著者
杉田 精司 巽 瑛理 長谷川 直 鈴木 雄大 上吉原 弘明 本田 理恵 亀田 真吾 諸田 智克 本田 親寿 神山 徹 山田 学 早川 雅彦 横田 康弘 坂谷 尚哉 鈴木 秀彦 小川 和律 澤田 弘崇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

リュウグウの近接観測の本番が目前に迫っている。これに備えて、我々は3つの重要な準備を進めている。1) 低アルベド小惑星の可視スペクトルの見直し。2)リュウグウの地上観測スペクトルの解析とメインベル小惑星との比較。3)可視分光カメラONC-Tのスペクトル校正観測。本講演では、これらについて簡潔に紹介する。 まず、メインベルトの低アルベド小惑星のスペクトル解析である。先駆的な小惑星のスペクトルのサーベイ観測であるECAS(Tedesco et al.,1982)の後、地上望遠鏡による多バンド分光のSDSS(Ivezic et al. 2001)、地上望遠鏡のよる連続スペクトルのデータベースであるSMASS2の整備(Bus and Binzel, 2002)、天文衛星WISE/NEOWISEによる多バンド分光のデータベース(Masiero et al. 2011)など多数の強力な小惑星のスペクトルのデータベースが整備されてきた。特に、SDSS やWISE/NEOWISEによって膨大な数がある小さな小惑星のスペクトルアルベドの分布が定量的に計測されたおかげで、RyuguやBennuが由来するメインベルト内帯の低アルベド族の分布については最近に大きな理解の進展があった。まず、以前にNysa族と言われていた族は、E型スペクトルのNysa族の中にF型(or Cb~B型)のPolana族とEulalia族が隠れていることが明らかになった。さらにPolana族とEulalia族は形成時期が古くて広範囲に破片を分布させており、ν6共鳴帯にも多くの1kmクラスの破片を供給していることが分かった。その一方で、より若いErigone, Klio, Clarrisaなどのぞくはずっと若いため、ν6共鳴帯への大きな破片の供給は限定的であることが分かってきた。この事実に基づいて、Bottke et al. (2015)はRyuguもBennuもPolana族由来であると推論している。 このようにSDSS やWISE/NEOWISEのデータは極めて強力であるが、0.7μmのバンドを持たないため、広義のC型小惑星のサブタイプの分類には適さない。その点、ECASは、小惑星スペクトル観測に特化しているだけあって0.7μmのバンドの捕捉は適切になされている。しかし、ECASではあまり多くのC型小惑星が観測されなかったという欠点がある。そのため、現時点ではSMASS2のデータが広義C型のスペクトル解析に適している。そこで、我々はSMASS2の中の広義のC型の主成分解析を行った。紙面の関係で詳細は割愛するが、その結果はCg, C, Cb, Bなど0.7μm吸収を持たないサブタイプからなる大クラスターと、Ch, Cghなど0.7μm吸収を持つサブタイプからなる大クラスターに2分され、両者の間にPC空間上の大きな分離が見られること、またこの分離域はPC空間上で一直線をなすことが分かった。この2大クラスターに分離する事実は、Vernazza et al. (2017)などが主張するBCGタイプがCgh, Chと本質的に異なる起源を持っていて水質変成すら受けていない極めて始源的な物質からなるとの仮説と調和的であり、大変興味深い。 これに引き続き、世界中の大望遠鏡が蓄積してきた23本のRyuguの可視スペクトルをコンパイルして、SMASS2と同じ土俵で主成分解析に掛けた。その結果は、Ryuguの全てのスペクトルがBCGクラスターに中に位置しており、その分布は2大クラスターの分離線に平行であった。これはRyuguが極めて始源的な物質であることの現れかもしれず、BCGクラスター仮説の検証に役立つ可能性を示唆する。 しかし、現実は単純ではない。Murchison隕石の加熱実験で得られたスペクトルもPC空間ではRyuguのスペクトルの分布と極めて近い直線的分布を示すのである。これは、Ryuguのスペクトル多様性がMurchison隕石様の物質の加熱脱水で説明できるとの指摘(Sugita et al. 2013)とも調和的である。この2つの結果は、Ryuguの化学進化履歴について真逆の解釈を与えるものであり、はやぶさ2の試料採取地の選択について大きな影響を与えることとなる。 この2つの解釈のどちらが正しいのか、あるいは別の解釈が正しいのかの見極めは、0.7μm吸収帯の発見とその産状記載に大きく依存する。もし、Murchison隕石様の含水鉱物に富む物質がRyuguの初期物質であって加熱脱水で吸収帯が消えただけの場合には、Ryugu全球が表面下(e.g., 天体衝突などで掘削された露頭)まで含んで完全に吸収帯を失ってしまうことは考えにくい。したがって、0.7μm吸収帯が全く観測されない場合には、VernazzaらのBCG仮説やFやB型の水質変成によってCh, Cghが生まれたと考えるBarucciらのグループの仮説(e.g., Fornasier et al. 2014)が有力となるかも知れない。しかし、0.7μm吸収が見つかって、熱変成を受けやすい地域ではその吸収が弱いことが判明すれば、スペクトル多様性は加熱脱水過程でできたとの考えが有力となろう。 最後に、はやぶさ2ONCチームは打ち上げ後も月、地球、火星、木星、土星、恒星など様々な天体の観測を通じて上記の観測目標を達成できるための校正観測を実施している。それらの解析からは、0.7μm帯および全般的なスペクトル形状の捕捉に十分な精度を達成できることを示唆する結果を得ており(Suzuki et al., 2018)、本観測での大きな成果を期待できる状況である。引用文献:Bottke et al. (2015) Icarus, 247 (2015) 191.Bus and Binzel (2002) Icarus, 158, 146.Fornasier et al. (2014) 233, 163.Ivezic et al. (2001) Astron. J.、 122, 2749.Masiero et al. (2011) Astrophys. J. 741, 68.Sugita et al. (2013) LPSC, XXXXIII, #2591.Suzuki et al. (2018) Icarus, 300, 341Tedesco et al. (1982) Astrophys. J. 87, 1585.Vernazza et al. (2017) Astron. J., 153,72

