著者
林 文子 Tedjosasongko Udijanto 粟根 佐穂里 岡田 貢 香西 克之 長坂 信夫
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.708-715, 1999

日本茶,ウーロン茶,紅茶などの各種茶のフッ素溶出濃度を測定し,齲蝕予防への効果を検討するため,宇治産および静岡産煎茶,静岡産ほうじ茶,中国産ウーロン茶,スリランカ産紅茶を材料とし,浸出温度50℃,60℃,70℃,80℃ および90℃,浸出時間30秒,1分,2分,5分および10分の各条件下で浸出した茶浸出液のフッ素溶出濃度を測定し,以下の結果を得た。<BR>1)温水で浸出した場合のフッ素溶出濃度は,浸出温度にかかわらず紅茶,ほうじ茶,煎茶,ウーロン茶の順に高く,その濃度は浸出温度80℃,浸出時間2分の場合紅茶1.82ppm,ほうじ茶1.02ppm,煎茶(宇治産,並級,古茶)0.80PPm,ウーロン茶0.48PPmであった。2)煎茶においては保存期間にかかわらず,並級の方がフッ素溶出濃度が高い傾向がみられた。また,産地別では宇治産のものにフッ素溶出濃度が高い傾向がみられた。3)水だしした場合のフッ素溶出濃度は,ほうじ茶(3.69ppm),ウーロン茶(2.18ppm),煎茶(1.39PPm),紅茶(1.58PPm)の順に高かった。<BR>以上の結果より,茶浸出液のフッ素溶出濃度は茶の産地や製法で異なり,煎茶においては,一般に下級と言われる硬化した下位葉を使用した茶に多く含まれていることが示された。これらの結果は,齲蝕予防における食生活指導への茶飲料の効果的な利用を示唆するものである。
著者
伊藤 綾子 五十嵐 清治 倉重 多栄 佐藤 夕紀 藤本 正幸 西平 守昭 松下 標 青山 有子 平 博彦 丹下 貴司
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.591-597, 2006

含歯性嚢胞は歯原性嚢胞では歯根嚢胞に次いで多く見られる。一般的には未萌出または埋伏永久歯の歯冠に由来して発生するが,原因埋伏歯は正常歯胚であることがほとんどで,過剰歯に由来する含歯性嚢胞は比較的少ない。今回,我々は全身的問題から抜去を行わず経過観察していた上顎正中部の逆性埋伏過剰歯が嚢胞化し,定期検診の中断期間に急速に増大し,顔貌の腫脹まで来した含歯性嚢胞の症例を経験したので報告する。<BR>症例は13歳の男児で,既往歴として生後間もなくWilson-Mikity症候群の診断にて入院加療を受け,その後にてんかん,脳性麻痺,および精神発達遅滞と診断された。患児の埋伏過剰歯は当科で10歳時に発見されたが,全身状態が不良のため抜去を行わず経過観察を行っていた。その後,定期検診受診が途絶え1年3か月後に,過去数か月間で徐々に上顎右側前歯唇側歯槽部が腫脹してきたことを主訴に再来初診となった。口腔内診査では上顎左側前歯部歯槽部に青紫色の腫脹を認め羊皮紙様感を触知した。エックス線診査では上顎前歯部に1本の逆性埋伏過剰歯を含む単房性の境界明瞭な透過像を認めた。局所麻酔下に嚢胞と埋伏過剰歯の摘出術を施行したが,術後17日目に術部感染を来したため抗菌薬投与と局部の洗浄を継続し消炎・治癒に至った。術後2か月の経過は良好である。<BR>本例のように何らかの理由により埋伏過剰歯抜去が困難な場合は,その変化を早期に発見するために定期的,かつ確実な画像診断を含む精査が必須であると考えられた。
著者
菊池 優子 四井 資隆 清水谷 公成 古跡 養之眞 嘉藤 幹夫 大東 道治
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.187-191, 1995-03-25
参考文献数
6
被引用文献数
2

