著者
日和 悟 廣安 知之
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

Well-beingを促進するためには、自身のwell-beingの状態を認識することが重要である。 そのためには、well-beingを定量化し、視覚化する必要がある。本研究では、心理的well-beingの定量化に焦点を当て、fMRIやfNIRSなどの脳機能イメージング技術に基づいてこれを実現することを検討する。本稿では、特定の認知状態にある際の脳活動パターン(メタ状態)を抽出する方法を提案する。メタ状態は脳機能ネットワークとしてモデル化され、進化的計算によりその特徴的な構造が決定される。 提案手法の有効性を確認するため、心理的well-beingを改善するとされる瞑想を行っている際のfMRIデータに本手法を適用した。 実験結果から、提案方法により決定された瞑想のメタ状態に対して、被験者の実際の脳活動状態との類似度を計算することで、被験者がどの程度瞑想できているかを定量化できる可能性が明らかになった。この結果は、提案手法がwell-beingの定量化に貢献できることを示唆した。
著者
白勢 洋平 上原 誠一郎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本列島には花崗岩体に伴い多くの規模の異なるペグマタイトが分布している。しかしながら、Liが濃集するような組成的に発展したペグマタイトの数は限られている。本研究では、東北日本の北上帯に位置する岩手県崎浜、阿武隈帯に位置する茨城県妙見山、西南日本内帯の北部九州に位置する福岡県長垂、西南日本外帯に位置する宮崎県大崩山のLiペグマタイトについて鉱物学的研究を行い、特に電気石の化学組成の変化の傾向について比較を行った。いずれのLiペグマタイトも産状や産出鉱物が大きく異なるが、共通して電気石を多く産する。また、電気石はペグマタイト岩体の縁辺部から中心部にかけて連続的に分布しており、それぞれ産状や肉眼的特徴も異なる(e.g., 白勢・上原2012; 2016; Shirose and Uehara, 2013)。電気石超族鉱物はXY3Z6(T6O18)(BO3)3V3Wの一般式で示され、X = Na,Ca,K,Y = Fe2+,Mg,Mn2+,Al,Li,Fe3+,Cr3+,Z = Al,Fe3+,Mg,Cr3+,T = Si,Al,V = OH,O,W = OH,F,Oなどの元素が入る(Henry et al., 2011)。Liペグマタイト中では、岩体の縁辺部から中心部にかけて電気石のY席中のFe2+が(Li+Al)に置換される組成変化が顕著であり、それはペグマタイトメルトの組成的な発展を反映している(e.g., Jolliff et al., 1986; Selway et al., 1999)。長垂及び妙見山のLiペグマタイトは他のペグマタイトと比較して規模が大きく、Liに加え、Cs、Taの濃集もみられる組成的に発展したペグマタイトである。また、脈状のペグマタイトであり晶洞を伴わないのも特徴的である。電気石は半自形の放射状集合が多く、粒径は小さい。中心部から産するものは白雲母に変質し濁っているものが多い。崎浜のLiペグマタイトは脈状のペグマタイトであり、晶洞を伴う部分もある。電気石は、石英と連晶組織をなすもの、半自形から自形のものがあり、中心部に向かって伸長している。結晶粒径は大きく径10cmに達するものもある。大崩山のペグマタイトはミアロリティックな空隙を伴うREEペグマタイト中の小規模なLiペグマタイトであり、晶洞を伴う。電気石は半自形から自形のものがある。いずれのペグマタイトにおいても電気石は、縁辺部から中心部に向かって、黒色から濃色、淡色へと色が変化している。EPMAを用いて電気石について化学分析を行ったところ、いずれのペグマタイトにおいても、縁辺部から中心部に向かって電気石のY(Fe2+) ↔ Y(Li+Al)の置換が顕著であった。しかしながら、崎浜の電気石についてはYMn2+を特徴的に多く含み、Y(Fe2+) ↔ Y(Mn2++Li+Al)の置換の後に、Y(Mn2+) ↔ Y(Li+Al)といった置換反応が顕著に生じている。YMn2+の含有量の変化については、産地ごとに異なる組成変化の傾向を示し、大崩山の電気石は晶洞の結晶中で急激にYMn2+に富む(Figure 1)。また、長垂についてはYZn2+の含有(<0.2 apfu)が特徴的である。これらの化学的特徴は共生鉱物とも調和的であり、崎浜では益富雲母の産出が特徴的にみられ、長垂では亜鉛を含有する電気石の周囲に亜鉛スピネルが産出する。電気石の化学組成の変化の傾向を比較することでペグマタイト岩体の持つ化学的な特徴をより詳細に比較することができる。
著者
都築 啓晃 西島 孝則 岡村 勝正 尾山 廣
