著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2022-0030, (Released:2023-11-03)
参考文献数
28

目 的日本に在住するムスリム外国人女性(以下,ムスリム女性)に対する助産ケアの特徴を明らかにすることである。対象と方法国内の産科外来および病棟でムスリム女性に対する助産ケアを担当した経験を有する助産師5名を研究対象者として,質的記述的研究を行った。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果分析の結果,ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として34サブカテゴリー,14カテゴリーと3つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム女性に対してケアを行う助産師は,通常外国人を担当する際に着目する出身国や言語的コミュニケーションレベルといった対象者の背景よりも宗教的な背景に着目し,ケア対象者が【ムスリムであることを意識した関わり】を行っていた。そして,早い段階から本人や家族,医療スタッフとの間で【宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントと情報共有】を行いながら専門職としての【看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践】していた。結 論ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として,宗教的配慮が大きく影響していることが明らかになった。助産師はムスリム女性や家族に対して早い段階から宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントを行い,自らの看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践していた。しかし,宗教はセンシティブな事柄であることから,助産師はムスリム女性たちのニーズや価値観の多様性や個別性を認識しながらも個別的なニーズに踏み込むことを躊躇し,その結果として画一的な配慮に留まる傾向がみられた。ムスリム女性に対する助産ケア向上のためには対象者一人ひとりの多様なニーズを考慮し,より文化的に適切なケアに繋げることの必要性が示された。
著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.59-71, 2023 (Released:2023-04-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1

目 的ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。対象と方法日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。結 論本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。
著者
大田 えりか 本田 由佳 須藤 茉衣子 新野 由子
出版者
聖路加国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、主に妊娠前の働く女性に焦点を当て、健康行動の実態やニーズを把握し、ウィズ/ポストコロナ時代に利用できる携帯のアプリケーションソフト(以下アプリ)を利用した栄養と運動を中心とした健康に対する介入プログラムを開発、検証する。主な目的は以下の通りである。1)妊娠前の働く女性を対象とした、モバイルアプリとFitbitなどを使ったInternet of Things(以下IoT)の科学的根拠に基づく健康支援プログラムを開発する2)ランダム化比較試験によって、健康支援プログラムの有効性を検証する
著者
松崎 政代 春名 めぐみ 大田 えりか 渡辺 悦子 村山 陵子 塚本 浩子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_40-2_49, 2006 (Released:2008-06-30)
参考文献数
42
被引用文献数
7 5

目 的 妊娠期の健康度や生活習慣を評価する客観的評価指標は少ない。そこで,妊娠期において酸化ストレスマーカーの一つである尿中バイオピリンを測定し,妊娠期での値の特徴とその関連要因を明らかにし,その利用可能性を検討する。方 法 2004年7月2日から8月31日までの調査期間中にNクリニックに来院した妊婦のうち594名を対象妊婦群とし,妊娠初期・中期・末期に分類した。また,妊婦群の年齢にマッチングさせた,現病歴のない,非妊娠女性35名をコントロール群とした。妊婦群とコントロール群に対し,調査票および診療記録から基本情報,生活習慣,精神的ストレスとして精神的健康度(general health questionnaire: GHQ)の情報を得た。また午前中に採尿・採血を行い,尿中バイオピリン,血清中脂質代謝マーカー(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・トリグリセリド・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・遊離脂肪酸)と糖代謝マーカー(グルコース・グリコアルブミン)の測定を行った。結 果 妊娠初期・中期・末期における妊婦の尿中バイオピリン値は非妊娠女性に比して有意に高値(p<0.001)であった。妊娠末期の尿中バイオピリン値は,妊娠初期,中期の値に比して有意に高値(p<0.001)であった。 尿中バイオピリン値に関連する要因として,現病歴があること,高血圧や蛋白尿といった妊娠高血圧症症状があること,グルコースおよび精神的健康度GHQ得点と正の関連,HDLコレステロールと遊離脂肪酸と負の関連が明らかになった。尚,妊娠高血圧症症状は,3-ヒドロキシ酪酸などの脂質代謝と関連があった。結 論 妊婦の尿中バイオピリン値は,妊娠末期に最も高値を示し,非妊娠女性よりも高値を示すという特徴が明らかになった。また,脂質代謝と関連のある妊娠高血圧症症状や現病歴,糖代謝,精神的健康度との関連が見出され,尿中バイオピリン値の妊娠中の酸化ストレスマーカーとしての利用可能性が示唆された。
著者
加藤 佐知子 竹原 健二 新田 知恵子 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.110-119, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目 的 本研究では電子カルテを用いて,切迫流早産で入院した妊婦を対象に実施されてきた,「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産のリスク低減にもたらす効果を検討することを目的とした。対象と方法 本研究のデザインは電子カルテのデータを用いた後ろ向き研究である。本研究の対象は2011年4月1日から2013年3月31日の時点で,調査協力施設に切迫流早産の診断を受けて入院をしていた妊婦230人のうち,対象基準を満たした208人とした。入院期間中に看護師や助産師が「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」を実施した者を保健指導実施群,実施されなかった者を対照群とした。すべてのデータは電子カルテから収集された。結 果 対象者の基本属性では,平均年齢が34.7歳(標準偏差(SD):5.0),経産婦が103人(49.8%)であった。保健指導が実施された保健指導実施群は150人(72.1%)であった。二変量解析の結果,保健指導の実施の有無は,妊娠34週未満の早産(p=0.077),妊娠37週未満の早産(p=0.875)のいずれとも統計学的に有意な関連は認められなかった。しかし,先行研究の知見をもとに,社会経済的な要因や過去の受診歴などの交絡因子の影響を調整した多変量解析では,保健指導実施群の妊娠34週未満の早産に対するAdjusted Odds Ratio(AOR)は0.15(95% Confidence Interval(CI):0.04-0.57)と妊娠34週未満の早産のリスクを低下させることが示された。妊娠37週未満の早産との関連は示されなかった(AOR:0.67(95%CI: 0.28-1.60))。結 論 衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導が妊娠34週未満の早産のリスクを低下させる可能性が示唆された。本研究は探索的な研究であり,サンプルサイズが小さいことや,対象者の無作為割付をおこなっていないなどの限界がある。今後,無作為化比較試験のような,この保健指導の有効性をより強く証明するような研究の実施が求められる。
著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2022-0027, (Released:2023-03-03)
参考文献数
30
被引用文献数
1

