著者
森岡 周
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.947, 2012-10-15

まずこの本を見た瞬間,「同期生よ! 思い切ったことをしたな」と思い,いろいろな言葉が脳の中を駆け巡った.それだけインパクトのある表紙と内容であった.「列伝」と聞くと,ギタリスト? などと思ったりもし,果たして理学療法士という職業にそのような言葉が当てはまるかは明言できないが,いずれにしても,理学療法士は医療者でありながら,職人としての要素を含んでおり,それを意図した書であると思う. 本書は3章の構成であり,第1章は「衣鉢相伝」と題して,著者のこれまでの臨床研究をベースとした記述である.衣鉢相伝とは教法や奥義を伝え継承することの意であり,平たくいえば,広く先人の事業や業績を継ぐことに当たる.著者はこれまで主に大学病院に属しながら変形性膝関節症の臨床研究を実施してきたが,それから得た保存的治療戦略に関して,運動学的あるいは運動力学的分析から一つの方向性を打ち出し,その具体的な実践例を丁寧に臨床的に記述している.衣鉢相伝と題されるように,著者には今までの自分の思考をありのままに伝えるが,後輩たちがそれをよりよい方向性に改変し,場合によっては批判し新しいものを創造し提案してもらいたい意図があるのであろう.
著者
サビロヴ ラヴシャン 岡田 泰伸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.192-203, 2003-04-10

クロライドイオンは生体内で最も多量に存在するイオンの1つであり,クロライドイオン(Cl-)チャネルも広く全身の細胞膜に分布している。その役割は,静止電位の形成や変化,興奮性の抑制や亢進,Cl-や水の輸送,そして細胞容積の調節などに加えて,細胞分裂や増殖,細胞死の制御にも,さらには細胞外へのATP放出や,細胞内小胞のpH形成や,他のチャネル/トランスポータのレギュレータとしても働くなど多様であり,いずれも細胞の基本的機能に深く関与している。Cl-チャネルのうちでクローニングされているのはCLC,CFTR,GABAレセプター,グリシンレセプター(そしておそらくCLIC)のみであり,その他のCa2+依存性Cl-チャネルや容積感受性Cl-チャネルなど,多くが未だに分子同定されていない。Cl-チャネル機能の生理学的・病態生理学的重要性は深まるばかりであり,生理学的研究のみならず,残された多くのCl-チャネル分子実体を求めての分子生物学的検討も,集中的に行われる必要がある。 はじめに クロライドは生体内に最も大量に存在するイオンの1つであり,その輸送に関わる分子の1つであるCl-チャネルの生理学的重要性は容易に理解できる。興奮性細胞における研究の先行により,イオンチャネルの機能は,電圧作動性Na+,K+,Ca2+チャネルなどによる活動電位発生との関係で最初に捉えられた。通常では,Cl-コンダクタンスの低いニューロンや心筋細胞においては一定のバックグラウンド電流として,Cl-コンダクタンスの相当高い骨格筋では静止電位を決定する定常的リーク電流として,この時期においては捉えられてきた。しかしながら,グリシンレセプターやGABAレセプターの一部がリガンド作動性アニオンチャネルであることが判明して,細胞内Cl-濃度が低く保たれている多くのニューロンでは抑制的に,細胞内Cl-濃度が高いニューロンでは促進的に,興奮性を制御する機能がCl-チャネルに付加された。 パッチクランプ法の導入によって多くの非興奮性細胞(特に上皮細胞)の研究が進展し,Cl-コンダクタンスが多種の生理学的・病理学的刺激によって大きく活性化されることが明らかにされた。cAMPやCa2+などで活性化されるCl-チャネルはCl-分泌機能に関与し,浸透圧刺激で活性化されるアニオンチャネルは,細胞容積調節やATP放出や細胞死誘導に関与し,リソソームや小胞体などの細胞内小器官に発現しているCl-チャネルは,プロトンポンプによるH+輸送やCa2+遊離チャネルによるCa2+放出を(電気的中性を保つ上で必要なCl-輸送路を保つことによって)サポートする役割を果たしている。このようなCl-チャネルの新しい諸機能の多くは,興奮性細胞においても共有されていることが次々に明らかにされはじめている。 遺伝子クローニング法の導入によって,多くのチャネル蛋白のアミノ酸配列が明らかとなった。しかしアニオンチャネルでクローニングされているのは,リガンド作動性アニオンチャネルに分類されるグリシンレセプター,GABAAおよびGABACレセプターとcAMP依存性Cl-チャネルのCFTR,そして電圧依存性Cl-チャネルと細胞内小器官アニオンチャネルの両方に分類されるCLCチャネルと,細胞内小器官アニオンチャネルのCLICとVDACである。その他の多くの重要なアニオンチャネル,例えばCa2+依存性Cl-チャネルや容積感受性Cl-チャネルなどは,未だにクローニングされていない。
著者
結城 明彦 高塚 純子 竹之内 辰也
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.609-612, 2016-04-01

