著者
渡辺 正樹 林 京子 田谷 有紀 林 利光 河原 敏男
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

要旨 目的:単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、皮膚や口唇、眼などに感染症を反復的に起こす病原体であり、初感染後に神経節に潜伏感染して終生存続し、免疫機能低下時に回帰発症を起こす。アシクロビル(ACV)等の治療薬が開発されているが、長期連用による副作用や耐性ウイルスの出現は回避できない。我々はこれまでに、納豆・納豆菌がインフルエンザなどのウイルス感染症に対して治療・予防効果を発揮することを報告してきた。今回、HSV-1感染によって生じる皮膚ヘルペスに対するこれらの有効性を評価した。 方法:BALB/cマウス(n=10)の側腹部にHSV-1を皮下注射した。滅菌水、ACV、納豆、TTCC903納豆菌(生菌・死菌)または煮豆を、ウイルス接種7日前から14日後まで、1日2回経口投与した。出現したヘルペス症状を6段階の発症スコアで評価した。感染14日後に採血して、血清の中和抗体価をプラークアッセイによって測定した。 結果:ウイルス接種の4日後から接種部位近傍にヘルペス症状が帯状に出現した。対照(滅菌水投与)群では、全例発症し、死亡率は40%であった。納豆・納豆菌投与群では発症率及び死亡率が、対照群に比べて抑制された。煮豆投与群でも、ヘルペス症状の進展を抑制する効果がみられた。感染2週間後のウイルス特異的抗体量は、納豆及び納豆菌投与時に増加した。納豆菌の生菌と死菌との間にはヘルペス治療効果に差異がみられなかった。 考察:納豆と納豆菌には、HSV-1による皮膚ヘルペス抑制効果が認められた。抗体上昇を伴っていたことから、免疫機能刺激作用が少なくとも部分的に治療効果に寄与していたと推察される。煮豆投与時にも一定の効果がみられたため、その作用発現の背景を現在検討中である。
著者
Burrows James 加茂 翔伍 小出 和則
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

[背景] Birch 還元は1944年にA. J. Birchによって報告された反応で、安定なベンゼン環を1,4-シクロヘキサジエンへと選択的に還元する特殊な反応である (図A)1)。他に代え難い反応である一方、毒性が高く取り扱いが難しい液体アンモニアや高反応性のアルカリ金属を必要とする等の問題点から、極力使用を避けられてきた反応である。また1955年にR. A. Benkeserらが報告した手法は、安価な低級アミンを溶媒に用いて、液体アンモニアを必要とせずに脱芳香族化を行えるが、過剰還元が進行する(図B)2)。その後、アンモニアを用いない還元法がいくつか報告されてきたが、高価な試薬や特殊な装置を要する等の問題から、より安全かつ簡便で安価な手法が求められていた。本研究では、THF中、リチウムとエチレンジアミンを用いたBirch還元法を見出したので、その詳細を報告する。[方法・結果] まず安息香酸 1 を用いて反応条件の検討を行った結果、THF中でリチウム3当量とエチレンジアミン 6当量を用いた際に所望の反応が進行し、還元体2が収率95%で得られた(図C)。またn-ブチルフェニルエーテル3に対しても、同様の条件に2.5当量のt-BuOHを添加することで、収率85%で還元体4が得られた。基質検討においては、N-ヘテロ環化合物の還元を含め、種々の芳香族化合物を良好な収率で還元することができた。本講演では、反応条件の最適化や基質適応範囲、アミンリガンドの構造-反応性相関など、反応の詳細について発表する。ref: 1) Birch, A. J. J. Chem. Soc. 1944, 430. 2) Benkeser, R. A. et al. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 3230.3) Burrows, J.; Kamo, S.; Koide, K. Science 2021, 374, 741.
著者
長谷川 愛 辻屋 徳恵 山森 元博 岡村 昇
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】近年、健康食品のローヤルゼリー(RJ)は様々な効能・効果を発揮するとして注目されているが、抗凝固薬であるワルファリン(WF)との併用で、プロトロンビン時間国際標準化比の延長および血尿などの有害事象が報告されている。しかし、相互作用機序は未だ解明されていない。そこで、ラットを用いて RJ と WF の相互作用について検討した。また WF の作用に関与する VK に着目し、小腸の VK 吸収に関与する Niemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)、Scavenger Receptor Class B Type 1(SR-B1)タンパク質発現量を測定し、RJ の投与により及ぼす影響について検討した。【方法】SD 系雄性ラットを用い、WF および RJ の無麻酔下経口投与を 24 時間毎に行い、最終投与翌日の血液を採取し、小腸および肝臓を摘出した。得られた血漿を用いて PT(Prothrombin Time)および APTT(Activated Partial Thromboplastin Time)を測定することで血液凝固能を評価した。さらに、小腸の NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量を western blotting 法により検討し、血漿中および肝臓中の VK 濃度を測定した。また、SD 系雄性ラットを用い、RJ の経口投与を 24 時間毎に 4 日間行い、RJ 投与 4 日目に、WF の同時投与を行い、WF の投与後から経時的に採血し、血漿中 WF 濃度を測定した。【結果・考察】WF 単独投与(WF)群と比較して WF と RJ 併用投与(併用)群において PT および APTT が有意に延長した。また、小腸における NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量は WF 群と比較して併用群において低下する傾向を示した。血漿中および肝臓中の VK 濃度は、Control 群と比較して併用群で有意に低下した。また、WF 群と比較して併用群において、さらに低下する傾向を示した。 WF 群と併用群の WF の血漿中濃度を測定し、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)比較したところ、併用群において有意に上昇した。 以上の結果から、RJ と WF を併用することで、PT および APTTを延長し、WF の作用増強が示唆された。RJ を投与することで小腸における NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量低下が認められたことにより、VK 吸収量が低下し、血漿中および肝臓中の VK 濃度が低下する可能性が考えられた。また、RJ の併用により、WF の AUC が上昇したため、RJ による WF の薬効増強は動態学的相互作用も関与することが示唆された。