8 0 0 0 OA 新しい行為論

著者
鈴木 雄大
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.133-150, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
28

This paper aims to put forward an alternative to the standard theory of action (STA), which I call “the teleological theory of action (TTA)”. I also examine the main argument for STA and maintain that there is a possibility to deny two premises of the argument. Each denial is called the disjunctivism of bodily movement and the disjunctivism of intention. TTA implies that an intention in action is (part of) a bodily movement, and this in turn implies the two disjunctivisms. TTA is supported by the causal dispositionalism which takes dispositions as basic and understands causation in terms of them.
著者
鈴木 雄大
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-17, 2016-07-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

The causal theory of action, which has been the standard theory of action, presupposes that reasons for action are an agentʼs mental attitudes (e.g. beliefs and desires) and claims that they are the cause of the action. However, in this paper I argue that reasons for action are not the agentʼs mental attitudes but their object (e.g. facts, states of affairs, or propositions), inspired by the idea that reasons must be capable of justifying the action as well as explaining it, and that what has this normative force is not mental items, but something objective. I also solve a problem that derives from cases in which the agent believes things falsely.
著者
鈴木 雄大
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.5-25, 2016-12-20 (Released:2017-09-29)
参考文献数
19
被引用文献数
1

The aim of this paper is to argue for the anti-causal theory of action by associating separate ideas of action with one another: the logical connection argument, the anti-psychologism of reason, teleology, the disjunctivism of intention and the disjunctivism of bodily movement. I will also defend the anti-causal theory from the famous objection called “Davidsonʼs challenge” and reveal that the fundamental idea of the anti-causal theory is that an intention to act and the action itself do not exist independently of each other.
著者
鈴木 雄大 山川 樹 坂本 真士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2021, (Released:2022-03-16)
参考文献数
12