目 的ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。対象と方法日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。結 論本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。
著者
須釜 淳子 石橋 みゆき 大田 えりか 鎌倉 やよい 才藤 栄一 真田 弘美 中山 健夫 野村 岳志 山田 雅子 仲上 豪二朗 佐藤 直子 柴田 斉子 長谷 剛志 深田 順子 三鬼 達人 有田 弥棋子 浦井 珠恵 大川 洋平 北村 言 臺 美佐子 高橋 聡明 玉井 奈緒 飛田 伊都子 野口 博史 松本 勝 三浦 由佳 向井 加奈恵 麦田 裕子 吉田 美香子 倉智 雅子 白坂 誉子 山根 由起子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.790-810, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
58

目的:本資料は,日本看護科学学会より公開した「看護ケアのための摂食嚥下時の誤嚥・咽頭残留アセスメントに関する診療ガイドライン」の要約版である.方法:本診療ガイドラインは,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に従い,研究エビデンスと益と害のバランス,患者の価値観などに基づき作成された.結果:身体診査技術を用いた系統的アセスメント,反復唾液嚥下テスト,改訂水飲みテスト,フードテスト,頸部聴診法,超音波診断装置による嚥下観察,内視鏡による嚥下観察に関するクリニカルクエスチョンをもとに,10の推奨が作成された.8つの推奨はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)2Cとして評価され,残りの2つはGRADEなしとして評価された.結論:看護ケアのためのアセスメントに焦点を当て,最新の知見を盛り込んだ信頼性の高い診療ガイドラインが作成された.本資料は要約版であり,臨床実践への活用が期待される.
著者
大田 えりか 本田 由佳 森崎 菜穂
出版者
聖路加国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、研究代表者が一貫して実施してきた我が国の低出生体重児に関する包括的研究(平成24-25若手B 平成26-28若手B)の知見を基に、妊娠中の女性を対象とした適切な体重増加と食事摂取に関するパッケージを作成し、モバイルアプリケーションを用いた介入を実施することを目的としている。2020年度は、アプリケーションの開発に向けたプログラムをアプリケーション開発業者と議論を重ねながら開発した。エコチル調査を用いた妊娠中の体重増加量に関するデータ解析、アプリケーションのデータベース基盤構築・アプリのコンテンツ開発を実施し、アプリケーションに盛り込むプログラム作成を行った。また、倫理審査と実証調査用のプロトコールを作成した。今回開発しているのは、エコチル調査のコホートデータに基づいた健康な妊婦(基礎疾患のない)を対象とした体型別の週数別適切な体重増加量範囲である。週数別の胎児の出生体重がSGA(small for gestational age)やLGA(large for gestational age)のリスクが高い場合には、もう少し体重を増やした方が良い、または控えたほうが良いなど、体重を入力すると、週数別に個別にアドバイスがでる。
著者
野村 周平 田淵 貴大 橋爪 真弘 大田 えりか 渋谷 健司 坂元 晴香 鈴木 基 齋藤 英子 米岡 大輔 井上 真奈美 宮田 裕章 西浦 博
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、with/postコロナ時代の保健医療政策の課題に対する実証的分析に疾病負荷を活用する我が国で初めての試みである。具体的には、新型コロナウイルス感染症の疾病負荷および関連するリスク要因の寄与割合の推定(将来予測含む)、新型コロナ含む傷病別の疾病負荷の将来シナリオ分析、新型コロナウイルス感染拡大による保健医療ニーズ・保健システムへの影響(健康格差・医療費)の推定を行う。
著者
長谷川 毅 西脇 宏樹 矢嶋 宣幸 大田 えりか 野間 久史
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

質の高い「チーム医療」の実現には、「多職種連携教育」が重要である。「根拠に基づいた医療」を実践するために「臨床研究リテラシー」は全ての医療者に必須の能力として求められている。「臨床研究リテラシー」の習得のためには、知識の学習だけでなく実際にデータを用いて臨床研究を実践することが非常に効果的であるが、データの入手、整備や構築が困難なことが少なくない。本研究は「多職種連携教育」の一環として情報通信技術を活用した「臨床研究リテラシー」修得のための実践研究である。「系統的レビュー」英文原著臨床研究論文出版活動を継続的に支援し、「臨床研究リテラシー」の普及と次世代の指導的人材育成を行う。
著者
大田 えりか
出版者
独立行政法人国立成育医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本における人口レベルでの人口動態調査出生票・死亡票を用いた単胎・双胎症例を対象としたpopulation-basedの在胎週数別出生時体重基準値の推定を行い、スプライン関数によって平滑化した基準曲線を作成した。双胎の早期新生児死亡のハイリスクとなるのは、26週未満の早産児、母親の年齢が24歳以下、ペア間の体重差が大きいSGA児であった。高齢出産の低出生体重児出生のリスクは、近年減少しており、差はなかった。早産に限ると、高齢出産は1.5倍リスクは高いが、減少傾向であった。これは、20代での早産および低出生体重児出生が増加している影響と考えられる。地方と都市部での差はみられなかった。