著者
中里 良彦 田村 直俊 池田 桂 田中 愛 山元 敏正
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.263-270, 2016-03-01

Isolated body lateropulsion(iBL)とは,脳梗塞急性期に前庭症状や小脳症状などの神経症候を伴わず,体軸の一側への傾斜と転倒傾向のみが臨床症候として認められることである。iBLは脊髄小脳路,外側前庭脊髄路,前庭視床路,歯状核赤核視床路,視床皮質路のいずれの経路がどこで障害されても生じる可能性がある。本稿では,延髄,橋,中脳,小脳,視床,大脳において,どの病巣部位でiBLが生じるかを概説する。
著者
佐藤 晋爾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.559-562, 2018-05-15

抄録 五苓散は浮腫,下痢,嘔吐などに使われ,安全性が高く高齢者にも用いられる漢方薬の一つである。今回,慢性的な口渇と抑うつ状態が五苓散により改善した1例を経験した。症例は62歳の女性。Amoxapineで小康状態となったものの,約9年間,口渇を訴え続けていた。抗コリン作用の少ない抗うつ薬に変更したが変化はなく,内科的問題も指摘されなかった。このため五苓散を投与したところ,投与1か月後に口渇は改善した。五苓散は水分バランスの調整作用から口渇に効果があるとされているが,抗うつ作用,抗不安作用を持つと考えられる茯苓を含んでおり,器質的な口渇のみならず精神的な口渇感にも効果を有する可能性が考えられた。
著者
荻野 恒一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.79-84, 1968-01-15

I.はじめに 幻覚という主題は,妄想とともに,精神病理学のもつとも重要なテーマとして論ぜられてきたが,その研究の対象は,主として精神病者(とりわけ精神分裂病者)の幻覚体験,副次的には大脳病理学の対象となるべき病者(大脳皮質の局在病変,脳底部障害,せん妄状態など)の幻覚体験であつて,例外状況におかれた正常者のそれに関しては,非常に報告が乏しかつたように思う。 だが,例外状況(孤立状況,感覚遮断など)における幻覚体験についての報告も皆無ではなく,たとえば最近,医師Lindemann, H. が単身大西洋を横断したときの幻覚体験1)2)(言語性幻聴,人間や馬の幻視)が報告され,また島崎,中根は,一医学生が夏山登山において体験した幻聴(ソプラノの歌,ラジオの天気予報など)について報告している3)。
著者
高尾 哲也 佐々木 恵美 鈴木 利人 白石 博康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1361-1363, 2001-12-15

突発性射精は,性的刺激や性的思考とは無関係に突然に射精する状態である。1983年にRedmondら6)が初めて報告して以来,器質的脳疾患に併発した症例報告4,5)などはあるが,未だその発症機序は明らかではない。 筆者らは,13歳時より不安・緊張時に突発性射精を呈し,後に精神分裂病を発症した1例を経験した。稀な症例と思われたので,若干の考察を加えて報告する。
著者
宮北 英司
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.98-100, 2010-04-05

要旨 尿道ブジーは,尿道通過障害に対して,特に尿道炎,外傷や尿道になんらかの処置を受けた既往のあるものに対して,狭窄の計測ないしその拡張のために施行されてきた。軟性内視鏡の発達により種々の方法が開発されている。本稿では,尿道ブジーの種類,その手技のコツについて述べる。
著者
島田 信宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.440, 1997-05-25

