著者
大丸 裕武 梶本 卓也 小野寺 弘道 岡本 透 関 剛
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.463-471, 2000-09-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

1999年4月21日, 岩手県岩手郡松尾村籐七温泉付近の斜面で幅約100m長さ約300mの全層雪崩が発生した.雪崩が発生した斜面は谷地形の発達が悪い地すべり滑落崖で, アバランチシュートなどの常習的な雪崩の発生を示唆する地形は見られなかった.この雪崩は発生斜面における雪食地の拡大と堆積地における亜高山帯林の破壊という景観変化を伴っていた.空中写真判読と現地調査の結果, 同様の景観変化は八幡平の稜線部の鏡沼付近においても, 1986年頃に起きたことが明らかになった.これまで雪崩災害の報告が少かった八幡平地域においても, 頻度は低いものの比較的大規模な全層雪崩が発生していると考えられる.
著者
一杉 正仁 山内 忍 長谷川 桃子 高相 真鈴 深山 源太 小関 剛
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.50-57, 2016 (Released:2018-03-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1

職業運転者における健康起因事故予防のために行うべき指導および啓発内容を具体的に明らかにするために、栃木県タクシー協会に所属する全タクシー運転者2,156人を対象に、無記名自記式のアンケート調査を実施した。844人から調査用紙が返送され(回収率は39.1%)、平均年齢は60.7歳であった。所属事業所の保有車両台数は30台未満(中小規模)が60.4%、30台以上が39.6%(大規模)であった。乗務前に体調が悪くても運転したことがある人は有効回答の28.5%であり、この割合は大規模事業所の運転者で有意に高かった。運転した理由として、運転に支障がないと判断したこと(59.0%)、収入が下がること(57.9%)が多かった。運転中に体調が悪くなったことがある人は有効回答の32.6%であり、その時、会社に申告して運転をやめた人が55.3%、しばらく休んでから運転を続けた人が26.5%、そのまま運転を続けた人が14.6%を占めた。体調が悪い時は運転を控えるよう指導された人は有効回答の76.0%、体調が悪い時に言い出しやすい職場環境であると回答した人は83.9%であり、いずれも事業所の規模による差は認められなかった。また、自身の健康と運転について、会社でしっかり管理してほしいと回答した人が34.0%を占め、27.2%の人がより頻回の健康診断受診を希望していた。健康起因事故の背景と予防の重要性が会社の規模によらずタクシー業界に十分浸透していないこと、厳しい労働環境がタクシー事業所全体に共通しているため、健康起因事故の予防を推進する経済的余裕がないことが分かった。健康起因事故を予防できるように、運転者自身が体調不良によるリスクを認識し、健康管理に対する意識の持ち方・知識を高めていくこと、これを事業所がサポートするシステムを構築することが重要である。
著者
原 正利 関 剛 小澤 洋一 鈴木 まほろ 菅野 洋
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.153-170, 2007-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
82
被引用文献数
1

1. イヌブナの分布北限域にあたる宮城県と岩手県,青森県東部を対象地域として,踏査データ(105地点),文献情報(112地点),標本データ(14点),岩手県自然環境統合時報(47地点)を情報源に,緯度経度情報を伴うイヌブナの分布データベース(278地点)を作成し,国土数値情報を用いて分布地点の気候,地質,地形の各情報を抽出し,GISを用いて分布との対応を解析した。  2. 詳細な分布図を作成した結果,分布北限域におけるイヌブナの水平分布は,分布上のギャップを多く伴うパッチ状で特徴的なものであることが明らかとなった.  3. 垂直分布については,奥羽山脈域では600m前後にある分布上限が,北上山地域では800m付近まで上昇していた.一方,分布下限の標高に地域差は無く,海抜数10m以下の低海抜地にも分布が見られた.  4. 気候的には,60℃・月<WI≦95℃・月かつ寒候期最深積雪深120cm以下の領域がイヌブナの分布可能な領域であると考えられた.特に最深積雪深はイヌブナの分布域を強く制限し,水平的な西限および垂直的な上限を規定していると考えられた.また,WIと寒候期最深積雪深の相関関係の解析から,イヌブナの分布上限が,北上山地域で奥羽山脈域よりも上昇しているのは,イヌブナの分布が,積雪深によって規定されているためであることが示唆された.  5. 地質的には,イヌブナの分布は,主に半固結-固結堆積物と固結火山性岩石の分布域に限られ,未固結堆積物,未固結火山性岩石,深成岩類,変成岩類の分布域にはあまり分布しないことが明らかとなった.  6. 地形的には,イヌブナの分布は,主に山地と丘陵地に限られ,他の地形にはほとんど分布しなかった.また,奥羽山脈沿いのイヌブナの分布上のギャップには,砂礫台地および扇状地性低地が対応して分布し,寒候期最深積雪深120cm以上の地域との組み合わせによって,イヌブナが分布しない原因を説明できると考えられた.また,特に北上山地では,イヌブナの分布は急傾斜地に限られる傾向にあった.  7. 植生改変などの人為的要因,および最終氷期におけるレフュジアの位置や後氷期における分布変遷などの歴史的要因がイヌブナの分布に影響している可能性についても考察した.  8. 分布北限域においてイヌブナの分布が気温的に予測されるよりも南部に限定され,しかも断続的な分布を示しているのは,積雪に対する耐性が低く地質・地形的な立地選択性の幅も比較的,狭いというイヌブナの種特性と,本州北端部が最終氷期末以降,火山活動の影響を受けて地表面が大きく攪乱された上,現在も火山性堆積物が厚く堆積しているという地史的な要因に起因すると考えられた.
著者
関 剛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