小児の頭部外傷は救急病院を受診したのちに歯科系病院を経由するのが一般的である. しかしながら,救急病院においては顎口腔領域の異常を訴えても,後頭前頭位撮影や側方向撮影などの単純撮影のみの診査に留まることが多い. 特に小児の場合には未萌出歯,永久歯胚が顎骨内に混在しているため顎骨骨折の有無についての判断は極めて困難である.<BR>そこで,今回われわれは1989年から1993年までに,大阪歯科大学附属病院歯科放射線科を受診した12歳以下の顎骨骨折48例のうち下顎骨骨折26例を対象として,臨床所見を集計し,その特徴を探ると共に診断を行う場合の注意点について検討したところ以下の結果を得た.<BR>1.小児の下顎骨骨折26例の年齢性別分布には特徴はみられなかった.<BR>2. 歯の外傷を伴う下顎骨骨折は26例中3例であった.<BR>3.部位では下顎骨頸部骨折(骨折線44本中24本,54.5%)が多く認められた.<BR>4.他施設にて骨折なしと診断された4例に下顎骨骨折を認めた.
著者
進賀 知加子 下野 勉 仲井 雪絵 紀 瑩 守谷 恭子 瀧村 美穂枝 加持 真理 竹本 弘枝 森 裕佳子 山中 香織
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.584-592, 2007

妊婦の口腔内ミュータンスレンサ球菌群(MS)の菌数レベル,喫煙習慣,食事習慣に関する実態調査を目的として,産婦人科医院を受診した妊娠3-6か月目の妊婦400名(平均年齢29 .2±4.2歳,19-43歳)を対象にデントカルトSMを用いた唾液検体中のMS菌数レベルの測定,食事調査および喫煙習慣に関する質問調査を行ったところ,以下の結果を得た。<BR>1.各SMスコアの割合は,8.5%(SM=0),35.3%(SM=1),38.0%(SM=2),18 .3%(SM=3)であった。MS菌数レベルがハイリスク(SMスコア>2)を示した者は半数以上(56 .3%)であったにも拘らず,歯科医院を受診中の者は1割未満であった(7.8%)。その中で受療目的が「予防」であった者の割合は29.0%であった。歯科医療者と妊婦に対し,妊娠期の口腔衛生管理の重要性について認識を広めるための社会的啓蒙活動や教育が必要である。<BR>2.喫煙習慣の既往がある妊婦はMS菌数レベルがハイリスクになる傾向を認めた(10 .7%vs.6.3%;P=0.08)。<BR>3.「シリアル(無糖)」「アイスクリームまたはシャーベット」「ドーナツまたはマフィン類」「クッキー」「チョコレート」「あんパンまたはジャムパン」「まんじゅう」「ようかん」の8項目の食品においてハイリスク群はローリスク群より有意に摂取頻度が高かった。
著者
甲原 玄秋 佐藤 研一
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.696-701, 1998-09-25
参考文献数
13

千葉県こども病院集中治療室で加療中であった3名の意識障害患児における下唇と舌にみられた自己咬傷の治療を行った。<BR>第1症例は15歳の男児で糖尿病性ケトアシドーシスから昏睡状態になり,反射的にまた不随意運動により下唇を噛んだことから潰瘍を形成していた。即時重合レジンを用い上顎臼歯咬合面で咬合を挙上し,口蓋を覆うスプリントを作製した。作業用模型から装置をとり易くするためリリーフワックスを使用し,装着時に粘膜組織調整材(ハイドロキャスト&reg;)でそのスペースを満たした。装置の前方には小孔をあけ細い鋼線をつけ,誤嚥防止のためそれを口腔外に出した。スプリントは患児の口腔の不随意な筋活動が消失するまで37日間使用した。<BR>第2症例は6歳の水頭症の女児で重度の肺炎に罹患し,経鼻挿管下で治療を受けていた。患児の舌は浮腫のため腫脹し,潰瘍を認めた。バイトブロック様の可撤性装置をレジンで作製し,歯列の片側に装着することで前歯部の開口を得た。6日後には潰瘍は治癒し,浮腫も消失していたため装置を除去した。<BR>第3症例は心嚢切開術を受けた5歳の男児で,舌に浮腫と潰瘍を認めた。この症例でもバイトブロック様の装置を使った。19日後,傷が治癒したため装置を除去した。<BR>意識障害患児の舌,口唇に自傷行動による傷ができた際,その状態を把握し適切な装置を作製,装着することで歯を保存し,咬傷を治癒に導くことができる。
著者
宮新 美智世 松村 木綿子 石川 雅章
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.987-994, 1994
被引用文献数
2