症例1は36歳女性で、6日前、右足底の色素斑を自覚した。色素斑は15×10mm大で、色調は褐色から橙色調で色素分布は均一で、左右対称、境界不明瞭、そう痒などの症状はなく無症候性であった。アルコール綿で拭っても脱色はみられず、ダーモスコピー所見で皮丘平行パターン(PRP)を認めた。早期の悪性黒色腫(MIS)と診断し、切除と植皮による再検を予定したが、初診8日後の入院時、色素斑は顕著に消退し生検のみで退院した。退院10日後の再診時に色素斑は完全に消退した。症例2は64歳女性で、2日前、左足底の色素斑を自覚した。色素斑は6×5mm大で、色調は赤みを帯びた橙色調で色素分布は均一で、左右対称、境界不明瞭、無症候性であった。アルコール綿で拭っても脱色はみられず、ダーモスコピー所見は特定のパターンは認めなかった。血腫疑いの臨床診断で、経過観察となった。23日後の再診時に色素斑はほぼ消失し、以後、有事再診としたが受診はなかった。カメムシ皮膚炎は虫体が分泌するヘキセナールなどアルデヒドの浸潤により発症するが足底では浸潤が角層内に留まるため炎症所見を欠き、色素沈着のみを呈する。両例は症状が似ておりカメムシが原因である可能性が推定され、原因不明の足底色素斑をみた場合はカメムシによる色素斑も鑑別の一つに挙げるべきと思われた。
著者
野口 佑太 小林 誠 中尾 由佳里 水谷 祐哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.497-500, 2021-05-10

要旨 買い物に行くことのできない地域在住高齢者に対して,バーチャルリアリティ(virtual reality;VR)を活用して買い物の楽しみを支援した.その結果,対象者がお店に行くことなく,VRで店内の様子を視聴することができ,買いたいものを買うことができた.VR画像は,視聴者の頸部の動きに連動して画面が変化するため,自分自身が店舗内に居る感覚を得ることができた.しかし,VR画像の視聴中に商品に近づくことができないことが課題として挙げられた.VRを活用した買い物支援は,買い物弱者にとって,実際の店舗に行けない,または行かなくても商品を選ぶ楽しみを体験することができる可能性が示された.
著者
平山 恵造
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.65, 1974-01-01

ArgyllはRobertsonの名で,Argyll-Robertsonと間にハイフンを入れるのは正しくない。 Argyll Robertson徴候は①対光反応の消失(直接性および同感性とも),②輻輳・調節反応の保持,並びに③縮瞳である。しかし,縮瞳をこの条件の中に入れるか,縮瞳は合併し得る徴候とするかは人により見解が異なる。Argyll Robertsonの原著(1869)に従えば,縮瞳はその条件の一つである。
著者
清水 敬親
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.418-421, 2015-04-25

歴史的報告 1912年にフランスのMaurice KlippelとAndré FeilがL. Josephという46歳のtailorの貴重な剖検例を報告した1).彼は慢性的な腹痛と繰り返す胸水貯留を患っていた.彼の外見は特徴的で,“極端に短い首・毛髪線の低さ”が目立っていた.死亡前の臨床診断は,胸膜炎・肺うっ血(肺水腫)・腎炎であり,タンパク尿・頻脈を呈し,やがて死亡した.剖検では,心肥大,腎臓の変形とともに異常な形態の脊椎をもっていることが明らかとなった.頭蓋頸椎移行部は奇形を呈し,多少の頸椎屈曲・伸展はできたが,回旋は不能であった.脊柱はたった12個の脊椎骨で成り立っていた.KlippelとFeilはこれらの所見を「肋骨が頭蓋底から生えている先天性頸椎欠損」と解釈し,“cervical thorax”と呼んだ.胸椎後弯,胸腰椎側弯も観察されたという.要約すれば,頭蓋頸椎移行部を含む全脊椎に先天性と思われる癒合椎や脊柱変形がみられ,内臓奇形をも伴っていたきわめてまれな症例,ということである.
著者
飯野 雅子 鈴木 英之
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.440-448, 2015-08-15