アドルフ・ポルトマン(Adolf Portmann)というスイス人の生物学者がいました。先生は多くの生物の妊娠・分娩に関する研究からヒトを含めて,生物における各種族の位置づけなどを考案されて,現代の生物学とドイツの哲学とを結びつけた学者といわれています。牛や馬の赤ちゃんは生まれてくると,すぐに立ち上がり歩くことができます。これに比べてヒトの赤ちゃん(新生児)は,歩けるようになるには1年近くもかかります。また,鳥の赤ちゃんは卵の殻を破って出てきますが,生まれてすぐにお母さんから固形の食べものを口うつしでもらって,それを食べて,しかも消化吸収することができます。ヒトの赤ちゃん(新生児)は生まれてすぐに固形物を食べて消化する能力はありません。 こうしてヒトの赤ちゃん(胎児,新生児)と他の動物の赤ちゃんを比較してみると,ヒトの赤ちゃんは生まれて来たときには大変に未熟だといえるのではないでしょうか。ヒトは生物の中でもっとも進化した種族です。したがって頭部(脳)の占める体積が大きく,ヒトの赤ちゃんは頭でっかちです。本質的にヒトの胎児は未熟なので,できるだけ子宮の中で発育させておこうということから頭部は脳の発育のために産道を通過できるギリギリの大きさまで発育して大きくなってから生まれてきます。これに対して,母体の産道,つまり骨盤の大きさはどうでしょう。猿や類人猿の時代の4つ足の生活はもうなくなり,立位の生活を送るようになると,体位のために母体の骨盤は圧迫を受け,4つ足時代より狭く変形されてきました。その内腔が狭くなった産道に大きくなってしまった脳を入れた胎児の頭部が通るのはとても大変で,ギリギリだというのです。ですから,ヒトの分娩は他の動物からみると赤ちゃんは未熟で早産のように受けとめられるのですが,実は発達した脳(頭部)と骨盤の変形によって生物のなかではもっとも難産になっていると考えられます。だからヒトの分娩はその途中で低酸素症(胎児仮死)にもなりやすいし,分娩停止や遷延分娩にもなりやすいといえます。この事実を私たち,産科周産期医療従事者はどう考えたらよいのでしょうか。ヒトのお産というのは,ただ放っておけば生まれてくるとか,元気に「オギャー」と泣いて生まれてくるのが100%当たり前とかいった安易なものではないということを再認識しなければなりません。私たちは全生物のなかでもっとも難しいお産を取り扱い,管理する専門職なのです。このことを自覚することはもとより,世間一般の方々に,「お産て難しいことがいっぱいあるんですよ」と教育しなければならないでしょう。なぜなら,産科周産期医療は大いに発展,進歩しました。しかし,それは胎児情報や診断学,治療に関することで,人類が始まって以来,胎児は産道を通って出てくるという分娩現象については全然変わっていないのです。帝王切開術が上昇しているということも少しはうなずけます。時代とともに,文明の進歩とともに,ヒトのお産は「生理的早産」でありながら難産傾向になることは予測できます。たとえば,硬膜外麻酔を応用した分娩などは分娩を楽に終わらせる一方法として脚光を浴びています。ヒトのお産は正期産といえど「生理的早産」であることを忘れないで,今日からまた取り組んで下さい。
著者
加藤 貴志 岸本 周作 井野辺 純一 稲垣 敦
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1087-1095, 2016-12-10

要旨 【はじめに】脳損傷者の運転技能について神経心理学的検査(以下,検査)との関連が報告されているが,運転技能予測に有効な検査は確立されていない.今回筆者らは脳損傷者の運転技能と検査の関連を検討した研究を対象にメタ分析を実施し,運転技能予測に有効な検査と認知機能を検討した.【方法】MEDLINE,医学中央雑誌など8つのデータベースから脳損傷者に対し実車評価を実施しているなどの基準を満たした研究を抽出し,2つ以上の研究で用いられていた検査の標準化効果量・統合オッズ比を求めた.【結果】11,047文献から20文献が抽出された.このうち9検査にメタ分析を行った結果,Trail-Making Test(TMT)-A,コンパス,道路標識の効果量が高く,注意力や遂行機能など,複数の認知機能が運転技能予測に関与している可能性が示された.【考察】結果より運転技能予測に関連する認知機能について示唆が得られた.今後これらの知見をもとに,国内にて運転技能予測に有効な検査について検討を重ねていく必要がある.
著者
小池 隆史 高橋 優宏 古舘 佐起子 岡 晋一郎 岩崎 聡 岡野 光博
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1026-1031, 2021-11-20

はじめに 舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)はアレルギー性鼻炎の根治的治療であるアレルゲン免疫療法の1つである。本邦ではスギ花粉症に対して2002年以降に厚生労働省研究班による臨床研究がスタートし,多施設でのSLITの有効性が確かめられ,2014年にスギ花粉症に対して保険適用された1,2)。 従来の皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)と比較して,重篤なアナフィラキシー反応誘発の可能性がきわめて低く,入院を必要とせず自宅での施行が可能であることが特長である3)。しかし,局所的な副反応の発生はSCITよりも多いと報告されており,アナフィラキシーの発生報告も皆無ではないため,SLIT実施にあたっては,かかりつけ医に加え,患者自身も起こりうる副作用とその対策の概要を理解することが求められる3)。また,副反応への対応については『鼻アレルギー診療ガイドライン』にも記載されているが,副反応改善後のSLIT再開の時期や,投与量,投与法の調整などについては,まだ現場の医師の裁量によるところが大きい4)。 今回われわれは,飲み込み法にてSLITを導入後の早期にアナフィラキシーを生じたが,症状改善後に減量したうえで吐き出し法にてSLITを再開した結果,アナフィラキシーを再発せずに経過良好となった症例を経験したので報告し,文献的に考察する。
著者
植木 慎悟
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.344-349, 2021-08-15