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】 ワサビノキ ( Moringa oleifera ) は主にモリンガと称され、インド北西のヒマラヤ山麗を原産地として熱帯地方で栽培される。日本ではスーパーフードとして栄養価について注目されることが多いが、原産地においても、葉・花・莢・種子・根などが伝統医学であるアーユルヴェーダとして利用されてきた歴史がある。しかしその一方で、薬効に関しての科学的検証は未だ限られており、今後の研究の蓄積が望まれている。そこで本研究では、ワサビノキの新規機能解明の一環として、その種子抽出物における各種評価試験を実施した。【方法】1. ワサビノキ種子をグリセリン溶液にて抽出した2. ラット肝ホモジネートを用いて、5α-リダクターゼ反応に対する阻害試験を行った3. テストステロン処置したLNCaP細胞の増殖に対する抑制作用を評価した4. 上記処置におけるprostate-specific antigenのmRNAを定量解析した5. 汚泥水 (OD600=1.5) に対する濁水浄化活性の検討を行った【結果】 ワサビノキ種子抽出物に5α-リダクターゼ反応の阻害作用をはじめ、各種の男性ホルモン活性に対する阻害作用が確認された。さらに、同素材には濁水浄化作用も観察された。【考察】 テストステロンは5α-リダクターゼによってディハイドロテストステロンに変換され、より強力な受容体リガンドとして作用する。この一連の作用機構は筋肉や骨の形成においては不可欠とされているが、その一方、過剰な男性ホルモンの活性は前立腺肥大症や若年性脱毛症の要因となることが懸念されている。今回、我々が見出したワサビノキ種子抽出物の抗アンドロゲン作用は、上記のような症例に対する対症療法の一つとなる可能性を示唆した。また近年、機能性の化学物質を高配合した洗剤・シャンプー剤などに起因する生活排水が水質汚濁を招き、環境負荷を高めているとの疑念があるが、このようなケースにおいても、水質浄化作用を備えた天然由来資源を製品開発へと利用することで、製品の消費プロセスにおける持続可能な環境負荷軽減に貢献できると考えられる。
著者
Tamas Bodai Matyas Herein Gabor Drotos
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

We frame the forced response of the climate system in terms of an ensemble that represents the so-called snapshot/pullback attractor, and explore the implications and power of this approach. Teleconnections as cross-correlations can be defined in the ensemble-based framework by evaluating the correlations over ensemble members. As a specific example, we studied the teleconnection between the El Niño–Southern Oscillation (ENSO) and the Indian summer monsoon in ensemble simulations from state-of-the-art climate models, the Max Planck Institute Earth System Model (MPI-ESM) and the Community Earth System Model (CESM). We detect an increase in the strength of the teleconnection in the MPI-ESM under historical forcing between 1890 and 2005, which is in contrast with scientific consensus. In the MPI-ESM no similar increase is present between 2006 and 2099 under the Representative Concentration Pathway 8.5 (RCP8.5), and in a 110-year-long 1-percent pure CO2 scenario; neither is in the CESM between 1960 and 2100 with historical forcing and RCP8.5. This is also a puzzling result inasmuch as the historical forcing is the weakest. Accordingly, we evaluated that the static susceptibility of the strength of the teleconnection with respect to radiative forcing (assuming an instantaneous and linear response) is at least three times larger in the historical MPI-ESM ensemble than in the others.