トドマツを含むモミ属樹種では、種子生産の豊凶は雌花序生産の年次間変動と深く関わっている。北海道においてトドマツは天然林の構成樹種であり、主要な造林樹種でもあることから、雌花序の年次間変動の予測方法は天然林管理、種子採取に関して重要な情報である。本研究では、トドマツ林冠木の樹冠上部の枝に残存する球果・発達中止した雌花および雌花芽の中軸を確認して雌花序の過去の年次間変動を推定し、線型混合モデルによって豊作に有効な要因を選択した。説明変数として、花芽形成年、その前年の気温、および両年の気温差(花芽形成年の気温から前年の気温を引いた値)を用いた。雌花序の調査は、北海道・後志地域の中山峠付近で、トドマツ林冠木10個体の主幹から分枝して3-5年目に相当する枝の主軸を対象とした。調査対象の13年間のうち、雌花序の豊作は3回確認され、対象個体のほとんどによる開花がこの他に2回確認された。雌花序生産の豊作のきっかけとしては、6月における花芽形成当年と前年の気温差の正の効果が最も有効な要因として検出された。雌花序生産の年次間変動予測において、連続する2年間の温度条件を調べることの重要性が示唆された。
著者
関 剛斎 小野 新平 好田 誠
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ユビキタス元素である炭素をベースとする有機半導体単結晶を用いたスピントロニクスデバイスの開発を目指し、マイクロスピンポンピングという微小磁性体の磁化ダイナミクスを利用する手法により有機半導体および非磁性金属におけるスピンの注入、輸送および検出を試みた。その結果、微小強磁性電極の磁化ダイナミクスを制御できる素子構造の最適化に成功し、マイクロスピンポンピングによるCu細線へのスピン注入、およびCuにPtを接合させることによるスピンの蓄積量の変化を観測した。さらに、有機半導体単結晶であるルブレンと磁性電極の複合化し、ゲート電圧印加下での強磁性共鳴の評価に成功した。
著者
斉藤 満 関 剛 細谷 昌之
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.410-440, 1992-11

この報告は, 南極氷床ドーム深層掘削計画に使用するため, 新たに開発した大型雪上車の基本性能及び総合性能の試験結果について述べたものである。試験した結果, この雪上車は, 設定した性能及びシステムデザインのねらいをおおむね満足しているが, 構造の一部に不具合部分があることも認められた。試験は, 再現性を有し類似車両と性能の比較ができるコンクリート舗装路及び南極の積雪の硬さを模擬して造った転圧雪路で行った。
著者
丸田 恵美子 長谷川 雅美 上田 正文 関 剛 山崎 淳也
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

中部日本の太平洋側と日本海側の山岳域を比較して、森林の動態に対して積雪がどのように関与しているか、温暖化による積雪量の減少が森林の動態にどのような影響を与えるかについて以下のような結論を得た。冬季、日本海側では降雪日が多く、大気の水蒸気飽差(VPD)が低いために、森林限界付近での常緑針葉樹は、太平洋側に比べて葉からの水分消失量が少ない。積雪も多く、この中に埋まって越冬したシュートでは水分の減少はみられない。そのように、太平洋側に比べれば緩和された環境であっても、日本海側気候の北アルプス乗鞍岳・樹木限界のオオシラビソでは、冬季に積雪に埋まって保護されないと、強光ストレスと乾燥ストレスを受けて、葉の枯損や生育期間の光合成抑制といった影響を受け、やがては幹が枯損する。これを補うのが、積雪下で越冬できる下部のシュートであり、この部位が1本のオオシラビソ個体の90%以上の生産力をもっていると推定される。したがって温暖化によって積雪量が減少すると、この部位も減少し、オオシラビソ個体の存続も危ぶまれる。一方、冷温帯に優占する日本海型のブナの実生は、冬季に積雪の保護がないと、凍結・融解によ導管内にキャビテーションが生じ、翌春に開葉できずに枯死する。そのために、日本海側では積雪の保護を受けて、容易に実生が定着できるが、太平洋側では定着することができない。日本海型ブナは、太平洋側ではギャップ内に芽生えれば越冬はできるが、との後の数年間に、光合成系の強光阻害や晩霜害によって結局は枯死するので、冬季に積雪の保護がない太平洋側山地に定着することはできない。このことから、現存の日本海側に優占しているブナ林は、温暖化によって積雪量が減少すると更新が困難になる危険性があるということができる。