著者
鈴木亜由美
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 Aron(2002)の提唱した,感覚処理に敏感性を持つ子ども,Highly Sensitive Child(HSC)は,明橋(2015)によって“ひといちばい敏感な子”と和訳され,広く知られるようになった。しかしながら実証的な研究は非常に少ない。本研究では,Aron(2002)のHSCチェックリストを幼児用の尺度として作成する試みを行った。方 法調査対象者 調査会社(株式会社クロス・マーケティング)に登録しているリサーチモニターの中から,3-4歳の子を持つ母親300名を対象とした。年齢は,21歳から48歳であり,平均34.1歳であった。質問項目1.幼児用Highly Sensitive Child Scale 日本語版: Aron(2002)の23項目からなるチェックリストを日本語訳し,バックトランスレーションの手続きにより,原文の英語との等価性を確認した。Aron(2002)は各項目についてT/Fで回答するものであったが,本研究では成人向けに作成された,Highly Sensitive Person Scale 日本語版(髙橋, 2016)を参考に,“7.非常にあてはまる”から“1.まったくあてはまらない”の7件法により評定を求めた。2.Big Five尺度: 和田(1996)の形容詞による性格特性語を用いた尺度の,情緒不安定性と外向性の2つの下位尺度の中から,幼児の特性を測定するのに適切と思われる各9項目を選択した。3.幼児気質質問紙: 武井・寺崎・門田(2007)の尺度から,神経質尺度10項目,外向性尺度8項目をそれぞれ用いた。結 果因子構造の検討 幼児用Highly Sensitive Child Scale 日本語版23項目について,主因子法による探索的因子分析を行った。固有値の減衰状況と解釈可能性から2因子構造を採択してPromax回転を行い,因子負荷量が十分でない2項目を削除した。Prmax回転後の因子パターン,因子間相関係数を,Table 1に示した。髙橋(2016)を参考に,因子1を“感受性”,因子2を“低感覚閾”とした。信頼性の検討 全体の信頼性係数は,α=.91 であった。下位尺度ごとでは,“感受性”がα=.91,“刺激回避”がα=.76であり,十分な信頼性が示された。妥当性の検討 構成概念妥当性を検討するため,Big Five尺度と幼児気質質問紙の2つの下位尺度との相関係数を算出した(Ta考 察 妥当性の検討では,下位尺度ごとに異なる傾向がれた。“低感覚閾”と“幼児気質質問紙”の間には相関が見られなかったため,用いる尺度の再検討が求められる。また,幼児期の他の年齢も対象とし,年齢差についても検討する必要がある。
著者
長澤 祐季 中川 量晴 吉見 佳那子 玉井 斗萌 吉澤 彰 山口 浩平 原 豪志 中根 綾子 戸原 玄
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

【目的】加齢や嚥下障害により,医薬品の服用や食事にとろみ調整食品(以下とろみ剤)を用いることは少なくない。先行研究により,とろみ剤が薬効を減弱させる可能性や,キサンタンガムを含有する濃厚流動食品が,含有しないものと比較して血糖値の上昇を抑制する可能性が報告されている。しかしながら,とろみ剤が栄養の吸収にどのような影響を及ぼすかについては,不明な点が多い。そこで今回,ラットの発育と飼料形態の関連性を検証するために,基礎的研究を実施した。【方法】4週齢雄性SDラットを4〜5匹ずつ4群に分け,液体飼料(C社製),0.5,1,1.5%とろみ調整飼料(液体飼料にとろみ剤・N社製を添加)を用いて,3週間飼育した(A群:液体飼料,B群:0.5%とろみ飼料,C群:1%とろみ飼料,D群:1.5%とろみ飼料)。餌は100kcal/日に揃えすべて経口摂取させ,水は自由摂取とした。液体飼料ととろみ調整飼料の摂取開始翌日をx日として体重を経時的に測定し,体重増加割合(%)を用いて飼育期間中の発育状況の変化を評価した。実験終了時に解剖し肝,腎,精巣上体脂肪重量の測定と血液生化学的検査を行い,体重増加割合(%)とともに各群間で相違があるか統計学的に検討した。【結果と考察】x+7,x+14,x+21日目における体重増加率はA群と比較してD群で低値な傾向を示した。また腎臓重量はA群と比較してD群で有意に低値となり,肝臓,精巣上体脂肪重量は各群間で相異を認めなかった。血液生化学検査では,TG(mg/dL)がA群と比較してC,D群で有意に低値を示した。本研究結果より,液体飼料と比較してとろみ剤を添加した飼料は体重増加および腎臓重量の増加を制限する可能性があり,脂質代謝の状態を反映している血中TG濃度を有意に低下させることが明らかとなった。これはショ糖食投与ラットに対するグアガム-キサンタンガム混合物の血中脂質低下効果の報告と同様の結果である。とろみ剤が含有するキサンタンガムは高粘性の難消化性多糖類であり,腸管上粘質性糖タンパク質と混ざり合い被拡散水層の厚さを増すことが吸収阻害の要因の一つと考えられる。また今回与えた液体飼料は25kcalが脂質であり脂質の吸収抑制により総カロリー数が減少し体重増加率の減少が起こったと示唆される。(COI開示:なし)(東京医科歯科大学動物実験委員会承認 A2019-270A)