はじめに 多くの国立大学大学院博士後期課程の学位認定として用いられる基準に,英語論文の採択が挙げられている。おそらくこれは,博士の学位を取得する上で大きな難題になっている。かく言う私も,修士課程時にトントン拍子で2つの英語論文が採択された経験から,博士後期課程でもそのハードルを問題なくクリアできるだろうと高を括っていたところ,足元をすくわれることとなった。13回ものRejectを受けたのである。当然,論文の質が原因ではあるが(研究手法しかり,文章の書き方しかり…),それでもさすがに13回のRejectを受けると,次のジャーナルの選択において路頭に迷うことになる。 世界には数多くのジャーナルがあり,その質は玉石混淆である。これまでさまざまな形で論文投稿を重ねてきた私自身の経験から,実際どのようなジャーナルを探していたか,そして,最低限どのような基準をクリアするジャーナルならば選択して問題ないかについて,主にこれから研究者をめざそうとする大学院生を意識しつつ,述べていきたいと思う。
著者
高岸 勝繁
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.140-142, 2019-02-15

Case患者:50代、男性。悪寒と発熱で受診。現病歴:もともとアルコール依存症であったが、6年前に禁酒し、以後禁酒継続できていた。また、1〜2年前よりうつ病と診断され精神科を受診していたが、自己中断している。 来院1カ月前に抑うつ症状が増悪。活動性が低下していた。3週間前より疲労感・倦怠感があり、徐々に食欲低下も進行。2日前に尿失禁し、やや興奮気味となり、来院の前日より悪寒を伴う発熱を認め、救急要請された。既往歴:うつ病、アルコール依存症。内服:現在はなし。身体所見:意識清明だが、軽度興奮・多弁。体温40.2℃、血圧156/89mmHg、心拍数140回/分(整)、呼吸数26回/分、SpO2 99%(室内気)。 眼球運動正常、瞳孔は4/4mm、対光反射は軽度鈍い。流涙や唾液分泌の亢進なし。顔面・皮膚紅潮なし。発汗あり。腹部腸管蠕動音はやや亢進。 胸部・腹部・四肢の診察にて、明らかな感染を示唆する所見は認められず。検査所見:WBC 16,940/μL(好中球88%)、Hb 16.1g/dL、Plt 23.5×104/μL、AST 263IU/L、ALT 66IU/L、LDH 1,125IU/L、ALP 241IU/L、γ-GTP 58IU/L、CPK 12,661IU/L、BUN 21.6mg/dL、Cr 1.4mg/dL、Na 132mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 94mEq/L、CRP 3.4mg/dL。 胸部X線、胸腹部CTでは、明らかな発熱のフォーカスとなる異常は認められない。 血液培養検査は陰性。初診時のアセスメントとその後の経過:フォーカス不明の発熱、興奮症状、頻脈、高熱、CPK上昇などより、何かしらの薬物、離脱症状の可能性を考慮した。アルコール摂取歴を再度確認するも、使用した形跡は認められなかった。家人に自宅内で薬物を探すように指示したところ、患者の上着ポケットからパブロンゴールドA®が複数発見された。 ベンゾジアゼピンを使用し経過をフォローしたところ、徐々に症状、検査所見は改善を認め、第5病日には症状の消失が得られた。 改善後にパブロンゴールドA®を見せつつ、薬物歴を本人から詳細に聴取した結果、以下の経過が判明した。●〜6年前:アルコール依存で入院。以後禁酒継続。●3年前:アルコールの代わりにパブロンゴールドA®やその類似薬を常用し始めた。連日1〜2袋、咳止め液として2本程度使用していた。●1〜2年前より無気力感や抑うつ症状が出現し、精神科にてうつ病と診断。投薬も受けたが、すぐに自己中断した。●1カ月前よりさらに無気力感が強くなり、咳止め液を1日に4本使用し始めた。さすがに使用に対して不安感があり、来院の3日前からは使用しなかった。 以上の経過より、最終的に「ブロン依存症、ブロン離脱症」と診断した。