本研究では,感情的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の感情を想像すること)と認知的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の考えを想像すること)を区別し,これらを他者にされたと知覚すること(i.e., 被感情的視点取得の知覚と被認知的視点取得の知覚)が被共感の知覚に及ぼす影響を検討した。参加者は自身の意見を述べるエッセイを書くよう求められ,それを読んだ別の参加者(実際には存在しなかった)が感情的視点取得および認知的視点取得をしたかどうかがフィードバックされた。その結果,被感情的視点取得の知覚および被認知的視点取得の知覚は,ともに被共感の知覚を促進することが示された。ただし,被共感の知覚を生じさせるかどうか検討したところ,被感情的視点取得の知覚のみが被共感の知覚を生じさせることが示唆された。他者に感情的視点取得および認知的視点取得をされることの効果について考察した。
著者
早川 正祐 竹内 聖一 古田 徹也 吉川 孝 八重樫 徹 木村 正人 川瀬 和也 池田 喬 筒井 晴香 萬屋 博喜 島村 修平 鈴木 雄大
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、従来の行為者理論において見落とされてきた、人間の「脆弱性」(vulnerability)に着目することにより、自発的な制御を基調とする主流の行為者 概念を、より相互依存的・状況依存的なものとして捉え直すことを目的としてきた。その際、行為論・倫理学・現象学・社会学の研究者が、各分野の特性を活か しつつ領域を横断した対話を行った。この学際的研究により、個別領域にとどまらない理論的な知見を深め、行為者概念について多層的かつ多角的な解明を進めることができた。
著者
鈴木 雄大 山岸 真澄
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.224-231, 2016 (Released:2016-07-23)
参考文献数
31
被引用文献数
14 16

日本で主に生産されている食用ユリはコオニユリ(Lilium leichtlinii, 2n = 2x = 24)であるが,ウイルス病やボトリチス病が問題となっている.三倍体オニユリ(L. lancifolium, 2n = 3x = 36)の鱗茎も食用に利用できる.後者は道端や農地の周辺で野生化していることより日本の気候に適応していると考えられ,食用ユリの遺伝資源として重要である.しかしオニユリは葉腋にムカゴを発生させるため(ムカゴは鱗茎と栄養を競合し,鱗茎の肥大を妨げる),経済栽培には用いられていない.種間交雑は遺伝的な多様性を増加させるので観賞用ユリの品種育成には積極的に用いられているが,食用ユリの育種にはあまり使われていない.本研究では三倍体オニユリとコオニユリを交雑し,その F1 の形質を調査した.結果,得られた F1 はすべて,染色体数 26 本から 34 本の異数体であった.ムカゴ発生能力は F1 集団で連続分布し,量的形質として認められた.F1 57 個体のうち 49 個体(86%)でムカゴが発生しなかった.このことはこの交雑組み合わせから,ムカゴをつけない異数体が得られることを示している.葯の形態に異常が認められる個体が分離した.また F1 における花粉の発芽率は20% を超えるものはなく,85% の個体で発芽しなかった.しかし,食用ユリの収穫対象は鱗茎なので,花器官の形態異常や低い花粉稔性は食用ユリにおいては大きな問題にはならないと考えた.以上の結果より三倍体オニユリとコオニユリの種間雑種によってすぐれた食用ユリ品種を育成できる可能性が示された.
著者
鈴木 雄大 坂本 真士 村中 昌紀 山川 樹 亀山 晶子 松浦 隆信
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.247-253, 2023 (Released:2023-08-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

The present research examined the relationship between interpersonal sensitivity (IS), privileged self (PS), and internet addiction, focusing on the direct effects among these variables and the indirect effects of problem-solving coping tendency and expression of emotional coping tendency. A total of 114 university students participated in the questionnaire survey, of which the 92 who completely answered the questionnaire were included in the analysis. Our data showed a significant positive direct effect of IS and PS on internet addiction tendency. Although the indirect effect of IS on internet addiction mediated by problem-solving coping tendency was not significant, the indirect effect of PS on internet addiction mediated by expression of emotional coping tendency was significant. We discussed the direct and indirect effects in terms of IS and PS characteristics and motivations.
著者
鈴木 雄大 吉岡 和夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