著者
吉本 広平 増山 純二 土井 研人 中島 勧 橘田 要一 森村 尚登
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】2016年にSepsis-3 criteria(以下Sepsis-3)が提案され、救急外来(以下ER)においては敗血症患者のスクリーニングにquick SOFA score(以下qSOFA)の測定が推奨されている。しかしながら医療システムや患者分布の異なる本邦でのqSOFAの有用性は明らかでなく、またqSOFAは予後予測に対する感度に劣るとの問題点も指摘されている。【目的】細菌感染症が疑われるER受診患者におけるSepsis-3の臨床的妥当性を評価する【研究デザイン】単施設後方視的コホート研究【対象】2017年1~12月に地方基幹病院ERを受診した患者のうち細菌感染症として治療された者【方法】対象患者を後方視的に抽出後、トリアージ時点のバイタルサインおよびER受診時の血液データからqSOFA、SOFA、SIRSスコアを算出し、ROC曲線下面積(AUC)用いてprimary outcomeを院内死亡とした診断能を比較した。また臓器障害(SOFA2点以上の増加)を認める場合qSOFAに+1点を加えたqSOFA+(4点満点)を定義し、同様にしてqSOFAと比較した。【結果】対象はn=668(男351)、年齢中央値77、院内死亡率6.7%であり、罹患疾患は呼吸器(n=227)、消化器(n=164)、肝胆膵(n=106)の順であった。99名がqSOFA≧2を満たし、その死亡率は24.2%であった。qSOFAは院内死亡予測に対してSIRSより有意に優れ[AUC 0.75 (95%CI, 0.66-0.83) vs 0.60 (95%CI,0.51-0.68), P<0.001]、SOFAと同等であった[AUC 0.76 (95%CI 0.68-0.84), P=0.67]。qSOFA+はAUC 0.78(95%CI, 0.70-0.85)であり、各2点をカットオフポイントとした場合、予後予測に関してqSOFAの感度53%、特異度88%に対し、qSOFA+は感度76%、特異度70%であった。【結論】本邦ERにおいてもqSOFAはSIRSより明らかに予後予測に優れ、来院時に短時間で計算できるにも関わらず、SOFA scoreと同等の予後予測能を有する。また本邦外での報告と同様にqSOFAは特異度が高く感度に劣るが、来院時の臓器障害を加味することで感度向上が得られることが示唆された。
著者
川口 真帆 小野 亜佳莉 神谷 万里子 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】mRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-loaded Lipid Nanoparticle; mRNA/LNP)は、新型コロナウイルスのワクチンとして筋肉内投与により世界的に使用されている。mRNA/LNPは生体内で分解されやすいmRNAを安定に保持し細胞質まで送達できるという利点があり、その機能性はmRNA/LNPの脂質構成に起因する。一方で、LNPは肝への集積、高いタンパク発現が知られており、肝毒性が懸念される。これは、筋肉内投与されたLNPが筋肉から肝臓へ到達するまで血中で安定な状態であるためと考えられる。そこでLNP構成脂質のうち、脂質膜の安定性に寄与するコレステロールの含有量を減らすことでLNPを不安定化し、筋肉から肝臓へ到達する前に崩壊させることができるのではないかと仮説を立てた。本研究では、コレステロール含有量を減少させたmRNA/LNPを作製し、細胞およびマウス筋肉内に投与後、タンパク発現を比較検討した。【方法】脂質組成のうちコレステロール含有量を60, 40, 20, 10 mol%としたluciferase mRNA/LNPを作製し、その物性について粒子径とmRNA封入率の評価を行った。作製したLNPをmRNAが0.1 µg/wellとなるようにHepG2細胞に添加し、luciferase発現を評価した。次に、ddY雄性マウス右大腿部筋肉に2 µgのmRNA/LNP投与し、4.5時間後に筋肉と肝臓を摘出し、luciferase発現を評価した。【結果】Luciferase活性測定の結果から、細胞ではコレステロール含有量の異なるmRNA/LNP間でluciferase発現は同程度であった。一方、マウスではコレステロール含有量の低いmRNA/LNPにおいて、肝臓での遺伝子発現と相対的に比較して、投与部位である筋肉でluciferase発現が有意に高かった。【結論】LNPの脂質組成のうちコレステロール含有量を減少させると、肝臓におけるluciferase発現を抑えられることが示唆された。本結果は、今後のmRNA/LNPの製剤設計において有益な基礎的知見となることが期待される。
