
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.363-371, 1965

アカマツ, 12母樹と8産地およびクロマツ, 4産地の種子を施肥量の異なる播種床に直播し,幼苗の生長を調査した。播種床には 120×120×18(cm)<sup>3</sup>の木製枠を用い,底にビニール・シートをしき,放射線有種場構内のアカマツ林地のB層の土壊をつめた。肥料は化成肥料(〓スーパー1号) を使用し, 1m<sup>2</sup> あたり,それぞれ600, 300, 150 および0gを元肥として施肥した。播種約5ヵ月後,幼苗を地際から切りとり,胚軸長,土胚軸長,地上部乾重を測定した。これらの測定値から幼苗単位の平均値を計算し,分散分析をした。母樹別種子の, OK・アカマツでは上胚軸長,乾物重について,播種密度,施肥量ともに有意であった。さらに,母樹と施肥重との間に有意な交互作用があった。また産地別種子のProv.アカマツでも上胚軸長,乾物重について,産地と施肥量との間に有意な交互作用があった。しかし,胚軸長については,両アカマツ群とも母樹または産地と施肥量との間の交互作用は有意でなかった。クロマツではいずれの生長形質においても産地と施肥量との交互作用はなかった。<br> これらは直播した幼苗での結果なので,これらの生長反応と種子重との関係を検討した。胚軸長,上胚軸長および乾物重について,各処理区ごとの繰返し区の平均値と同区内の各子供集団平均値との回帰直線を計算した。この母樹別,産地別の子供集団の回帰係数は各子供集鋼の肥料反応をしめすものと考えられ,回帰係数が大きいほど肥料に対し鋭敏に反応するとしてよい。そして,回帰係数の信頼限界が互いに重複しない子供集団があった。各子供集団の胚軸長,上胚軸長および乾物重の肥料反応をしめす回帰係数とそれぞれの種子1,000粒重との回帰直線を計算し,回帰係数の検定をしたところ, OK・アカマツの胚軸長および乾物重にのみ種子重が有意にはたらいたことが判り,上胚軸長にみられる母樹,または産地と施肥量間の交互作用には遺伝的な要因が関与しているものと推定される。
著者
山本 昌木 野津 幹雄
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.150-157, 1972

<i>Taphrina cerasi</i> (FUCKWL) SADEBECKによるソメイヨシノ(<i>Prunus yedoensis</i> MATSUMURA) のてんぐ巣病組織の超薄切片を電子顕微鏡で観察した。本菌は感受体組織の細胞間げき,中層ならびに細胞壁に認められる。菌体が細胞壁に入った場合,細胞壁は厚くなるが,菌体と細胞壁が接触している部分とそうでない部分に厚さの差を認めることはできなかった。また菌体は細胞壁へ侵入することができても,細胞壁を貫通したり,感受体細胞質に接触したりすることなく,吸器様構造も観察されなかった。組織中の菌糸が感受体細胞と隣接している場所には粘質物質様のものが認められるが,中層や細胞壁に侵入した菌体周辺には認められない。組織内の大部分の葉緑体<br>にはインターグラナラメラ,グラナラメラ,好オスミウムか粒が認められる。気孔孔辺細胞にでん粉が認められる以外には葉緑体にでん粉は観察できなかった。病葉は子のうを形成する蒔期になると組織がもろく,折れやすくなるので,組織細胞壁は変性していると思われるが,超薄切片の観察からは,これに関して知見を得ることはできなかった。
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
著者
近藤 民雄 古沢 亘江
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.12, pp.406-409, 1953-12-25 (Released:2011-09-02)
参考文献数
16

1) From the results of paper partition chromatography it was concluded that katuranin is present in the heartwood of Larix Kaempferi SARG. in very small content, companying with distylin.2) Two semiquantitative methods, applying the procedures of paper partition chromatography were elaborated to detect the most probable content of distylin in the heartwood of Karamatzu.
著者
藍場 将司 原田 一宏
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
pp.96, 2022-05-30 (Released:2022-06-21)