診療看護師(NP)としての役割と成果 飯野雅子 はじめに 昨今,わが国では医療の質,医療の安全性を問う国民の声が大きくなってきている。医療の現場に目を向けると,医療の高度化・複雑化に伴う業務の増大や高齢化による合併症患者の増加などにより,わが国の医療は疲弊してきている。このような現状のなか,「チーム医療」の重要性が謳われている。 そこで2010年3月,厚生労働省はチーム医療の推進を図るための1つとして,看護師の業務拡大の必要性をあげ,特定看護師(仮称)の設置,法制化に向けての素案を示した。このような社会背景を踏まえ,クリティカルケア領域でも対象患者の高齢化,疾病の複雑さにより,医療者の業務は増大している。そのため,周術期の患者管理においても多職種によるチーム医療の必要性が高まっている。 チーム医療の一員にナースプラクティショナー(Nurse Practitioner;NP)が存在できるのであれば,NPの特性である医療的,看護的の両側面からアプローチすることで,タイムリーかつ質の高い医療を患者に提供でき,患者や医療者の満足度も上げることにつながると考える。 今回,所属する消化器外科病棟の看護師に対し,診療看護師(NP)の活動についてのアンケート調査を行なった。その結果から得られたNPの成果について述べる。
著者
阿瀬川 孝治 小澤 篤嗣 宮内 利郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.875-877, 1996-08-15

身体疾患による症状性をはじめ脳卒中や頭部外傷などの脳損傷による脳器質性の二次性躁状態は多くはないが,対応が困難なことから,近年リエゾン精神医学の重要な状態像の1つとされている5)。このうち頭部外傷による二次性躁状態の発生頻度は,Jorgeら3)によると9%とそれほど稀でないとされているが,現場からの精神科医への依頼が少ないためか,その報告例は散見するにすぎない。今回我々は,交通事故による頭部外傷(脳振盪)で救命救急センターに搬送された後に,躁状態を呈した1例を経験したので報告する。
著者
佐藤 賢一郎 水内 英充 塚本 健一 藤田 美悧
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.100-105, 2004-01-10

近年,卵巣チョコレート嚢腫の癌化が広く知られるようになったが,子宮腺筋症の癌化は稀な病態と思われており,報告例も散見されるのみである.今回,子宮腺筋症の癌化と考えられた腺扁平上皮癌(腺癌部分は低分化型類内膜腺癌)の稀な1例を経験した.症例は50歳,3経妊,2経産で,下腹部痛,腹部膨満,体重減少を主訴に,2002年(平成14年)8月7日に初診した.同年8月27日に診断的開腹術を施行したのち,TJ療法を行ったところ著効したため,2003年(平成15年)3月14日に二次的腫瘍減量術を施行した.開腹所見,病理組織所見より子宮腺筋症の癌化と考えられた. 一般的に,本疾患は術前診断が困難な場合があること,術後の病理組織診においても内膜より発生した体癌との鑑別診断が問題となる場合があること,予後についても同様に考えてよいのかなどの臨床的に重要ないくつかの問題点が存在するため,さらなる症例の積み重ねと知見の集積が望まれる.

2 0 0 0 睾丸と加齢

著者
谷澤 徹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.701-702, 1994-06-15

1.はじめに 加齢とともに身体の諸臓器,器官は老化,萎縮する.萎縮の度合いと進み具合は,その臓器の必要度に応じて決まり,胸腺のように思春期に退縮が始まり成人ではほとんど脂肪組織のみに置換されてしまう臓器もある.生殖器も比較的早期にその使命が果たされる器官であり,女性生殖器においては閉経を境に急速に萎縮しその機能が失われる. 男性生殖器においてはこのような急速な萎縮は起こらないものの,血清テストステロン値の年齢推移からみると30歳前後をピークに徐々に,その機能は低下していることが推測される(図1)1).睾丸の容積の年齢推移では,睾丸機能が最盛期を迎える20~25歳で約14mlに達したのち50歳前後から減少し,年齢と弱い逆相関を示す2).
著者
中山 和彦 小野 和哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1023-1025, 2011-10-15

諸言 祈祷性精神症は,東京慈恵会医科大学初代主任教授森田正馬が,「余の所謂祈祷性精神症に就いて」(1915(大正4)年,「神経学雑誌」第3巻2号)によって世界で最初に報告した。その論文の中で,迷信,まじない,祈祷などに基づいて発症する心因性でありながら精神病性症状を呈する疾患群に対して名づけた呼称である1)。その論文では「祈祷性精神症」とされ,後に名称は祈祷性精神病と改められている。心因性である疾患に病は好ましくなく,さらに少なくとも,当時宗教的行為に際して生じる心身における症状を「病」と表現することはできなかったと思われる。 現在のわが国の精神医学の教科書にもあまり記載されなくなっている。操作的診断基準を基にした疾患分類が普及した結果,このような原因による呼称は過去のものとなったこと,また実際に,このような病態に我々が遭遇することがまれになってきたのも事実である。一方,現代では,経過中の病態の変化が激しく,症候のみの分類では疾患の本質がどこにあり,治療をどのように進めるべきか明確になりにくくなっている。その意味では,伝統的な疾患概念ではあるが,もう一度原因論に立ち戻って精神疾患を考える意義を伝えてくれているといえるかもしれない。