著者
鈴木 雄大 吉岡 和夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

水星は非常に希薄な大気(~1e-10 Pa)を保持しているが、常時強い太陽光圧や太陽風に晒されている上に重力が小さいため、非常に多くの気体が宇宙空間へと散逸している。外気圏が地表に直接接続しているため、水星大気の生成量・散逸量は周囲の環境に応じて劇的に変化する。 外気圏を構成する元素は主にNa, Mg, H, K, Ca, He等であるが、このうちH, Heは太陽風、それ以外の元素は水星表面からの脱離によって供給されると考えられている。脱離プロセスとしては例えば熱脱離、光励起脱離、イオンスパッタリング、微小隕石衝突等が考えられている。熱脱離量は公転に伴う太陽-水星間距離の変動による表面温度の変化、光励起脱離量は太陽活動度の変化による太陽放射の変動、イオンスパッタリングによる脱離量は太陽風の変動や太陽フレアによる水星周辺のプラズマ量の変化、微小隕石衝突による脱離量は水星周辺のダスト量によって変動する。従って、それぞれの過程による水星大気の生成量を推定することは太陽系内縁環境の理解に繋がる。 生成過程ごとに放出される粒子の速度分布が異なるため、現在はMESSENGER探査機の観測データから得られる大気鉛直密度分布から放出温度を推定し、水星大気生成への各過程の寄与を推定することが多い。しかし、特に高温成分の気体の存在量の推定精度に問題があるほか、探査機の軌道の都合上、中緯度帯および北半球高緯度の大気生成過程の推定が非常に困難である。 熱脱離は、粒子に与えるエネルギーが小さく、放出粒子が再度地表に戻るまでのタイムスケールが水星の自公転周期に比べて十分に短くなる(~10分)ので、地表面におけるNa原子の分布を支配していると考えられる。また、イオンスパッタリングは中高緯度で多く生じるため、MESSENGERが苦手とする中緯度および北半球高緯度における大気の生成にも大きく寄与していると考えられる。本研究では特に熱脱離とイオンスパッタリングに着目して水星における中性Na粒子の生成から散逸までの挙動をモンテカルロ法によりシミュレーションする。さらにこの結果とMESSENGER MASCS UVVSの観測データを比較し、熱脱離とイオンスパッタリングの水星大気生成への寄与について議論する。
著者
石原 嗣郎 佐藤 直樹
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

現在、生理学的根拠・知識、権威に基づく医療、個人的な経験によるものではなく、患者背景、医師の技量、エビデンスを3つの柱とした、いわゆる根拠に基づく医療(evidence based medicine, EBM)を行うことが多くの場面で求められる。そのEBMを実践する上で、エビデンスのピラミッドからも見て取れるように、ランダム化比較試験が最もエビデンスレベルの高い手法であり、この手法のみが交絡因子を排除することが可能である。つまり、薬物やある治療法がある集団で効果があるかどうかを検証する方法としてはRCTが最も優れた手法であると言える。しかし、RCTの問題点として、コストの問題、外的妥当性の限界など、様々である。ただ、EBMに基づく医療を掲げるのであれば、RCTにおける対象群やプロコール、解析方法などに対して批判的吟味を行った上で実臨床につなげる必要があることは自明のことであり、RCTから得られた結果をどう使うかも、やはりEBMに基づく診療と言える。
著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

「4.2kaイベント」は,2018年に完新世の中期/後期境界として定義された.その特徴は,世界の主要な文明の劣化/崩壊を招いた気候イベントということで,注目を浴びることとなったが,気候プロセスの解明は遅れている.日本では縄文時代最大規模の三内丸山遺跡(5.9-4.2 cal. kyr BP)がこの時期に崩壊した.陸奥湾で採取した堆積物柱状コア中の間接指標の詳細な解析を行ったところ,期間全体にわたり水温・気温ともに環境が温暖だったと示唆された.1人1日あたり2,000Calに匹敵する食料が人々の生活には必要であるとの条件を設定すると,「狩猟・採取」で十分な食糧を得るには,一人あたり1平方kmの面積の森林が必要とされる.食糧の単位面積あたりの生産密度は,人工的に森林に手を加える「半栽培」によるクリの場合,通常の森林の66倍,弥生時代の「水稲栽培」に至っては400倍にも及ぶ.三内丸山遺跡で気候最適期を謳歌した時期には,クリの「半栽培」による高食糧生産密度により,人々は大集落を形成した.しかし, 2.0℃の寒冷化となった「4.2kaイベント」時には,夏季アジアモンスーンの変調によりジェット気流の中心軸が南下し,低緯度域の温暖湿潤な大気が中高緯度に北上することができなかった.これにより「半栽培」が成立せず,大集落は崩壊し,人々は再び「狩猟・採取」の生業に戻った.近年行われた,現代人のゲノムに基づく過去の相対的な人口動態の推定によると,「4.2kaイベント」時に日本に生活していた縄文系の人々に特有のミトコンドリアDNAのハプロタイプには人口の変化はほとんどなく,これは考古学的知見と調和的であった.対照的に,当時,日本への移住以前に,大陸で生活していた弥生系の人々のミトコンドリアDNAのハプロタイプには,厳しい寒冷化による人口減少が認められた.この事実は,「人のミトコンドリアDNAのハプログループに,古気候/古環境が記録される」ことを示唆しており,気候と人類集団の移動を解析する際に,威力を発揮すると期待される (Kawahata, 2019, Progress in Earth and Planetary Science 6:63, https://doi.org/10.1186/s40645-019-0308-8).
著者
Walaa Elmasry Yoko Kebukawa Kensei Kobayashi
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