日本の国立公園研究における市民参加・協働に関して、「Cinii」に掲載されている先行研究のレビューと、論文本文の文章解析を実施した。日本の国立公園に関する研究のうち本文が閲覧可能であった698件中、138件で政策への提言が確認された。文章解析の結果、年代を問わず自然・利用・地域・保護が頻繫に用いられており、自然の利用と保護の関係に注目した論考が多いと考えられた。一方で年代を経るにつれ管理が頻出することから、研究者の間で自然への人為的介入の必要性が高まっていると考察された。一方で「管理」は多様な文脈で使用されるため、現地での検証も合わせて行われる必要がある。市民参加や連携に関する提言は27件(19.6%)で確認された。1980年代から2000年代前半までは、地域住民の意思を反映させる制度的・行政的仕組みの欠如が指摘されていた。環境省が連携を進める趣旨の提言を公表した2007年以降、国立公園の協働を主たるテーマとして議論する論考が増加し、「協働」の理論モデルの構築や負の側面にふれる論考が確認されるなど、「協働」を軸に市民参加や連携に関する議論が進行したものと考えられる。
著者
平 英彰 寺西 秀豊 劔田 幸子
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.377-379, 1993-07-01 (Released:2008-12-18)
参考文献数
8
被引用文献数
10

We found male sterility of sugi (Cryptomeria japonica D. DON) trees located in to Goto district of Toyama Prefecture. Sugi normally grows male and female flowers as well as produces seeds. The seeds usually have normal germination ability. By observation, both male and female flowers appeared to be almost normal. However, no pollen grains were dispersed from the male flowers in the pollination season from February through April in this particular sugi specimen. The inside structures of the male flowers appeared to be quite different from the normal flowers under an scanning electrion microscope. We observed no mature pollen grains in the pollen sacs of the male flowers collected before and during the pollination season. The lack of normal growth of the sporogenous tissue is suggested to be one of the causes of this male sterility.
著者
溝口 岳男
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.409-419, 1992-09-01 (Released:2008-12-18)
参考文献数
39

根粒を欠いた3種のアカシァ(Acacia melanoxylon A. auriculiformis) に対するVA菌根菌接種効果を調査するため,滅菌したマサ土にアカシアを播種し,一部にVA菌根菌を接種した。また,根粒の欠如に伴う窒素欠乏を補うため,窒素を主体とした施肥を行った。さらに,半数の苗の灌水を制限して乾燥ストレスを与えた。 3カ月後, VA菌根はすべての接種苗に形成されていた。 A. mangiumでは接種により苗め形態が影響を受けたが,苗高・バイオマス生産への有意な影響は見られなかった。A. auriculiformis鷹では接種苗にのみ病害が発生し,初期の接種促進効果を減少させた。 A. auriculiformisでは接種によってバイオマス生産がやや向上したが,伸長成長への影響は小さかった。全体に,成長に対する接種効果は適潤・乾燥いずれの条件下でも小さかった。しかし,接種苗のリン濃度は非接種苗に比べ顕著に高くなっていた。これらの結果から,アカシア類に根粒が欠如している場合,その作用を部分的に窒素施肥で置き換えてもVA菌根菌接種の効果は十分には得られない.ことが明らかになった。
著者
池田 浩一 野田 亮 大長光 純
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.255-261, 2002-11-16 (Released:2008-05-16)
参考文献数
36
被引用文献数
2

シカ糞の消失と糞の分解消失に及ぼす糞虫の影響を明らかにするため, 1996年3月から1999年1月までのほぼ毎月, 福岡県犬ヶ岳の森林に冷凍保存した排泄直後の糞を設置し, 月ごとの糞の消失率を調べた。同時にシカ糞を入れたピットホールトラップを設置し, 糞虫の発生消長を調べた。冷凍した糞と現地で採取した未冷凍糞の消失率の推移に有意差はなく, 冷凍糞を用いた本研究の結果は自然状態での糞の消失実態を再現していると考えられた。消失率の推移は糞を設置した季節によって大きく異なり, 春から秋は最初の1カ月間で急速に消失したが, 冬に設置した糞は緩やかに消失した。糞が急速に消失した季節はオオセンチコガネの, 緩やかに消失した季節はチャグロマグソコガネの出現期間とほぼ一致していた。ほとんどの月では糞の消失率の推移に年間の違いはなかったが, 3月, 9~11月に設置した糞では有意差がみられた。この違いは, 糞虫の出現時期や活動性が気温の影響を受けるためと考えられた。糞虫が入れないようにした糞の消失率は自然状態の糞よりも極端に低かった。以上のことから, 糞の分解消失には糞虫の活動が大きく関与していることが明らかになった。