著者
木村 年秀
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

まんのう町琴南地区は人口2,183名、高齢化率48.2%(平成31年4月1日現在)と県内一、高齢化・過疎化が進んだ地域であり、まちそのものがフレイルに陥っていると言っても過言ではない.当地域の後期高齢者を対象とした「食べる楽しみ」に関する聞き取り調査を民生委員の皆さんにお願いしていたところ、仲良しの民生委員長が、「先生、歯が悪いのに足がなくて診療所に行けん人が多いみたいやで!」と教えてくださった.高齢者が移動手段を失うことにより、歯医者にも、買い物にも行けない、そして外出できなくなり孤立する.その結果、フレイル、低栄養となっていく….どうも過疎地域の社会的問題が高齢者の低栄養の根本的な原因となっているようだ.分析結果では、体重減少に影響しているのは「口腔機能の低下」と「食べる楽しみの喪失」.食べる楽しみの喪失に最も影響する要因は「食材調達困難」であった.また、食事が楽しくない理由の回答で最も多かったのは「話し相手がいない」であり、移動手段の喪失に伴う孤立も低栄養に影響していた.高齢者が運転する車の事故が社会問題となっており、免許の自主返納が勧められているが、通院や買い物のための移動手段の確保は過疎地域の大きな課題である.しかし、通院、買い物、孤立の問題は医療の力だけでは太刀打ちできない.他分野と繋がって地域総働で解決に向けた取り組みが必要となる.最近、プライマリ・ケアの分野では「社会的処方」が注目されている.社会的処方とは「社会との繋がり」を処方するということで、イギリスでは、孤独担当大臣という役職が創設されている.高齢化が進展するなか、フレイルへの対応が急務であるが、フレイルの特徴の一つは多面性であり、身体的フレイルに閉じこもりや孤独、うつなどの心理的、社会的フレイルが絡み合っている.フレイル・ドミノの起点は社会性の低下であり、これを解決するための新しい処方箋が社会的処方なのかもしれない.世界で最も高齢化が進んでいる日本では、高齢化そのものよりも高齢者の孤立対策がより重要であり、医療専門職には、「繋がり」を必要とする患者を地域資源に繋げる、社会的処方の機能も期待されている.本シンポジウムでは、当地区における医療介護の連携体制、高齢者の移動手段の確保対策や低栄養対策(診療所送迎サービス、配食サービス、買い物ツアー)など地域の繋がりで進める食支援の実践例を紹介する.
著者
小松 晴菜 鈴木 陽介 吉島 千智 小田 絢子 大野 恵子
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】糖尿病の発症率は加齢と共に著しく増加する。高齢糖尿病患者は、筋肉量の減少、身体機能の低下によるサルコペニアを合併しやすく、サルコペニアは血糖コントロールを悪化させる。血糖降下薬であるNa+/グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬は尿中へのグルコース排泄を通じて血糖コントロールを改善し、体重減少を誘発する薬物であるため、体重減少とともに筋肉量の減少が懸念される。しかし、SGLT2阻害薬が筋肉量に与える影響については未だ明らかではないため、今回、メタ解析の手法を用いて検討を行った。【方法】本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webのデータベースを用いて、SGLT2阻害薬を投与しており、かつ、筋肉量に対する影響を検討している無作為化比較試験を検索した。筋肉量の指標には無脂肪量を用いて、統計学的に評価した。なお、データの統合・解析はRevMan 5.4で行った。【結果・考察】上記のデータベースを検索した結果、80報の論文が抽出され、その中で採択条件を満たした無作為化比較試験は4報であった。そのうち3報は標準治療に上乗せしたプラセボ対照試験で、1報は標準治療との比較試験であった。筋肉量の指標である無脂肪量のベースラインからの変化はプラセボ群と比較してSGLT2阻害薬群で有意に減少した(MD: -0.48; 95%CI: -0.90, -0.06; p = 0.03)(図1)。また、脂肪量のベースラインからの変化もSGLT2阻害薬投与群で有意に減少した(MD: -1.72; 95%CI: -2.23, -1.22; p<0.00001)(図2)。以上の結果から、SGLT2阻害薬は主に脂肪量を減少させるが、筋肉量も減少させ、サルコペニアのリスクを高める可能性が示唆された。しかし、現在SGLT2阻害薬服用後の筋肉量の変化を評価した無作為化比較試験が少ないことや、筋力や身体能力などの筋肉量以外のサルコペニア発症に関与する要因については未だ不明であるため、今後、長期間における更なる臨床試験が行われることに期待が寄せられる。
著者
渡辺 正樹 林 京子 田谷 有紀 林 利光 河原 敏男
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