歯髄切断法の術式と長期的臨床経過を検討することを目的として,外傷により歯冠破折をきたした幼若永久歯64歯に対して,歯髄切断後長期にわたり臨床的X線学的な経過観察を行った.患児は60名で初診時年齢は平均9歳3か月,経過観察期間は3年から19年まで平均10年1か月であった.その結果,46歯(72%)が経過良好であった一方,術後5年以内に歯髄炎もしくは歯髄壊死が18歯(28%)に認められたが,歯髄生存中は歯根形成の継続が見られた.X線写真上のdentin bridgeは58歯(91%)に,多くは術後1年以内に認められ始めた.うち12歯は歯髄炎または歯髄壊死に陥った症例であった.経過良好例のうち33歯に対しては,糊剤を除去してdentin bridge上における電気歯髄診断,抵抗値測定,糊剤の再貼布を試み,除去した糊剤を光学顕微鏡により観察した.この結果,修復物下には空隙,壊死組織などが観察された.dentin bridgeには穿孔もなく,その電気抵抗値には幅があった.dentin bridge直上での電気歯髄診断への反応値は歯冠上における値よりも小さい傾向があった.糊剤の再貼布後の異常はなかった.以上から,歯髄切断後におけるdentin bridgeの形成は必ずしも良好な予後を確約せず,糊剤を再貼布することや,術後経過を5年以上観察することが望ましいことが示唆された.
著者
岡崎 好秀 東 知宏 田中 浩二 石黒 延枝 大田原 香織 久米 美佳 宮城 淳 壺内 智郎 下野 勉
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.677-683, 1998-09-25
参考文献数
25
被引用文献数
5

655名の小児を対象として,3歳時と小学校1年生時から中学1年生時までの,齲蝕指数の推移について経年的に調査した。<BR>1)3歳時の齲蝕罹患者率は65.6%,1人平均df歯数は3.80歯であった。<BR>2)中学1年生時の齲蝕罹患者率は93.4%,1人平均DF歯数は4.78歯であった。<BR>3)3歳時のdf歯数は,小学校1年生から中学校1年生までのDF歯数と高度の相関が認められた(p<0.001)。<BR>4)3歳時のdf歯数が0歯群と9歯以上群の小学校1年生から中学校1年生までの永久歯齲蝕罹患者率には,有意の差が認められた(p<0.001)。<BR>5)3歳時のdf歯数が多い群ほど,永久歯のDF歯数も高い値を示した(p<0.05)。3歳時の齲蝕は,将来の齲蝕に影響を与えることから,乳幼児期からの齲蝕予防の重要性が示唆された。
著者
森主 宜延 岸本 匡史 宮川 尚之 小椋 正
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.604-612, 1998-09-25
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究は,チンキャップ適用の実態と頭蓋顔面硬組織の変化から,チンキャップ適用の妥当性について再検討することを目的とした。対象は,チンキャップ適用者51名であり検討資料は装着後6か月間隔で記録された外来カルテ,歯列模型,側貌頭部エックス線規格写真計測による。結果として,チンキャップの平均撤去年齢が11歳であり,平均使用期間は3年6か月であった。使用目的は下顎の過成長の抑制であり,撤去時の主な理由は被蓋の改善と骨格型要因に不安が解消されたことにあった。また,使用開始時下顎骨の過成長と診断された症例において,被蓋の改善による下顎の過成長の解消と考えられた症例が認められた。使用効果は,使用開始時,∠SNBが正常咬合者と比較し大きく,チンチャップ撤去時並びに撤去1年後も同じく有意に大きな値を示した。しかし,撤去時,∠SNAと∠ANBが有意に増加し改善の傾向もみられた。使用開始時から撤去1年後までの定性的変化から,使用開始時から撤去時の装置使用による計測項目の変化の方向と,撤去時から撤去1年後の計測項目の変化の方向が逆となり後戻り傾向が認められた。結論として,適用理由となる不正要因の診断に注意を要し,撤去理由との矛盾も指摘された。下顎骨成長の絶対的抑制は,形態計測値の変化と思春期開始時に撤去されていることから効果が得られたとはいいがたい。さらに,撤去時,下顎骨の成長と前歯部歯軸で後戻り傾向が認められ,チンキャップ適用への再検討の必要性が示された。
著者
秋澤 より子 原 徳寿 永井 正規
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.323-331, 1987
被引用文献数
4