著者
都司 嘉宣
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

慶長9年12月16日の深夜,本州の南方海域で起きた地震による津波は,房総半島から四国・鹿児島に至る海岸に大きな影響をもたらした.この地震はしばしば,東海沖,南海沖に起きる巨大地震と解釈され,あるいは関東沖と南海沖の離れた2海域に生じた二元地震と理解されることもあった.たしかに,この地震による津波は,四国の阿波,土佐の二国と,八丈島,および房総半島で特に大きかったためこう理解されることには一理あった.しかし,この地震が明白に京都で無感であったこと,近畿・中部地方に地震の揺れによる被害記録が全くないこと,東海地方,あるいは紀伊半島の海岸で明白な大きな津波の来襲を示す記録が湖西市白須賀をのぞいてほとんどなかったことは,この地震が東海地震,あるいは南海地震であるという見解には大きな疑問を抱かせるものであった.このように見解の分かれる慶長九年の地震像に対して石橋ら(2013)は,この地震が小笠原海溝のプレート境界に生じた巨大地震ではないかという作業仮説を提案し,この地震が東海沖,および南海沖に震源がないモデルによっても既知の津波高分布を説明しうることを示した. この地震が,房総半島に大きな津波被害をもたらしたことは,『房総治乱記』などの軍記物の記録に記載があることが知られていた.そこには「潮災に逢しは,辺原,新官...」に始まる文章で,津波に被災した35個の集落名が記されている.この文章の文末に「都(すべ)て四十五ケ所也」とあるが,写本が書き写されるうちに10カ所の村名が脱落したらしく,現在の写本に見る集落名は35カ所である.この津波記録が軍記物にしか記されていないことから,文書としても信頼度が劣るとみなされてきたのはやむを得ないことであった.しかしながら,筆者らは被災35カ村の一つである鴨川市天面(あまづら,「尼津」)の西徳寺のご島津実隆住職から,この寺の縁起に地震・津波の生々しい現地記載があるとのお知らせを受け,その記載を調査した.その結果,この寺で大きな揺れを感じたこと,金属製の本尊が津波で流され,後に付近の井戸で発見されたと記された,この寺の縁起記録を検証することが出来た(伊藤ら,2005).これによって『房総治乱記』の記載の真実性をしめす具体的な現地記録を得たこととなった.しかしながら,この時は当時この本尊の仏像が安置されていた場所が不明で,正確な津波浸水値を測定することまでは出来なかった.昨年,同御住職から,寺の敷地の借り受けのいきさつを示す江戸時代以前の記録が新たに見つかったとの御連絡を得た.筆者はさっそく同寺に出向き,記録文献を閲覧させていただき,慶長津波当時,同寺の本堂は既に今と同じ位置にあり,そこにあった本尊が津波に流失したことの確証を得た.慶長津波の時に本尊が置かれていた台座の標高を測定したところ,ここでの津波浸水高さは17.3mであることが判明した. この調査の後,筆者は,津波被災があったと記録される房総沿岸35ヶ村のうちに,集落の形態から,そこでの津波の浸水高さの最小値が推定できる場所があることに気付いた.例えば矢指戸(やさしど,現いすみ市大原字矢指戸)は津波被害が起きた村の一つであるが,矢指戸の明治期の5万分の一地形図と現代の住宅地図を見ると,集落で一番低い家屋の前の道路の敷地の標高はすでに7.7mであり,そこから一気に海岸汀線に下りる地形をしている.いっぽう,津波によって家屋の全壊流失が生ずるには敷地上2.0mの冠水は必要であるとされる(越村ら,2009).このことから,矢指戸で家屋被害を生ずるためには,津波浸水高さは最小限9.7mあったことが知られるのである.同様の考察によって,岩船で7.7m,日在(ひあり)で6.8m(以上現いすみ市),一宮町東浪見(とらみ)で,6.4m,一宮で6.9mが津波浸水の下限値であることが判明する.以上のことから,慶長九年地震の津波の房総半島での浸水高さ(の下限)の分布図として図2を得る.宝永(1707),安政東海(1854),昭和19年(1944)東南海地震など,東海沖の海域に震源のある地震の津波が,房総半島の中部および北部でこのように大きな津波高となったことはなく,この津波起こした地震の震源の位置は関東地方の南部沖にあったことが示唆される. 謝辞:鴨川市天面の西徳寺の島津実隆住職には,同寺所蔵の貴重な文献を閲覧する機会を与えていただき,感謝申し上げます. 参考文献石橋克彦・原田智也,2013,1605(慶長九)年伊豆-小笠原海溝巨大地震と1614(慶長十九)年南海トラフ地震という作業仮説,地震学会秋季大会,108伊藤純一・都司嘉宣・行谷佑一,2005,慶長九年十二月十六日(1605.2.3)の津波の房総における被害の検証,歴史地震,20,133-144.越村俊一・行谷佑一・柳沢英明,2009,津波被害関数の構築,土木学会論文集B,65(4),320-331.