Extraterrestrial delivery of organic compounds including amino acids to the early Earth during the late heavy bombardment (3.8-4.5 billion years ago) may have been important for the origin of life. Recently, it is suggested that chondritic organic matter was produced through reactions of interstellar formaldehyde, followed by condensation, and carbonization probably during hydrothermal alteration on chondritic asteroids (Cody et al 2011). Furthermore, Kebukawa et al. (2013, 2015) illustrated that the presence of ammonia significantly enhances the yields of IOM from formaldehyde via formose reaction at 150 °C, producing amino acids. Meteorites serve as delivery systems for extraterrestrial phyllosilicate minerals to Earth. Phyllosilicates may act as absorbents and catalysts for the reactions of organic precursor molecules in the early solar system (Pearson et.al 2002). In the current research, we are studying formations of amino acid at 150 °C and reveal the expected role of minerals, namely, montmorillonite, olivine and serpentine for amino acid productions in water-bearing planetesimals.We synthesized organic compounds using a mixture of water, formaldehyde and ammonia (H2O, H2CO, NH3) in a ratio of 100:7:1 with adding minerals (10 g/ L) by simulating primordial materials in comets and asteroids. Aqueous solutions were heated at 150 °C for 24, and 72 hours. The resulted products were divided into two parts, the first part analyzed using a FT/IR, and GFC, while the other one was acid hydrolyzed, desalted, and subjected to amino acid analysis using an HPLC.In HPLC analysis, considerable amounts of various amino acids including glycine and alanine were detected. Moreover, presence of non-protein amino acids (β-Ala, γ-ABA) is considered as an evidence for extraterrestrial origin and against terrestrial contamination. Our preliminary results showed that the obtained amount of amino acids was elevated with the presence of minerals. FT/IR spectra of samples with minerals showed more spectral intensities than samples without minerals due to synthesis of more organic compounds. GFC showed that high molecular weight organic compounds were formed which may be characterized as amino acid precursors that maintain stable at high temperature and longer durations giving various kinds of amino acids after acid hydrolysis. These results suggested that various amino acids could be formed abiotically via a mixture of formaldehyde, ammonia, and water, as well as, the associated minerals act as catalysts to produce amino acid precursors during aqueous activities in the planetesimals.References:Cody, G. D. et al. PNAS 108, 19171–19176 (2011).Kebukawa, Y., David Kilcoyne, A. L. & Cody, G. D. The Astrophysical Journal 771, 19 (2013).Kebukawa, Y. & Cody, G. D. Icarus 248, 412–423 (2015).Pearson, V. K. Meteoritics & Planetary Science 37, 1829–1833 (2002).
著者
上田 あかり 廣瀬 友靖 林 裕美 岩月 正人 穗苅 玲 石山 亜紀 砂塚 敏明
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景・目的】マラリアは世界三大感染症の一つであり、近年は薬剤耐性原虫の出現から、新たな作用機序を有する新規薬剤の開発が急務となっている。このような背景のもと、当大村智記念研究所において、糸状菌Paracamarosporium属FKI-7019株の培養液からKozupeptin A(1)が単離された。1は抗マラリア活性を有し、新たな抗マラリア薬のリード化合物として期待される。そこで我々は、1の効率的な全合成と構造活性相関の研究に着手した。【方法・結果】すでに報告している疎水性タグAJIPHASE®️を用いた1の全合成経路1)では、C末端のアルデヒド形成におけるエピメリ化が課題となった。そこで、我々は新たな疎水性アンカー分子(2)をデザインした。従来、タグとアミノ酸との結合はエステル結合によるものだったが、この結合をWeinrebアミドタイプにすることで、還元によるタグの除去とアルデヒドの形成を一挙に行うことができると考えた。さらに2を用いることで、ペプチド合成の際固相合成では困難であったC末端の還元を克服し、液相合成中でのアルデヒド形成を様々な基質で簡便に行うことができると考えられる。HO-TAGa2)から2を導き、晶析による簡便な手法でペプチド鎖を伸長したのち、還元条件を種々検討し3を合成したことで、形式的に1の全合成を達成した。さらに、新たにデザインした2を用い、様々な誘導体を合成し構造活性相関研究を行ったので報告する。【参考文献】1) Y. Hayashi, et al., Organic Letters. 2019, 21 (7), 2180.2) H. Tamiaki, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2001, 74, 733.
著者
佐々木 淳
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会
巻号頁・発行日
2021-05-19