著者
前原 都有子 藤森 功
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景】肺炎の日本人の死因の第5位であり、肺組織への好中球浸潤や肺浮腫を伴う肺機能の低下を特徴とする。中でも、誤嚥や敗血症を起因とする急性肺障害は、40%の死亡率を示すが、有効な治療法はない。肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中でプロスタグランジンF2α(PGF2α)の産生量が増加することが報告されているが、その機能は分かっていない。本研究では、急性肺障害におけるPGF2αの機能解析を目的とした。【方法】野生型マウスに塩酸(2 µl/g)を気管内に投与することで肺炎モデルを作製した。PGF2αの阻害剤であるAL8810は塩酸投与の1時間前に腹腔内に投与した。塩酸投与6時間後に、肺機能および炎症の評価を行った。【結果・考察】生食投与群に比べ塩酸投与群では、肺機能の低下を伴い、気管支肺胞洗浄液中への好中球の浸潤および浮腫形成が促進した。また、TNF-αやIL-1β、IL-6の遺伝子発現量が顕著に増加した。AL8810の前処置は、肺機能の低下および好中球の浸潤をさらに促進させたが、炎症性サイトカインの遺伝子発現量には影響を与えなかった。免疫組織化学染色によりPGF2αの受容体が気管支上皮細胞および肺胞マクロファージに発現していることが明らかになった。さらに、肺の伸展能を制御するサーファクタントプロテインBの遺伝子発現量がAL8810投与により顕著に低下した。これらの結果から、PGF2α受容体の阻害は、肺の伸展能を制御するサーファクタントの産生を減少させ、血管透過性を促進させることで、肺機能の低下および肺浮腫を促進させ、急性肺炎を悪化させることが示唆された。
著者
大戸 智絵 栗田 拓朗 瀧沢 裕輔 中島 孝則
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】アトルバスタチン錠とエゼチミブ錠は脂質異常症に対して処方される薬剤であり、二剤を配合したアトーゼット®配合錠も処方される。しかし、それぞれ単剤については一包化調剤が可能であるが、配合錠では光及び酸化を避けるため服用直前にPTP シートから取り出すこととの指示があり、一包化調剤することができない。そこでアトルバスタチン錠5mg(アトルバスタチン錠)とアトーゼット®配合錠LD(配合錠)を一包化調剤し、曝光条件で保存した際の主薬安定性について比較検討した。【方法】5銘柄のアトルバスタチン錠ならびに配合錠をPTPシートから取り出し、無包装品、セロポリ分包品、遮光品をそれぞれ用意し、25℃、60%RHの条件下にて総照度が120万、240万lux・hrになるまで曝光した。保存後の錠剤より主薬を抽出し、HPLCにより含量測定を行った。【結果】アトルバスタチン錠について、無包装品ならびセロポリ分包品ともに曝光後の主薬の平均含量残存率は、銘柄間で若干の差違はあるものの95%以上であった。また、配合錠に含まれるアトルバスタチンの含量残存率も、無包装品およびセロポリ分包品ともに95%以上であった。各遮光保存品について、含量低下は認められなかった。同条件で保存した配合錠中のエゼチミブについても、含量低下は認められなかった。【考察】光安定性について、アトルバスタチン錠ならびに配合錠の両製剤間で差異は認められず、一包化後も同様の安定性を保っていると考えられた。今後、溶出性についても検討する予定である。
著者
庄司 義則
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

最終氷期の北米大陸北部に、厚さ3,000m以上にも及ぶ巨大なローレンタイド氷床が形成されていた。そこにアガシー湖という巨大な氷床湖が形成され、その決壊が地球環境へ重大な影響を与えたという説が存在する。しかし、決壊の実態ははっきりしていなかった。そこで、NOAAから公開されている地形データを使い、自作ソフトを使って分析した。その結果、アガシー湖の水量は、これまでの説より遥かに少ない事が分かった。さらに、周辺の地形から見てアガシー湖は、大規模決壊するような湖ではない事も判明した。そこで、北米大陸の傾斜地図を作成したところ、アガシー湖付近に大規模決壊の侵食の痕とみられる地形が発見された。これにより、アガシー湖決壊は、別のさらに巨大な氷床湖決壊により引き起こされた事が判明した。本研究は、ローレンタイド氷床に存在した巨大氷床湖の決壊メカニズムと規模を考察したものである