的確な齲蝕予防法を検討する目的で,保健所で行われた健康診査から,1歳6カ月と3歳時の資料(451人分)を用いて,菓子類,飲物の摂取と歯磨き実施とが3歳時の乳歯齲蝕にどのようにかかわっているかを観察し,以下の結果を得た。<BR>1)3歳時に菓子パン,ビスケット,アイスクリーム,ケーキ類,市販のジュース,チョコレート,乳酸飲料,炭酸飲料,スナック菓子,あめなどの菓子,飲物類を摂取するものは齲歯有病率が高い。<BR>2)1歳6カ月時の菓子類摂取では,あめの摂取が最も強く齲歯発生と関係していた。<BR>3)1歳6カ月と3歳の両時点の菓子摂取では,いずれかの時点であめ,チョコレート,ケーキを摂取していたものの齲歯有病率が高かった。<BR>4)歯磨きの実施時刻別に,歯磨き実施と齲歯発生との関係を注意深く観察したが,両者に明らかな関係はみられなかった。<BR>5)因子分析により歯磨き,菓子類,飲物の摂取と齲歯発生との係わりを総合的観察した結果,菓子類の摂取と齲歯発生とは明らかな相関がみられた。しかし,歯磨きと齲歯発生との関係を明らかにすることはできなかった。
著者
宮迫 隆典 一瀬 智生 市川 史子 吉田 かおり 山本 益枝 信家 弘士 長坂 信夫 川端 康司
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.970-978, 1992
被引用文献数
1

我々は,小児の健全な成長発育を把握し,地域の歯科医療の推進に貢献する目的で,広島県湯来町の保育所および幼稚園の協力を得て,昭和62年より毎年,幼児の歯科検診を実施し,幼児の口腔内の縦断的観察を行っている。今回,幼児の生活環境のアンケート調査を行い,以下の結果を得た。<BR>1)自分自身の齲蝕予防に心がけている親は41.9%であった。<BR>2)幼児の食生活では,果実,菓子類が好まれ,野菜類は好まれない傾向が認められた。おやつの回数は, 通園日1 日1 回および休園日1 日2 回が約80%を占めた。また, 6歳児の買い食いは, 4歳,5歳児の15~20%と比較して, 約40% と増加しており, 6 歳と他の年齢間に統計的有意差を認めた。<BR>3)幼児の歯磨きでは,朝食後と就寝前の歯磨きが70%以上を占め,就寝前以外の歯磨きでは,幼児自身が磨くことが多く,時間も短かったが,就寝前の歯磨きでは,過半数以上の親が手伝い,3分以上磨く者の割合が多かった。<BR>4) 親子関係では, 親自身が齲蝕予防に心がけている方が心がけていない方より, 朝食後,夕食後に子供の歯磨きをよく手伝い,おやつを与える回数も少なく,統計的有意差を認めた。