「何かの時は入院できたら安心」と言われることがよくある。確かに病状が不安定となり、在宅生活の継続が困難であれば、一時的に入院するという選択肢はあってしかるべきである。しかし、在宅高齢者においては、入院によって身体機能・認知機能が低下する。これを「入院関連機能障害」という。フレイルの高齢者にとって、入院に伴う環境変化は心身ともにダメージが大きく、せん妄や認知機能低下が生じる。また食事制限がベッド上安静などによる急速な低栄養・廃用症候群の進行で、要介護度が悪化する。在宅高齢者の緊急入院の50%は肺炎と骨折による。肺炎で入院した在宅高齢者は経過中に約30%が死亡し、退院できたケースは要介護度が平均1.74悪化、骨折で入院したケースも合併症で約5%が死亡し、退院できたケースは要介護度が平均1.52悪化していた。命を守るために、入院は必要不可欠な選択肢である。しかし「入院できれば安心」というのは必ずしも事実ではない。入院が必要な事態がなるべく生じないよう、予防医学的な支援が重要になる。もちろん、加齢に伴い身体機能は低下する。しかし不適切な栄養管理により、低栄養、サルコペニア、フレイル、そして廃用症候群と負のスパイラルに陥り、老化のプロセスを加速させているケースが目立つ。これらは高齢者にとって要介護状態や死亡のリスクを高め、QOLを低下させる。在宅高齢者の健康を守るために、まずは低栄養という病態に対して地域住民や専門職に対する認知度を上げていかなければならない。在宅栄養サポートのターゲットは、その人の栄養状態だけではない。その人の生活であり、その人の人生そのものでもある。在宅医療を受けている患者の多くは治らない病気や障害とともに、人生の最終段階に近いところを生きている。生物学的な栄養改善という医学モデルに基づく介入のみならず、生活の楽しみ、人生への納得のための支援という側面も重要になる。そのアウトカムは必ずしも生存期間の延長だけではない。また、食事は生活の一部でもある。専門職に支配されるものであってはならない。家族の介護負担、経済的負担にも留意しながら、本人・家族が納得して食事を楽しみながら栄養管理ができる「自立した状況」にシフトしていくことを目標としなければならない。どんなに栄養価の高い食材も、単なる「栄養補給」では味気ない。個々の栄養成分の充足率ももちろん重要だが、それはよりよい生活・人生のための手段に過ぎない。また、誰と食べるかも非常に重要なファクターである。食はコミュニケーションでもあり、高齢者の場合には、人とのつながりがその人の予後を左右する。医科歯科介護の連携により、包括的な在宅での食支援を実現し、食べることの本来の意味を見直すきっかけを作りたい。
著者
水口 俊介 猪越 正直
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会
巻号頁・発行日
2021-05-19

超高齢社会を迎えた日本では、今後も高齢者人口の増加が予想されている。平成28年の歯科疾患実態調査によれば、残存歯数の増加に伴って、高齢者におけるう蝕罹患者数の増加が示されている。一方、高齢者において義歯装着者の割合は減少しているものの、高齢者人口増加のため義歯装着者数は減少していないと考えられる。このような背景を鑑みると、高齢者の根面う蝕への対応と、義歯装着者の口腔内環境改善は、今後取り組むべき重要な課題であると考えられる。 株式会社松風が開発したSurface reaction-type Pre-Reacted Glass-ionomer (S-PRG) フィラーは、多機能性ガラス(フルオロボロアルミノシリケートガラス)を微細化及び多孔質ガラス化表面処理を施した後、ポリアクリル酸水溶液と反応させることにより、安定化したグラスアイオノマー相をガラスコアの表層に形成させた3層構造からなるバイオアクティブ新素材である。このS-PRGフィラーは、6種類のイオン(ストロンチウムイオン、ナトリウムイオン、ホウ酸イオン、アルミニウムイオン、ケイ酸イオン、フッ化物イオン)を徐放することにより、歯質強化能、酸緩衝能、抗菌効果を示すことが文献的に示されている。S-PRGフィラー含有材料は、そのバイオアクティブな作用による口腔内環境改善が可能となる材料として期待されている。 我々は今まで、株式会社松風と共に、S-PRGフィラー含有材料の高齢者歯科分野への応用を進めてきた。まず、根面う蝕への対応として、S-PRGフィラー含有セメントの開発を進め、イオン徐放能を持つ新規根面う蝕修復材料を開発した。また、S-PRGフィラーを義歯安定材に添加することにより、抗菌効果を持つ義歯安定材の開発を進めてきた。さらに、S-PRGフィラーをナノサイズ化した、S-PRGナノフィラーをティッシュコンディショナーに添加することにより、ティッシュコンディショナーへのカンジダの付着を抑制することに成功した。 本セッションでは、これらの高齢者歯科分野で応用可能なS-PRGフィラー含有材料について紹介させていただき、今後の展望についてお話しさせていただく予定である。