要旨 目的:単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、皮膚や口唇、眼などに感染症を反復的に起こす病原体であり、初感染後に神経節に潜伏感染して終生存続し、免疫機能低下時に回帰発症を起こす。アシクロビル(ACV)等の治療薬が開発されているが、長期連用による副作用や耐性ウイルスの出現は回避できない。我々はこれまでに、納豆・納豆菌がインフルエンザなどのウイルス感染症に対して治療・予防効果を発揮することを報告してきた。今回、HSV-1感染によって生じる皮膚ヘルペスに対するこれらの有効性を評価した。 方法:BALB/cマウス(n=10)の側腹部にHSV-1を皮下注射した。滅菌水、ACV、納豆、TTCC903納豆菌(生菌・死菌)または煮豆を、ウイルス接種7日前から14日後まで、1日2回経口投与した。出現したヘルペス症状を6段階の発症スコアで評価した。感染14日後に採血して、血清の中和抗体価をプラークアッセイによって測定した。 結果:ウイルス接種の4日後から接種部位近傍にヘルペス症状が帯状に出現した。対照(滅菌水投与)群では、全例発症し、死亡率は40%であった。納豆・納豆菌投与群では発症率及び死亡率が、対照群に比べて抑制された。煮豆投与群でも、ヘルペス症状の進展を抑制する効果がみられた。感染2週間後のウイルス特異的抗体量は、納豆及び納豆菌投与時に増加した。納豆菌の生菌と死菌との間にはヘルペス治療効果に差異がみられなかった。 考察:納豆と納豆菌には、HSV-1による皮膚ヘルペス抑制効果が認められた。抗体上昇を伴っていたことから、免疫機能刺激作用が少なくとも部分的に治療効果に寄与していたと推察される。煮豆投与時にも一定の効果がみられたため、その作用発現の背景を現在検討中である。
著者
Burrows James 加茂 翔伍 小出 和則
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

[背景] Birch 還元は1944年にA. J. Birchによって報告された反応で、安定なベンゼン環を1,4-シクロヘキサジエンへと選択的に還元する特殊な反応である (図A)1)。他に代え難い反応である一方、毒性が高く取り扱いが難しい液体アンモニアや高反応性のアルカリ金属を必要とする等の問題点から、極力使用を避けられてきた反応である。また1955年にR. A. Benkeserらが報告した手法は、安価な低級アミンを溶媒に用いて、液体アンモニアを必要とせずに脱芳香族化を行えるが、過剰還元が進行する(図B)2)。その後、アンモニアを用いない還元法がいくつか報告されてきたが、高価な試薬や特殊な装置を要する等の問題から、より安全かつ簡便で安価な手法が求められていた。本研究では、THF中、リチウムとエチレンジアミンを用いたBirch還元法を見出したので、その詳細を報告する。[方法・結果] まず安息香酸 1 を用いて反応条件の検討を行った結果、THF中でリチウム3当量とエチレンジアミン 6当量を用いた際に所望の反応が進行し、還元体2が収率95%で得られた(図C)。またn-ブチルフェニルエーテル3に対しても、同様の条件に2.5当量のt-BuOHを添加することで、収率85%で還元体4が得られた。基質検討においては、N-ヘテロ環化合物の還元を含め、種々の芳香族化合物を良好な収率で還元することができた。本講演では、反応条件の最適化や基質適応範囲、アミンリガンドの構造-反応性相関など、反応の詳細について発表する。ref: 1) Birch, A. J. J. Chem. Soc. 1944, 430. 2) Benkeser, R. A. et al. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 3230.3) Burrows, J.; Kamo, S.; Koide, K. Science 2021, 374, 741.