水星は非常に希薄な大気(~1e-10 Pa)を保持しているが、常時強い太陽光圧や太陽風に晒されている上に重力が小さいため、非常に多くの気体が宇宙空間へと散逸している。外気圏が地表に直接接続しているため、水星大気の生成量・散逸量は周囲の環境に応じて劇的に変化する。 外気圏を構成する元素は主にNa, Mg, H, K, Ca, He等であるが、このうちH, Heは太陽風、それ以外の元素は水星表面からの脱離によって供給されると考えられている。脱離プロセスとしては例えば熱脱離、光励起脱離、イオンスパッタリング、微小隕石衝突等が考えられている。熱脱離量は公転に伴う太陽-水星間距離の変動による表面温度の変化、光励起脱離量は太陽活動度の変化による太陽放射の変動、イオンスパッタリングによる脱離量は太陽風の変動や太陽フレアによる水星周辺のプラズマ量の変化、微小隕石衝突による脱離量は水星周辺のダスト量によって変動する。従って、それぞれの過程による水星大気の生成量を推定することは太陽系内縁環境の理解に繋がる。 生成過程ごとに放出される粒子の速度分布が異なるため、現在はMESSENGER探査機の観測データから得られる大気鉛直密度分布から放出温度を推定し、水星大気生成への各過程の寄与を推定することが多い。しかし、特に高温成分の気体の存在量の推定精度に問題があるほか、探査機の軌道の都合上、中緯度帯および北半球高緯度の大気生成過程の推定が非常に困難である。 熱脱離は、粒子に与えるエネルギーが小さく、放出粒子が再度地表に戻るまでのタイムスケールが水星の自公転周期に比べて十分に短くなる(~10分)ので、地表面におけるNa原子の分布を支配していると考えられる。また、イオンスパッタリングは中高緯度で多く生じるため、MESSENGERが苦手とする中緯度および北半球高緯度における大気の生成にも大きく寄与していると考えられる。本研究では特に熱脱離とイオンスパッタリングに着目して水星における中性Na粒子の生成から散逸までの挙動をモンテカルロ法によりシミュレーションする。さらにこの結果とMESSENGER MASCS UVVSの観測データを比較し、熱脱離とイオンスパッタリングの水星大気生成への寄与について議論する。
著者
鈴木 雄大
出版者
専修大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

「反因果説に基づく反自然主義的な行為観の構築」という本研究プロジェクトの第3年目の本年度は、行為に関する「選言説」と呼ばれる立場を整理し、そのうちのあるバージョンを擁護することを主目標とした。行為に関する選言説は、行為にとって重要な三つの要素に関連して、三つの種類に分類される。その三つの要素とは、身体動作・意図・理由である。理由に関する選言説についてはすでに前年度に研究を進めたので、本年度の主な研究対象は身体動作の選言説と、意図の選言説であった。行為の反因果説に対立する因果説によれば、何らかの行為がなされるためには、ある身体動作が何らかの意図によって引き起こされたのではなければならない。この主張を導き出すために、意図の共通要素説と、身体動作の共通要素説が前提となる。意図の選言説と身体動作の選言説は、そうした前提をそれぞれ拒否することによって、因果説を導くことを防ぐ。まず身体動作の選言説に関しては、行為に関わる身体動作と、行為とは無関係な身体動作との間の比較が問題となり、身体動作の選言説は、二つの身体動作は同種のものではないと主張する。本研究は、身体動作の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年6月6日に立正大学で開かれた国際ワークショップTaipei-Tokyo Workshop in Philosophyにおいて発表した。次に意図の選言説に関しては、行為へと実現した意図と、行為へと実現しなかった意図との間の比較が問題となり、意図の選言説は、二つの意図は同種のものではないと主張する。本研究は、意図の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年11月26日に台湾の東呉大学で開かれた国際ワークショップSoochow International Workshop on “Knowledge and Action”において発表した。
著者
岩崎 季世子 鈴木 雄大 神原 誠之 山澤 一誠 横矢 直和
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DE, データ工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.114, pp.31-36, 2007-06-21

本研究では,GPSやコンパス等が取り付けられたビデオカメラを用いて撮影することで撮影位置・姿勢情報が付加された観光地映像を,その位置・姿勢情報に基づいて検索・閲覧する映像ブラウジングシステムを提案する.システムは,ユーザが効率的に観光地映像を閲覧するために,地理情報データベースを利用して,映像の検索を行う.本研究では,地理情報データベースとして,被写体の位置情報だけでなく,これまでに被写体が撮影された履歴情報から推定された各場所から撮影される各々の被写体の尤度を保持したものを利用する.また,プロトタイプシステムを用いて行った評価実験の結果を示す.