著者
奥村太一
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 縦断研究は,個人の成長や発達といった時間経過に伴う変化を記述するだけでなく,何らかの働きかけとそれがもたらす効果との間の因果関係を検証する上でも有用である。一言で縦断的にデータを収集するといっても,その期間や頻度は目的に応じて様々であり,短いものでは1週間程度,長いものでは数十年に及ぶ場合もある。 データ収集の期間や頻度に関わらず,同じ対象者や集団から繰り返しデータを得ようとすると様々な手間や困難に直面することになる。調査が紙媒体で行われる場合には,アンケート用紙の印刷や封入の手間に加え,用紙の郵送や未回答者への督促状の送付に係る経費がかさむ上,データ入力や紐付け情報の整理も煩雑であり,個人情報の管理にも多大な注意を払う必要がある。 一方,近年インターネットの普及に伴い,Web上で研究協力者の募集から調査フォームのメール配信,結果の集計までの行程を一括して行えるようになった。Webアンケートの実施をサービスとして展開する企業が数多く進出してきた一方で,Googleフォームに代表される無料のアンケートツールも心理学研究に広く用いられるようになってきている(豊田, 2015他)。 Webアンケートシステムを利用することで,紙媒体の調査では不可避であった様々な手間や経費が圧倒的に節約されるようになった。しかし,これを縦断研究に利用するにはまだ十分な環境が整っているとはいえない。限られた期間において集中的にデータを集める経験サンプリング(experience sampling)や生態学的即時的アセスメント(ecological momentary assessment)を可能にするようなサービスは海外を中心に広く展開されているが(Thai & Page-Gould, 2017他),多くの縦断研究はそこまでの時間分解能を必要とするわけではない。このような研究に無償で利用できるWebアンケートシステムがあれば,縦断研究の幅はより広がると考えられる。 本研究では,Googleによって提供されているサービスを用いることで,縦断研究に利用できるWebアンケートシステムを構築することを試みる。方 法 Googleによって提供されているアプリケーションのうちDrive, Forms, Gmail, Spreadsheetを用い,Google Apps Script(GAS)によってこれらを制御する。Googleアカウントを利用することで,利用者は個人でサーバを立ち上げたり管理したりすることなく,容易にWebアンケートシステムの環境を整えることができる。また,GASはJavaScriptをベースとしたスクリプト言語であり,習得が比較的容易であるとされていることから,ユーザーがより発展的なシステムにカスタマイズすることも決して困難ではない。結果と考察 今回構築したシステムは,以下の要素から成っている。()内は対応するアプリケーションである。 1.参加登録フォーム(Forms) 2.調査フォーム(Forms) 3.参加者メールアドレス(Spreadsheet) 4.スケジュール(メール配信,リマインダー配信,回答締め切り,集計)(Spreadsheet) 5.調査フォームコピー先フォルダ(Drive) 参加者は参加登録フォームからメールアドレスをフェイスシート項目を登録する。このメールアドレスに調査フォームをスケジュールに従って配信するのだが,データ紐付けのためのIDやパスワードを発行せずともすむよう,参加者ごとに調査フォームをコピーしたものの個別URLをメールにて送信するようになっている(Google Driveでは同名のファイルコピーが許される)。回答期間締め切り前に未回答の参加者にリマインダーが送信され,回答を締め切った後に個々のフォームに記録された回答が1つのスプレッドシートに参加者識別番号やフェイスシート項目とあわせてロングフォーマットで集約されることになる。これらはイベントトリガーによって全て自動的に処理される。引用文献高橋宣成 (2018). Google Apps Script 完全入門 秀和システムThai, S., & Page-Gould, E. (2017). ExperienceSampler: An open-source scaffold for building smartphone apps for experience sampling. Psychological Methods. Advance online publication. 豊田秀樹 (2015). 紙を使わないアンケート調査入門 ―卒業論文,高校生にも使える 東京図書